カリスト
かりすと
概要
ニンフの一人。「最も美しい」を意味するその名に違わぬ美少女だったが、処女神アルテミスに仕える身として、決して男を近づけない誓いを立てていた。
しかし浮気性のゼウスが彼女の美しさに一目惚れしてしまう。ゼウスはあろうことか彼女の慕うアルテミス(自身の娘でもある)に姿を変えて彼女を誑かし、まんまと思いを遂げた。
彼女は恥ずかしくてこのことを隠していたが、ある日、水浴びのために衣服を脱いだところをアルテミスに見られ、妊娠がバレたために女神のお供としての資格を失い、追放されてしまう。
やがて子供が生まれると、今度は極度に嫉妬深いことで定評のあるヘラの怒りを買い、「ふしだらな娘!」と一方的に罵られたあげく、「夫が魅了されるほど美しいのがいけないから、その美しさを奪ってやる!」という言いがかりで、熊の姿に変えられてしまう。心はもとの乙女のまま、熊の姿で生き続けることは悲惨であった。
後に、狩人に成長した息子アルカスから獲物として殺されそうになったところでようやくゼウスが救いの手を差し伸べ、天に上げられおおぐま座となった。とはいえ結局元の姿には戻してもらえず、そればかりかなお続くヘラの嫌がらせにより海に入って休めないようにされるなど、ゼウスの浮気相手のなかでも薄幸度は特に際立った女性である。
偽のアルテミスとの絡みは…
ゼウスがカリストを誑かすために女神であるアルテミスに姿を変えるというのは、女体化の古典的な事例と見ることができる。この誘惑の場面はしばしば絵画に描かれるが、偽りのものとはいえ、絵的には百合としか言いようがない光景である。この趣向はギリシャ神話では稀である分、それだけ画家たちの想像力、創作意欲を刺激したのだろう。その代表例として、フランソワ・ブーシェのユピテルとカリストがある。
ゼウスのこの誘惑がまんまと成功したことから察するに、もともと彼女とアルテミスの間にはそういう関係が成立していた―少なくとも、カリストにその願望があった―のかもしれない。
また水浴びのさいに妊娠が露見するシーンも、彼女自身のほかにアルテミスや他のニンフたちも一緒にいることもあって、裸婦群像の絶好の画題を提供してきたことも付言しておく。