「ぼくらは闇の力になんて負けない」
概要
児童文庫・ポプラポケット文庫の作品『らくだい魔女』の登場人物。
物語開始時点で既にこの世を去っており、作中には例外を除き会話内や回想シーンにて登場。
のはずだが、彼の功績や存在は後世に伝えられておらず、表面上ではメガイラを封印したのは、
フウカの母親・レイア、チトセの父親・ロイド、カリンの母親・カレン
の三人ということになっている。
それどころか、彼の存在は魔法の国にて超極秘情報とされており、
銀の城の女王など、ごく一部の者にしか知られていない。
レイアの夫であり、フウカの父親にあたる。
人物像
金色の髪と金色の瞳を持っており、これは娘のフウカに遺伝している。
一人称はボク/ぼく。「~だよ」「~かな?」など、おっとりした口調で話す。
また、作中ではマイペースな面が目立つが、娘の初デートの日を
「父親としてぜったいにじゃましなければならない、最初の難関」
と言うなど、少々お茶目な面もある。
幼少期にマンホールに落ちそうになったところを助けたことから、
彼は、巷で一番人気のモデルであるノノ・リリーの初恋の相手となっている。
また 黒の城の王リシャール曰く、フウカ同様運が強いらしい。
魔法について
娘のフウカが受け継いでいることから、彼は火の使い手であったと思われる。
また、一般人が両親の力を二つ受け継ぐことはあるが、
「風の力をあやつる銀の城の者が、他の属性の力も同時に扱えるのはすごいこと」
であるため、カリンからは、
彼は銀の女王に負けないくらい、すごい力を持った火の使い手だったはずだ
と評価されている。
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以下ネタバレ注意。
正体
世界を一瞬にして薙ぎ払い、火の海に変えるというほどの力を持つ火炎の竜。
その力を操ることができる唯一の存在であることから、金色の髪を持った「火の民」は
「魔界の王」及び「大いなる闇の一族」と呼ばれていた。
そのため 金色の髪は、
魔法の国では「呪われた金色の髪」と忌み嫌われているのに対し、
魔界では王の象徴であることから、「英雄の証」とされている。
しかし そんな火の民も、疾うの昔に滅亡した。
…はずだったのだが、あるとき金色の髪をした火の使い手が現れたという噂が流れる。
その火の使い手こそがアベル其の人である。
らくだい魔女と闇の宮殿
魔界で最強の力を誇り、その名を馳せた盗賊団・「グリゴリー一家」
彼女達は 魔界では、弱きを助け強きを挫く英雄と呼ばれていた。
そんなある日、グリゴリー一家の女頭であるシイナは
とてつもない力を持ち、願いをかなえるというイデアの杖の存在を知る。
そこで彼女は、仲間と共に杖が封印されている闇宮殿へと向かうものの、
イデアの杖の力により最後の一人となってしまい、宮殿から逃げようとした。
その時「汝の望みはなにか」と杖の声が聞こえる。
杖には願いをかなえる力があることを思い出した彼女は杖に、仲間を蘇らせてもらうことを願う。
しかし イデアの杖は、願いの代償として自分の命を渡さなければならず
力を望んでも力をつかうたびに同等の命が削られ、
たとえ力を使わなくとも、持っているだけで力が消耗していくという諸刃の剣であったのだ。
杖から逃げようにも逃げられず途方に暮れ、ただ泣きじゃくるシイナ。
そんな彼女の前に、突如アベルが現れ「もう、だいじょうぶだ」と
彼女の代わりに杖を手に取った。
斯くして彼のお陰で彼女は杖から解放されたのだが
それ以降、彼の方の消息は絶たれている。
ちなみに シイナは上記の出来事以前からアベルに何度も喧嘩を売りに行っており、
以前から二人は知り合いであったらしい。
また、アベルはいつも喧嘩からは逃げるばかりであったそうだ。
らくだい魔女のデート大作戦
レイアの成人記念の日、風船配りのアルバイトをしていた青年は、
次元の歪に落ちそうになった少女を助けたものの、代わりに自らの
だいじなもの・包装紙に包まれた宝石箱と思しきものを歪に落としてしまう。
その箱が、フウカ達の生きる現代に漂着したことから、彼女は箱を落とし主に返すために、
無事に過去へ辿りついた彼女たちは、落とし主が『月光座』の閉館公演チケットを購入した
という情報を頼りに、月光座へ向かう。
その途中フウカは、落とし主が助けたと思われる少女に出会い、落とし主が
「フウカと同じ髪の色をしていた」「目の色もよく似ている」と教えられ、
彼女はあることを悟る。
「……このプレゼントのおとしぬしってパパかもしれない」
逸る気持ちを抑えきれずに月光座へ走り出すフウカ。
しかし、近親者との接触は過去と今、そして未来を変えかねない。
そのため、チトセは厭う彼女を月光座通りに残し、一人でプレゼントを届けに行こうとする。
「……今じゃないと、もうあえないんだよ。あたしのパパ、死んじゃったんだから」
泥だらけの水たまりに彼女の顔が映り、涙の雫で水面が滲む。
そのときだった。
キ――――・・・・・・・・・・・・ン
足元からセピア色の世界が広がり、建物も地面もみるみるうちに色を失い、時が止まる。
突然の出来事にフウカが振り返ろうとした瞬間
「うごかないで」
へたり込む彼女に影が落ち、水たまりにその姿が揺らいで映る。
青年の髪は、電灯の下。金色に光って見えた。
フウカの後ろにしゃがみ込んだアベルは、彼女の解けたリボンを直すためにそっと髪に触れ、
ゆっくりと振り返ろうとする彼女を
「ふりかえってはだめだよ。それが約束だから」と制止する。
その後、取り留めの無い会話を交わしながら、アベルは
落とした箱がオルゴールであり、レイアの誕生日プレゼントに買ったこと。
チトセの祖父である勇者グラウディと、ある約束をする代わりに
一つ願いを叶えてもらえることになったこと。
その願いが、「レイアと自分に子供が生まれるなら、その子に一目でいいから会いたい」
であること。
月光座で映画を見た後にレイアにプロポーズする予定であること。
グラウディからいつの時代の娘に会いたいのかを尋ねられた際に
「むすめなら初デートの日」と答えたこと を話す。
そして、デートであることを否定するフウカに
「ボクはずっと見てたけど、りっぱなデートに見えたよ。
きみをこんなに思ってくれる子はいないってね。彼は最高の王子さまだってさ」
と言い、チトセの肩に手をのせ
「いつもフウカのそばにいてくれてありがとう。これからもなかよくしてね。
ボクのかわりに、――――」
と伝える。
かわりにということは彼はフウカのそばからいなくなる ことを知っているということ。
そのことに気づいた彼女の頭に手を触れ、彼は再び口を開く。
「きみたちがすわった月光座のあの席。あそこはボクらの思い出の席なんだ」
フウカ達がタイムトラベルする前に訪れた月光座、そして座った席
それと同じ席に彼とレイアは最初のデートで座り、今から最後のデートに座る。
そう言い終えると彼は「うれしいな。未来はこうやってつながっていくんだから」
と、フウカの頭を何度も優しく撫でた。
一度でいいから、ふりかえってギュッとだきついてしまいたくなるフウカ。
しかし…
無情にも辺りはざわめきを取り戻し始め、セピア色の景色が静かに色を取り戻していく。
「もう時間だね」
そう言い離れていくアベルをフウカは必死に引き留める。
「うれしいけど、パパはこれからママにプロポーズしなくちゃいけないから。またね」
おどけたように言いつつも、彼は「またね」がないことを知っている。
「うそつき……!」
こんなことがいいたいんじゃない。
もっと一緒にいたい、いてほしかったと思うから、わがままな言葉が出てしまう。
「……ごめんね」
そんな彼女を後ろからギュッと抱きしめながら彼は言う。
「でも、ボクはウソはつかないよ。
たとえまわりの人がみんなボクを悪者だっていっても、フウカだけは信じていて。
そしてらきっとまたあえる。
フウカが信じてくれることがボクのいちばんの勇気になるから」
アベルの温もりを背中に感じながら、フウカの涙があふれた。
頬をつたう涙の雫が水たまりにはじけた瞬間、
パァ――――・・・・・・ッ
と目の前に青白い光があふれる。
「ボクたちのむすめに生まれてきてくれて、ありがとう。フウカ」
「パパ………」
初めて呼んだ「パパ」という名前。
そのとき、アベルは嬉しそうに笑った気がした。
余談
らくだい魔女のデート大作戦にて彼がフウカの髪に触れた際、彼女は
「この声も、この手も、このにおいも、なぜかとってもなつかしく感じる――――。」
と言っているのだが、他の巻にて