味皇
あじおう
『ミスター味っ子』に登場する日本(続編『味っ子Ⅱ』では全世界)の料理人を束ねる職能組織団体「味皇料理会」を束ねる総帥職に冠される称号にして通称。
「味の世界(料理人世界)の天皇」という意味合いから冠されたもの。
役職である事から、この称号を持つ者はシリーズ作品を総じて複数名登場している。
また原作漫画とアニメでは設定が異なるので注意。
初代
『味っ子Ⅱ』にて言及される味皇料理会の創設者。ある意味存在自体がネタバレ。
原作
後に就任する二代目村田源二郎の兄弟であり、味への求道に容赦の無い武闘派料理人。
元々は味の求道にかけ、その究極至高を極めんと研鑽する志の高い集団であり、また地位の低い料理人たちが、その志を持って研鑽に励めるようにする互助組織として発足した。
しかし、その評判を高めて名声や理解を得るようになると「自分達の姿勢こそが唯一、料理人のあるべき姿」と勘違いを起こして暴走。「料理人たちの意識の低さを糺す」という市井の人々にとっては大きなお世話な大義名分を掲げ、評判を得た料理人に否応なく味勝負を挑み、強引にでも相手を負かしてその料理にかける情熱を叩き折り、心の支えを奪われた料理人を「鍛え直す」名目で自らの傘下に加える事を繰り返して味皇料理会を強大な組織へと急成長させた。
原作『味っ子』に登場する味将軍は、もともと彼の懐刀であり、この頃の味皇料理会の考えを維持するために二代目の源二郎と袂を分かった。この事が「味将軍グループ」の発生に繋がっている。
つまり、原作における発足当初の味皇料理会は、味将軍グループとどっこいどっこいの組織(下手をすれば味将軍グループよりも苛烈な組織)だったのである。
しかし、ある日、とある料亭で頭角を顕した若き気鋭の板前に手痛い敗北を受け、味皇料理会はその存在意義を大きく揺らがせる事となって一部料理人および支援者の離反が起こり瓦解寸前にまで追い込まれ、心ならずも初代味皇は自ら責を負いその座を退く事となった。
しかし、この初代味皇を相手に奮戦し勝利を得た板前も、ただでは済まなかった。
初代味皇が敗北した事でメンツを潰された政財界の料理会支援者が圧力をかけたのである。
結果、彼が所属していた料亭は経営がおぼつかなくなり、板前はその責任を取るために自ら恩ある料亭を辞する羽目になり、以降、彼らの手回しによって名のある一流料理店では働けなくなったのである。
その初代味皇に勝利し、ゆえに料理の世界から「消された」板前の名は味吉隆男といった。そして料亭を去る隆男の背を、彼を慕っていたその料亭の娘が追いかけて寄り添うようになったのであった。
アニメ版
アニメ版では料理会は村田源二郎が立てた組織であるため、彼が初代という事になる。
しかし、源二郎が料理会を立てた理由には彼の兄である村田源一郎の存在があり「兄の料理の志である『心の料理』を維持し、その思いを後世の料理人たちや一般の人々に広める」という第一義があるため、この源一郎氏を「第0代味皇」あるいは「みなし初代」として扱うケースがある。
二代目
メイン画像。基本的に本シリーズにて「味皇」と呼ばれ認識されているのは、この人。
ここでは最小限の事に触れ、詳細は村田源二郎の項目に委ねる。
原作版
初代の敗北によって瓦解寸前になった味皇料理会を立て直した改革者。
初代味皇の身内(兄弟)ではあるが、初代体制の頃は味皇料理会とは距離を起き、自ら「心の料理」を見出だして、その研鑽に努めていた。初代味皇の在り方には疑問があり苦言も呈していたが、増長していた彼にはその言葉は届かず、結果として料理会の瓦解と世間からの排斥行動を導いてしまう。
料理会の瓦解によって、もっとも被害を被ったのは、実は初代味皇や味将軍に敗れ、半ば強引に料理会の傘下とされた市井の料理人たちと、初代を信じて裏切られた純粋に料理会当初の研鑽の信念を支持していた心ある支援者たちであった。彼らは初代味皇体制における「被害者にして加害者」という立場であり「料理会が無くては生きる場がなくなってしまう」人たちであった。
源二郎は、この兄弟を止められなかった事への自責と「身内の不始末」に対して後始末をつけるため、周囲の説得に推されて味皇に就任。
初代敗北による反省から「心の料理」を見出だし、トップダウン式の絶対服従組織であった味皇料理会を料理主任たちによる合議制へと転換させ、世間一般との落とし所もきちんとつける事が出来る穏和な社会的組織へと改革した。(そのため、同じ味皇料理会と言えども、初代体制と二代目体制では別の組織とすら言って良いレベルの変貌を遂げた)
しかし、その穏健派の姿勢がのちに味将軍の離反と味将軍グループの発生を許してしまった、という側面もある。
料理会支援者が味吉隆男にした仕打ちは後から知って大いに驚き、老いてなお自責の念にかられる大きな悔いとなった。のちには料理会の総力を挙げて彼を探してその名誉の回復を願ったが、場末に潜った(後には死に至った)彼を探すことはついぞ出来ず、ゆえにその名誉の回復も困難を極めた。
そうして手をこまねいている中、気まぐれに立ち寄った定食屋で味吉陽一と出会い再び運命は動くのであった。
アニメ版
CV:藤本譲。氏の代表作にもなった。
ただ本名の方はあまり出てこず、基本的には『味皇』と周囲から呼ばれている。
恐らく、一般的には原作よりもアニメ版における「黙って飯を食えない厳つい顔の爺さん」というイメージが強いと思われる。
「美味いぞおぉぉぉぉぉぉ!」
と絶叫し、その旨さを全身で表現、どころかトリップ(※監督公認)しながら、その料理の感動と感謝を訴えることでお馴染み。
せっかくなのでこの記事ではアニメ版におけるいろいろ常人離れした演出の数々を紹介する。
- 「お茶漬けの中から桜が咲いた!」と驚き、林立する桜の中を回転しながら浮遊。
- 魚を食べた途端、モーゼが海を割るように海上を疾走。
- あまりの旨さに巨大化、大阪城を中から突き破り、粉々にする。
- 口から光線を吐き出す。
- タツノオトシゴと化す。
- 車椅子に乗りながら病院内を爆走。
などなど、枚挙に遑がない。
あまりの旨さに気づいたら料理をペロリと完食してしまい、「もうないのか…」とガッカリしながら目を潤ませるなど、可愛いところを見せるお爺さんでもある。
え、なんかおかしくないかって? ほら今川監督作品だし。
なお、これらはあくまでも「壮大な旨さを表現するためのイメージ」であり、現実に起こっているわけではない。
いくら今川監督でもその辺りは弁えていますよ、ははは…。
味皇のリアクションの印象が強いが、アニメ版の美食家はどれもこれも何かがおかしいので、知れば知る程作品を楽しむことが出来るだろう。
新・味皇(三代目)
『ミスター味っ子Ⅱ』に登場する葛葉保名、
源二郎の実弟にして料理会の独立最高機関「味皇室」の室長である村田源三の強引な推薦によって就任した。そのためコネ就任と思われがちだが、人知を超えた料理の腕前を持ち、当時の料理主任たちも束になってすら敗けを認めざるを得なかった。
また、無名時代に第43回味皇GPで中江兵太を料理勝負で打ちのめしている。(しかも、プロ料理人としては使うこと自体タブーとされるうま味調味料を「あえて」使った上で中江に負けを認めさせた)
元は有名な料理店の三代目だったが、二代目の父親が料理人としては器用貧乏な「そこそこやれるけど一流にはなれない」タイプであったために初代の威光と我が子(保名)の才能に潰されてしまった、という、つらい過去の持ち主。そのため彼にとって料理とは、愛する父を奪った一方で自らが最も力を発揮できるフィールドであるという、非常に愛憎が入り交じるもの。
また、この経験から人間性を少し失っている様子がうかがえる。また自らは料理をするものの、食べる事はせず自らの食事は全て栄養サプリメント(しかも固形カロリーすら取らず、錠剤とカプセルのみで賄うという徹底ぶり)で済ませている。
料理会の運営そのものには無関心であり、そのほとんどを「些事」として君臨すれども統治せずを貫き、味皇室長に投げている。そのため味皇料理会は事実上、室長による専横体制に移行してしまい、結果として「味皇料理会所属および縁のある者以外の料理人は、料理人とは認めない」「料理人で無い者が料理店をするなど笑止、そんな店は全力で潰す」というレベルの排他的な組織へと変貌した。(初代味皇時代の方針に原点回帰してしまった、とも言える)
「料理は必ず人を裏切る」「料理ほど恐ろしいものはない」という考え方を持っており安易に思慮なくその頂きに立とうとする者には容赦が無いが、実はこれは彼なりに「わざわざ不幸に近付いて欲しくない。そんな事よりも自分の周りにいる人々を大事にして欲しい」という優しさの現れでもある。