概要
ウルからアッカドを経てバビロニアに王朝が遷移した時期に、国際標準語としての地位はバビロニア人が用いたバビロニア語(アッカド語の基幹方言)に取って代わられたが、今日のラテン語やサンスクリット語のような宗教言語として2000年以上にわたり母語話者を喪失した状態で存続。この間にアッカド語やペルシア語などを経由して、アラビア語やギリシア語に多数の語彙を借用させた。今日でも、シュメール語由来と思われる要素を含む語彙は英語やラテン語にもそれなりに存在し、例えば"diversity"や"direction"の"di"は、シュメール語の"du"(行く)が語源とする説もある。
直接的な関係は立証されていないものの、シュメール語由来と思われる語彙はアフロユーラシア大陸およびその周辺地域にルーツを持つ言語に幅広く見られ、今なおその影響力の大きさが偲ばれる。
例えば英語の"Not"やドイツ語の"Nicht"、日本語の"ない"などの否定語に"N"の音を用いる慣習はシュメール語と共通。また、日本語には"eat"を意味する語に"食べる"と"食う"という二つの言い回しを有するが、シュメール語でeatを意味する言葉は"ku"なので、元来の大和言葉であった「食べる」と、シュメール語から未知の外来語を経由し、最終的には渡来人が持ち込んだ「食う」が、何らかの理由で共存した結果とする仮説も存在する。
他にもマレー語や中国語などでは複数形を意味するために単数形の同一名詞を重ねる("anak-anak"(子供たち)や"laki-laki"(男ども)など)が、これもシュメール語に見られる特徴。アラビア語などのセム語においては形容詞や副詞が名詞や動詞の後ろから修飾するが、これに至っては本来そうではなかったものが、シュメール語の真似をしてアッカド語からわざと始めた特徴が受け継がれたものであることが歴史的に判明している。
なお、こういった事実を根拠に例えば「日本語はシュメール語の末裔で、故に日本人はシュメール人の末裔だ」などという主張がスピリチュアル系左翼を中心に溢れているが、前述の形容詞や副詞の置かれる位置の違いに加え、シュメール語は受動態がベーシックの能格言語、日本語は能動態がベーシックの対格言語(ただし、形容詞や形容動詞が動詞的性質を持つ特殊性ゆえに、結果的に能格表現となる例は多い)であるという根本的違いがあるため、トンデモ理論の域を出ない。むしろ、シュメール語の持っていた国際的影響の大きさを鑑みれば、各地に散らばったシュメール語由来の外来語が中国・朝鮮経由で(シュメール語であることさえ忘れ去られた状態で)多数輸入されたに過ぎないと考える方が合理的である。
系統
現存するしないを問わず、他の言語との関連性が一切不明な孤立語である。
現在地球上に存在する同様の孤立言語としては、バスク語やグルジア語、韓国語・朝鮮語・済州語から成る朝鮮語族があり、特にバスク語とグルジア語はシュメール語と酷似する文法構造を有していることから、何らかの関連性を疑う言語学者も多い。
なお、余談であるが日本語・琉球語からなる日琉語族も同様の孤立言語であるが、日本語、琉球語ともに相互の意思疎通が困難なほどの多様な方言を有する言語であるため、政治上同一言語と見なされている(そもそも、行政上は琉球語自体が日本語の方言扱いである)ものの実態としてはこれらだけでゲルマン語派やイタリック語派に相当する多様性を持った一つの言語グループを形成しているという見方が学会では主流である。前述のトンデモスピリチュアル論者の中には、「日本語も同じ孤立語だけど、本来地球上にどこにも仲間がいないのはおかしい。仲間がいないのはいないのではなく、いなくなったからだ。だから日本語はシュメール語の子孫に違いない!」などと本気で主張する人間も多いが、論理的に破綻しまくっている上に、この「仲間がいない」という認識がすでに事実誤認である。
特徴
楔形文字を使用する。漢字のような標語文字と仮名を組み合わせて記載するという古代語としては非常にオーソドックスな部類(逆にこのような古い特徴に今なおこだわり続ける日本語は世界の潮流に何千年も遅れていると言わざるを得ない)。
日本語やマレー語同様の膠着語であり、接頭辞・接尾辞が豊富。文法的には前述のバスク語やグルジア語のほか、アメリカ大陸の先住民の用いる諸言語と類似性が高い。
同音異義語が非常に多く、これらを区別するために同じ読みの異なる字や表意文字が多用されたと見られる。
これらの区別の場合はアクセントや声調が用いられていた可能性が高く、シナ・チベット語族との間にも何らかの関連性が疑われる。
従って、前述のようなトンデモスピリチュアリストらの理屈が通るのであれば、世界中みんなシュメール人の末裔という頭お花畑な結論が導かれる。
"L"と"R"の音の区別ができなかった言語として知られ、同様の特徴を持つ言語は他には日本語と韓国語ぐらいしかなく、極めて異質である。もしもシュメール人が今も生きていて英語を学ぶ機会を与えられていたら、彼らも日本人と同様の"Engrish"の話し手となっていたことは想像に難くない(現実には英語はシュメール語が絶滅してからはるか後になってから誕生した新しい言語であるため、シュメール人が英語を話していたことは物理的にあり得ない)。
解読
その影響力の大きさから多数の文献資料が残されているものの、前述の孤立語たる特異性や表意文字の多用が元凶となり、一切の解読が不可能な研究者泣かせの言語であった(過去形)。
しかしながら、この言語の特徴であった楔形文字は、紙の存在しない、もしくは高級品であった古代においては粘土板にペン先を押し付けるだけで簡単に書け、書き間違えてもその部分を指で押しつぶすことで容易に修正でき、書き終えたら釜で焼いで永久保存できるというこの上ない利便性を持っていたために、アッカド語などの多言語にどんどん借用されることになった。
やがて、現存する言語であるペルシア語においてもかつて用いられていたことが判明すると、現代ペルシア語と古典ペルシア語の対比により、楔形文字の基本的な音韻体系や字義が次々と明らかにされていった。
ペルシア語と、同じく楔形文字で書かれた未解読の二言語で同じ内容の記載されたべヒストゥン碑文の解読を進めるうち、このうち一言語がそれ以前から予想されていた通り、現在もアラビア語やヘブライ語として広く用いられているセム語の一種であることがわかった(これがアッカド語である)。
アッカド語はシュメール語に継ぐ時代の国際標準語であったため、出土品の点数が極めて多く、また、セム語は異なる言語間であっても基本的な語彙や文法が共通し、一定の音韻学的な法則を持って変化している性質があるため、楔形文字の仮名文字の読みがほぼ判明した後は、アッカド語を解読することは考古学者や言語学者にとっては朝飯前であった。加えて、全単語の一割と推測される膨大な語彙をシュメール語から借用し、かつ楔形文字の特徴である表意文字をも訓読みすることによって、まるで日本語が中国語の漢字を使い放題使っているようにそのまま流用していたこともわかった。
こうして無惨にも身包みを全て剥がされ、あられもない格好で学者らの欲望の餌食となってしまったアッカド語は、シュメール語に関する恥ずかしい秘密をべらべらと喋り始めることとなる。
やがて、出土品の中にはアッカド語とシュメール語の逆引き辞典が含まれることもわかり、もはや孤高の処女王であったシュメール語に抗うすべは何もなかった。こうして、1940年、孤高の処女王はあっけなく操を汚され、その乙女の秘密を全て衆目に晒されることとなってしまった。
現在、シュメール語はアッカド語とともに最も解読が進んだ古代語として知られており、これは現存する言語に方言などの近縁関係にある言語の成れの果てが存在しない孤立語としては極めて異例である。
自らの貞操が惜しければ、付き合う友達には気をつけなければいけないという教訓である。何せ、友達は選べても、友達の友達や友達の家族、友達の親戚までは選べないのだから。
習得
すでに解読が完了している古代語であるため、習得は可能であり、古代メソポタミアやバビロニアを対象に考古学研究を行う上では、アッカド語とともに習得が必須である。とはいえ、前述の表意文字を多用する特徴から、字義はわかっても読みまではわからないという単語が非常に多い。そのため、読み書きはできるようになっても、話せるようにはならない言語である(身体を弄ばれても、心までは汚させないという儚い抵抗だろうか)。
今後、研究が進んで全ての単語の読みが判明したとしても、もはや死語と化して久しいので、自転車や消しゴム、パソコンといった、日常会話に不可欠な必要最低限の語彙の多くをそもそも持っていないため、習得したとしても日常会話に用いることは不可能である。
文法的にはセム語や印欧語とは一切共通項が見られないため、一般に習得困難であるが、同じく孤立言語で膠着語である日本語の話者にとっては、形容詞に関わる語順や能格言語であることを除いて、語順や基礎文法などに不思議と共通項が多い上、前述のようなトンデモスピリチュアル論者が湧いてくるほどに語彙レベルでもよく似ているものが理由は不明だがやたらと多いこともあって、むしろ国際常識的には習得しやすい古代語として知られるアッカド語やアラム語よりも習得難易度は低いという捩れ現象が生じている。とはいえ、学習機会はなかなかない上、古代語であるためそもそもの習得難易度が現存する外国語に比べれば高いことには留意する必要はある。
主な単語
体の部位
意味 | カナ表記 | 綴り |
---|---|---|
角 | シ | Si |
尾 | クン | Kun |
髪 | シキ | Siki |
頭 | サン / ウグ | Sang / Ugu |
耳 | ンゲシュトゥグ | Ngeshtug |
目 | イギ | Igi |
鼻 | キリ | Kiri |
口 | カ | Ka |
歯 | ズ | Zu |
舌 | エメ | Eme |
首 | グ | Gu |
乳房 | ガバ | Gaba |
手 | ブズル / シュ | Buzur / Shu |
指 | シュシ | Shusi |
爪 | ウンビン | Umbin |
自然
意味 | カナ表記 | 綴り |
---|---|---|
太陽 | ウド | Ud |
月 | イティ / イトゥド | Iti / Itud |
星 | ウル / ムル | Ul / Mul |
水 | ア | A |
雨 | イム | Im |
川 | イド / イダ | Id / Ida |
湖 | アブ / アバ | Ab / Aba |
海 | アブ / アバ / ナブ | Ab / Aba / Nab |
石 | ナ | Na |
砂 | サハル | Sahar |
大地 | キ | Ki |
雲 | イミ / ムル / ドゥグド | Imi / Muru / Dugud |
霧 | ムル | Muru |
空 | アン | An |
風 | リル | Lil |
雪 / 氷 | シェグ | Sheg |
炎 | イジ | Izi |
花 | ウル | Ul |
場所
意味 | カナ表記 | 綴り |
---|---|---|
森 | ティル | Tir |
山 | クル / イシ | Kur / Ishi |
台所 | エムハルディム | Emuhaldim |
天国 | アン | An |
職業
意味 | カナ表記 | 綴り |
---|---|---|
王 | ルガル | Lugal |
食べ物
意味 | カナ表記 | 綴り |
---|---|---|
果物 | グルン | Gurun |
麦芽 | ムヌ | Munu |
ビール | ジドムヌ | Zidmunu |
生き物
意味 | カナ表記 | 綴り |
---|---|---|
ライオン | ウルマ | Urmah |
イヌ | ウル | Ur |
鳥 | ムシェン | Mushen |
ヘビ | ムシュ / ウシュム | Mush / Ushum |
魚 | ク | Ku |
ミミズ | マル | Mar |
卵 | ヌズ | Nuz |
その他
意味 | カナ表記 | 綴り |
---|---|---|
神 | ディンギル | Dingir |