本格的VTOL戦闘機
Yak-141は世界初の超音速(予定)VTOL戦闘機である。完成はしたものの、能力不足甚だしかったYak-38の後継として開発され、キエフ級重航空巡洋艦に搭載される予定だった。
目指したのは本格的な戦闘機であり、今度はレーダーを装備してMiG-29にも匹敵する戦闘力を目指していた。そのため30㎜機銃を固定装備しており、レーダー誘導ミサイルも使用できる。
開発途中で冷戦が終結し、Yak-141はそのまま放棄されて現在に至る。
まさかの開発再開?
2017年に国防次官がアドミラル・クズネツォフの後継となる空母用に短距離離着陸と、垂直離着陸が可能な将来航空機の作成を検討中と述べたうえで、「中止されたヤコブレフのラインになる」とまさかの発言、今となって計画が動き出す可能性が濃厚となってきた。
141番目?
もちろん違う。本来なら「Yak-41」となるはずなのだが、西側に存在が知られた時、機首に描かれていた番号が「141」だった事から誤解されたのである。
(試作1号機・Yak-41の意)
また、ソビエトは軍事優先の「国家総力戦体制」を続けていた事が有名だが、中央政府は「開発中の兵器も完全に把握している」という訳では無かったのだ。
(つまり、中央政府も西側の指摘で詳細を知ったという事だろう)
そういう訳で、この機体は「Yak-141」として有名になってしまい、のちに型番がそちらに合わせて修正された。
派生型としてはステルス性能を取り入れたエンジンを換装して高性能化したYak-143(Yak-43とも)が計画された。Yak-43を更に発展させたYak-201も計画されたが、いずれも冷戦終結に伴う混乱により、放棄されている。
ちなみに・・・
「世界の傑作機No.168 Yak-38」によると、開発はYak-41として進められていたのだが、飛行記録をFAAに申請するため、仮に考えられた型番がYak-141なのだとしている。
真実のYak-141
wikiのYak-141では錚々たるスペックが並んでいるが、なにしろテスト段階で開発が中断された機体のため、一部に計画値が混じっているようで、実際に試作された実機のそれとは大きく異なっている可能性が高い
事実はMiG-29やSu-27の開発・維持が優先され、Yak-141は放棄されたのであった。何せ「カタログ値」はF-35にも匹敵する性能である、これを実現した機体が現実に存在するなら開発が放棄されるはずが無いだろう。下に簡単ながら比較できる性能を列挙する。
- Yak-141の「性能」
最大速度:1800km/h(マッハ約1.47)
重量(空虚重量):11650kg
航続距離:1400km(VTOL時)
エンジン出力:15500kgf(他に出力4260kgfの垂直エンジンが2基)
- F-35B(STOVL型)の性能
最大速度:マッハ1.6
重量(空虚重量):13888kg
航続距離:1670km
エンジン出力:18144kgf
いくらYak-38よりも発展しているとはいえ、これは少々不自然だと考えられる。
F-35と違い、Yak-141は水平から垂直方向に偏向する主エンジン1基と垂直離陸専用の補助エンジン2基からなる3発機である。
何とか形になりつつあるF-35もエンジンの偏向装置の軽量化に四苦八苦しているというのに、水平飛行時にはお荷物にしかならない垂直エンジンを積み込んでいるのである。実際にはこれだけの性能は発揮できなかったのではないか、と考えられる。
ただ、よくよく見ると余計なエンジンが付いているとはいえ、それでもF-35よりは軽量であり、改良のやり様によっては超音速VTOL戦闘機の歴史をがらりと変えていたかもしれない。まあF-35が実用化までにどれだけの資金を費やしたかを考えると、当時のロシアには無理だったのだろうが。
空虚重量について
機体構造・エンジン・固定装備、冷却水や作動油などの合計重量のことで、パイロットや燃料を含んでおらず、この重量では作戦できない。ひとつの参考値。
Yak-141とF-35B
エンジンノズル
F-35Bの「エンジンノズルに技術が応用されている」と言うが、現在はロッキード公式マガジンにおいて設計データを買ったのは事実だが、それを購入するときにはX-35に同様のノズルが装備されていたしので「技術を応用した」というよりも、「(今後の参考に)購入した」 というのが実態に近いようだ。
(計画で終わったVTOL機、コンベア・モデル200向けにテストされていた偏向ノズルが応用されたとの説もある)
脱出装置
エンジンノズル以外には、「AES(Automatic Ejection SystemまたはAutomatic Ejection Seat)」と呼ばれる自動脱出システムがヤコヴレフ設計局から購入されている。
ハリアーのように一つのエンジンから推力を別けるVTOL機であれば、VTOL時にエンジンが停止した際でも十分に脱出する余裕がある(機体が均等に沈む)のだが、リフトエンジン(ファン)を別に搭載するVTOL機の場合はそうはいかない。
片方のみが停止した場合は制御不能となるが、墜落までにパイロットが反応してベイルアウトすることはほぼ不可能といえるほど難しく、姿勢変化の異常を感知して自動的に(=勝手に)射出座席を作動させるシステムを搭載する必要がある。
実際に初期のYak-38では垂直着陸時にリフトエンジンが停止して墜落した際には脱出が間に合わず、パイロットは負傷している。
AES搭載以降のYak-38で行われた19回の脱出全てで作動に成功しているという実績があり、これが購入の理由になったと思われる。
リフトファンのダクトカバー
もう一つの類似点は、リフトジェット(F-35Bでは“リフトファン”)のダクトカバーである。F-35Bの初期試作型、および原型のX-35では左右分割式のカバーだったところが、後の実用型ではYak-38/141に類似した後方ヒンジ式に改められている。後方ヒンジ式のほうが、重量は増すが、リフトファンへの気流は安定するらしい。
こちらについては、Yak-141がどれほど参考となったかは明らかではない。収斂進化とも言えるだろうが……
サブカルのYak-141
といっても、あまりにもマイナーな機なので、SEGAの『ウィングウォー』(1994)くらいしか思いつかない。ハリアーに対する機として登場しており、性能も似通っている。
ゲームのOP、チュートリアルであり、国内では解説はもちろん日本語になっていた。
ゲームの解説動画。周辺事情の話も。
Yak-141の試験が中止された後、1992年のファーンボロー航空ショーで初めてデモンストレーションを行なった際の映像。