必殺口上
金は天下(てんが)の回り物
ところがどっこい近頃は 天下が金の回し者
金さえありゃとは申しませんが 情けがありゃとも申せません
きれいごとばかりじゃー とどのつまりの堂々巡り
どうやらどの世に生まれても こいつだけは許せねえ てな輩がおりますもので
(語り:春風亭小朝)
あの世の地獄と この世の地獄 どちらも地獄にかわりなし
(おやおや)
どっかで誰かが泣いてるかい そうかいそうかい そういうあんたにゃ他人事か
云わぬが花とは申されど ひとこと云わせていただきます
あんたが見るか おいらが見るか 誰かが地獄を見なけりゃ終われねえ
善男善女にゃ無縁の話で御座います
(2012以降の語り:市原悦子)
解説
始まりは2007年にスペシャルドラマとして制作された「必殺仕事人2007」である。
1999年公開の「必殺! 三味線屋・勇次」以来、8年ぶりの必殺シリーズという事もあって、一種のターニングポイントとして、これまでの仕事人の顔だった中村主水から渡辺小五郎に主役交代した初めての作品でもある(ただし、2009まではダブル主人公で2010で完全に小五郎になった)。その小五郎演じる東山紀之を筆頭にメインの仕事人をジャニーズ事務所の中心的アイドルや俳優陣で固めるなど、新たな視聴者を呼ぶ試みが成された。
結果、放送は大成功し、2009年にテレビ朝日系列で「必殺仕事人」の新作シリーズとして放送される事となり、2009新春スペシャルを経て連続時代劇として2000年代に復活したTVシリーズこそ「必殺仕事人2009」である。尚、キャストや設定は概ね2007からそのまま引き継がれている。
金曜夜9時のドラマ枠で放送された。なお、制作は過去の仕事人シリーズと異なり朝日放送のみからテレビ朝日も加わっている。
よく平成の必殺仕事人はこの作品だけだと思われがちだが「必殺仕事人激突!」で既に平成に入っている為、厳密に言うと21世紀版というべき必殺シリーズである。
必殺仕事人2010からは2011年、2017年、2021年を除いて年一でのスペシャルドラマに再び戻っている(2008年も無かった)。また、2019は平成最後の必殺仕事人の作品となる。そして、2020は令和最初の必殺仕事人となった。
楽曲はEDテーマを除き、多くの場合過去作品のものを使用している一方、あまり知られていないが新曲も存在している。なお、これまでのシリーズでよくあったEDテーマをアレンジした殺しのテーマ曲はこの作品には無い。
藤田まことが2010年に逝去した為、2009が生涯最後に出演した必殺シリーズとなってしまった。(2018ではライブラリの形で再び出演している)
また、先述の2012以降のオープニングナレーションこと『必殺口上』を担当した市原悦子は『翔べ!必殺うらごろし』以来33年ぶりに必殺シリーズに出演。この口上が同シリーズにおける彼女の遺作となった。
2023年には主演の東山がジャニーズ事務所(後に社名変更)の代表取締役社長に伴い同年をもって芸能活動を終了。その影響か年1回放送が常態化していた本作が急遽年末に前倒しで放送された(撮影自体は東山の去就発表前に完了していた)が、作中では小五郎の卒業などは描かれず、2024年以降のシリーズ継続については現状不明。
スペシャル版
- 必殺仕事人2007
- 必殺仕事人2009新春スペシャル
- 必殺仕事人2010
- 必殺仕事人2012
- 必殺仕事人2013
- 必殺仕事人2014
- 必殺仕事人2015
- 必殺仕事人2016
- 必殺仕事人(2018※1)
- 必殺仕事人2019
- 必殺仕事人2020
- 必殺仕事人(2022※1)
- 必殺仕事人(2023新春・年末※1※2)
※1…放送時期が早い段階で決まらなかった為、西暦が付いていない。
※2…唯一、年二回スペシャル版が放送された年。これは2023年12月29日にも新作が放送される事による。先述の通り東山が2023年代いっぱいまでの芸能活動によるものとされ本来は2024年放送予定だったものを前倒しした可能性がある。
物語の傾向
基本的にはこれまでとは変わらないが、昭和の必殺シリーズの後半に見られた、放映当時の現実の社会情勢・世相風俗のオマージュがより強く取り入れられるようになり、本来時代的にはありえないがネタとして採り入れ、それでいて時代錯誤感をなるべく感じさせないまでに上手く世界観に融和させたスタイルも含まれている。
作品名 | 作中で取り入れられた主な時事ネタ |
---|---|
2010 | 派遣切り、公共事業削減・事業仕分け |
2012 | 非正規雇用、貧困ビジネス |
2013 | 医療トラブル |
2014 | TPP(環太平洋パートナーシップ協定) |
2015 | 離婚問題 |
2016 | リストラ |
2018 | 自爆テロ |
2019 | 転売ビジネス |
2020 | 振り込め詐欺、半グレ、引きこもり・ニート問題 |
2022 | バンクシー、ネットの闇(炎上騒ぎ、風評被害、ネットリンチ、正義の暴走、デマ) |
2023新春 | 新型コロナウイルス感染症 |
2023年末 | 地下アイドルと芸能界の闇、手抜き工事 |
また、話の本筋に絡まない形で扱われる時事ネタもいくつかある(例:2020における「働き方改革」、2022における「コロナ禍での時短や買い占め騒動」「子ども食堂」、2023年末における「物価上昇」)。
他にも、2013や2014などで見られたような、頼み人自身が別人から恨みを買うあくどい事をしており、結局は自分自身も仕置の的に入れられる事になったケースや、「頼み金さえあれば恨みを晴らしてくれる事」が本当に果たされた事を目の当たりにして、よりにもよって「金の力」というものに悪い意味で目覚めてしまい、頼み人から仕置の的に堕ちてしまった人物が現れる負のスパイラルや、最終的に頼み人の恋人や親兄弟が仕置の的とされるといった救われない展開も描かれている。
また2014ではやたらとプライドが高いうえ、兇状持という格好のスケープゴートがいるにもかかわらず、この兇状持の罪を告発した人物を殺してしまい、挙げ句は別の人間をスケープゴートにして追放…… と事態の収拾方法が支離滅裂。2018では言ってることは立派だが、終盤で起こした一件を、仲間に問いただされた時にはあまりにも嘘丸見えな言い訳をしてその場をやり過ごそうとするという、まるで炎上の下手な火消しの様な何処か生々しい悪党も登場している。
2015以降は二部構成というべき「前半の出陣」・「後半の出陣」が見受けられるようになった。出陣には早い時間なのだが、前半の出陣では完全に事件が解決しておらず後半でようやく真の黒幕を討つ展開や、前半の事件の影響で闇堕ちした者が的になっている展開などが見られる。例えば2022は序盤・中盤ではステレオタイプの悪党が登場するものの、後半の仕置の敵はまさに正義の暴走が招いた悪となっている。
ちなみに冒頭~最序盤で仕事人達の暗闘があると、大抵出オチ的に始末されるゲストまでいる。概ねお笑い芸人枠扱いであり、大抵「誰かと思ったらwww」といった反応があり、現在の必殺仕事人の妙な名物になりつつある。
登場人物
仕事人・裏稼業の関係者
現在のレギュラーメンバー
本名・通り名 | 表向きの職業 | 武器・得物 | ヤリ口・役割 | 演者 |
---|---|---|---|---|
渡辺小五郎 | 南町奉行所同心(2007~2010)→本町奉行所同心(2012~) | 大刀、脇差 | 大刀、脇差で斬る、刺す | 東山紀之 |
経師屋の涼次 | 経師屋・絵師 | 仕込み筆・劇薬(2007)→仕込み筆・錐(2009以降) | 顔に劇薬を塗りつける(2007)→仕込み筆から抜き出した長い錐を相手の肩口から深く突き刺して、心臓まで到達させ、血を体内に噴出させる(2009以降) | 松岡昌宏 |
リュウ | 僧侶見習い(2014)→人夫(雑役夫(2015)→蕎麦屋(2016)→植木屋(2020)→陣八郎の蕎麦屋の手伝い(2022)→魚の行商(2023新春)→大工(2023年末)) | 懐剣または脇差(2014~2019、2022~)、片鋏(2020) | 小柄な刃物で悪人の急所を突き刺す、切り裂く | 知念侑李 |
棗(なつめ) | 髪結師 | 紐(※1) | 標的の首に巻き付け絞殺 | 松下奈緒 |
花御殿のお菊 | 常磐津の師匠 | 無し(※2) | 仕事人の元締め、情報収集、頼みの請負人 | 和久井映見 |
※1…仕事人に加わるまでは夫の形見の刀を使用していた。
※2…基本的に実行役ではないからだが、実は情報収集時における護身用の武器として刃仕込みの扇子を持っている。
元レギュラーメンバー
本名・通り名 | 表向きの職業 | 武器・得物 | ヤリ口・役割 | 演者 | 出演作 | 退場理由 |
---|---|---|---|---|---|---|
中村主水 | 南町奉行所書庫番(2007)→自身番(2009) | 脇差 | 脇差で斬る、刺す | 藤田まこと | 2007~2009、以降は回想シーンのみライブラリ出演 | 上方へ異動 |
からくり屋の源太 | 玩具屋(2007)→板前(2009) | からくり玩具 | からくり人形を作動させ、それに気を取られている隙に、筒に仕込んだ紐付きの蛇の玩具を、相手の首めがけて飛ばして絞殺または刺殺 | 大倉忠義 | 2007~2009前半 | 殉職 |
仕立て屋の匳 | 仕立て屋 | 縫い針、縫い糸 | 仕立てに使う針と仕付け糸を投げて、首に絡ませ、絞殺 | 田中聖 | 2009後半~2013 | 自然消滅 |
瓦屋の陣八郎 | 瓦職人(2022では足の怪我が原因で蕎麦屋に転職) | 鏨(メリケンサック型) | 額を線を描くようになぞってから、その中心を突いて頭蓋骨を砕く | 遠藤憲一 | 2015-2023新春(2020には未登場) | 殉職 |
流しの仕事人(ゲスト)
通り名 | 表向きの職業 | 武器・得物 | ヤリ口・役割 | 演者 | 出演作 |
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玉櫛 | 白拍子 | 懐剣 | 懐剣で斬る、刺す | 水川あさみ | 2007、2009SP |
カルタのリキ | 用心棒 | 仕込みカルタ | 仕込みカルタを手裏剣のように飛ばし、喉元を切り裂く | 内藤剛志 | 2010 |
胡桃割りの坐坊 | 蕎麦屋 | 素手 | 秘孔を突いて、相手の自由を奪うと素早く首を掴み、喉笛を砕き、へし折る | 中村獅童 | 2013 |
安倍川の仙吉 | 仇討ち屋 | 仕込み杖 | 錫杖に仕込んだ刃で斬りつける | 高橋英樹 | 2012、2014(参戦したのは2014のみ) |
泣きぼくろのお宮 | 髪結師 | 琴爪、琴弦 | 琴の弦で拘束し、琴の爪で首を切り裂く | 山本美月 | 2015 |
雪丸 | 浪人 | 刀 | 標的を甚振る様に、滅多斬りにする | 中尾明慶 | 2023年末 |
小五郎の周辺人物
小五郎の家族
中村主水と同じく婿養子であるが、主水と違って嫁姑からは蔑ろにされていないものの、逆に色々と過保護に接せられる事に少々辟易している。また、主水同様に、子供に恵まれずに姑(義叔母)からそのことについて小言を言われるのはお約束。
小五郎の上司
これまでのシリーズ同様に主人公(小五郎)の上司は基本的に権力に弱い、所謂「長いものに巻かれる」タイプの人間で基本的にコメディリリーフである。
小五郎の相棒
表稼業では煙たがられる事の多い小五郎の数少ない理解者にして親密な同僚でやはりコメディリリーフである事が多い。一方で、その立ち位置と裏腹に「2020」の時点の相棒の住之江を除く2名の歴代の相棒はいずれも突然にシリアスな境遇に立たされた末に非業の死を遂げてしまっている。
本名 | 役職 | 演者 | 出演作 |
---|---|---|---|
大河原伝七 | 南町奉行所同心 | 福士誠治 | 2007~2009 |
結城新之助 | 南町奉行所同心(2010)→本町奉行所同心(2012~2016) | 田口浩正 | 2010~2016 |
住之江彦左衛門 | 本町奉行所同心 | 松尾諭 | 2018~ |
小五郎が始末した黒幕達
本名 | 役職・小五郎との因縁 | 演者 | 出演作 |
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権堂伊左衛門(※) | 浪人(小五郎の旧友) | 沢村一樹 | 2009(新春SP) |
風間右京乃助(※) | 幕府方勘定吟味役 | 小澤征悦 | 2010 |
弥勒坊燕斎 | 人足寄場『塵尽会』棟梁 | 高橋英樹 | 2012 |
小宮山泰山(※) | 小宮山診療処処長 | 里見浩太朗 | 2013 |
中之島頼政 | 幕府側用人 | 中村梅雀 | 2014 |
燕天 | 駆け込み寺『縁天寺』住職 | 竹中直人 | 2015 |
朝比奈藤十郎 | 幕府監察方番頭 | 安田顕 | 2016 |
壬生の幻楼 | テロ集団首領(小五郎の両親の仇) | 奥田瑛二 | 2018 |
上総屋清右ヱ門 | 豪商 | 西田敏行 | 2019 |
湯川伊周 | 本町奉行(小五郎の上司) | 市村正親 | 2020 |
明神亥ノ吉 | 岡っ引き(小五郎の配下)/自警団『世直し組』頭 | 岸優太 | 2022 |
天野景信 | 疫病改方長官 | 西村まさ彦 | 2023新春 |
豊川忠次&雪丸(※) | (豊川)作事奉行/(雪丸)仕事人 | 田山涼成/中尾明慶 | 2023年末 |
(※)…厳密には黒幕ではなく、その作品のメインの敵役である。
登場人物について
この20XX必殺シリーズにおいては、いわゆる仕事人の死の退場を物語で描写されたのは「玉櫛」「からくり屋の源太」「泣きぼくろのお宮」「瓦屋の陣八郎」「雪丸」の5名であるが、玉櫛、お宮、雪丸の3人は実質的にゲスト扱いに近く、レギュラーメンバーとしての殉職者は2009第12話で殉職した源太と2023新春で殉職した陣八郎の2人である。
「仕立て屋の匳」は特に説明もなく登場しなくなった(実情としては演者の大人の事情が強い)。
「カルタのリキ」「胡桃割りの坐坊」の2名は、それぞれ登場した回で小五郎達仕事人一味にその回限定で加勢したゲスト仕置人であり、「安倍川の仙吉」に至っては厳密には仕事人でもないが、2014において成り行きから小五郎達の仕事に加勢した為、ここに追記する。
雪丸は終盤で黒幕に個人的に雇われた事から寝返って小五郎の前に立ちはだかり、最終的に20XX必殺シリーズにおける初の『裏切り者』として粛清された仕事人となった。
また、演者の死去によるものでは先述の「中村主水」は殉職ではなく異動の形での退場、「渡辺こう」は演じた野際陽子同様に2019では前年に死去した設定であった。
ゲストの悪役が話題になった事もある。
2013での「小宮山泰山」役だった里見浩太朗は役者人生初の悪役への挑戦となったほか、2012・2014では「弥勒坊燕斎(悪役)」「安倍川の仙吉」を高橋英樹が悪役と仕事人(相当)の一人二役の形で演じた。2016に登場した「朝比奈藤十郎」の安田顕の場合は、視聴者達のSNSにて案の定というか水曜どうでしょうネタが溢れる始末だった。2019にて「上総屋清右ヱ門」で出演した西田敏行は、必殺仕事人で斬られる役になる事をものすごく喜んだとのこと。しかも妙にコメディチックな命乞いのシーンは全てアドリブだったとのことで、撮影後にスタッフから笑い声が上がった時はホッとしたらしい。
2022では上述の冒頭における“出オチ”要員の的である悪代官「中野市太郎」として安田大サーカスのクロちゃんが出演。出番が終わった後にTwitterにて「仕事人側(として出演する)と思ってたのに、なんなのぉー」と文句を垂れるも、すぐにフォロワー達から「大根髭ダルマ」「成敗される側で正解」「ドラマの中でまでセクハラすんな」「出してもらえるだけいいだろ」「テレビ朝日系から出禁になりますように」等と、(いつもの如く)ボロカスに貶される有様だった(皮肉にも彼が出演した2022の話のテーマは『SNSの闇』であった)。
特に里見は「水戸黄門」で二代目格さん・5代目の黄門様、高橋は「桃太郎侍」といった有名な作品でそれぞれ主役を演じていた事があり、その点でも話題となった。また、基本的に善良な人物の役を持っていた西田は前々からアウトローな役を渇望していた事もあり、2019以前で「アウトレイジシリーズ」でこれまでのイメージを覆す役柄(悪党)を演じており、これが初の悪役ではなかったが、これまでのイメージとアウトレイジで培った新境地を併せ持った役柄を演じた。
2023新春ではDJKOOがサングラスにニット帽、更には「YO-YO-YO」といったおおよそ江戸時代に似つかわしくない風貌と言動で視聴者の笑いを誘った。
同年末にはヴァンビ、ティモンディ高岸、おいでやす小田が標的になった(役柄は押し込み強盗の一味)