概要
スズキが発売していた250ccのバイク。
1989年の東京モーターショーに出展した「X913」というモデルを、翌1990年にほぼそのままの姿で発売したのが本車。
この名残で、カウル側面には「X913」の文字があしらわれている。
最大の特徴は、スポーツバイクで初めてメットインを採用した点である。
本来燃料タンクがある場所は、フルフェイスヘルメットが丁度一つ入る収納スペースとなっている。
これはスクーターのメットインとは異なり、エンジンを始動した状態でも開閉可能な優れものであった。
エンジンはGSX-R250から流用した、最高出力45馬力のDOHC4気筒を搭載。
ただし、本車の性格はツアラーであり、乾燥重量159kgという重い車重も相まってスポーツ走行には不向きである。
装備面でも、フレームはスチール製、フロントブレーキはシングルディスクであるなど、レーサーレプリカブーム当時のスポーツバイクとして見れば貧弱なものであった。
また、先述のメットインの影響でシート下に設置された燃料タンクは、容量12Lとツアラーとして見るには少なかった。
このような中途半端に見える設計のためか、人気は得られず販売不振のまま1998年に生産終了。
その後
スズキはこれ以降、スポーツバイクにメットインを採用した車種を発売していない。
代わって、1991年にホンダが発売した原付バイクのNS-1は、まさしくアクロスと同様のメットイン構造を採用。
原付という敷居の低さと、排気量を感じさせない大柄な車体、そしてメットインの利便性が重なり、大ヒットを記録。
今でも名車として名高い。
更に、同社が2012年に発売した大型バイクNC700でも同様のメットインが実装された。
こちらも大型バイクのエントリーモデルとして大ヒットを記録。
ボアアップ版のNC750に進化し、令和突入時点でも生産中である。
アクロスは名車にはなれなかったが、そのコンセプトが間違っていなかったことを、皮肉にもライバル企業が証明する結果となってしまったのである。