あらすじ
銃砲刀剣類不法所持、火薬類取締法違反で逮捕された漫画家ハナワ。拘置所から刑務所の雑居房までの実体験、そして個性溢れる囚人達との交流と刑務所内の生活が描かれる。大の大人が小学生のようなふざけ合いをしていたり、しょうもない事で話が盛り上がっていたらいたで時に看守に怒られてしょげたり、刑務所の食事に感動と不思議な世界があった…。
解説
1994年に銃砲刀剣類不法所持、火薬取締法違反で収監されていた花輪和一が自身が付けていた日記・メモ・記憶力(と、多少の取材)で克明に拘置所・刑務所の服役生活を描いたエッセイ風漫画作品(一応フィクション)であるのだが、これまで存在した獄中漫画のように極端なバイオレンスな事もサスペンスもない、ハナワ視点でどこか牧歌的な描写で描かれている。むしろ、花輪作品の中でも異質だとも言われている(花輪和一の作風は彼の項目を参照)。ハナワが主役ではない別の受刑者の話もある。
こういった作風の為か花輪作品を知る人にとっては意外なものとなっている。
山崎努主演で実写映画化もされている。
基本的には彼視点で語られる為、ハナワのモノローグも交えており食事の描写では特に「パン食での小倉とマーガリンにフルーツカクテル(フルーツサラダ)」では大袈裟じゃないのかってくらいの感動描写があったりする。例えるならばこれに近いか?
講談社漫画文庫版は青林工藝舎版をベースに描き下ろしが追加されている。
刑務所の前
刑務所の中の評判により、小学館から刑務所収監前の逮捕から拘置所に至るまでの1994年頃のハナワを描いた作品・・・なのだが、何故か並行して氏の得意とする伝奇ものが同時進行する筋立てになっている。
しかし、どちらも「銃の逸話」「人間の業」「因果応報」がテーマになっている。
ガンマニアであった花輪氏による逮捕のきっかけとなった、錆によるガラクタと化していた「コルト・ガバメント」のレストア過程や不法所持の経験を赤裸々に描いている。
なお、ハナワが何故か花子というロリキャラになる展開もあったりする・・・先生なにやってんすか。
今作では留置所・拘置所を明確に描いている。
刑務所の前あらすじ
1994年頃、漫画家・ハナワは自身の作品「天水」を執筆するマイナー漫画家でありながらも、若い頃からのモデルガンコレクターかつサバゲーマーのガンマニアの顔も持っていた。趣味が高じて改造銃にも手を出し、果ては錆びて壊れたコルト・ガバメントを少しずつ修理していったが、これが後に獄中記「刑務所の中」を手掛けるきっかけとなる投獄に向かうとはまだ本人も思ってはいなかった…。
刑務所の中2ndもっと願いま~す
2018年4月28日にはWebコミックサイト・コミクリ!において18年ぶりの新作「刑務所の中2nd もっと願いま~す」の連載がスタートした。こちらでも北海道の刑務所を舞台にしており、前作では工場作業だったのに対して、農畜産の刑務作業の光景を描いている。2ndではハナワではなく、刑務所内の工場から離れた刑務所農場に異動になった服役囚・松谷の視点で描かれている。
2ndあらすじ
北海道某刑務所に服役する三五七番・松谷はある日「農場作業をやってみないか」と工場担当官から聞かれ、自ら希望を述べた。数日後に刑務所から離れた農場に本当に異動となり刑務所の農場生活を送る事となった…。
登場人物
エピソード「五匹の生活」「免業日」からわかる名前より。
- 128番・小屋:どこか純朴な顔つきの受刑者。早食い。
- 222番・ハナワ(花輪):作者(がモデル)
- 134番・笠山:博識であるが、シャバに娘がいる。彼をクローズアップした「おぼっちゃま受刑者」の回では何故か名前が伊笠になっている。綺麗好きで整理整頓派。
- 124番・田辺:2級受刑者であるらしく免業日の集会で映画鑑賞ができた。
- 62番・竹伏:話の中での描写ではシャバで覚せい剤をやっていた様子。
刑務所の前の登場人物
- ハナワ:刑務所に収監される前の彼。ガンマニアが高じて実銃をレストアしていくが…
- 花子:ハナワが何故か突然ロリ化したキャラクター。どうしてこうなった
- 鉄砲鍛冶の娘:話として同時進行する時代劇側の主人公の女の子。名前は明かされていない。刑務所の中でも二回登場した事がある。
- うめ:商家の娘であるが、狐憑きとされおばば様の下で修行をする若い娘。修行の中で見たものや霊験で人間として成長をしていく。
- おばば様:祈祷師の老女。人間の業や心のトゲをどう向き合うかをうめに説いたり、道を示す。
2ndもっと願いま~すでの登場人物
- 三五七番・松谷:今作(2nd)の主人公。北海道某刑務所に収監されている服役囚。ある日刑務作業に従事していた「二工場(第二工場)」の担当官から「農作業に興味はないか」と問われ希望したところ、某刑務所の農場へ移送され刑務所の農場生活が始まった。
- 上田治受刑者:第一話で「釈教編入(※)」で農場から離れる事となった服役囚。
※…釈教編入とは釈放に向けた教育課程を受ける事であり、出所すなわちシャバがいよいよ近くなった事となる。
印象的なセリフ
- 願います! : 刑務作業において監督官に許可をいちいち得なければいけない時。例え机の下に鉛筆を落としても勝手に取ってはいけないのである。ハナワは懲役が終わり社会復帰した時に、つい癖で言ってしまうのではないかと内心思っている。
- ビューだよ! : 服役していた刑務所が札幌刑務所と函館少年刑務所だった為に北海道の方言で「すごい」の意味。(例:「あ!今日の春雨スープ、具が沢山入ってる!」「ビューだよ!(すごいよ!)」)
- アウトですう : 雑居房で同居する受刑者がふざけあってしまい、刑務官からテレビ視聴を1ヶ月禁止を申し付けられた際に用便中のトイレからハナワがそれを見てつぶやいたセリフ。
余談
この様に獄中エッセイ作品でありながら牧歌的ではあるのだが、花輪氏は「二度と行きたくない」とコメントしている。そりゃそうだ。
ちなみに花輪氏は懲役満了の出所ではなく、仮釈放だった為そのまま現在に至る。
刑務所の中では何の脈略もなく謎の女の子が何故か一コマだけ混じる事がある。これに関しては特に説明もないのだが、続編「刑務所の前」でもう一人の主人公として登場している。
2ndの舞台である農場では塀のない施設になっているらしいが、農場では監視から隠れた時点で脱獄と看做される為に決して解放感があるわけではない。こういった刑務施設はもっぱら模範囚が送られやすい。