黒い記述にご注意ください。
※メイン画・記事内の画像はイメージです。
登場人物
うそつきオヤジ
うそつきなオヤジ。子供相手でも平気で嘘をつくは(その際、頭が真っ黒でうそつき顔になる)、盗み食いをするはの噓臭い人物。
うそつきオヤジの娘
うそつきなオヤジの一人娘。時に相手をシバいてしまう元気で逞しい女性。面倒見の良い所もあり、容姿などはうそつきオヤジと似ていないが、あるところはソックリである。
あらすじ
ウチのオヤジは……うそつきだ。
うそつきオヤジの娘は物心ついた時からうそつきなオヤジと二人暮らし。母ちゃんは娘を産んだ後に死んでしまったのだそうだ。母ちゃんが居なくてもオヤジは騒がしい奴だったから、娘は寂しくはない生活を送りそれが普通だと思っていた。
そんな娘の日課は、毎日仏壇の中の母ちゃんに手を合わせ、その日の出来事を報告すること。
娘「母ちゃん。私は今日も・・・。今日“ は ”誰もシバキませんでした…。」
噓っぽい報告を済ませた彼女は、着物姿で微笑む日本美人の遺影を見る。
" うそつきなオヤジがこんな美人な母ちゃんとよく結婚できたよなぁ "
と娘は奇妙に思っていた。そんな嘘か本当かどうかの答えが分かるのは突然だった。それはある日、ちゃぶ台に向かい合わせに座り食事する親子。ご飯を食べながらテレビで時代劇を見ていたら……
生きているはずのない遺影の中の人が元気にお風呂に入っていた。
それを見て食事をする手が止まる娘。驚愕した表情のまま目の前に座るオヤジを見ると…
視線に気づき、真っ黒なうそつき顔のオヤジになった。
また嘘だった事に怒った娘は盛大にちゃぶ台をひっくり返した!
これで判明した事は、彼女のオヤジが独り身なのは彼の浮気が原因だったという事と、遺影の中の人はいつまでも美人だという事だ。
このうそつきオヤジは昔からウソばっかと、娘は昔の出来事を振り返る。
- エレベーターに乗る時は靴を脱ぐものだと教えられ、
- 「お年玉を増やしてやる」と一枚を二枚に増やして騙し取られ(千円札一枚を百円玉二枚と交換して増えたと子ども頃の娘は喜んだ)、
- 当たり前のように偽ブランド【azi-desu】のシャツが我が家のタンスに入れられていて、
- 家に住み着いているのがハムスターではないと知る頃には、娘はすっかり逞しくなった(両掌の平の上に一匹の黒いハムスターを乗せている娘。流石に悪いと思ったのか、真っ黒なうそつき顔で申し訳なさそうな表情になるオヤジ)。
そんな思い出のなかで、特に恥をかいた子どもの頃を思い出す。
学校の授業で「イクラは何の卵でしょう?」
と先生に聞かれ、娘は元気に手を挙げて
『クジラの卵です!』
「・・・」
その嘘みたいな答えに先生は困った顔になり、クラスメートは大笑いし、娘は恥ずかしさに両手で顔を覆った。
その後、また嘘に引っかかって恥をかいた娘は涙目でオヤジのとっても大きな背中をポカポカと叩いた。
恥ずかしい黒歴史を振り返った娘は、大人になって気づくよりはマシかと開き直り……
娘「勿論 言うまでもないが、イクラは……そう、 マグロの卵だ。」
この嘘のような衝撃発言に、またもや真っ黒なうそつき顔になるオヤジ。
そんな感じでうそつきオヤジに娘は毎日振り回されっぱなし。
しかし、そんなオヤジに娘は更に困らせる事になる。
それは娘が寝る前に牛乳を飲もうと台所へ行くと、暗がりで蠢く人影を見つけた。またどうせオヤジが盗み食いでもしているんだろうと思って近づくと…
それは真っ青な顔で苦しむオヤジの姿だった…。
娘は慌てて駆け寄ってオヤジを起こす。
「ちょっと饅頭……食い過ぎただけだぁ…。」
と、大量の汗を掻きながら見栄を張った笑顔を見せるも辛そうな顔で呟いた。そうしてオヤジは救急車で運ばれ、そのまま入院する事となった。
オヤジは病院のベッドの上で点滴に繋がれながらも、いつものように「全然痛くもねぇし、苦しくもねえぞ。」と、大粒の汗を流しながら笑った。
「ほんと……このバカオヤジが…。」
そこで娘はベッドで寝るオヤジを見るのは久しぶりだと気付く。
オヤジの仕事は昼夜問わずで、すれ違いの生活も多かった。それは「誰」のために忙しく働いてくれるのかは分かっていたから、娘は文句を言う事はなかった。彼女が小さい頃はとっても大きく見えたその姿も、ベッドの上で改めて見たら随分と縮んでいる事に今更気づいた。
オヤジの「な~に。娘残して死ぬわけねぇだろ。」と、虚勢を張ったかのような言葉に、今でも変わらず強がるオヤジの姿に涙ぐむ娘。
検査の結果が出て、娘は医者に一人呼ばれた。そこで娘は嘘だと信じたい真実を知らされ、それは嘘ではない事に眼を見開き愕然とした表情となるのだった。
病室に戻って娘は点滴に繋がれベッドで寝る男を見る。その姿はいつもの元気なオヤジと何ら変わらないようだった。
「娘残して死ぬわけねぇだろ。」
彼女のオヤジはやっぱり、大うそつきだった。
なぜなら…
娘は彼の実の子ではなかったのだ。
医者から検査の結果を教えてもらい、娘はオヤジの本当の血液型を知った。オヤジはB型ではなくAB型で、どう頑張ったってO型の娘が産まれるわけはない。
泣いてる娘を見て事情を悟ったオヤジは、全てをゆっくり…優しく……彼女が小さな時に彼が絵本を読み聞かせてくれた時のように語ってくれた。
娘は……“ 捨て子 ”だったのだそうだ。
オヤジが初めて彼女を見つけた場所は、寂れた神社の境内だった。
警察官だった彼は巡回中に偶然、赤子だった彼女を見つけ……うそつきだけど面倒見の良いおまわりは、その捨て子を引き取って、我が子として育てる事を決意したのだという。
そう、オヤジが独り身の理由は浮気のせいでも、母ちゃんが美人の女優さんだったのでもなく、全部が〝 愛娘 〟のためだったのだ。
「ほんとうにおめぇは、昔っから泣き虫だ~なぁ~。」
そう言うオヤジに、「こりゃあ遺伝だよ。」と、泣きながらに言ってやるとオヤジは一度大きく笑い、「素敵な娘を神様から授けてもらって、良い人生だったよ」と自分の嘘がばれても晴れ晴れとした笑顔を最後に……
翌日元気に退院した……。
病院の前では真っ黒なうそつき顔になるオヤジと呆れて首をうなだれる娘の姿があった。
「そんなわけで本当に饅頭を食い過ぎだけだったクソオヤジは今日も我が家で元気にしています。」
と、娘は日課で仏壇の美人な女優さんにその日の出来事を報告した。
そしていつものようにちゃぶ台を挟んで向かい合わせに座って食事をする父娘。
" はあ 本当に全く人騒がせな…。そして、人が好過ぎるのもいい加減にしとけよ…。 "
と、娘は呆れた様子で顔に手を当てながらオヤジを気にかけた。当の本人はガツガツと飯をかっこみ、娘の分まで食べようとしたが彼女に箸で阻止された。
盗み食いが失敗して落ち込むオヤジ。娘はしゅんとしている彼を見る。それは半眼で" 騙されねぇよ "というような呆れるような表情で…
" 自分が居ようが居まいがこんなオヤジがモテるわけねぇんだ。 "
と冷静にそんな嘘偽りのない事に参りつつ……
" あぁいいさ。一生面倒見てやんよ "
と、これからもこの困った父親と暮らす事を、オヤジの真っ黒で強かなウソに騙され続ける事を決めたのだった。
ウチのオヤジはAB型で、警察官で、大洞ふきの…
うそつきオヤジだ。
「あ~あ。本当に全く…〝 大っ嫌い 〟だぜ。」
余談
本作では、ウソは意地悪で傷つける事もあったが、傷つけないように意地を張った偽りのない愛が隠されているものがあった。
そんな真実(ホント)を、不真実(ウソ)をテーマに伝えていると解釈出来る。