概要
ロッキード社初のジェット旅客機として開発された。愛称はトライスター。当時ロッキードは旅客機の生産ではボーイングやダグラスに大きく遅れており、トライスターの開発は起死回生を狙ったものだった。
特徴
ライバルのDC-10と同じように、主翼と胴体後部に合計3発のエンジンを搭載している。DC-10との最大の違いは胴体後部・第2エンジンの取り付け方式であり、DC-10が垂直尾翼を串刺しにしたようにエンジンが取り付けられているのに対し、トライスターではエンジンの吸気口を尾翼前方に配置し、途中でダクトをS字型にして胴体後部のエンジンにつなげている。見た目的には、DC-10は勇ましい感じで、トライスターは優雅なイメージである。
操縦システムでは、旅客機として初めて、離陸以外の操縦を完全に自動化するシステムを搭載していた。他にも、水平尾翼全体が傾く機能を付けたりと、当時としては先進的な技術をふんだんに取り入れていた。
販売不振
ハイテク機能てんこ盛りなトライスターだが、販売面では絶不調だった。搭載するエンジンの開発が遅れたほか、客室の手荷物入れが中央席の上部にはないという悪い評判も目立った。極めつけは、発展型の開発が困難だったことである。通常、旅客機は基本型を完成させたのち、航空会社の注文を予期して胴体延長型や長距離型を開発するのがセオリーだが、トライスターでは長距離型を開発するには胴体を短くするしかないという制限があった。このため、販売数は伸びなかったのである。そして・・・
ロッキード事件
トライスターはよく知らなくても、この事件は知っているひとも多いだろう。ロッキード社が全日空にトライスターを売り込むために政界をも巻き込んだ贈収賄事件を起こしたのである。結果的に関わったものは有罪判決が下されたが、全日空はトライスターを導入した。この事件のせいでトライスターの印象には影が付きまとうことになったが、全日空初のワイドボディ機として、華々しく活躍し、1974年の導入から1995年に退役するまで、1機たりとも事故を起こさなかった。全日空で導入から退役まで全機が事故を起こさなかったのはトライスターが初である。
しかし、もしもロッキード事件が無かったら……
これは後に痛烈な皮肉になるのだが、もしもロッキード事件がなければ、DC-10による大惨事が日本で起きていたかもしれない。その理由は、トルコ航空981便墜落事故である。この981便として使用されていたDC-10は、もしロッキード事件が無かった場合、全日空が購入していたはずの機体だからである。
販売では負けたけど・・・
ロッキード社の販売網が弱かったためにDC-10との競争に負けたのだが、機体の性能ではDC-10を上回っているとする見方も強い。DC-10が構造的な欠陥を原因とする事故が多かったのに対し、トライスターではそのような事故はほとんどなく、起こした事故のほとんどが悪天候や操縦ミスによるものだった。このように、優れた性能を持ちながら販売面で失敗したために、早すぎたハイテク機といわれている。