概要
彼の存在が最初に報告されたのは、2006年のアメリカ、ニューヨーク。ある精神科を訪れた女性が、「奇妙な男が夢の中に頻繁に現れる」と精神科医に相談した。あまりによく出てくるためにその男の顔を記憶してしまったその女性は、医師と共にモンタージュを作り、完成したのがメイン画像の顔である。
異様に太く間隔が短い眉毛と、横に裂けたような唇。他にも団子っ鼻、たれ目、薄い頭髪などの特徴を持った、丸顔の中年男。どことなくいびつで不気味な印象を与えるこの人物が、女性の夢の中に幾度となく出没するというのだ。
それからしばらく後、同じ精神科を別の男性がカウンセリングに訪れた。聞けば、彼も夢の中で何度も同じ男と出会うのに悩まされているとのこと。精神科医が試しにモンタージュを作成したところ、何と、その男の顔は以前の女性の夢に現れたという男のそれに瓜二つであった。その後も似たようなことを訴える人々が病院を訪れたが、彼らは一様にモンタージュの顔を指して「夢で会ったのはこの男」と口を揃えた。
不審に思った精神科医は、インターネット・サイトを通じて、「EVER DREAM THIS MAN ?(この男に夢の中で出会ったことはありますか)」との文句とともにモンタージュを公開した。その結果、驚くべきことに、「彼に会ったことがある」とのメッセージが、実に2千件以上も返信されてきたのである。それもアメリカのみならず、イギリスや中国、さらには日本など、国や地域を問わず文字通り世界中の人々が彼と遭遇していたのだ。
さらに、この男が夢の中で具体的に何をするのかについても調査の対象となったが、その内容については千差万別であった。「襲われた」といった恐ろしいものや、「特に何もされなかった」といった平凡なもの、「世間話をした」「食事をした」などの日常的なものや、中には「恋に落ちた」といった変わり種もあり、結局、男の正体や目的は「不明」というのが、現時点での結論である。
この謎の男の存在は世界中で話題になり、いつしか” ”This Man””と名付けられ、 都市伝説として広く知られるようになった。
正体に関する仮説と考察
「“This Man”は何者なのか」。この大きな謎はエピソードの奇怪さの為もあってか、多くの人々の興味を引きつけた。ネットを通じて世界中で議論され、結果、様々な仮説が生まれた。
その中でも最も有名な説の一つによれば、彼の正体は「アメリカ軍が人々の夢を操作する実験を行う最中に作り出した存在」である。
いわく、軍内部には「超能力部隊」なる秘密の部署が存在し、特殊な電気信号を介して人間の脳を操り、記憶や感情などをコントロールする研究を進めている。その一環として人々の夢の中に、いわば「試験放送」のような形で出現させたのが、“This Man”だというのだ。
しかしながら、これはあくまで荒唐無稽な都市伝説の一つであり、当然、この説を立証する証拠なんてものは存在しない。
さらに最近では、この「 “This Man”に関するエピソードそのものが作り話」であるという説まで登場した。
実は、“This Man”の存在を世界に紹介した件のニューヨークの精神科医などは存在せず、実際にインターネット・サイトを作ったのはイタリアの社会学者「アンドレア・ナタレ」であり、広告やマーケティングに関する研究を行っている人物とのこと。
つまり、 “This Man”を巡る一連の世界的な騒動そのものが、彼の社会学実験の研究対象であり、成果だったというのが、この説の結論である。
果たしてどの説が正しいのか。“This Man”は本当に存在するのか、その目的は何なのか。真実は「藪の中」、もとい「夢の中」である。
関連タグ
世にも奇妙な物語2017春:題材にしたドラマが放送された(本人の声は玄田哲章が担当)
魔法少女サイト:不幸な少女に魔法のステッキを送る謎のwebサイト「魔法少女サイト」の運営者であるサイト管理人のモチーフになったとされる。