パンジャンドラム
いぎりすばんたいくうたけやり
概要
ノルマンディー上陸作戦においてコンクリート製の防護壁を爆破するために発案された。
火薬の入った円筒の両側に直径3mほどの車輪がつく。その車輪には推進力としてロケットがついている。
ロケットを点火すると車輪が回転して上陸用舟艇から発進。砂浜を転がって防護壁まで移動して爆破する予定だった。
現実
見た目でわかる通り大失敗。いわゆる「勝った側の駄っ作兵器」。
砂浜で空回りする、どこへ転がるか予測不能、などのトラブルが相継ぎ、9回の実験の後に開発は中止された。
もし前線に投入したとしても敵を盛大に笑わせるのが関の山だったと思われる。
(心理戦的にはある意味効果大かも知れないが)
評価
もういったいどこをどうしたらこういう発想ができるのかというシロモノ。
これに比べたらドイツやアメリカのキテレツボツ兵器ほうがまだ可愛いもの。
無論、よく言えば堅実、悪く言えば独創性にかける日本人が発想しえなかったことは言うまでもない。
(竹製パンツァーファウストとでも言うべき対空竹やりが唯一肩を並べる事例か)
補記
実は「自走式移動機雷」という発想そのものはそうキテレツではなかった。
そういう意味では自走式爆雷がいくつかの国で開発、計画がされている。
(ドイツのゴリアテ、フランスのspécial Kやクロコダイル(spécial Kはドイツに接収され、ゴリアテの原型となった)、アメリカのローリングボムが有名で、日本にもタイヤ爆弾がある)
問題は当時の技術力が全く追いついてなかった事、では決してない。
そもそもロケットで本体を回転させて前進させること自体に無理があるのである。
ロケットエンジンは基本点に直進しようとするのだから、単に中央部に固定して推進器とする方式ではなぜダメだったのかというのが最大の問題である。
ただし回転力としてロケットを使う事自体は完全な間違いではなく、遠隔操作により瞬間的に大きなトルクを得られることから現代においては不発弾の固着した信管の除去に『ロケットレンチ』という道具が使われている。
数回失敗した時点でなぜ気が付かないのか、という気がしないでもないが、そこはまあ英国だから仕方ない。
ちなみに、キャタピラで走る自走爆雷ビートルがヴィッカース社により1939年から42年の間研究されているが、キャンセルされている。
ゴリアテ同様に胴体左右にキャタピラを持つ構造で、プロトタイプの一台は水陸両用となっていた。
なぜ電気モーターで駆動する構造のこちらがキャンセルされ、パンジャンドラムのほうが採用されたかは謎である。
ネビル・シュート
航空エンジニア兼小説家のネビル・シュートが開発に参加しており、サミュエルフットの「The Great Panjandrum(偉大なパンジャンドラム=「お偉方」)」という詩からの引用で命名している。
パンジャンドラムに操作の為のワイヤーが追加された際にはシュートが操作を行っている。
余談ながらネビル・シュート財団のサイトにもパンジャンドラムの記事が存在している。
なお、ネビル・シュートはパンジャンドラム以外に火炎放射装甲車コカトリス、対空火炎放射器といった兵器の開発にも参加している。
ちなみにパンジャンドラムのアイデアはシュートの同僚が出したそうだが、その同僚の名は不明。(同類のバーンズ・ウォリスの可能性は高いが、不明である)
創作物における扱い
戦場ジョークを元に各国の様子を描いた漫画『Axis Powersヘタリア』の中でイギリスがパンジャンドラムを作ろうとして怪我をする場面がある。