私が求めているのは「軍馬」なのだ！
Ta152でも触れたが、これは設計したクルト・タンク博士のモットーである。
ヒトラーの再軍備宣言以来、ドイツは軍備拡大を続けていた。しかし主力戦闘機であるMe109は操縦が難しく、また生産でも複雑な液冷式エンジンの供給には不安があった。
これに危機感をもった空軍は1938年、フォッケウルフ社に補助戦闘機の開発を命じる。フォッケウルフ社では、設計主任クルト・タンクを筆頭に僅か11人のメンバーで開発を進める事になった。
開発コンセプトは
『私の戦闘機は速いだけが取り柄のサラブレットではなく、体の丈夫な騎兵の馬であるべきだ！』
である。かくして空戦で強いだけでなく、操縦も容易で修理も簡単、さらには生産もし易いという
兵器としても理想的な戦闘機が生まれるのである。
これは当時のフォッケウルフ社がまだまだ小規模な企業で、生産では「多くの協力企業が、等しく部品を作れなくてはいけない」という事情もあった。この事は部品の製作が簡単ということにもなり、空襲下でも稼働を継続させる一助となった。
『ドーバー海峡に敵軍の高性能機あらわる！』
上記のように「補助戦闘機」とされたので、空軍上層部での地位は高くなかった。あくまでもMe109が主力とされていたからである。しかし、現場での評判はすこぶる良かったという。
生産や整備といった裏方だけでなく、何よりも高性能だったのでパイロット達にも好評だった。この秘密はロールレートを重視した事で、切り替えしを多用する格闘戦で強さを発揮した。Bf109より視界は広くとられており、もちろんエンジンの大馬力（1941年の時点で既に1500馬力を発揮）を生かした垂直面の空戦機動も大得意で、急降下からの一撃離脱では無類の強さを誇った。
初陣は1941年の「バトル・オブ・ブリテン」で、イギリス空軍(RAF)の高性能機スピットファイアをも圧倒する性能をみせた。スピットファイアに搭乗する者の多くは「ドイツの戦闘機は格闘戦で倒す」というセオリーに則っており、それ故に欧州機の中でも指折りの格闘戦能力を以てスピットファイアを存分に圧倒できたのである。これは新型スピットファイア（改良モデル）が登場するまで続き、ましてやハリケーンなど旧式機には恐怖の日々が続いた。
軍馬、戦場を渡り歩く
のちにバルバロッサ作戦が発動し、戦場はロシアの大地へと移っていった。
Fw190はここでも活躍し、基本的な戦闘機型であるA型をベースに、攻撃機型のF型や長距離攻撃型のG型も生み出された。胴体下の増漕架を爆弾架に交換し、さらにF型は主翼外側に30㎜機銃やロケット弾発射器を増設し、G型ではここに増漕架を移植して航続性能を強化している。
F型やG型は出撃時にBf109で構成された護衛部隊が同伴していたが、空戦能力がそこまで低下していないせいか、あまりにも敵迎撃機を軽々と落とすため護衛部隊の士気に悪影響を及ぼしたという。
（さすがに火力はJu87Gの方が上だが、それ以外の性能ならFw190が上）
軍馬から豚へ、されどその豚は豚に非ず
上記のように優れた“兵器”だったFw190Aだが、ひとつだけ重大な欠点があった。
それは空冷故にBrmo801エンジンの高々度性能が悪いということだった。そこで2つのFw190の改修計画が出される。
FW190D
ひとつは『すぐできるエンジン交換計画』で、Fw190A-9を基に、エンジンを高高度対応のJumo213液冷エンジン（1750馬力）に換装したFw190D-9が生み出された。これで今までなら高度7000m以上で低下する性能を補う事が出来た。
しかし本来なら空冷エンジン対応の胴体に（前面投影面積が細くできるということが利点の）液冷エンジンを搭載したことから、えらい不恰好になってしまい、「太っちょ」「デブ」呼ばわりされる結果になった。ちなみにこの「デブ」とは、モルヒネ中毒で肥満体形のヘルマン・ゲーリング空軍相を皮肉ったものでもある。
軽量化のため主翼外側の20㎜機銃は撤去されているが、高高度性能は期待した通り向上し、今度は高高度すら助けにならなくなった連合軍爆撃機には疫病神のごとく恐れられることになった。改良されたとはいえBf109の武装は20㎜機銃1門・13㎜機銃2門どまりだったのに対し、D-9は20㎜機銃も13㎜機銃も2門である。単純に考えても弾幕は3割増しとなり、また相手を選ばない空戦性能は戦闘機すら油断ならないものとなった。
ちなみに現在の日本でもFw190D-9というと「ああ、デブ戦のDね」と言われることがある。一応、「ドーラ」というちゃんとした愛称もあったのだが（形状に因んで長鼻ドーラとも）。
Ta152H
もちろん、ドイツ空軍上層部もタンク博士もこれで満足したわけではなく、本格的なFw190のモデファイ、『クルト博士の本気』が続いて計画されていた。これが後にTa152となるのである。武装は機首の13mm機銃2門に代わって30㎜機銃をモーターカノン方式で搭載し、主翼付け根の20㎜機銃はそのまま残している。
しかし、高々度用の過給機（スーパーチャージャー）が万全ではなかったため、高々度性能は計画ほど高くはならなかった。結果、低い稼働率ともども高高度戦闘には不向きとされ、活躍はJV44が出撃する際の援護に使われるくらいに留まった。
ふたつの改良型の行く末
2種類とも登場は遅く、空がすでに連合軍のものになりつつあった頃、ようやく戦線にお目見えした。質の落ちる部品や燃料の不足からくる、低い稼働率に悩まされながらの戦いではあったが、それでもBf109を上回る性能と火力を誇り、ドイツ上空に来襲する連合軍爆撃機にとっては終戦の日まで恐怖の的であり続けた。
二つの改良型の内、D-9はデブくても素早いデブであり、目についた敵に牙を向けて高速で追い詰める鉄の猪だったのである。
余談
日本編
大日本帝国陸軍にFw190{Fw190A-5}が1943年一機有償供与されたが、国産機との比較のための試験機としての輸入であった。日本到着後、陸軍航空総監部で技術的分析および飛行試験を行った。なおドイツから日本への輸送手段は潜水艦を利用した。
五式戦闘機の開発に一役買い(エンジン排気の空力処理で)、操縦性や加速性能も良好だったのでそれ自身は格闘戦至上主義の日本でも好意的な評価を受けたのだが、やはり運動性に関しては難ありとみなされ、カタログスペック通りの速度が出なかったこともあって「これではP51には勝てない」と評されるなど最終評価はあまり高くなかったようである。しかし日本陸軍はその後は“高速でも突っ込める機体”を開発していくようになり(相変わらず他国の艦上機並みの低翼面荷重であったが)、最終的にTa152Hと並び称される四式戦闘機に帰結する。
アメリカ編
アメリカ陸軍航空軍（後のアメリカ空軍）戦闘機P-47と酷似してる。
「どこが？」と思われがちだが、機体の下面だけ（＝影）を見ると、実は意外なほど「細さ」が似ているのだ。そのため、P-47は味方防空網からのフレンドリーファイア被害がバカにならなかったという。
イギリス編
イギリス空軍の使用するホーカータイフーンもまた、飛行中だと地上からFw190と誤認・誤射されやすかったため、後に一般的になっていくインベイジョン・ストライプが認識に用いられるようになった。
本国編
こう言った敵側の事情を多分に意識したのか、D-9の第44戦闘団（Me262の離着陸時用護衛部隊。ドイツ語表記ではJv44）仕様機はフレンドリーファイア対策として、機体下面を真っ赤に染め上げて白いストライブを走らせた、極めて目立つツートンカラーに仕上げている。
自殺行為ともとれる配色（ド派手＝的）であるが、基本的に敵地侵攻は第44戦闘団の任務には含まれないため、サーカスでもあまりしないようなカラーリングでも別段問題は無かったのだ。
結果、後世（現在）のミリオタの中から第44戦闘団仕様機を「赤腹D-9」と呼ぶ者が出てきたのは言うまでもない。
その他
ストライクウィッチーズのキャラであるゲルトルート・バルクホルン、ウルスラ・ハルトマンのストライカーユニット、フラックウルフ Fw190の元ネタでもある。
