優れた輸送性能と航続距離。世界初の遠隔視認装置を採用した空中給油機能を持つ、マルチプレーヤーです。
空中給油機の危機
冷戦がアメリカ率いる自由主義連合の勝利で終わり、際限ない軍備拡張にも一区切りがついたころ。KC-135ことボーイング707にも、ボーイング747やボーイング767といった優秀な後輩が登場しており、ボーイング社ではこれらに役割を受け継いで、生産を打ち切ろうとしていた。
一方アメリカ空軍でも、KC-135Aは既に旧式化したと考えていて、KC-10導入を進める一方、旧世代のJ57をCFM56系統のターボファンエンジンに換装して近代化を進めた。何せベトナム戦争時代に製造されて以来の「古道具」なのである。しかし、累積飛行時間は増え続けていずれ限界を迎えてしまうことは明らかであり、また頼みのKC-10もマグドネル・ダグラスがボーイングに吸収された後は再生産されない事になってしまい、完全な入れ替えが終わらないまま調達は終了してしまう。
『グローバルパワー、グローバルリーチ』
これは1990年にたてられたスローガンで、巨大な空軍を世界中に配置するよりも、より実戦向きで精強、適度な規模で世界規模の派遣にも堪える空軍部隊を目指していくという意気込みである。しかし、このままではKC-135が退役した後、少数のKC-10でだけしか空軍の戦闘能力は支えられない。大多数のKC-135の任務を、少数のKC-10で引き継げるものだろうか?
いや、間違いなく否だろう。
そこで1996年、折からの軍縮に予算を圧迫されていながらも、空軍は次期空中給油機の選定を始めることになった。「KC-X計画」である。というのも、アメリカ会計検査院が『このままKC-135を運用し続けて21世紀に入った場合、整備・検査にかかる費用が激増するだろう』と予測したのである。空軍としても、このまま使い続けて事故を起こすのも具合が悪い。
というわけで、国内メーカーに募集を募ったところ、KC-767(ボーイング)とKC-30T(A330MRTTのアメリカ生産機:ノースロップ・グラマン&エアバス)の2案がもたらされた。この選定の勝者は空中給油機だけでなく、電子偵察機やレーダー管制機などの更新にも有利だろう。その分も見込めば、近年まれにみる大商談だった。