前進翼とは
後退翼と同じく、超音速での空力を大幅に改善できる翼形である。
前進翼では後退翼の欠点である、
・重量バランスが後ろに傾きやすい
・翼端失速を起こしやすい(=失速したときに機首が上を向く)
という部分を改善することができる。
また、前進翼は機の安定性が悪くなる特性もあるが、これは運動性が高くなるという事でもあり、戦闘機のような目的ではまさに願ったり叶ったりの効果を得られるだろう。研究は1930年代に始まっており、ナチスドイツではJu287という実験機を製作した。
が、当時の技術は実用的な性能を得るには足らず、前進翼は棚上げにされるに任されることになった。
コードネーム:グラマン712
1977年、アメリカ国防総省国防高等研究計画局(DARPA)は、次世代戦闘機のあらたな可能性として前進翼に着目し、空軍飛行力学研究所とともにこれを研究する実証機を提案する。
1981年、グラマンが主契約者に選定され、社内設計図番号「グラマン712型」、もしくは「G-712」として開発が始まった。前進翼以外にも研究中だった概念も実証すべく、主翼にはスーパークリティカル翼形や空力弾性テーラリングを取り入れ、また低速でも操縦性を確保するためにカナードを配置したクロースカップルドカナードとなった。
また、前進翼はただでさえ不安定な飛行特性となるのだが、極めつけに過流制御器も装備し、高迎え角飛行の操縦性の限界にも挑むことになった。もちろん、このように不安定な機なのでコンピュータの補助なくしては操縦さえ不可能である。X-29では独立した3つの飛行制御コンピュータをもち、さらにアナログ式コンピュータによる予備系統も3つ備えていた。
(80年代はフライバイワイアも研究途上だったので、これでもかという位に予備を備えている)
スーパークリティカル翼型
遷音速において主翼面で衝撃波が発生する速度を上げ、また発生しても主翼後縁でなだらかに起こるようにできる。また、この構造を取り入れると主翼を厚く(=頑丈&軽量)にできるため、現在では軍用機のみならず、多くの旅客機にも取り入れられている。
ふつう、主翼翼面で発生する衝撃波は空気抵抗を急上昇させ、また衝撃波から後ろは空気がほとんど無い状態となり、主翼の効率は落ちることになるので、スーパークリティカル翼形とは高速で飛行しても効率を良くすることの出来る翼形ということになる。
空力弾性テーラリング
主翼を複合材料で製作したからこその研究。主翼表面はグラファイト・エポキシ複合材で張られているが、こうした材料は金属と違い、「目」の方向によって強い・弱いが分かれている。
空力弾性テーラリングとは、この性質を生かして(任意の操縦により)主翼が反ったりよじれて飛行特性を変化させるよう、設計・工作する研究のこと。ちなみにテーラーとは「仕立てる」の意で、転じて「あつらえる」ということである。
クロースカップルドカナード
主翼の前方に先尾翼を配置し、これが発生させる渦流を主翼に当てて、低速でも操縦性を保つ仕組み。このあたりはデルタ翼の場合でも同様だが、X-29では低速の限界での操縦性を研究するため、過流制御器ともども導入された。
X-29では25回の試験中、瞬間的に最大67度の迎え角をとった状態での飛行にも成功している。