概要
基本的な仕様を予め複数定めておいた上で、搭載する電気機器類は極力モジュール化を行い、多種多様のユーザニーズに容易に対応できる構成としたセミオーダーメイド型の電気機関車で、1992年にシーメンスとクラウス=マッファイ(当時)によって開発された。
従来の電気機関車は、鉄道事業者のニーズに合わせて製造されたオーダーメイドの機関車が主流であったが、1980年代後半の各国鉄道事業者の深刻な経営難の中で従来の機関車の置き換え用としての汎用性の高い機関車が求められていた。
そこで、汎用化と仕様共通化で、大量生産による製造コスト引き下げと保守部品の共通化などによるメンテナンスコスト低減を図ることにした。
電気機器類の組み合わせにより、重貨物用から高速旅客用まで単一の基本仕様で対応できるよう設計、制御機器はインバータ制御を採用。パワーエレクトロニクス技術の発展により、機器類の小型化・軽量化が可能になったことも有り大量生産も可能になった。
当初はドイツ連邦鉄道(西ドイツ国鉄、現:ドイツ鉄道)向けに設計していたものの、開発が進まず、また運用方針の変更から計画は頓挫。一方で、開発中の機関車は貨物用として発注され、電気機器をカスタマイズする方向になった。
また、電気式ディーゼル機関車「ユーロランナー」(EuroRunner)も同様のコンセプトで開発された。
しかし同様にドイツ向けに開発された機関車を発展させたボンバルディア・トランスポーテーションの電気機関車・ディーゼル機関車『TRAXX』シリーズは、僅かな設計変更でほとんどのヨーロッパ地域を走ることが可能であったため販売面でシーメンスは苦戦することになった。
そこで2006年に、ユーロスプリンター・ユーロランナーの後継シリーズ『ベクトロン』(Vectron)に一新した。
基本形
基本軸数はいずれも4動軸で、軸重は約21 tである(ヨーロッパの幹線鉄道線路は多くの場合、軸重22.5 tまで許容)
型名の命名規則は、「ES」+「出力」+「用途」+「対応電源数」による。
「ES」:EuroSprinter
「出力」:出力は「64」ならば 定格出力6,400 kW
「用途」:「P」は旅客用(Passenger)、「F」は貨物用(Freight)、「U」は汎用(Universal)。
「対応電源数」:「2」は2電源対応、「4」は3電源または4電源対応で、単電源対応の場合は数字無し(例外有り。)
ES64P
単電源対応の旅客用電気機関車。交流15 kV/16.7 Hz対応で、最高速度230 km/h。
プロトタイプとして1両(ドイツ鉄道・127形)だけが存在。
ES64U2
2電源対応の汎用電気機関車。交流15 kV/16.7 Hzと交流25 kV5 0Hz対応で、最高速度230 km/h。
- ドイツ鉄道 182形
- オーストリア国鉄:1016形(交流15 kV/16.7 Hzのみ)、 1116形(交流15 kV・交流25 kV対応)
他にハンガリー国鉄、GySEV(オーストリア・ハンガリーの私鉄)、MRCE Dispolok社(三井物産系列の機関車リース会社、旧Siemens Dispolok社)が保有。
ES64U4
3電源対応の汎用電気機関車。交流15 kV/16. 7Hz・交流25 kV/50 Hz・直流3,000 V対応で、最高速度230 km/h。
- オーストリア国鉄 1216形※2006年9月2日、1216 050号機が汎用の電気機関車としては無改造で357 km/hの世界最速記録を出している。
他にスロベニア鉄道、ポーランド国鉄で使用。
ES64F
単電源対応の貨物用電気機関車。交流15 kV/16.7 Hzのみ対応で、最高速度140 km/h。
ドイツ鉄道で使用。
ES64F4
4単電源対応の貨物用電気機関車。交流15 kV/16.7 Hz・交流25 kV/50 Hz・直流1,500 V対応・直流3,000 V対応で、最高速度140 km/h。
ドイツ鉄道、オーストリア国鉄、スイス国鉄で使用。
派生型
- 韓国鉄道公社 8100形
交流25 kV/60 Hzのみ対応で、出力5,200 kW。大宇重工業によるライセンス生産。
- 韓国鉄道公社 8200形
同上、現代ロテムによるライセンス生産。
- ACS-64
アメリカ合衆国のアムトラック向け。アメリカ国内のシーメンス工場で現地生産。
関連タグ
タウルス:オーストリア国鉄の1016形、1116形、1216形の各電気機関車の愛称。