解説
犯罪を犯した者を収監するための設備。国営・公営が基本だが、アメリカ合衆国などでは私営刑務所が多く、運営会社が儲けを上げるために受刑者の待遇は劣悪なものになっているという。日本でも民営の刑務所が近年作られ始めている。
なお、刑務所への収監は必ず拘置所を経て法手続きを踏んだ上で行われる。つまり実刑判決が下されて初めて送られるのである。
懲罰施設として利用する国(歴史上の国家も含む)と、更生施設として位置付けている国とがある。現代日本は後者で、受刑者は規則正しい生活を送らされ、「刑務作業」という労働により社会復帰を目指す。また自由刑の執行施設としての面もある。
間違っても福祉施設ではない...はずなのだが、日本では高齢化社会の進展により刑務作業に耐えない高齢者が多数収容されるようになり、受刑者が認知症受刑者の介護に追われる事態になっている。また、生活基盤が脆弱な人々にとっては生活保護を受けられない限り自立が強いられる実社会は過酷であり、かつ刑務所での暮らしが長引くほど社会との隔離が進み、社会復帰できる見込みも低くなってしまう。1日3食と寝床が保証されている刑務所暮らしをするために犯罪(再犯)を犯すものもいるという。実際、ブラック企業と比べるとどっちが酷いかなんて事もあるが…。本来なら刑務所を出所後はもう懲り懲りだと心を入れ替えて社会復帰するのだが高齢者だと無理ゲーに近いくらい困難で施設にいるならまだしもそれすら拒む者もいてそのままムショ(隠語)で他界して無縁仏になるパターンが多い。
日本の刑務所の食事は麦飯が主食。エネルギーや栄養のバランスが整っていて健康には良いらしい。自身の服役経験をエッセイ的に描いた花輪和一の「刑務所の中」ではどういったものを食べたか克明に記しており、刑務所では滅多に食べられない甘いものが出てくる日が受刑生活の楽しみであったと記されている。
そうした生活であるためか、出所した元囚人はしばらくの間ハンバーグやかつ丼といった濃い味付けの料理を受け付けない体質になってしまう。
よく刑務所に入る事について「臭い飯を食う」と表現されるが、この臭い飯の語源には諸説あり「独房にあるトイレからの臭気がある中で飯を食うから」とか「麦飯特有の匂い」が由来と言われる。昔の刑務所には用便箱(いわゆるおまる)があってその臭気が漂っていたが、現在は水洗式であり服役生活では房の掃除が義務付けられているためにほぼ無い。また昔の刑務所の麦飯に使われていた押し麦(精白して押しつぶした麦)は質が悪く、さらに外米などが混ぜられ特有の匂いがあったというが、こちらも過去の話である。
服役者の生活
罪を犯したとはいえ、現代国家においては最低限の人権には配慮され「奴隷」的な扱いではない。憲法上、奴隷的拘束や残虐な刑罰は絶対に禁止されている。
それでも規則は厳しく、起床から就寝までは自由時間を除いて服役者の行動には厳しく制限がかけられており、例えば刑務作業において机から道具を落とした場合に拾うには監督官の許可なくその行動をしてはならなかったり、催しても許可なく用便に立ち上がる事もできない。
私本の所持も冊数が決められているが、所持する事ができる。信じ難いだろうがいわゆるエロ本も所持可能。ただし自慰行為は自傷行為とみなされるので見つかると懲罰送りになるという。
1日の流れ
ここでは、受刑者が過ごす一日を分かりやすく解説する。(ここに書いてあることはニュースや法務省で公開されているしおりを参考に記載しております。)
基本的に6時半から6時45分に「起床!」という合図と共に電気が灯り、受刑者達の1日が始まる。受刑者達は布団をたたみ、顔を洗ったりして身支度を整えた後ドアの前に正座して点呼を待つ。なお、休日(免業日)は1時間程遅い起床時間となっている模様。
刑務官が「番号!」との号令と共に囚人番号を「1!」「2!」「3!」「4!」と番号を叫び、刑務官に伝える。
7時ごろになると配食係から朝食が各受刑者へと渡される。内容は麦ご飯、何かしらのふりかけ又は納豆、お味噌汁、少量のおかずなどが定番。作業する人によりA食、B食、C食の3種類があり、主に量が違う。食事の時間は10分程度とかなり短い。給食とは違い、おかわりなどは認められていないが残飯には制限がない。また、他の受刑者が残したものは貰うのは御法度となっている(囚人間に力関係を与えないようにするのとそれに伴う弱い者から奪う事を防ぐため)。なお黙食が基本。
休日(免業日)の場合はこの後余暇時間となり、昼食までテレビや本などを読んで過ごす事ができる。共同で生活してる場合は囲碁や将棋もできる。
平日の場合、この後に刑務作業が待っている。居室の鍵が開けられ、番号ごとに整列させられ「足踏み始め!」の号令の後行進させられる。この時にちゃんと行進しないと厳重注意される。所定の工場まで着くと作業着に着替え、点呼を取られた後、8時ごろ作業を開始する。
10時ごろまで作業すると「作業やめ!」の号令の後、30分から40分程度グランドまで出て運動できる。基本的にこの時間は運動する為の明確な規則はない。受刑者とコミュニュケーションを作ることができる貴重な時間だ。
その後、1時間ほど急いで昼食の準備が整えられる。昼食は場合カツなどといった揚げ物やうどんや蕎麦といった麺類などボリューミーな物が多い。基本的に工場内にある食堂で食べる(休日は居室)のが基本。人数を確認した後、食事を頂く。ルールは朝食時と同じ。
昼食を食べた後、休日の場合はそのまま余暇時間に入る。一方、平日の場合は午後の刑務作業が4時間ほどある。(随時休憩がある。刑務所によっては午後に運動時間がある場合もある。)
作業は基本的に4時ごろ終了。季節にもよるが週に3回程度は入浴の時間がある。
入浴場は基本的には銭湯と同じだが、入浴時間は15分と厳格に定められており、さらにはカミソリで髭を剃らなければならないなどと明確な規則が数多く存在する。
刑務官が「入室!」との号令と共に受刑者達が居室に入室。すぐに夕食が配られる。夕食の特徴は和食でヘルシーな物が多い。食事のルールなども朝と何も変わらない。
夕方の点呼を取った後その後は余暇時間となりテレビを見るなり好きなことをすることができる。
午後9時ごろになると「消灯!」との号令で電気が消され、10時間ほどの睡眠時間にはいり、1日が終わる。
刑務作業
もちろん私語は厳禁。ただ黙々と作業する。
内容は様々で金属加工、木工、印刷、革靴、洋裁、炊事、洗濯などなど(これよりも多くある)
刑務作業はタダ働きではない。きちんと作業賞与金というものが出る。
…が、驚く程少ない。しかも使用限度額まで決まっている。
例えば、見習い工の場合はおおよそ440円・723円に対して使用限度額は88円・145円となっており、刑務所内での必要物品は限度額内で賄わなければいけない。ただし、刑務所内で現金のやりとりは無い為自分でノートに残高を記録して把握する必要があるので無駄遣いはできない。
作業賞与金は特に必要であると認められれば、家族への扶助・被害者への弁償・罰金・訴訟費用などに相当額を使用できるとの事。
ちなみにだが、収監前にある程度前もって持参金を持ち込む事ができるが、刑務所内の購入は必要最低限のものである他に使用限度額のルールや収監年数を考慮しておく必要がある。
刑務作業に真面目に取り組めば等級が上がり賞与金は上がるが、それでも使用限度額は大体賞与金の4分の1程度となっている。残りは積み立てられているようで出所時に支払われる。
お年寄りの場合は居室内で折り紙などを作らされる。
刑務所内のルール一例
囚人「あ・・・落としてしまった。願いまーす!!」
監督官「なんだ!?」
囚人「番号〇〇〇番!!床に道具を落としました!!拾わせてください!!」
監督官「(確かめた後)よし!拾え!!」
(参考文献:花輪和一「刑務所の中」)
勝手に立ち上がる行為は規律を乱す行為と判断される。受刑者が総出で向かってきたら監督官では手も足も出ないので、立ち上がるという行為にも許可がいるのだ。
受刑者の等級
ここでは日本の刑務所のものを記す。
()は名札の色。
- 1級(白)
- 2級(青):房の棚の他に個人用の棚を持てる。
- 3級(黄色)
- 4級(赤)
(参考文献:花輪和一著「刑務所の中」)
余談
刑務作業で生産された物は刑務所が行う一般者に刑務所の一部を開放する矯正展やショッピングモール等で不定期に開催される即売イベント等で販売される。なお、この売り上げは事件の被害者への賠償に充てられる。木工品が多いが、金属製品や食料品もあったりする。近年は刑務作業品の実用性に評価と人気があるのか人気商品は売切になるパターンが多い。
ちなみに一部の企業の間では近年政治的リスクが大きく影響出たのか海外にある工場を閉鎖して国内回帰と同時に出所者予定である受刑者を雇用するケースがある。
刑務所内の特徴や行事や習慣
刑務所内では刑務所であることに由来する特徴的な行事がある。
囚人が番号で呼ばれる事や消耗品に関する細かい制約などが最も特徴的である。
慰問という部外者が受刑者に対して行う慈善活動があり、芸能人が歌や落語を受刑者に披露することがある。
監獄教誨と称する刑務所内での宗教活動も行われており、戦前から仏教やキリスト教の宗教家が刑務所を訪問していた。
刑務所への不審物の持ち込みや情報の持ち出しを防ぐことが目的であり、諸外国で行われるものと同様に日本の刑務所でもその目的から実施されている。
日本の刑務所で行われる内容としては、男子刑務所の場合にはカンカン踊りと呼ばれる動いた状態での検査が以前は裸体で行われていたが、現在ではパンツ着用により検査されるようになっている。女子刑務所の場合には裸体になり四つん這いで静止し、膣や肛門の内部に異物がないかを検査するほか、膣や肛門へのガラス棒の挿入および足元に鏡を置いて膣を覗いて目視検査を行う。もちろん女性受刑者への検査に当たるのは女性刑務官のみである。
アメリカ合衆国の刑務所の場合には、上半身への異物隠しを防ぐために咳をさせることがある。
英国法が採用されている香港では、女子刑務所で行われている「通櫃」と呼ばれる体腔検査で、膣と肛門に指を挿入する際に、処女膜を傷つけないよう検査する対応がなされている。
受刑者は刑務所の中で完結して生活を行う為、医療行為も刑務所内で行われる。重度の場合は医療刑務所という専門の刑務所に収容される。持病の薬などの服用は通常の刑務所で対応となり、他にも軽度の治療であればこちらも通常の刑務所内で完結する。医療上の処置は行われるものの尊厳・プライバシーの配慮はあまりされておらず、2016年に女子刑務所で痔の治療が行われた際には、女子受刑者の肛門へ指を突然に挿入して痛がらせたとの事例が弁護士会やNPOマザーハウスに寄せられ問題視された。
なお、具体的な生活内容については経験者のエッセイなどの本が多く出ている。
刑務所と反乱
刑務所の中では犯罪者の集団が自由なく押し込まれるため、受刑者たちが反乱を起こすというのが刑務所運営の最大の懸念事項である。
日本でも2007年に徳島刑務所で実例がある他、海外では受刑者や看守に死者が百人以上も出る大惨事になってしまったこともある。
一応刑務所では銃器の準備もしているのだが、受刑者に束になって襲い掛かられれば銃器だけでは鎮圧は難しいし、下手をすれば銃器を奪われて逆に武器を与えかねない。
受刑者に慰問や甘いものの楽しみが認められているのは、反乱を起こさせないという目的もあるのだ。
有名人
- 堀江貴文(実業家)
ライブドア事件における証券取引法違反の容疑で逮捕され、懲役2年6か月の実刑判決が下された。
仮釈放後は自身の刑務所での体験を書籍化し人気となり、現在はタレント活動や新たに実業家としても活動している。
- 田代まさし(元タレント)
過去に迷惑防止条例違反や覚醒剤取締法違反容疑で5回もの逮捕経験があり、3度目の逮捕で実刑判決が下され収監。釈放後は歌手活動をしながら復帰を目指していたが、僅か一年後に再逮捕。再度刑務所に収監され、釈放後はリハビリ施設へ入所し薬物依存症克服のプログラムを受けながら社会復帰を目指していたが、それから4年後にまたしても逮捕され、服役。
2023年現在は出所し、再びリハビリ施設に入所し治療を受けながら活動を続けている。
- 小向美奈子(元グラビアアイドル)
2009年に覚醒剤取締法違反の容疑で逮捕され、懲役1年6カ月、執行猶予3年の判決を下された。その後はストリップに転向し、AV女優として活躍するが、それから6年後に同容疑で逮捕され、懲役1年6月の実刑判決が下され収監。
2016年の7月に釈放され、現在はYouTuberで活動の場を広めている。
- 北見寛明(お笑いタレント)
EXITりんたろー。の元相方であり、コンビ時代はベイビーギャングのコンビ名で活動していた。2013年6月に無免許運転などで逮捕され懲役1年6か月、執行猶予3年の判決を受け、7月に免許取消となっていた。しかし免許を再取得しないまま無免許で運転を続け、2016年1月に無免許運転による道路交通法違反で再逮捕され、東京地裁は北見に対し懲役4か月の実刑判決が下された。これによりコンビは解散。
出所後はビートたけしに誘われオフィス北野(現:株式会社TAP)に所属し芸能活動再開。現在は北見という芸名でお笑いトリオ「リッチモン」を結成して活動。
- 羽賀研二(タレント)
2007年6月に未公開株を元値を隠して高値で売りつけて債務を逃れようとした容疑で元プロボクサーの渡辺二郎とともに逮捕され、懲役6年の実刑判決が下され、服役。その後出所直前に、2017年1月に離婚した妻への財産分与としての不動産譲渡が偽装離婚による財産隠しと判断した結果、2019年1月に元妻とともに強制執行妨害罪で再逮捕され、懲役1年2ヶ月の実刑判決が下され再び服役した。
出所後は人材派遣会社を立ち上げ、芸能界に復帰した。
関連タグ
ウサビッチ アルカトラズ オズワルド刑務所 フロリダ州立グリーン・ドルフィン・ストリート重警備刑務所 死刑執行中脱獄進行中
外部リンク
🗾刑事施設(刑務所・少年刑務所・拘置所) - 法務省(日本国内)
🗾刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成十七年法律第五十号) - e-Gov法令検索(日本における刑務所等刑事施設の根拠法令。略称:刑事収容施設法又は被収容者処遇法。)