概要
本来の意味では紙幣などの紙の透かしのことを指すが、インターネット上では転載や海賊版への対策としてイラストや動画に入れられる半透明のロゴのことを指すことがもっぱらである。
一般的にウォーターマークが入ってる動画や画像は未完成品を示し、有料コンテンツとして本来のコンテンツへ誘導する。
イラストにおけるウォーターマーク
盗作・自作発言などへの対策としてイラストに入れられる薄い透かし。Do Not Repost(無断転載禁止)などのウォーターマークを入れるなどして「無断で使用されることを許さない」という意思表示にもなる。
BOOTHなどのネットショップに「見本」などのウォーターマーク入りイラストをサンプルとして公開しているクリエイターもいる。
ペイントソフトCLIP STUDIO PAINTなどにもウォーターマーク機能が搭載されている。
AIの機械学習対策におけるウォーターマーク
AIイラストの機械学習対策として「AI学習禁止」などのウォーターマークを入れる作者もいるが、ウォーターマークに機械学習予防効果は期待できない。
またGraze,emamori等の「AI学習阻害ノイズ」と、「(もっぱら手動で)学習禁止やSAMPLE等の文字をイラストに被せる」は広義にどちらもウォーターマークとされるが、これらは別物といってもよい。以下は特に注釈がない場合は主に「文字を被せるウォーターマーク」に関しての解説となる。
禁止と書こうがどこかしらに利用される
AI学習禁止と書いてあっても、規約で投稿物の機械学習を掲げるSNS(X、Instagram、facebook)などでは自動的に機械学習される。また直接的に機械学習に使うと掲げていなくても、多くの投稿サービスは運営側がアップロードされたコンテンツを好きに使える、と規約に書かれていることが多い点にも注意されたい。(規約に直接機械学習とは書いてないが親会社が生成AIを開発しているTiktok等)
またgoogleがネットにある全ての画像の機械学習を宣言しており、googleのクロールが走っている所(blueskyなどAPIを開放している所)は全て機械学習されている。
X(Twitter)は危険だという言説が溢れているが、むしろAPIの制限が強い分bluesky等より安全だという意見もある。
さらに運営側は機械学習に利用せずクロールを弾いているサイト(xfolio,Caraなど)であっても、個人が絵を収集し追加学習に使った場合、止める事が出来ない。
判例が待たれるものの「個人で収集しローカル環境で学習させ、生成した画像も私的利用にとどめて不特定多数に公開しない」という場合は著作権の権利制限規定になぞらえると、権利者であっても禁止する権利がないと考えられる。
また無断転載サイト(Danbooruなど)に転載されたデータは、大量のタグとセットで学ぶために都合が良いとされている。手動での転載を防ぐことは難しいので完全に防ぐことは難しいが、転載先のデータを報告することで多少は防ぐことが出来ると考えられる。
学習の技術的説明
現在の追加学習は一枚絵があれば絵柄の追加学習、i2iが可能である。
また、AIイラストは切り貼りやコラージュではなく、絵の特徴を学習し生成するため
学習された絵にウォーターマークが付いていたとしても、AIが「ウォーターマークの付いた○○の絵」と認識するため「ウォーターマークの付いた」の部分をネガティブに出力させることで「○○の絵」が生成可能になる。
これは絵柄を追加学習させる場合でも同様である。ネガティブに出力させることで特定の絵柄からかけ離れるように出力させることも可能になる。
技術的には小さい画像の方が邪魔?
AI学習は512×512の画像で学習されることが基本なため、256四方以下の小さな画像の方が学習出来ないとも言われている。
ただし、これらも「ぼやけた〇〇の絵」として学習されるのでは?という意見もある。
また低解像度の画像を高解像度に変換するAIはすでに存在している。ただし縮小前の元画像と同一になると限らない、という点では一定の効果があるとも考えられる。
AI学習阻害ツールについて
ノイズ、モアレのような模様を画像全体にかけることで機械による分析や認識を阻害させる技術である。低強度だと人間の目にはほとんどわからないが、強度を上げると目に見えて歪んだ模様が目立つようになる。Graze,emamori,Nightshade,またアイビスペイントやクリスタに搭載された機能が代表例。
ただクリスタやアイビスはAI学習阻害ノイズに画像生成AIの追加学習対策に効果があると謳っている(アイビス公式より、クリスタ公式)が、後述のリンク先にある検証の結果、効果は極めて薄いと述べる意見もある。
また基本的にGraze等はそれ自体が生成AI技術を用いており、これを用いた時点で厳密な意味での「この作品はAI不使用です」から外れる点に注意が必要だ。これをAI画像の投稿禁止のルールがある場で利用した場合、違反を問われる可能性が生じる。もっとも管理者の意図するのはそういうことではないと思われるので、よほどのことがなれけば問題にならないとは思うが、断定はしかねる。
特にAI学習阻害ツールの中でもNightshadeは電子計算機損壊等業務妨害罪のリスクがある点にも留意しておく必要がある。
英語原文で「Nightshade works similarly as Glaze, but instead of a defense against style mimicry, it is designed as an offense tool to distort feature representations inside generative AI image models. 」(公式サイトより)とあり、他のAI学習阻害ツールと違って攻撃的に働くツール(offense tool)として意図したものと書かれている。
アメリカの法律では問題ないとして公開されたとのことだが、日本の法律でも問題がないとは断言できない。
現実に警察沙汰に至るかは分からないが、X(Twitter)のように規約でAI学習に使うと述べているサービスにて同意した上でわざとAI学習を妨害するツールを使用したとなれば、アカウント停止等は現実にあり得るリスクとして想定できる。
もしも生成AIへの学習を完璧に阻害できるような加工技術ができたとしても、例えば「描いてあるものを分析して自動で分類やタグ付けする」や「投稿サイトにて嗜好の合うユーザーへおすすめとして表示する」といった便利機能も阻害する可能性がある点にも注意が必要である。「画像を分析し、どういう物が描かれているか判定する」という点においてはAI学習も自動タグ付け、画像検索も同じなのである。
当然人間にとってもノイズになる
言うまでもないことだが、ノイズや透かしは人間にとっても邪魔になる。
入れていない人の方が評価されやすいのは当然で、「公式に迷惑がかかる」等を盾にとって、ノイズや透かしを入れてない人を攻撃する人が既に散見される。
しかし、、あくまで入れるか入れないかは個人が判断するところであるので注意が必要。
またゲームの画面や他人の絵に勝手に改竄を加えることは規約違反やマナー違反になる可能性にも留意すること。
結局ネットに投稿しないのが一番になる
全てのウォーターマークに言える事だが、i2iには一切の予防効果が無い。
また現行のAIモデルは拡散モデルという、非常に強力な推測能力を持つモデルであり
画像の一部が塗りつぶされている、ノイズが掛かっている、透かしが掛かっている程度では簡単に元絵を復元してしまう。
実際、性器のモザイクや黒線等は学習されていて、無修正か修正か自由に選べる状態にあると言っていい。
また最近では画像生成AIには文字や透かしを除去する機能(NAIのデグラッターなど)が標準で搭載されている。ウォーターマークを除去した画像をネットなどに公開した場合は侵害に問える可能性があるが、私的利用にとどめた場合はそもそも認知すること自体も困難な点に注意したい。
いずれにせよ機械学習は基本的に合法なため、学習されたくないのであれば、ネットに絵を投稿しないのが一番である。というのは極論だが。
現実的な落とし所としては、誰でも見ることのできる場では低解像度かつ商業なみに塗りつぶし、完全版はパスワード・会員登録などが必要なFANBOX有料会員限定、印刷された紙の同人誌のみで公開するようなやり方だ。ただしこれらも人間が手動で持ち出す場合には無力である、といったメリット・デメリットは承知した上で決断を下すように。
参考文献
参考
論文「制約付き拡散暗黙モデル」拡散モデルが元絵を復元する様子の例
アイビスのAI学習妨害機能は本当に追加学習を妨害できるのか?検証してみた→結果
映像におけるウォーターマーク
テレビ放送におけるウォーターマーク
テレビ番組の画面の隅によく出ている局のロゴ。上記のイラストは福岡の某放送局のもののパロディ。
CM中は原則として消去される。(当然だが)ウォーターマークは局ごとに異なり、サイズ・形状なども様々である。それらを集めて見比べて喜ぶ人もいるらしい(執筆者もその一人である)。
番組によっては局のウォーターマークとは別に番組ロゴをウォーターマークとして表示するケースもある。『SMAP×SMAP』において名物コーナーである「BISTROSMAP」の放送時のみ同コーナーのロゴをウォーターマークとして表示した例もあった。
放送におけるウォーターマークの歴史
CS放送においては1990年代の黎明期からウォーターマークが入れられており、BS放送では1998年8月にNHK-BSが導入し、その後BS民放も順次導入。2003年の地上デジタル放送開始以降に地上波各局に導入され現在に至る。
配信映像におけるウォーターマーク
TV番組のように、アニメ等の公式配信映像においてもウォーターマークが表示される例がある。制作会社のロゴのほか、作品のロゴが表示されるケースもある。
外部リンク
各局のウォーターマークのまとめ※2009年2月時点の情報のため、2024年時点ではデザインや事情が変わっている局があることに注意。