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概要

高貴な生まれである姫君が継母にいじめられ、召使のように働かされるという平安版『シンデレラ』のような物語。

このような『継子いじめ』のテーマは物語のパターンとしてよく使われており、『落窪物語』はその先駆けともなった作品。

作者は不明で、成立は平安時代中頃と言われているが定かではない。

ただ、枕草子の『成信の中将は』の段に「交野の少将もどきたる落窪の少将などは、をかし」とその名が見えるため、枕草子以前には成立していて清少納言も読んでいたことがわかる。よって、990年~999年頃に成立したと考えられる。

原典は四巻で構成され、それぞれ

  • 『姫君へのいじめ』
  • 『少将による姫君の救出』
  • 『継母への仕返しと仲直り』
  • 『姫君たちのその後』

上記の構成で描かれている。

あらすじ

今となっては昔のこと。

中納言で娘をたくさん持っている方がいた。

大君(長女)、中の君(次女)、三の君(三女)、四の君(四女)の他、皇族の血筋を引いた女性との間に生まれた姫君がいた。その母親は既に亡くなっていたので中納言の邸にいる。

中納言の北の方(継母)は姫君を娘として扱わず、寝殿の放出の、さらに一間離れたところにある、間口が二間の落窪の間に住まわせていた。北の方はその姫君のことを「落窪の君」というあだ名で呼ばせていた。

そんな落窪の君の境遇を気の毒に思う女童・阿漕は夫・帯刀が乳兄弟として仕える貴公子・右近少将と彼女を結びつけることを思いつくのだった…

登場人物

主要人物

  • 落窪の君

この物語のヒロイン。幼い頃に母親と死別した後、実父の中納言の元で暮らしている。

他の異母姉妹達とは比べるまでも無い、大変な美人で聡明な性質と評される。

継母の北の方の仕打ちに恨み言一つ言わない、大変心優しい性格の持ち主。

亡くなった母親は皇族の血筋だったため本来の位は高いものの、継母の北の方と異母姉妹たちから虐げられている。

特技は暇があった時に習得した裁縫と、亡き母親から教えてもらった琴。

琴は異母弟の三郎君に教えているので弾くことは禁止されていない。

特技のせいで継母の北の方から大量の縫い物を言いつけられては朝から晩まで仕事に明け暮れている。

母方伝来の邸が三条にあり、これは取り上げられずに落窪の君が所有している。

(当時は女性も相続権があり、主に家屋敷を相続するケースが多かった)

  • 右近少将

この物語のヒーロー。名前は「道頼」。父親は左大将。女御として入内している姉妹がいる。独身。

容姿端麗で家柄も良く、また聡明なので娘を持つ親からは娘の婿にと望まれている。

阿漕の夫・帯刀は乳母子で、帯刀からの情報で落窪の君の存在を知る。

落窪の君の存在を知ると、当初は軽い気持ちで落窪の君に近付こうと考えていた。

落窪の君宛に文を送っても何の返事も無いことにしびれを切らし、帯刀の手引きで落窪の君を垣間見る。その後、強引に落窪の君の部屋に押入って彼女と対面、あまりの美しさと可愛らしさに心奪われ本気になる。

落窪の君と結婚してからは妾一人も持たず、彼女のみを愛し続けた。

藤原道長の甥である藤原道頼がモデルとされる。

  • 阿漕(あこぎ)

落窪の君に使える女童で「後見(うしろみ)」とも呼ばれる。

落窪の君の母親が生きていたときから召し使っている。

落窪の君の境遇を気の毒に思い、異母姉妹の三の君に仕えることになっても終始気にかけ続ける。

和泉守の北の方となっている裕福な叔母がおり、落窪の君のために何かと頼りにする。

落窪の君と右近少将の仲を取り持とうと活躍する。

  • 帯刀(たてわき)

阿漕の夫。帯刀は役職名。彼自身の名前は「惟成」

蔵人少将の家来で、蔵人少将に付いて中納言邸に出入りしていた際に阿漕を見初めて結婚する。

母親が右近少将の乳母であることから、乳兄弟として幼い頃から彼に仕えている。

落窪の君の存在を右近少将に教える。

中納言家の人々

落窪の君を引き取った父親の家族たち。「源」とあるため元は皇族に連なる血筋で高貴な家柄だったことがうかがえる。

父親の中納言は高齢で判断力も衰えており、家中の権力は実質北の方が握っている。

落窪の君の異母兄弟のほとんどは落窪の君を侮って見下しているが、一部の家族や家中に仕える使用人の中には、落窪の君の身を案じる者も少なからず存在している。

  • 中納言

落窪の君の実父。本名は「源忠頼」。源中納言とも呼ばれる。

母親を亡くした落窪の君を引き取るが、北の方が産んだ子ども達と違い離れて暮らしていたせいか、あまり落窪の君に対して父親らしい情を持てないで居る。

かなり年老いて判断力も衰えており普段から北の方の言いなり。北の方の仕打ちから落窪の君を庇うこともない。

年老いてはいるものの、一家の主としてのプライドや貴族としての面子を人並みには気にする。

(少将の謀略で四の君と面白の駒と結婚する羽目になった時は「(面白の駒を指して)あんな者に四の君が捨てられてしまったと世間に噂されたらこの上なく恥ずかしい思いをするに違いない」と家中の者達に人並みの婿の世話をするように命じる等)

  • 北の方

落窪の君の継母。中納言の正妻。息子3人と娘4人を産んでいる。居候の典薬助は彼女の叔父にあたるが(後述の性格からか)特に尊重する様子はない。

「北の方」は彼女の本名ではなく当時の貴族の正妻を指す呼び名である。

皇族の血筋を引く落窪の君を疎ましく思い、大量の縫い物を言いつけたり落窪の君が持つ立派な家財道具を取り上げては我が物顔で娘達に使わせている。

高貴な血筋の落窪の君へつらく当たっている理由も、落窪の君が夫が余所で産ませた娘だからというより北の方の出自がさほど高い身分ではないことから発生した嫉妬心や、更に自身の娘達より美貌も才覚もはるか上の落窪の君に身分の壁を思い知らされたからではないかと考察されている。

  • 三の君

落窪の君の異母姉妹。中納言の三女。蔵人少将を婿にしている。

性格がきつく、北の方と一緒に落窪の君を虐げている。

はっきりともの言う蔵人少将とは不仲気味。

  • 四の君

落窪の君の異母姉妹。中納言の四女。

北の方が右近少将を四の君の婿にしようとするも、

阿漕らの策略により面白の駒と呼ばれる男と結婚することになる。

  • 三郎君

落窪の君の異母弟。中納言の三男。

遅くに生まれた末っ子なため中納言が溺愛している。

音楽に興味があり、落窪の君に琴を教わっている。

心優しい落窪の君に懐いていて、彼女の数少ない味方の一人。

  • 典薬の助

北の方の叔父。中納言邸に居候している。

好色な人物で、邸の女性達からは敬遠されている。そのため、姪の北の方も彼を軽く見ている様子がある。北の方と共謀し、落窪の君を妻にしようと画策するが、阿漕達によって阻止される。

落窪の君出奔後、本当は結婚していないことが北の方にバレて激怒されたこと、彼の失態が邸の女性たちに知られてからはこれまでの仕返しとばかりに大笑いされた。

  • 中納言家の兄弟姉妹

大君(長女)・中の君(二女)は既に婿取りを終え、西の対と東の対に居住している。

長男は越前守に、次男は出家し法師となっている。

越前守は落窪の君が中納言家を出奔後に本格的に登場する。

大君と中の君、次男は特に物語内には登場しない。

    • 長男の越前守は家族と共に任国に赴いていたため、中納言家で起きたことを全く知らずにいた。落窪の君出奔から数年後、三条の邸に持ち込んだ中納言家の家財道具を返して欲しいと右近少将に頼むもすげなく扱われてそのまま帰される。その後、三郎君から落窪の君にした仕打ちを知らされると(自身も知らずにいたとはいえ)一族がとんでもない仕打ちを格上の縁者にしていたことから(当時は厳格な身分社会で、己より高い身分の人間に無礼を働くなど絶対に有り得ないことだった。万が一そんなことをすれば自身への処罰だけでなく親類縁者共々何らかの累が及ぶこともあった。それ故に越前守は一門が破滅する可能性を危惧していた)恥ずかしさとやるせなさの余り、北の方らを強く非難した。

その他の登場人物

  • 蔵人少将

三の君の夫。右近少将とは親友。

何事もはっきりとものを言う性格。

似たような性格の三の君とは衝突しがちであまり仲が良くない。

落窪の君出奔後、中納言家に裁縫をする者がいなくなったことで仕立ての悪い衣服しか用意されないことに不満を抱く。元より妻の三の君とは上手くいっていないこともあり、そのまま足が遠のき離縁。

右近少将の妹と再婚した。

  • 兵部少輔(面白の駒)

治部卿の長男で右近少将の従兄弟にあたる。兵部少輔は役職名。

顔立ちが馬に似ていることから周囲から「面白の駒」というあだ名で呼ばれる。

父・治部卿曰く「(自分が人前に出てくると)人が笑うと言って宮仕えも出来ずにいる」と心配されている。

右近少将の策略で四の君と結婚する。

その後、四の君との間に娘を授かるが、中納言家があまり歓迎していないことを察して居心地が悪くなったのか足が遠のき、離縁となる。

離縁した後は出家している。

『落窪物語』にちなんだ現代の作品

小説

  • 田辺聖子『舞え舞え蝸牛 新・落窪物語』『おちくぼ姫』面白の駒の性格と四の君との関係性が原作とは異なる。

漫画

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