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X-29

えっくすにじゅうく

グラマンにより製作された前進翼の実験機。前進翼という未知の技術を研究するためだけでなく、さまざまな先進技術研究に使われ、実験機界のスターともいうべき実績を残した。非常に未来的な外観であるが、実はノースロップF-5Aを基にさまざまな機の部品からつぎはぎして製作された、まさにキメラともいうべき航空機である。
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概要編集

アメリカの航空機メーカーであるグラマン社(現ノースロップ・グラマン社)の手がけた前進翼の実験機。

前進翼を含めた様々な先進技術の実証と研究に使われ、実験機界のスターともいうべき実績を残した。

試験を担当したNASAが「航空機の歴史で最も珍しいデザインの1つ」と評するインパクト抜群の外見は非常に未来的だが、実はノースロップF-5Aを基に、多くの部品を従来機から流用して作り上げた「飛行機のキメラ」ともいうべき存在である。


コードネーム:グラマン712編集

1977年、アメリカ国防総省国防高等研究計画局(DARPA)は、次世代戦闘機の新たな可能性として前進翼に着目し、空軍飛行力学研究所とともにこれを研究する実証機を提案する。


1981年、グラマンが主契約者に選定され、社内設計図番号「グラマン712型」、もしくは「G-712」として開発が始まった。前進翼以外にも研究中だった概念を実証すべく、主翼にはスーパークリティカル翼型や空力弾性テーラリングを取り入れ、また低速でも操縦性を確保するためにカナードを配置したクロースカップルドカナードとなった。


また、ただでさえ不安定な飛行特性となる前進翼に加えて渦流制御器も装備し、高迎え角飛行の操縦性の限界にも挑むことになった。もちろん、このように不安定な機なのでコンピュータの補助なくしては操縦さえ不可能である。X-29では独立した3つの飛行制御コンピュータをもち、さらにアナログ式コンピュータによる予備系統も3つ備えていた。

80年代はフライバイワイヤも研究途上だったので、これでもかと予備を備えることでそれを補いつつ、その実用性も試験した。


X-29に与えられた新技術編集


前進翼編集

最もわかりやすい外見的特徴。

名前の通り、付け根となる部分から前に向かって伸びている翼である。

後ろに伸びる後退翼と同じく、超音速での空力を大幅に改善できる翼型であり、後退翼の

  • 重量バランスが後ろに傾きやすい
  • 翼端失速を起こしやすい(=失速したときに機首が上を向く)」

という欠点を改善することができる。


また、機体が不安定になるという特性があるものの、これを小さい力ですぐに向きを変えられると考えれば運動性が高めやすいという事でもあった。

空中戦を前提とした戦闘機にとってはまさに願ったり叶ったりと考えられたので、研究は1930年代に始まっており、ナチスドイツではJu287という実験機を製作していた…が、当時の技術では十分な強度や実用的な性能を得られなかった。


単純に飛ばす以上の応用はまだ無理と判断され棚上げされていたこの翼の設計を、70~80年代当時の最新技術で実用的なレベルに持って行けるか実証しようというのがX-29の任務であった。


スーパークリティカル翼型編集

翼断面の後方下側が窪んだような形になっている翼。現在では軍用機のみならず、多くの旅客機にも取り入れられている。


航空機の主翼は上下の気流の速度差から生まれる気圧差を揚力として取り出しているため、航空機そのものは音速を超えていなくても、主翼上面を流れる気流だけは音速を超えている状態も有りうる。

飛行機が音速前後で飛ぶとこうした部分的な超音速と亜音速がどちらも生じる「遷音速」の状態になり、激しい振動など飛行に様々な悪影響を及ぼすため、解決策の一つとして考えられた。


主翼面で発生する衝撃波は空気抵抗を急上昇させ、また衝撃波から後ろは空気がほとんど無い状態になって主翼の効率を落とすことになるが、スーパークリティカル翼が上手く機能すれば、主翼面で衝撃波が起きる速度をより速くできる。つまり、スピードを出しても部分的な超音速流が発生しづらくなる。

衝撃波の発生位置も主翼後縁側に下がり、なだらかに起こるようにできる。

この構造を取り入れると、同じ速度で主翼を厚く(=頑丈&軽量に)できるか、もしくは同じ主翼厚でより速いスピードで巡航でき、抵抗も減るので燃費も改善できる。


空力弾性テーラリング編集

テーラー(服の仕立て屋)という言葉の通り、主翼をグラファイト繊維強化エポキシ複合材(CFRP)で望み通りの形や性質に仕立てる技術の研究。参考

こうした材料は金属と違い、繊維の繋がりによる「目」の方向によって外部からの力に対する強弱が変わり、曲がりにくさ、伸びにくさといった性質が変化する。

繊維を積み重ねて作る紙や布を縦横に引き裂こうとしたときの違いを想像するとわかりやすいだろう。


この性質は強度を出すため層を積み重ねるほど強度計算がどんどん複雑になるという欠点になる一方で、うまく活かせるように翼を成形できると、翼の弾力性と強度の両立や軽量化が可能になる。

X-29が前進翼を実現できたのは、この素材設計技術によるところが大きく、弾性による主翼の「たわみ」や「ねじれ」を前提にした制御なども実証できることとなった。


クロースカップルドカナード編集

主翼の前方に先尾翼を配置し、これが発生させる渦流を主翼に当てて、低速でも操縦性を保つ仕組み。このあたりはデルタ翼の場合でも同様だが、X-29では低速の限界での操縦性を研究するため、渦流制御器ともども導入された。


X-29では25回の試験中、瞬間的に最大67度の迎え角をとった状態での飛行にも成功している。

そこまで迎え角をつけなくとも、45度位までは従来機を凌ぐ操縦性を実現した。


渦流制御装置(VFC)編集

Vortex Flow Controller。機首に設けられた空気の噴出孔。これにより機体表面の気流に機首上方向へ働く負圧(=持ち上げる力)を生じさせる。水平尾翼による機体の仰角制御が不要になり、さらに大迎え角時の操縦性も確保した。


フライバイワイヤ(FBW)編集

操縦桿から電線(Electrical wire)を介して翼などを操作する方式。


従来の航空機は操縦桿と動翼が鋼線(Steel Wire)で物理的に繋がっていたか、鋼線にかかる力を油圧装置で増幅し、直接「引っ張る」ことで動翼を動かしていた。この鋼線や油圧装置が故障したり戦闘で破壊されると操縦不能となってしまう。


フライバイワイヤでは、パイロットの操作を電気信号に変換して、その信号が電線を通して動翼のモーターを操作する。

故障や破壊で止まってしまうのは同じだが、鋼線や油圧装置より軽くシンプルに作れるし、軽い分だけ予備を二重三重に組み込んでおく余裕が生まれるのでダメージにも強い。

また、電気信号の処理にコンピュータが介入することになるため、姿勢の自動安定といった補助機能を組み込みやすい。不安定な前進翼のX-29はこうしたFBWによる自動制御を介在させないと飛べない機体でもある。


後に実用化されたF-16戦闘機などは、わざと不安定にすることで機敏にした機体をFBWで制御するという設計思想を体現した機体である。


サイドスティック編集

FBWのおかげで操縦桿をコクピット正面に設ける必要がなくなり、上記のF-16では初めてパイロットの右手側に圧力感応式の操縦桿を採用した。

もっとも、イスラエルでは「戦闘で負傷したら左手で操縦することも有りうる」ということで、従来のような両手が届く位置のセンタースティック式に改造しているのだとか。


X-29の中身編集

そういう訳で、当時研究中だった技術を実証してみせるため、これまでにない設計をとことんまで詰め込んだX-29だったが、その中身は当時すでに実用化された機から流用された部品だらけだった。


よく言われる部分だけでも、

・胴体(前半分):F-5

・油圧装置関連:A-6

・車輪:F-16

・エンジン:F/A-18用のF404。割安なエンジンだったのも一因

といった具合である。その他にも細々した部分は可能な限り現有機(の在庫部品)から流用され、こうしてX-29は完成したのであった。


得られた成果編集

Xシリーズとしては異例なほど長い期間運用され、1992年までテスト飛行を続けている。

設計で盛り込まれた課題はほとんど成功といえる実績を残したが、「前進翼」だけは思ったような成果を残せなかった。


設計や実用面の課題もさることながら、前進翼には前方から来たレーダー波を胴体に反射し、さらに前方に返すというステルス性の問題が立ちはだかった。70年代あたりから実現性が見えて来た対レーダーステルスは軍用機の重要な指標の一つと見做されるようになり、ステルス性の低下は前進翼の利点を帳消しにするものと判断されたのである。


スーパークリティカル翼型や空力弾性テーラリングなどでは参考になるデータを大いに得られたようで、現在ではさらに研究は進み、グラファイト・エポキシ複合材はもちろん、X-29ではチタン・アルミニウムだった主翼構造材を炭素繊維(カーボン)複合材で置き換えた例もある。そのほか軽量に仕上がる利点を買われ、旅客機にも多く使われるようになっている。


また、フライバイワイヤも現在では当たり前の航空技術の一つになっている。

空力性能の物理的限界に挑む戦闘機だけでなく、技術が進んで高まった安全性、軽量化による経済性などを活かせるものとして旅客機にも採用されるようになった。


旅客機の安全性とフライバイワイヤ編集

航空運輸業界において最優先なのは信頼性と安全性であり、また扱い慣れていた事もあってボーイング707の頃まで旅客機の操舵はワイヤー(鋼線の方)で物理的に操縦桿の動きを伝達する方式が中心だった。


その後(というかボーイング707を運用する過程で)、高速化するとともに人力では操舵しきれない場合に対応し、ようやく油圧補助操舵が一般化するようになった。ちなみに、軍用機では1950年代初期に登場したB-47がすでに油圧補助操舵を採用している。

こうした背景もあって、電気的な伝達で操縦する新方式であるFBWの導入には慎重な姿勢が続いていたのである。


『戦闘機』X-29編集

X-29は純然たる実験機であり、戦闘に用いることを想定していないどころか、そもそも武装の搭載スペースすら存在しない。

そんな機体を「実戦仕様に改造するなんてあり得ない」と言うのは野暮な話ではあるが、未来的な外観のおかげか、様々な創作でX-29が『実戦参加』する姿が描かれている。


おそらく最も有名にして先駆者なのがコレ。

作中では主人公シンの愛機として活躍。元が性能実証用の実験機であり航続距離等を考慮されていない設計なためか、戦闘中に燃料切れを起こしアスラン王宮上空にて放棄された。

劇中での描写や発言からしてシンはF-5(フリーダムファイター・フリーダー)、F-5E(タイガーⅡ)、F-5GかF-20(タイガーシャーク)とF-5シリーズを乗り継いでおり、機体のベースがF-5であるX-29を「最新技術満載に超大幅改造されたF-5」として見れば、ある意味順当な機体と言えなくもない。作者である新谷かおる自身もF-5系列が好きだったという。


初出は2。その後ZERO、インフィニティで登場。

プレーヤーが操縦できるが、どの作品でも安定性が低くて扱いにくい傾向にある。

ちなみにインフィニティでは流用部品多数の逸話から「キメラ・マシン」の通り名が獲得できる。

コラボによりエリア88仕様も登場している。


X-29を基にした「X-29Z」が登場する。見た目は変わっていない。

本作の敵エースの搭乗機として、ラスボスとして立ちはだかる。

他の機体を凌駕する圧倒的な旋回性能を持ち、一対一のドッグファイトや対戦では恐らく最強の機体である。

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