概要
「芝浜」は古典落語の演目の1つ。江戸時代の柴村、現在の東京都港区芝の浜辺を指す地名であることからわかるように、江戸落語である。上方落語では芝浜を住吉の浜辺に置き換えた「夢の革財布」という演目になる。
諸説あるが、初代・三遊亭圓朝が「酔漢」「財布」「芝浜」をお題として作った三題噺が原典とされる。現代よく知られる形は1950年代に三代目・桂三木助が作り上げたもの。夫婦の愛を描く人情噺で、特に綺麗なサゲが有名。
あらすじ
芝の金杉(現在の芝浦一丁目付近)に住む魚屋・勝五郎は大酒呑みで、金が入ればとにかく呑んでしまう。目と腕は大層利くが怠け者で、ずっと貧乏長屋住まいな上に店賃も滞納していた。
ダメ亭主をずっと我慢して支えてきた女房は年の瀬も迫ったある日、勝五郎を叩き起こし「このままでは年も越せないから稼いできてくれ」と河岸に送り出した。夜明け前に追い出された勝五郎は河岸が開く前に着いてしまい、時間つぶしに芝の浜で顔を洗おうとして革の財布を見つける。中を見ると、大金が入っているではないか。勝五郎は大喜びで家に帰り、女房に拾った財布を見せて「これで暫く遊んで暮らせる」と言って[酒]]と肴を用意させ、仲間を家に集めて大いに呑み、酔い潰れて寝てしまった。
勝五郎が目を覚ますと、女房は昨日と同じように「このままでは年も越せないから稼いできてくれ」と言って、河岸に送り出そうとする。「金なら昨日の財布があるじゃねえか」と勝五郎が文句をいうと、女房は「お前さん、夢でも見たんじゃないの?」と呆れる。女房曰く、勝五郎はきのう昼に起きて急に仲間を呼べと言い出し、どんちゃん騒ぎをして寝てしまったのだという。
「するってぇと何か。財布を拾ったのは夢で、酒呑んだのは現実だってのか…」
亭主のダメさ加減にとうとう泣き出してしまった女房を見て、自らの情け無さを痛感した勝五郎は、酒を絶って仕事に励むことを誓うのだった。
真面目に励めば、元々腕も目も利く勝五郎。贔屓にしてもらえる得意先も沢山でき、3年が経つころには小さいながらも店を構え、奉公人を雇えるほどの立派な魚屋となる。
そして大晦日、新年を迎える準備をすっかり済ませて夫婦水入らずとなった夜のこと。女房は勝五郎に革の財布を差し出して、3年前の真実を打ち明けた。聞けばあの日、勝五郎が酒を呑んで寝てしまった後、思い余った女房は大家に相談した。そして「拾った金を使い込んでしまえば手が後ろに回ってしまうから、奉行所に届けて夢だということにしてしまえ」という大家の言に従って財布を奉行所に届けた。その後落し主は現れず、財布はお下げ渡しとなっていたというのだ。
「好きな酒をやめて一所懸命働くお前さんを見ていたら、今日の今日まで言い出せなかった」
と泣きながら謝る女房に、勝五郎は
「お前が財布を夢にしてくれたなかったら、今頃俺の首は飛んでいたかもしれねぇ」
と礼を言うのだった。
女房は喜び「お祝いに、今日くらいは」と、勝五郎に酒を進める。喜んで盃を受け取り、そっと口をつけようとした勝五郎。しかし…
「いや、よそう…また夢ンなる」