概要
BlackLivesMatter(黒人の命は大切の意味)の略。
2013年から使われている黒人差別への抗議運動のスローガンである。
誤解されがちだが、このスローガンは黒人の命を特別視することではなく、すべての人種の命が大切であるとしたうえで、黒人の命にはその原則がまるで守られていない(とされる)ことに対する抗議である。
このほか「Blue Lives Matter(警官の命も大切)」、「Irish Lives Matter(アイルランド人の命も大切)」というバージョンもあり、BLMを揶揄するものであるという批判もある(ウォルマート、批判に応えて「All Lives Matter」商品の販売を停止)。
デモの殆どは平和的であるが、規模が大きくなるにつれ暴行、放火、盗難、殺人等の犯罪行為が起き、「黒人の命は大事だ」とするBLMの主張に対し「みんなの命が大事だ」と返した女性(Jessica Doty Whitaker)が射殺されるという事件や、BLMの放った銃弾により黒人の少女が死亡する事件などが発生している。
背景
南北戦争と1960年代の公民権運動を経てなお、アメリカの黒人は様々な面において抑圧に晒され続けていた。それらについては外部リンクを参照。
一般に黒人の犯罪率は他の人種より高いという統計結果がよく知られており、2017年のアメリカで黒人は全体の13%程しかいないにも関わらず、殺人事件のおよそ53%、強盗事件の54%が黒人によるものとされている詳細はFBIによる統計を参照。。その他の窃盗、レイプ、暴行などすべての犯罪を総計しても、全体の27%と人口比で白人の2倍の犯罪率を記録している。
この統計的事実と、本来法で禁じられている「レイシャル・プロファイリング(容疑者を絞り込むときに人種的な要素を入れる)」が警察のルーティンワークとして常態化しているため、黒人はあらゆる人種よりも抜き打ち検査を受ける確率が極めて高い
これらの問題が、転じて客観的統計として警察の警戒心を刺激し黒人に対する厳しい取り締まりを行わせることとなった。
結果的に高い犯罪率は高い職質率に結び付き、黒人の違法者の発見が多くなり、さらに黒人の犯罪率を引き上げている。
このため、一般の黒人家庭でも子供達に何をされても警官に反抗的な態度をとらない、外出の際は良い身なりで、買うことを決めるまで商品を手に取ってはならないなど、警察からの人種的偏見に基づいた取り締まりを防ぐための予防策を教えることが常態化し、黒人は強い緊張下に置かれた生活をしていると感じていた。
黒人の射殺率は白人のたったの1.3倍。黒人の高い犯罪率から推計される数字を大きく下回っている。特に「殺人」「強盗」という凶悪犯罪の半分以上が黒人と言う事を考えれば不自然なほど低い。
アメリカ国勢調査局およびワシントン・ポストによる統計では、人口比で非武装の黒人が警察に殺害される確率は、白人より2~2.5倍程度で。先述の黒人の高い犯罪率と比較すると高い比率ではない。
逆に、警官が黒人に射殺される件数は、非武装黒人が警官に射殺される件数の18.5倍にのぼる。
また、2015年の司法省の調べによると、白人の警察は黒人の警察に比べ、非武装黒人への発砲率が低い事が判明している。
思想
前述の通りBlack Lives Matterは「黒人の命は大切だ」を意味する。ただし、運動としては他の文面で記される内容も含まれている。
かつて公式サイトには白人至上主義の打破のほか、家父長制の解体も目的として明記されていた。
このページ(アーカイブ)では「黒人の命は大切だ」とは、性に冠するアイデンティティ、性同一性、ジェンダー表現、経済的な地位や能力、障がいを持つ事、宗教への信仰や信仰を持たない状態、移民であるかどうか、また住む場所によって左右される事がないものと明記されている。
このほか、シスジェンダー(性自認が肉体と一致する多数派)の特権的地位を解体し、トランスジェンダー当事者が参加しリードする場をつくる事が目標とされている。
男性中心主義、ミソジニー(女性嫌悪)、性差別に反対するというフェミニズムの内容も含まれる。
BLM公式Twitterアカウントでは「#BlackTransLivesMatter(黒人のトランスジェンダーの命は大切だ)」のタグのついたツイートもしていて、LGBTQ当事者やその権利運動との連帯も表明している。
また、合法で安全な中絶を権利として求めるツイートもしている。
BLMの説く、家父長制、異性愛主義への反対、性的少数者の権利や中絶の支持はアメリカ合衆国にいる宗教右派、キリスト教保守派の思想・規範と真っ向対立する。そのため中絶については「Baby(Babies) lives Matter(赤子の命は大切だ)」の標語を生み出して対抗している。
運動としてのBLMを興した初期メンバーの一人パトリッセ・カラーズは「私達は訓練されたマルクス主義者である」と発言しているが、運動を牽引する組織としてのBLMが神や宗教そのものを否定したことはない。
Twitterでも「God bless(神のご加護を)」という語を含んだツイートをしている。
ジョージ・フロイド殺害事件
ジョージ・フロイドは地元テキサスにおいて計9度の逮捕歴を持っていた人物で、2013年に出所して以降は更生プログラムなどを受けていた。
その後生活のため2014年にミネアポリスに移り、トラック運転手やガードマンなどの職を得ていた。
2020年に新型コロナウイルスにより職を失っていた。
2020年5月25日、アメリカ・ミネソタ州ミネアポリス市の路上で20ドルの偽札使用の容疑(※)でフロイドは白人警官に身柄を拘束され、捜査を開始する前に体をうつぶせにされ、後ろ手に手錠をかけられた状態で首を膝で圧迫されて死亡した。
この事件を目撃した通行人は「息ができない」と苦しむフロイドを見かねて、警官に膝を押し付けるのをやめさせようとしたが、直接手を下した警官と同僚の警官3人は無視、フロイドが亡くなるまでの8分46秒間、救急隊がかけつけるまで拘束を解くことはなかった。
反響
結果、映像は全米だけでなく全世界に拡散、アメリカ国内では警察の過剰な取り締まりと人種差別に対する怒りが自然発生、各都市でデモが起きる事態となった。
デモに参加するほとんどの人々は平和的なものであったが、一部に略奪を働く者があり、しかも計画的に行われたものであった。
各地で警察署が焼き討ちされ、5月29日には大手テレビ局CNN本社も襲撃を受ける事態となった。
これら一部の暴徒をドナルド・トランプは「極左系人種差別反対組織・ANIFA」と断言し、「テロ組織」に認定すると表明したが、「アンティファ」は一部に過激なものはいるものの、ゆるやかに広がるネットワーク上のつながるものであって、リーダーとなる人物もいない。
全米に広がる凄まじい暴動に対しトランプ大統領は各州の知事や各都市の市長に「鎮圧に州兵を動かす」よう指示、「もし鎮圧できなければ、アメリカ陸軍派遣も用意がある」と発言した。
トランプはさらに首都・ワシントンのデモ隊を催涙弾などで追い払い、ホワイトハウス近くの教会で聖書を片手に記念撮影をするパフォーマンスを見せた。
これらのトランプ発言にエスパー国防長官は反対を表明、マティス前国防長官も「トランプの憲法違反、国民を分断する」発言や行動を批判する文書を発表するにいたった。
6月1日、ジョージ・フロイドの実弟・テレンスが「暴力的な方法ではなく、平和的な方法で問題を解決しよう」と演説した。
6月4日、ニューヨーク州バファロー市で警官に突き飛ばされた75歳のデモ参加者が一時意識不明の重体になった事件で、トランプは根拠がないにもかかわらず「極左系運動家が大げさに倒れたヤラセだ」と投稿、野党・民主党だけでなく与党・共和党からも批判が起こった。
この後もトランプはデモ参加者は民主党支持者や極左、無党派が暴動を起こしていると発言(暴動が起きた州はいずれも民主党の支持基盤である)民主党知事や市長の姿勢を弱腰と批判、実働部隊を送り鎮圧すると主張した。