甲田学人による電撃文庫のライトノベル。イラストは三日月かける。
2006年4月から2012年5月にかけて刊行された。全17巻。
あらすじ
この世界には、「神」が存在する。
あらゆる人間の無意識を共有する「集合無意識」の奥底で眠り続けている神は、ある時、全知ゆえにこの世のすべての恐怖を夢に見てしまう。しかし神は全能である故に、眠りの邪魔となるその悪夢を切り離して捨ててしまった。
その「悪夢の泡」が人間の無意識に浮かび上がった時、それは人間が抱く恐怖と混じり合い、現実を犯す災い〈泡禍(バブル・ペリル)〉となる。
そして世界には、〈泡禍〉から人々を守るために、我々の日常の裏で戦う〈騎士〉たちが存在していた。
日常を愛する平凡な男子高校生・白野蒼衣は、ある日〈泡禍〉に巻き込まれ、命の危機にさらされる。それを救ったのは〈泡禍〉から人々を守るために活動する〈騎士〉の一人、時槻雪乃だった。
その日から蒼衣は彼が愛していた「普通の日常」とは対極の、神の悪夢に創り出された狂った童話の世界との戦いの日々へと足を踏み入れる事になる…。
作風
甲田学人の得意とするグロテスクかつホラーな描写は前作『Missing』から引き続き顕在で、サブタイトルにもある通り「童話」を下敷きにした身の毛もよだつような怪奇現象が毎回繰り広げられる。
〈泡禍〉によって引き起こされる怪奇現象もさることながら、味方である〈騎士〉が使う特殊能力〈断章〉の描写も「使用者のトラウマを引き起こし能力を引き出す」という設定から痛々しい物がほとんどで、「リストカットをすることで周囲を焼き尽くす」「安全ピンで自分を突き刺し、対象者を内側から幾重もの針で串刺しにする」などエグイものがほとんど。
物語の主軸は「作中に登場する人物は元となった『童話』におけるどのような役柄なのか」「泡禍の元凶はどのようなトラウマ・原因があるのか」という謎の推理であり、そこに人間関係や怪異との戦闘が絡まって物語に厚みをもたせている。
物語の最後に明かされる、『甲田流』の解釈がされた物語と童話との符号は圧巻である。
グロ耐性がある人、或いはグロを楽しめる人にとってはこの上ない名作になり得るだろう。
ちなみに「自分が書いているのはあくまでメルヘン」と公言する甲田学人だが、この断章のグリムにおいては「スプーン1杯ほどの、グロテスクを加えた」と発言している。
…このグロさでスプーン一杯…だと…?
余談だが、この「スプーン一杯」はティースプーンらしい。
登場人物 〈断章〉
白野 蒼衣 〈目醒めのアリス〉
〈泡禍〉に巻き込まれたことで非日常へと足を踏み入れ、〈泡禍〉と戦うことになる少年。
時槻 雪乃 〈雪の女王〉
〈泡禍〉を激しく憎悪している少女。一般的な〈騎士〉から見ても異常なほどに戦いへと没頭する。
雪乃の〈断章〉の一部である亡霊で〈断章〉の元になった〈泡禍〉のオリジナル。
鹿狩 雅孝 〈黄泉戸契〉
神狩屋ロッジの世話役であり、古物商「神狩屋」の店主。通称「神狩屋」。
田上 颯姫 〈食害〉
神狩夜ロッジに所属する、自身の有する〈断章〉によって常に記憶を蝕まれている少女。
夏木 夢見子 〈残酷劇(グランギニョル)の索引ひき〉
「神狩屋」で暮らす、〈泡禍〉によって心を壊してしまった少女。
入谷 克利 〈軍勢〉
神狩夜ロッジに所属する「人狩り」の〈騎士〉。
瀧 修司 〈葬儀屋〉
関東圏随一の「死体処理係」として名を馳せる〈騎士〉。
〈名無し〉 〈アノニマス〉
あらゆる事物の名前を喰う〈断章〉を持つ女性。
群草 宗平 〈アンデルセンの棺〉
群草ロッジの世話役であり、頑固で不愛想な初老の老人。
四野田 笑美 〈聖女ギヨティーヌ〉
喫茶&ナイトバー「アプルトン」の店主であり、ロッジの世話役。
馳尾 勇路 〈刀山劍樹〉
アプルトンロッジに所属する少年。正式な〈騎士〉として認められていない。
田上 瑞姫 〈食害〉
アプルトンロッジに所属する少女。颯姫の実の妹に当たる。
リカ 〈チェシャ猫、友達の友達〉
ネットロッジの責任者。飄々としていてつかみどころのない女性。
群草ロッジに所属する少年。"花"に関する〈断章〉を抱えている。
群草ロッジに所属する少女。潔癖症で、"泡"に関する〈断章〉を抱えている。
ナイトバー「アプルトン」のバーテンダー。現在は〈騎士〉を引退している。
「〈ネットロッジ〉の使えない死体処理係」。リカのことを"姐さん"と呼び慕っている。