必殺口上(オープニング)
二つの眼を閉じてはならぬ
この世のものとも思われぬ
この世の出来事見るがいい
神の怒りか 仏の慈悲か
怨みが呼んだか 摩訶不思議
泣き顔見捨てておかりょうか
一太刀浴びせて一供養
二太刀浴びせて二供養
合点承知の必殺供養
概要
1978年12月~翌年5月に放送された必殺シリーズ第14作目。全23話。
この後に作られた第15作目「必殺仕事人」以降がソフトなバラエティー路線に移ったと考えると、ある意味ハード路線だった所謂「前期必殺」の流れを汲む末期の作品と言える。
そして何より、数ある必殺シリーズ作品の中でも、一際強烈な個性を放つ異色の作品でもある。
必殺シリーズのターニングポイントとなった、早過ぎた名作
放送当時、巷でブームになっていた超自然現象・オカルト要素を取り入れているのが最大の特徴。
また、原則として被害者から頼み料を貰わずに仕置する(事件を介して間接的に収入を得るケースはある)・殺しを行うのが日中(早朝)等、従来のシリーズのお約束をことごとく覆しており、「死者の恨みを晴らす」のは共通しているものの、見方によっては必殺シリーズ全体に対するアンチテーゼとも見える作風になっている。
本来ならもっと長い放映期間が用意されていたのだが、あまりにも他の必殺シリーズとはかけ離れた内容であった為に、シリーズ最低視聴率を記録してしまい、唯一の打ち切りの憂き目に遭ってしまった。
だが、あくまで「一般ウケ」しなかった(よりツッコめば必殺シリーズの視聴者層にウケなかった)だけであり、完成度は紛れもなく本物である。
その強烈な個性がどれ程かと言えば、他シリーズで名を知られたライターや監督が脚本・撮影を担当した回が、むしろ「レベルが低い」とされてしまう程の代物。
後半のメインライターとして、東映アニメや円谷特撮で知られる(これも担当)山浦弘靖氏が起用された事実も、この作品の異質さを表していると言えるだろう(ちなみに山浦氏は、必殺シリーズは本作を除くと、ごく僅かしか手掛けていない)。
登場人物
先生(演:中村敦夫)
太陽を信仰する、修行中の旅の行者。通常でも霊視をはじめとする超能力の持ち主であり、身体能力もかなりのものだが、朝日を浴びて死者の無念を取り込むと、文字通り超人的な力を発揮する。
行者の立場からか徹底して無私無欲で、お金を受け取る事態は基本しない。また、普段は自然物しか食さない為、人の手で精製された刺激物(薬や毒)には過敏に反応してしまう(酒も一滴飲んだら意識不明状態に陥る)。俗世の常識に疎く、浮世離れした言動で一行を振り回す場面も多い。
若(演:和田アキ子)
流れ者。一見すると粗暴な青年だが、実は女。流行り病の労咳で亡くした弟がいた事から、労咳持ちの娘を嫌がる事無く率先しておぶってやるなど、内面は繊細かつ人なつっこい人情家で、料理・裁縫が得意。だが体格の立派さと怪力故に故郷では女性扱いしてもらえず出奔した結果、女としての一生を諦めている。
偶々立ち寄った村で先生の霊視を目撃して興味を持ち、更に先生から女だと見抜かれ以降は心酔、押しかけ弟子を自称して一行に加わる。
おばさん(演:市原悦子)
記憶を失った元殺し屋。行商をしながらあてもなく彷徨っていたが、偶然出会った先生に霊視してもらい、生き別れた子供の存在を指摘されたのをきっかけに、先生についていけば手掛かりが掴めるかもしれないと同行を決めた。
物語終盤に記憶を取り戻し、ようやく居場所が判った自分の子供を引き取って、我が子同様に育ててくれている夫婦を守った結果……。
正十(演:火野正平)
情報収集役。とある香具師の下で働いていたが、ある事件がきっかけで一行に加わった。女好きのお調子者だが、経済概念が(悪い意味で)しっかりしている。かつては江戸で殺しの斡旋をしていたらしく、おばさんは彼の顔を知っていた(思い出した)。
中村主水とは面識があるらしいが、演者が同じ「新仕置人」「商売人」に登場した正八との関係は不明。
おねむ(演:鮎川いづみ)
一行に何となくついて行っている熊野権現の御札を売っている旅の巫女。
必殺
うらごろし、その仕置きの内容は他の必殺シリーズとは一線を画す。
先生
上述の通り、死者の念により超絶パワーアップを果たすが、平時の身体能力も超人的。
主に旗竿の尖った石突で悪人の胴体を刺し貫いて仕置きする。丸腰でも刀持ちを容易く制圧し、遠くの悪人には百発百中の精度で旗竿を投げ打つ。いずれにせよ悪人に逃れる術はない。
風を巻き起こす、動物を突然怯えさせるなどの不可思議な現象を起こすことぐらいは造作もなく、極めつけは朝日の力を借りるために、経を唱えて沈んだ太陽を呼び戻したこともあった。
このことから「必殺シリーズ最強」の名を欲しいままにしている。
若
徒手空拳による打撃がメインで、彼女と相対したが最後、待つのは果てのない暴力の嵐。
本気を出せば首が270度回転する程の打撃で悪人を屠る。
時と場合によってはその場にあるものを有効活用して、より相応しい凄惨な死を迎えさせる。
おばさん
虫も殺さぬ顔で悪人を射程圏内に捕らえ、流れるような所作で匕首による致命の一撃を与える。
おばさんの鬼気迫る表情と何が起こったか理解できていない悪人の顔とのコントラスト、そしておばさんの残す口上は見る者に強烈なインパクトを与える。
勿論、これだけの凄惨な殺され方をする悪人のしでかす犯罪も、必殺シリーズ屈指の凶悪さ。中には自分を慕ってくる身分違いの娘を鬱陶しさから溶鉱炉で焼き殺したり、店を乗っ取る為に跡継ぎの娘を毒殺しようと画策、最後には絞め殺して五体バラバラにして埋めると、外道極まりない輩も存在する。
そんな、死んでも死に切れない末路を辿る被害者が訴えとして発する、魂の慟哭がこの世に形として現れるのが、本作における超常現象の本質であり、それを鎮める為に先生達が行う、いわば従来の金による「稼業の殺し」ではない、「供養の殺し」こそがうらごろしなのである。
余談
本作のBGMは、シリーズ他作品で一切使用されず、同様にシリーズ他作品から流用した曲もない唯一の例となっている。
主題歌は和田アキ子が歌う「愛して」。劇中の主要登場人物の演者が主題歌を歌うのはこれが初で、以降のシリーズでも恒例となる。
「おばさん」役に「まんが日本昔ばなし」の語りでも有名な市原悦子が起用されたのは、殺伐とした番組の内容を抑える為のものであったが、殺しの場面での市原の人畜無害そうな状態から殺し屋に変貌する通り魔じみた鬼気迫る演技(後半の回からは更に突然刺されて何が起きたか瞬間分からない相手が、おばさんが刃物を抉らせる事で苦痛の表情と悲鳴をあげる演出となる)は、制作スタッフが望んだ当初の目的とはかけ離れた恐ろしく殺伐としたものとなってしまったという。
関連タグ
快傑ズバット:こちらも登場する悪人の犯罪が極悪非道で、変身した主人公にワンサイドゲームで成敗される、時代を先取りし過ぎた作品。
必殺口上(エンディング)
超自然現象
それを証明する多くの伝承が
古来より東西に渡って受け継がれている
この一行は これからもこのような未知の世界への旅を続けるであろう
たとえあなたが信じようと信じまいと