必殺口上
二つの眼を閉じてはならぬ
この世のものとも思われぬ
この世の出来事見るがいい
神の怒りか 仏の慈悲か
怨みが呼んだか 摩訶不思議
泣き顔見捨てておかりょうか
一太刀浴びせて一供養
二太刀浴びせて二供養
合点承知の必殺供養
必殺シリーズのターニングポイントとなった、早過ぎた名作
必殺シリーズ第14作目。この後に作られた第15作目「必殺仕事人」以降がソフトなバラエティー路線に移ったと考えると、ある意味ハード路線だった所謂「前期必殺」の流れを汲む末期の作品である。全23話。
放送当時、巷でブームになっていた超自然現象・オカルト要素を取り入れていることが最大の特徴。
また、原則として被害者から頼み料を貰わずに仕置する(事件を利用して間接的に収入を得ることはある)・殺しを行うのが日中(早朝)等、従来のシリーズのお約束をことごとく覆しており、「死者の恨みを晴らす」ことは共通しているものの、ある意味では必殺シリーズ全体に対するアンチテーゼ的な作風にもなっている。
本来ならもっと長い放映期間が用意されていたのだが、あまりにも他の必殺シリーズとはかけ離れた内容であった為に、低い視聴率からシリーズで唯一、打ち切りと言う憂き目にあってしまった。
だが、一般受けしなかったと言うだけであり、完成度は紛れもなく本物である。
その強烈な個性がどれ程かと言えば、他シリーズで名を知られたライターや監督が脚本・撮影を担当した回が、むしろ「レベルが低い」と言われてしまう程の代物。
後半のメインライターとして、東映アニメや円谷特撮で知られる(これも担当)山浦弘靖氏が起用された事も、この作品の異質さを表していると言えるだろう(ちなみに山浦氏は、必殺シリーズは本作を除くと、ごく僅かしか手掛けていない)。
登場人物
先生(演:中村敦夫)
修行中の旅の行者。通常でも霊視をはじめとする超能力の持ち主であり、身体能力もかなりのものだが、朝日を浴びて死者の無念を取り込むことで、文字通り超人的な力を発揮する。
行者と言う立場からか徹底して無私無欲で、お金を受け取る事は基本しない上、極端な下戸(一滴飲んだら意識不明状態に陥る)。俗世のことに疎いため、浮世離れした言動で一行を振り回す事も多い。
若(演:和田アキ子)
流れ者。一見すると粗暴な青年だが、実は女。内面は繊細で人なつっこく、料理・裁縫が得意。だが体格の立派さと怪力故に故郷では女性扱いしてもらえず出奔、結果、女として生きる事をあきらめている。
自分が女であることを見抜いた先生に惹かれ、押しかけ弟子を自称して一行に加わる。
おばさん(演:市原悦子)
記憶を失った元殺し屋。行商をしながらあてもなく彷徨っていたが、偶然出会った先生に霊視してもらい、生き別れた子供の存在を指摘されたことから、先生についていけば手掛かりが掴めるかもしれないと同行を決めた。
物語終盤、ようやく居場所が判った自分の子供を引き取って、我が子同様に育ててくれている夫婦を守った結果……。
正十(演:火野正平)
一行の情報収集役。お調子者だが、経済概念が(悪い意味で)しっかりしている。かつては江戸で殺しの斡旋をしていたらしく、おばさんは彼の顔を知っていた(思い出した)。中村主水とは面識があるらしいが、演者が同じ「新仕置人」「商売人」に登場した正八との関係は不明。
おねむ(演:鮎川いづみ)
一行に何となくついて行っている旅の巫女。
必殺
うらごろし、その仕置きはあまりにも強烈である。
太陽信仰の行者であり、朝日の光を浴びて超人的な力を発揮すると言う先生の超能力の特性上、白昼堂々……と言うか、朝っぱらから殺しに行く上、若の殴って殴って殴り殺したり、首が180度回転する程の打撃を加えたり、煮えたぎる炉の中に放り込んだり、「いくら悪人と言えども惨過ぎるだろう」と言う殺し方、おばさんの不意打ちと捨てゼリフの強烈なインパクト、白昼なら必殺シリーズ最強クラスとも言われる先生の無敵ぶり、更にはパターン化が進むとイントロだけで思わず笑いがこみあげてくる殺しのBGMもあいまって、凄まじい印象を与え他の追随を許さない。
勿論、これだけの凄惨な殺され方をする悪人のしでかす犯罪も、必殺シリーズ屈指の凶悪さ。中には自分を慕ってくる身分違いの娘を鬱陶しさから溶鉱炉で焼き殺したり、店を乗っ取る為に跡継ぎの娘を毒殺しようと画策、最後には締め殺して五体バラバラにして埋めると言う外道極まりない輩も存在する。
そんな、死んでも死にきれない末路を辿る被害者が訴える、魂の慟哭がこの世に形として現れるのが、本作における超常現象の本質であり、それを鎮めるために先生達が行う、いわば従来の金による「稼業の殺し」ではない、「供養の殺し」こそがうらごろしなのである。
関連タグ
快傑ズバット:こちらも登場する悪人の犯罪が極悪非道で、変身した主人公にワンサイドゲームで成敗される、時代を先取りし過ぎた作品。