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必殺口上

のさばる悪をなんとする

天の裁きは待ってはおれぬ

この世の正義もあてにはならぬ

闇に裁いて仕置する

南無阿弥陀仏…

(語り:芥川隆之)

概要

1977年1月から同年11月まで放送された、必殺シリーズ第10作。全41話。

中村主水が主要人物として登場する5作目の作品である。

この当時の必殺シリーズは、ハードボイルドさを前面に押し出した『必殺仕業人』や強い絆を持つ裏稼業者たちが巨悪と対立する『必殺からくり人』などの高く評価される作品を世に送り出していたものの、その実験的要素を多く含む内容が視聴者に浸透せず、視聴率の低迷に喘いでいた。

この状況を打開すべく、シリーズの中でも特に人気の高かった『必殺仕置人』の要素を前面に押し出した作品として制作されたのが本作である。

すっかりシリーズの顔となった中村主水は勿論、『仕置人』にて主役として登場した念仏の鉄も再登板し、これに鋳掛屋の巳代松、密偵の正八とおていを加えた5人組が「法の網をくぐってはびこる悪を裁く闇の処刑人」として活躍する様子が描かれた。

では実験的要素は無かったのかと言われれば決してそんなことはなく、本作では裏稼業の統括組織「寅の会」(後述)が登場。期日などの縛りがあり失敗が許されない中で仕置に挑む緊迫した展開もたびたび見られた。

こうした過去作の人気と本作独自の新機軸をうまく組み合わせた作風、さらにアドリブ満載のキャスト陣も含め制作陣全体を巻き込んだ悪ノリとさえ言われるほどの強烈なギャグ・コメディの描写、そしてそれに決して見劣りしないドラマとしての完成度の高さから、前期必殺シリーズの集大成として非常に高い評価を受けた作品となった。

本作の評価があまりに高かったことが、のちのシリーズの低迷ひいては『必殺仕事人』シリーズの誕生をもたらした、との見解すら存在するほどである。

本作のサブタイトルは全て「〇〇無用」で統一されている。

登場人物

仕置人

「寅の会」傘下の裏稼業集団5人組。

物語の開始時点で既に存在しており、既存の4人に主水が新たに加入して劇中の形をとるようになった、という珍しいパターンの結成経緯を持つ。

なお後述の事情から、主水が仕置人である事実は「寅の会」にさえ伏せられ、この5人しか知らない秘密となっている。

主水と並ぶ本作の主人公。

観音長屋で骨接ぎ師を営む女好きの破戒僧。『仕置人』最終回にて手配書が回ったことで江戸を離れていたが舞い戻り、「寅の会」傘下となって裏稼業を続けていた。

悪友にしてかつての裏稼業仲間である主水が殺しの標的とされたことを彼が知り、会の掟に背いて主水と接触したことから『新仕置人』の物語は始まることとなる。

殺し技は、相手の関節を外して息の根を止める「骨外し」。潜入などのため変装して行うことが多く、歌舞伎役者のごときド派手な化粧をしたり鎧兜を着こんだり、果ては女装したりといった奇抜なものも少なからず見られた。

鉄と並ぶ本作の主人公。

南町奉行所の同心。前作『仕業人』最終回にてとある仕置を請け負った結果、標的の家族が起こした復讐劇によって裏稼業仲間だった赤井剣之介とその妻のお歌が殉職することとなり、その後に事情を知った当人との果し合いを行い決着をつけたのち、裏稼業から足を洗っていた。

ある晩、脱獄を試み自身に襲い掛かった一人の罪人を返り討ちにし、その功績により定町廻り同心に復職、珍しく生き生きと表稼業に取り組んでいた。だが程なく再会した鉄とともに、自身の復職の裏に隠された衝撃の事実を知ることとなり…。

殺し技は、自身が持つ大刀や脇差を用いた「剣術」。

読みは「みよまつ」。本作におけるもう一人の主人公

観音長屋の鋳掛職人だが、腕は良くはない。かつて鉄と壮絶な戦いを繰り広げたことがあり、その縁で彼の裏稼業仲間となった。兄の身代わりになる形で彼もまた鉄と同様に島流しに遭ったことがある。

クールな口調や態度とは裏腹に、元囚人仲間、子供に優しく、女性に惚れっぽいなかなかの人情家でもあり、割り切った様子を見せている鉄や主水と比べ裏稼業では熱い様子を見せることも少なくない。

殺し技は、相手を狙撃し急所を撃ち抜く「竹鉄砲」。自作のものを用いているが、反動で壊れたり射程距離がわずか二間(3.6メートルほど)しかなかったりと弱点も多いことから改良を重ねており、「バズーカ型」「連射機能付き」「仕込み傘」等々、様々なタイプのものを開発・使用する凝り性だが、火薬代にかなり金がかかっているようである。

絵草子屋の青年。

チームでは鉄と並ぶ女好きの上にもてるお調子者で、情に脆いところがある。

自ら営む絵草子屋の地下蔵が彼らのアジトとなっているほか、おていとともに密偵を担当。その人となりと足の速さで標的を撹乱する。

次作『江戸プロフェッショナル必殺商売人』にも引き続き登場した。

腕利きの女スリ。

どこかつかみどころのない性格ながら姉御肌なところがあり、洞察力も高い。

仕置では正八とともに密偵や陽動を担当している。

演じた中尾ミエは『必殺必中仕事屋稼業』のお春や『仕業人』のお歌を演じたことでも知られる。

寅の会

江戸の裏稼業を統括する一大組織。

表向きは句会の体裁を取っているが、その出席者は全員が傘下の裏稼業集団に属する。殺しの依頼は基本的に彼らが受け、毎月2回寅の日に行われる句会での俳句や川柳の詠み上げに見せかけてその標的を示し、その場で実際に殺しを行う集団と支払われる報酬額が値引き競りの方法にて決定される。請け負った集団は次回の句会までに殺しを実行し、会は依頼料と彼らへの報酬額の差額を収入として受け取る…というシステムとなっている。

また、独自の厳しい掟が存在する。

  1. 依頼主が悪人と知りつつこれを利する「外道仕置」は厳禁。
  2. 殺しを実行する前の標的との接触など、奉行所に裏稼業が発覚しかねない行動は厳禁。
  3. 請け負った集団が標的を仕留め損ねた場合、次点で入札した集団に権利が移る。
  4. 傘下の集団は、例え依頼を直接受けた場合でも、独断で仕置きを行ってはならない。
  5. 傘下の集団どうしの談合を禁ず。
  6. 句会の無断遅刻や無断欠席を禁ず。
  7. 元締の私生活を探ることを禁ず。

いずれも背いた場合は粛清の対象となる。ただし、極めて条件の厳しい仕置を元締から直接請け負い成功させることにより、粛清を回避することも可能。

ただこれらの過程には例外的なケースも少なからずあり、中には元締の判断により傘下の仕置人グループへ直々に依頼が持ち込まれるパターンや、標的にまつわる真相を独自に調べた仕置人たちに標的変更も含めた後始末が一任されるケース、さらには仕置人の集団と悟られないよう一般公開する形でダミーの句会が開催されるという変わり種までも存在した。

寅の会の長たる裏社会の大物。

表向きは子供好きの一介の老人として過ごしている。

かつては自らも凄腕の裏稼業者であり、劇中でも掟に背いた者を自ら仕置することがあった。

ちなみに娘が二人おり、うち一人は『必殺仕事人Ⅴ旋風編』から主水と組んで裏稼業を行うこととなる便利屋お玉(演:かとうかず子)である。

なお、演じた藤村は初代ミスタータイガースと名高い伝説の野球人であり、殺し技にもバット状の「棍棒」(通称『物干し竿』)を用いていた。

虎の養子にして用心棒であり、虎の会配下の仕置人達の仕置人でもある青年。

無表情かつ無口で、時折に話す言葉も短いうえに外国人のようなカタコトのような発音。虎以外に気を許すことはほぼ無く、遮光器を着用した姿で神出鬼没に現れ掟に背いた者を一切の容赦なく抹殺することから、寅の会の力を象徴する存在として裏稼業者たちから恐れられている。

殺し技は、ロープ付きのもので相手の首筋を貫く「銛」。

  • 嘉平(演:灰地順)

虎の側近。句会にて標的を示す句を読み上げる役割を持つ。

  • 吉蔵(演:北村光夫)

同じく虎の側近。裏稼業での自らの落ち度の責任を取って自害した嘉平の役割を引き継いだ。

その他

  • 中村せん(演:菅井きん)

主水の姑。定町廻り同心に復職した主水を相変わらずいびるが、曲がりなりにも昇進した為かそれまでと比べいびり方がやや穏やかになっている。

  • 中村りつ(演:白木万理)

主水の嫁。せんとともに主水をいびるが、あからさまに主水に甘えることも。

  • 屋根の男(演:マキ)

観音長屋の屋根に赤いふんどし一丁で座る謎の男。

屋根の上から釣り糸を垂らしており、正八にちょっかいを出したり長屋の住人から勝手に食事を頂戴していたりする。

余談

シリーズにおいては『必殺仕置屋稼業』『必殺仕業人』にて、「主人公が中村主水であるにもかかわらずエンドクレジットでの登場順が一番最初ではない」という扱いが良いとは言い難い状態が続いていたのだが、本作制作前に主水役の藤田まこと側がシリーズ降板をも辞さない姿勢を見せるほどに事態が悪化。さらに同時期に中村せん役の菅井きんが私生活での身内の縁談に自身の役柄が影響することを心配し降板を申し出ており、最悪の場合シリーズ打ち切りすらありえた大騒動となってしまった。

最終的にどちらの問題も制作側が歩み寄る形で解決し、本作のエンドクレジットでの登場順は主水(藤田まこと)が最初、鉄(山崎努)が最後という、奇しくも『必殺仕置人』と真逆の順番となっているほか、菅井の縁談も制作陣の協力により無事成立する運びとなった。

この結果、本作は元々『必殺からくり人』の後番組として1年間の放送予定で企画されていたにもかかわらず、この問題により撮影開始が遅れたことで、最終的に3クール強ほどに短縮される運びとなった。この放送短縮分の穴埋めとして、1年間のシリーズ出演が決定していた山崎を主演として制作されたのが、『必殺からくり人・血風編』である。

主題歌は川田ともこの「あかね雲」。川田はなんと収録当時11歳であり、本編にも第3話にてゲスト出演した。

ちなみにこの主題歌には、同作から8年後の1985年に再レコーディングされたバージョンも存在している。

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