概要
大神ゼウスが、処女神アルテミスのお供だったニュンペーのカリストの美しさに魅せられ、当のアルテミス自身に化けるという方法で彼女を誑かし、もうけた息子である。
彼女がまだアルカスを腹に持っていた時、水浴びで裸になったところをアルテミスに見られ、純潔の身でなくなったことが知れて女神のもとを追われてしまう(この時点でアルテミスの怒りに触れて熊に変えられたとも)。
やがてカリストはひっそりとアルカスを生むが、それがゼウスの正妻ヘラの嫉妬を買い、熊の姿に変えられてしまう。
孤児となったアルカスはゼウスによって女神マイア(ゼウスの元愛人)に託され、母親のことは何も知らされないまま健やかに成長し、かつてアルテミスのもとで狩りに励んでいた母に似て狩りを好むようになった。
そして15歳になったとき、母カリストが変じた牝熊と出くわすが、アルカスはそれが自分の実母だとはつゆ知らず、獲物として仕留めようとする。
息子が母をそれと知らずに殺そうとする。その悲劇を(熊にされたカリストに15年間何の救いの手も差し伸べなかった)父親のゼウスと言えども見過ごせず、母子を天に上げて星座に変えた。
カリストはおおぐま座、アルカスは原典のオウィディウス『変身物語』ではうしかい座になったとされるが、後世にはこぐま座になったと考えられるようになり、一般にはこちらの話の方が定着している。
なおアルカスはアルカディアの王位に就き、賢君として統治し、たくさんの子供をもうけて、祖父リュカオンの暴政によって断絶したアルカディア王家の中興の祖となったとも伝えられる。これは上記の「15歳の時に星座になって地上から姿を消した」という出来事とは整合しないことから、後者はオウィディウスの創作したエピソードとも言われている(呉茂一『ギリシア神話』新潮社)。