グリュック
ぐりゅっく
概要
大陸北部の城塞都市、ヴァイゼの領主。
宮廷魔法使いデンケンの親戚で、のちに娘のレクテューレがデンケンと結ばれたことで義父となった。
黄金郷のマハトによって黄金に変えられた都市、ヴァイゼを治めていた人物。
魔族の心を操る魔道具「支配の石環」を使ってマハトを使役していたが、何らかの理由で石環が不具合を起こしてマハトに反逆されたと伝わっている。
しかし実際には石環は現在に至るまで正常に動作しており、彼がマハトに命じた「ヴァイゼの民に仕えること」「ヴァイゼの民に悪意を頂いてはならない」という命令は有効だった。
そもそも魔族に"悪意"という感情はないからであり、命令自体がほとんど無意味だったというのが実情。
また、マハトを使役した理由は彼が魔法によって生み出す「黄金」によって富を得ようとしたとされているが、マハトの黄金は黄金といいつつ破壊・加工不可能な特性をもつ全く別の物質。
貨幣や装飾品として再加工することもできず、「金」としての価値は無い。
そもそも七崩賢 最強と称され、レルネンですら歯が絶たないマハトにどうやって石環の装着を承知させたのかなど、当初から謎の多い人物だった。
以下、原作10巻以降のネタバレ注意
「私程 悪意に触れた男はそういない。私ならお前の知らない感情を教えられる」
出会い
当時、城塞都市ヴァイゼは帝都での政争に敗れた貴族が行き着く最後の場所であった。
グリュックは領主という立場だったが実権はなく、有力貴族たちの汚職や圧政など人の悪意による腐敗が蔓延していた。
グリュック自身も状況を憂いていながら行動を起こすことはなかったが、正義感の強い息子(レクテューレの兄)はヴァイゼの有力貴族たちに直訴。
その結果、貴族たちによって息子は暗殺された事から、自らも血みどろの権力争いに参戦。
"罪悪感"に苛まれながらも、ヴァイゼ平定という息子の本懐を遂げるため、悪事に身を染めていた。
そんな中、馬車での移動中に黄金郷のマハトと出会う。
護衛を皆殺しにされ、自分も殺されることを覚悟するが、人間の"悪意"や"罪悪感"に興味を抱いていたマハトは彼と問答。
グリュックはマハトに"悪意"を教えることと引き換えに、自分に協力することを提案。
利害の一致から両者は手を組んだ。
悪友
裏ではマハトに敵対する貴族を排除させつつ、表には魔王の討伐を機に「平和の証」と称してマハトをお抱え魔法使いに据える。
マハトを信頼させるために魔王軍の残党の掃討 (マハトには魔王への忠誠心も仲間意識もないことを承知で) させ、魔族の「人間を信頼させ欺く能力」に目をつけ、有力者の懐柔も担わせるなど、
魔族の習性と人間との精神性のギャップをフル活用して、ヴァイゼの平定を図った。
上記の「支配の石環」の命令も他の有力貴族たちの要望であり、マハトの黄金に目をつけたのも彼ではなく貴族たち。
グリュック自身は 「最高に笑えるだろう?奴らは魔族のことを微塵もわかっていない」 と皮肉っていた。
「君は正義も悪もわからない化物だ」
「わかるまで付き合うさ。地獄の底までな」
報い
マハトと出会っておよそ30年。
娘のレクテューレがデンケンと結ばれ、その娘を失い、彼自身もマハトに手を引かれるのが当たり前になるくらい老いたある日。
魔族のマハトにとっては一瞬の出来事だろうとしつつ、マハトはグリュックと過ごした時間はかけがえのないものだったと告げる。
マハト「───だからその全てをぶち壊そうと考えました」
過ごしたものをぶち壊しにすることで、 "悪意"と言う概念が、"罪悪感"が、わかるような気がする。
そう告げるマハトだが、誰よりも魔族を、マハトを理解していたグリュックはこの結末を予期していた。
「君は私の大切な悪友で、救いようのない悪党だ」
いつか自分のように報いを受ける。
そう告げながら、マハトへの恨み言も非難も口にせず、悪い貴族は静かな笑顔のまま黄金へと変えられた。
「楽しかったよ。マハト。」
「ええ。私もです。グリュック様」
人物像
世界でもトップクラスに魔族が何たるかを熟知していた人物。
魔族は人間に悪意を持たないまま人間を害していることを理解しており、いずれマハトが自分たちを破滅させることも予期していた。
デンケンの指南役に据えたのも「魔族に両親を殺されたデンケンは魔族を信用していないから」であり、魔族が自然と嘘をついて人に取り入ることもその危険性も承知していた。
マハトとともに策謀を巡らす時には悪巧みを楽しんでいた様子がある反面、失った息子の遺志を叶えてヴァイゼに正義をもたらすことを本心から望んでおり、自分を含めた「悪党」が裁かれることを願っている。
愛煙家であり、また彼の亡き妻は紅茶を好んでいた。
家族を失ったデンケンを気遣って、「超えるべき師であり打ち倒すべき敵」になるようマハトに命ずるなど、情は深い。
娘のレクテューレは昔からデンケンに好意をもっていたが、父親の彼は全く気付いていなかった。
デンケンと知り合って間もない頃のマハトが察した時には「そんなわけないだろう」と笑って流したが、実際に婚約が決まったときにマハトに蒸し返されている。
余談
デンケンや南の勇者同様、最初に抱いたイメージと実情が異なる人物であり、
黄金郷の経歴が明かされた当初は「悪意を持たずに人間を殺せる魔族を従えようとした間抜け貴族」というイメージを抱かれていた。
しかしマハトの記憶から明かされた姿は「魔族の危険性や精神性を深く理解し、その上で魔族と友人になり重用した」という、味わい深い人物となっている。