必殺口上(オープニング)
のさばる悪をなんとする
天の裁きは待ってはおれぬ
この世の正義もあてにはならぬ
闇に裁いて仕置する
南無阿弥陀仏…
(語り:芥川隆行)
概要
前作『必殺仕掛人』の好評を受けて製作されており、ナレーションには数々の時代劇作品でナレーターを務めたアナウンサーの芥川隆行氏が起用された。
「三人の殺し屋とそのサポート役」「暗殺の際の特殊演出」などのシリーズの骨格となる部分は本作にて確立している。
中村主水の初登場作品
本作は、前作とは打って変わる「原作を持たないオリジナル時代劇」であると同時に、後に必殺シリーズの顔となる中村主水の記念すべき初登場作である。
一人の定町廻り同心が奉行所の腐敗に失望するあまり昼行燈となり、婿養子という立場から妻や姑にもいびられる全く冴えない日々を過ごしていたが、『ある事件』をきっかけに再び義憤に目覚め、旧知の仲である元罪人やゴロツキ達と徒党を組んで「法では裁けない悪人どもを『仕置』する闇の処刑人」である『仕置人』を結成し、のさばる悪を怒りに任せて痛快に始末するにまで至る様子が本作の見どころの一つとなる。
そして、中村主水を演じた藤田まこと氏は1973年当時は役者ではなくコメディアンとして活動をしていたのだが、この作品でTVドラマのレギュラー出演者に抜擢されたことにより「演技派俳優」という新たな境地を開いて行くことになるのだった。
なお本作のサブタイトルは、「いろは数え歌」の仮名文字が話数ごとに順を追って使われる、という規則性があるが、後述の事情もあって途中で打ち止めとなっている。
登場人物
仕置人メンバー
主人公。かつて僧侶として仏に使える身でありながら不義密通を働いて佐渡に島送りとなった前科を持つ。
元住職にして酒好き・女好きの接骨医。
送られた佐渡の金山で地獄の日々を過ごし、怪我人を治療する傍らで我流で「骨接ぎ」の技術を身に付けた。
かつて佐渡島で同心見習いとして勤務していた主水とひょんなことから江戸で再会し、彼と組んで『仕置人』となる。
暗殺方法は整体術を生かした「骨外し」を使う。
本作におけるもう一人の主人公。
奉行所の腐敗を嘆くあまり昼行燈となった小役人であるが、かつて佐渡金山に同心見習いとして働いていた時に知り合った鉄と江戸で再会し、鉄の住む観音長屋で知り合った悪友たちと煮えきらない日々を過ごしていたが、鉄から『ある事件』の相談を持ち掛けられたことで押し殺していた義憤が再び目覚めて『仕置人』となる。
仲間達からはその職業から「八丁堀」と呼ばれて頼られている。
暗殺方法は主に刀を駆使した「剣術」だが、十手を用いた格闘術を使うこともある。
『仕置人』メンバーの最年少。
その名の通り普段は棺桶屋を営んでいる。
無口だが情に厚い熱血漢で、ズル賢い侍や役人が大嫌い(ただし、主水は除く)であり、メンバー中で正義感が最も強い。
鉄と同様に過去に何か事を起こして佐渡に島送りとなった前科があるらしく、主水とも佐渡で知り合ったと記述している資料本も存在するが、本作の第21話では鉄から「お前は佐渡を知らない」と言われていたので真偽は不明である。
琉球出身で、父親を侍に殺された経験から侍を嫌っている。
暗殺方法は棺作りに使う鏨に偽装したアタッチメントタイプの「手槍」。
鉄砲玉のおきん(演:野川由美子)
『仕置人』メンバーの紅一点たるスリの常習犯。
姉御肌で面倒見が良く、半次とともに悪人の被害者から依頼を請け負うことが多い。
主に仕置を実行する鉄たち三人のサポートを行い、潜入しての情報収集や下準備を担う。
おひろめの半次(演:津坂匡章(現・秋野太作))
『仕置人』メンバーのサポート担当である瓦版屋。
お調子者な性格で、瓦版屋の立場を利用しての陽動を行うこともある。
演者は後に現在の芸名へと改名しており、そちらの名義では『おもいっきり探偵団覇悪怒組』で落合敏彦先生を演じ、怪盗・魔天郎の声も担当したことで知られる。
その他
天神の小六(演:高松英郎)
江戸暗黒街の大物で、『仕置人』の協力者。
レコードジャケット等のアートワークでは仕置人メンバーと同格の扱いとなっている。
本人がその気になれば江戸中の侠客達を総動員できるほどの権力者である。
普段は自分の身の安全のために小伝馬町牢屋敷の牢名主として牢屋の中にいる。
中村せん(演:菅井きん)
主水の姑。彼が婿養子であることをいいことに、いつもいびっている。
後のシリーズ作品と比べてかなり冷徹で陰険である。
中村りつ(演:白木万理)
主水の妻。こちらも彼が婿養子であることをいいことに、いつもいびる。
こちらも後のシリーズと比べ主水に対して当たりがキツい。
お島(演:三島ゆり子)
おきんの親友。第6話で最愛の父親と妹を悪徳藩主に殺されている。
仕置方法
従来の必殺シリーズ同様に被害者からの依頼金で悪人を暗殺するのが主であると思われがちだが、初期のころは「暗殺で一瞬で殺すには生ぬるく、じわじわと苦しめ痛めつけてから殺す必要がある悪人」も登場しており、その者に対しては以下の仕置きを行っている。
- 悪徳豪商と結託して罪もない百姓に無実の罪を着せた悪徳役人を拉致して骨外しで喋れなくした後、身投げして死亡していた町娘の遺体を利用する形で心中の生き残りに仕立て、晒しものにして人々に石を投げさせる【第1話】。
- その一部始終を見た被害者の娘は、錠から石を投げるよう勧められたものの、それを拒んで泣いていた。
- 最終的にその悪徳役人は自害した。
- 江戸時代では、心中で生き残った者は晒しものに処する法律が実際にあった。
- 大豆を買い占めては自身を恨む女性を罪人に貶めた悪徳豪商を拉致し、3日間飲まず食わずの状態にして洗い浚い白状させることで、最終的に罪人として貶め、磔の刑に追いやる【第2話】。
- しかも鉄と主水は、その悪徳豪商を拉致ならびに彼に与した悪党を始末する前に、笑いながらゲスな顔芸を披露している。
- 前述の悪徳豪商とグルで、しかも彼が罪人になったときは自己保身のためにあっさりと見限った上、私利私欲のために罪のない村娘をさらっては嬲り者にして自殺に追い込み、あまつさえ逃亡しようとした娘を殺害した悪徳老中及び悪徳役人2名、そして悪徳蝋燭問屋を拉致し、徹底的に拷問。さらに彼らによって拷問で失明させられた被害者である依頼人の男性(演:常田富士男)に報復させて視力を奪わせた後、言葉も喋れなくしてお面をかぶせ、葵紋の褌一丁で裸踊りさせた挙句に川に飛び込ませる【第3話】。
- 尚、川に飛び込んだ後の悪人ども四人の生死は描かれていない。
- 命の恩人である夫妻への恩を仇で返して命を奪って彼らの茶屋を乗っ取り、あまつさえ夫妻の娘(演:藤田弓子)を無理やり妻にしようとモラハラやパワハラの限りを尽くした悪辣な芋屋(演:山田吾一)を呼び出し、首にかけた縄で所謂ロシアンルーレットを敢行、頃合いを見て留め縄をすべて切断し吊るし首に処す【第5話】。
- 鉄にとってその芋屋はかつて流刑先である佐渡で知り合った命の恩人であるが故、本性を知った時と、彼を手に掛けた時は後味の悪さを痛感していた。
- 貧困街を我が物顔で仕切っては町人にみかじめ料と称して金を略取し、前述の悪辣な芋屋の依頼で自分たちを殺しに来たヤクザの連中を一人残らず死なない程度に骨外しを施して一生寝たきりに追いやる【第5話】。
- この一部始終のあと、主水もヤクザの親分に対して「おめえも災難だったな」と茶化して彼らを見捨てた。
- 遊び感覚で辻斬りを行い、前述のお島の父親と妹を殺害した悪徳藩主(演:中尾彬)を、以前から良心の呵責に苛まれては彼の身代わりとして拘束された家臣(演:ささきいさお)の証言をとったうえで拉致。小六のいる牢屋に打ち込んで彼や牢の者たちに徹底的にしごかせ、さらに家臣を釈放して事情を洗い浚い藩の者に話させる【第6話】。
- その後この悪徳藩主は解放されるもすでに江戸家老に見限られて城に入れてもらえず文字通りすべてを失い、釈放された家臣や御徒組も連帯責任で切腹を言い渡された。なお御徒組たちはその後、保身のために家臣や介錯人を殺害し、江戸家老をも殺そうとしたが、「切腹では生ぬるい」とする鉄と錠に始末され、切腹以上に無様な最期をさらした。
これらの描写は悪人相手とは言ええげつなく、悪人を倒してもすっきりしないという意見もあった為か、大きく扱われるのは序盤の6話までに限られる。
とはいえそうした描写がまったくなくなったわけではなく、
- 一般人をおのれの愉悦のため無実の罪で処刑させる目明しと結託していた悪徳商人に対し、これを死なない程度に痛めつけて解放し、その後も何度も接触して死の恐怖におののかせ精神が崩壊する寸前まで追い詰め、そのうえで主水の立場を用いて訴状を出し始末した目明しともども罪を暴いて流刑に追いこむ【第11話】
- 見ず知らずの女性を拉致して能面を被った姿で乱暴し破滅させた幕府の役人に対し、昼に精神を病んだ被害者を装って追い回しては夜に「お前のせいだ」「いずれ復讐される」と吹き込む行為を繰り返して錯乱させその権威も自慢の剣術も奪い去り、失踪したこの役人について奉行所から出された「秘密裏に捜索し場合によっては始末せよ」との通達に従う形であくまで表社会の職務を装って斬殺する【第18話】
- ちなみにこの役人はある商人と結託してことに及んでいたが、この商人も真相を暴こうとした被害者の一人の許婚を惨殺しており、被害者から依頼を受けた鉄と錠により仕置されている。
- 町人の男女が買った土地を役人と共謀して不当に奪い、これに抵抗した男を佐渡送りにしたうえ女を役人の手籠にさせて自殺に追い込み、さらには役人とともに佐渡鉱山の金を着服しようとした悪徳商人に対し、前述の男を解放する代わりとして彼だけは殺害せず囚人に偽装のうえ宿舎に紛れ込ませ「地獄」とさえ言われる環境で死ぬまで働かせる【第21話】
など、中盤以降でも「悪人の『殺害』よりも『制裁』に重きを置く」方法は時折取られている。
また、後続の作品でも
- 無関係の女性を自身の替え玉として奉行所に捕縛させ死罪を逃れようとした女盗賊を気絶させて拉致し、処刑の前夜に奉行所の隙を見計らって替え玉にされた女性と入れ替え、翌日当人がまるで事情を把握できず混乱し恐怖と絶望に泣き叫ぶ中で処刑させる【『必殺仕業人』第24話】
- ちなみにこの回は必殺シリーズ200回の記念回である。
- 役人の立場を悪用して強盗を幇助し、さらには立てこもりを行い脱獄を目論む囚人とまで結託していた奉行所の与力を、その所業を暴露する書状を貼り付けた高札の前にて仕置。翌朝までそのまま放置したうえ、遺体の運び出しをわざと遅らせ、その悪行と末路をなるべく長く公衆の面前に晒す【『新必殺仕置人』第31話】
といった具合に、本作の雰囲気に近い方法が取られるケースもいくつか存在した。
必殺仕置人殺人事件
この番組のファンが殺人事件を起こしたとされる事件で、製作局の朝日放送と当時の系列ネット局のTBS側は犯人が視聴したと供述した第7話の内容は問題ないと判断したのだが、マスコミから「番組が事件の原因」だと槍玉に挙げられて散々に叩かれてしまった(なお犯人は一貫して「テレビ番組に影響されて事件を起こした訳ではないし、自分はテレビ番組の影響で人を殺すような幼稚な人間ではない」と主張していた)。
スポンサーが視聴率の良さから番組継続を望んだ為に即打ち切りとはならなかったものの、視聴率好調で放送期間を延長する筈が従来の予定通りの2クールで『必殺仕置人』は打ち切りとなった。
以降の作品が受けた煽りも小さくなく、必殺シリーズの次作・次々作は自主規制により題名から「殺」の文字が消えて『助け人走る』と『暗闇仕留人』と云うタイトルになり、シリーズ第5弾の『必殺必中仕事屋稼業』まで「必殺」の二文字を大きく扱えない状態が続いたほか、『助け人走る』は前半は明るい作風、次の『暗闇仕留人』は人を殺す虚しさをテーマとした内容となるなど、シリーズの作風にも影響が及んだ。
さらにはテーマ曲の歌詞までもこの件と無縁ではいられず、『助け人走る』のEDテーマ曲である『望郷の旅』の歌詞のサビにある「汗と涙と血がまた滾る」の部分が殺人を連想させると判断されたのか、TVサイズのみ「熱い明日の風が呼んでる」に差し替えられていた。
関連タグ
必殺シリーズ
中村主水シリーズ
本作 → 暗闇仕留人
怨み屋本舗 - ある意味『必殺仕置人』の現代版。
必殺口上(エンディング)
仕置
法によって処刑することを江戸時代 こう呼んだ
しかし ここに言う仕置人とは 法の網をくぐってはびこる悪を裁く 闇の処刑人のことである
ただし この存在を証明する記録・古文書の類は 一切残っていない