曖昧さ回避
- 黒澤明監督の『羅生門』をリメイクした1964年公開のアメリカ映画。邦題は『暴行』。
- 2009年に公開されたカービー・ディック監督のドキュメンタリー映画。隠れゲイでありながらゲイを弾圧する政治家の欺瞞を告発するという内容で、タイトルはアウティング(=暴露)とかけている。町山智浩が日本に紹介した際には『クローゼット』という邦題がつけられたが、これは性的マイノリティを公表していない状態を表す隠語である。
- 1988年にデビューした日本のヘヴィメタルバンド。OUTRAGEも参照。
- これを元ネタとしたデュエル・マスターズの種族→アウトレイジ(デュエル・マスターズ)
- 北野武監督の作品。本記事で解説。
概要
北野武の15本目の監督作品であり、R15+指定として年齢の視聴制限を受けている。北野監督いわく、どうやって人を殺そうかというプロセスを先に考え出し、それに対しストーリーを後付けしたとのことである。ヤクザの抗争が主軸の話であり、凄惨かつ過激な暴力や拷問の場面が大半を占める。
キャッチコピーに「全員悪人。」とある通り、登場人物に誰一人として善人が存在しない。劇中には常に罵声が飛び交い、特に「バカヤロー」「このヤロー」は本シリーズの代名詞となっている。
北野映画としては初めて続編が作られ、2012年に『アウトレイジビヨンド』が公開され、2017年には第3弾『アウトレイジ最終章』が公開される。
あらすじ
関東一円を支配する巨大暴力団・山王会の関内会長は、傘下の池元組が違法薬物を扱う村瀬組と兄弟杯を交わして親密になっていることを快く思っていなかった。そこで関内の右腕・加藤はこの2つの組を仲違いさせようと企て、池元に対して「村瀬を締めろ」と命令を下す。
兄弟分の村瀬に手を出せない池元は、配下の大友組に村瀬組のシマに事務所を出し、「揉めているように見せる」よう命令する。大友組は村瀬組のぼったくりバーに組員をわざと引っ掛からせ、半ば強引に飲み代を受け取らせることで両者の間に諍いを起こす。しかし、大友組の行き過ぎた行為と村瀬組若頭の木村の予期せぬ反撃によって、双方に死者を出すまでに泥沼化してしまう。抗争が激化する中で、大友は池元の二枚舌や山王会の思惑に翻弄されながらも、不本意ながら村瀬を襲撃し重傷を負わせ、大友組は村瀬組を締めることに成功し、村瀬組は加藤の提案を渋々承諾する形で解散する。
自分の手は一切汚さず、詫び金を全て懐に入れる池元の行動に不愉快を覚えつつ、大友は村瀬のシマを事実上継承し、新たな事業に乗り出す。村瀬組組員から聞き出した情報を元にグバナン共和国の大使を脅迫し、乗っ取った大使館に開いた闇カジノで成功を収めた大友組は莫大な利益を得る。一方、村瀬が隠れて麻薬を売っていることが発覚し、池元に唆された大友は村瀬を殺害する。
…ところが、このことを口実に池元は大友に破門を言い渡し、大友はついに怒りを露わにする。
大友は復帰のため、小指を詰めて関内の元を訪れ許しを請うが、逆に関内は池元の殺害を唆す。そこで大友は悪びれず闇カジノを訪れていた池元を殺害する。
闇カジノを狙っていた関内は、今度は池元組若頭の小沢に「組を継ぎたければ親の仇を討て」と煽り、大友組と池元組の抗争を仕掛ける。本家の手助けも得た小沢は、次々と大友組の組員を殺害し、彼らを追い詰めていく。
登場人物・キャスト
生き残ったキャラクターの末路は続編のページも参照。
山王会本家
関内(演:北村総一朗)
関東最大勢力を誇る巨大暴力団“山王会”会長。
表向きは好々爺の如く振舞うが、その本性は至って狡猾であり、自身は一歩も動くことなく加藤を使って命令を下す。
直属配下の池元組が山王会に所属していない村瀬組とつるみ、薬物売買で儲けていることが気に入らず、両者の間に争いの火種を生むきっかけをつくる。
大友組が村瀬組から奪った領地でカジノ経営を成功させると、そこを本家直属とするため、それぞれに都合のいい嘘を吹き込んで池元・小沢・大友の共倒れを図る。
自身の知略に強い自信を覗かせていたが、計画が成就してほくそ笑んでいたところを、加藤に裏切られ、射殺された。
加藤(演:三浦友和)
山王会本家若頭。関内会長の右腕として様々な命令を部下に下す。
関内にはきつく当たられながらも黙って従うが、村瀬に擬似的な引退をもちかけて後に村瀬組が完全崩壊する遠因を作ったり、片岡・石原と個人的なパイプを持ったりと、関内の目の届かぬところで着々と地盤を固めていく。
小沢と大友組の抗争が勃発すると、小沢をサポートして大友組を追い詰め壊滅に追い込む。抗争終結後に本家を訪れた小沢と関内を射殺し、その罪を小沢に着せて自身は会長の座へとのし上がった。
池元組
池元(演:國村隼)
山王会池元組組長で、今回の全ての元凶的存在。
私欲の塊のような男で、関内会長には媚びへつらいながら配下の大友組に汚れ仕事を丸投げし、己の利益や欲望のためならば平気で矛盾したことも言ってのける下劣な二枚舌の持ち主。村瀬組との付き合いを本家に注意された今回の一件も全て大友組に押し付け、自身は何もせず、嬉々として侘び金を懐に収めていく。
兄弟分である村瀬のことも完全に金づるとしか見ておらず、利用価値が無くなったと判断すると大友に彼を殺害させるが、関内がそれを不服とするとあっさりと大友を破門し、大友組のシマを全て取り上げようとして遂に大友を激怒させてしまう。
しかし、それにもかかわらずその後も平気な態度で大友組のカジノに出入りを続けたため、関内の煽りを受けた大友にボディに強烈な一撃を喰らった上(恐らく肋骨を折られたと思われる)舌を噛み切らされ、動けなくなったところを射殺される。
遺体はグバナン大使と大友組の水野らによって大使館の自動車で運ばれ、河川敷に埋められた。
小沢(演:杉本哲太)
池元組若頭。
20年以上に渡り池元に忠義を尽くすが、内心では虎視眈々と出世を狙っている。
元々、大友に対し池元の引退を図ることを持ちかけており、さらに会長から盃を約束されて意志を固め、大友が池元を殺害する際には彼を見殺しにした。
その後、形の上では親分のカタキをとらなければ組長の座は与えられないと関内に諭されると、本家と連携を組んで大友組を皆殺しにする。
大友組を壊滅させ、池本組を継ぐことが決まるが、本家に挨拶に行った際に加藤に射殺され出世の願いは叶わぬまま関内殺しの汚名を着せられる。
大友組
大友(演:ビートたけし)
大友組組長。
池元組の下請けにあたり、面倒事は全て丸投げされている。
生粋の武闘派で、作中のメインキャラクターでは直接的な殺害数が最も多い。
池元の言いつけで村瀬組との間にいざこざを起こすため、組員を村瀬組のぼったくりバーにわざとひっかからせ、木村・飯塚に詫びを入れさせる。しかし、謝罪に来た木村をコケにした挙句顔をカッターナイフで切りつけるという武闘派故の過ぎた行為により恨みを買い、抗争に発展してしまう。
一度目の抗争では池本に唆されて不本意ではあるが村瀬を襲撃して引退に追い込み、後に隠れて活動していたことが判明した彼を池元の命令で今度こそ殺害。しかし、当の池元によって破門を言い渡されてしまう。
謝罪に赴いた本家で関内から発破をかけられるとついに池元も殺害するが、今度は小沢との抗争に発展。部下たちが次々と殺されていく中、大友は苦渋の末、刑務所に逃げ込むという選択をとる。が、そこで待ち構えていた木村によって復讐を受け、刺殺された………はずだったが。
水野(演:椎名桔平)
大友組若頭。
組長同様、残酷な行為もいとわない武闘派だが、大友には強い忠誠心を抱く。
およそ笑えるような状況でない時でも不敵な笑みを浮かべていることが多々あり、不気味な印象を与える。
作中では木村・飯塚を怒号で追い詰めたり、奪った村瀬組の領地を運用する過程で様々な人物を手際よく脅したり、薬の売人をかなり残虐な方法で締め上げたりと、多くの重要任務を果たす。
また、組の体裁を気にかけてもおり、池元に対してはしっかりとスーツボタンを留めてから接し、大友組の失態に語気を荒げた小沢の前では、不祥事の責任をとらせる形で組員を手酷く殴り倒した。しかし、小沢の上から目線の態度は受け入れなかった。
小沢との抗争の際は大友の命令により身を潜めていたが、居場所を突き止められ、小沢の部下によって作中屈指の残酷な方法で殺されることとなった。
北野監督は水野をいかにして殺害するかを気にしていたという。
石原(演:加瀬亮)
大友組幹部組員。
金庫番を務める。大友・水野のやり方とは相容れない現代的なインテリヤクザであり、頭脳を使って金を稼ぐ。自分以外の人間を見下しており、度々殴ってくる水野のことは特に嫌っている。
グバナン大使を脅した上でカジノ経営を任されるが、英語が使えることをいいことに売上金をごまかしており、薬の売上も横領している。
実は大友組にはもう一人英語を話せる組員がおり、彼から横領をネタにゆすりをかけられるが、関内の策略が明るみに出たタイミングで本家にカチコミをかけにいくと見せかけ、その組員を連れ出して殺害し、本家側に寝返る。他の大友組組員の居場所を本家のヒットマンに流しており、激しく嫌悪していた水野には自信が本家を手引きしたことを言伝していた。
古いやり方に見切りをつけている加藤と内通しており、加藤が会長となったラストシーンでは彼の側近の座に着き、経済ヤクザとして“山王会の金庫番”と呼ばれるまでになっていた。
安倍
大友組幹部組員。
ゴリラのようないかつい風貌をした幹部の一員で、水野とよく行動を共にしている。水野がヤクの売人を締め上げた際に、思わず目を背けたくなるような方法でリンチを加えた。
小沢たちの攻撃で次々と大友組の組員が殺害されていく中、大友に促されて遠くに逃げ去ろうとするも、小沢の手下に付け回されて居所を知られてしまい、あっけなく射殺された。
公開の翌年、演じた俳優がなんと窃盗の容疑で逮捕された。
岡崎
大友組組員。
ヤクザとは思えないような、普通のサラリーマンのような風貌をした組員。村瀬の経営するぼったくりバーをひっかける役目を果たした。気が弱そうな見た目とは裏腹に気が短く、同じ組の人間に軽い冗談のつもりで言われたことにムキになったりするシーンもある。
謝罪しに来た木村をコケにしてカッターナイフで指詰めを強要したり、バーを訪れては店員たちにタカったりするなど羽目を外した言動を続けて、木村や飯塚を含めたバーの店員たちの恨みを買い、最後には屋台で酔いつぶれていたところを連れ去られ、激しいリンチを浴びせられて死亡、遺体は大友組の事務所前に放置される。
上田
大友組組員。水野や安倍と同じく武闘派で、組の実働を担う。村瀬組との抗争では拳銃を使ってバーの店員を脅し、逃亡した飯塚の居場所を吐かせた。村瀬組のシマを取り上げた後は薬の売人の締め上げや、大使館を利用した闇カジノのボーイなどを務めた。最期は他の組員とともに喫茶店にいたところを本家のヒットマンが投げ込んだ手榴弾の爆発に巻き込まれ死亡した。
江本
大友組組員。他の組員とは違って物静かな男。岡崎が木村に拉致された際には酔い潰れて助けられなかったため、水野から理不尽な制裁を受ける。
闇カジノではディーラーを務めていたが、本家との抗争が激化すると売上を持って逃亡する。
逃げきれないことを悟って公衆トイレで拳銃自殺を図るが、後を追ってきた本家のヒットマンによって射殺される。
村瀬組
村瀬(演:石橋蓮司)
村瀬組組長。
山王会に所属していない弱小ヤクザ。主にぼったくりバーの経営や違法薬物の売買で稼ぐ。
池元とは兄弟の盃を交わした間柄であるが、彼からは完全に利用する対象としか見られておらず、山王会に入れるよう頼んでやるという嘘に踊らされながら金を吸い上げられており、内心では池本に恨みを募らせている。
大友組との抗争では歯医者で治療を受けている最中に襲われ、大友によってドリルで口の中をズタズタに傷付けられて、奇抜な治療器具をつけた異様な姿となる。その容姿は編集のタイミング・演者である石橋氏の表情のみの演技・高身長も相まって強いインパクトと笑いを誘い、一部ファンに“メカ村瀬”と呼ばれることもある。
その後、加藤の提案で表向きは引退し、裏でひっそりと活動を続けるが、それがバレるとついに池元に見限られ、大友によって組員と仲良くサウナを満喫中の所を射殺される。
今作で最も可哀想な人。
木村(演:中野英雄)
村瀬組若頭。
飯塚の付き添いとして大友組に謝罪へ向かう。しかし、そこで大友組との諍いを「つまらねぇ事」と言ってしまい、散々揚げ足を取られた上で岡崎と水野にカッターナイフでの指詰めを強要され、さらに大友に顔を切り刻まれる。後日、恨みに燃えた状態で岡崎を拉致して凄惨な暴行の末に殺害し、本格的な抗争へと発展するきっかけをつくる。
カタギになった上で再度、大友への復讐を成し遂げようとするが、水野に逆に追い詰められ、逃走する。その後、刑務所で大友を待ち構えており、彼を殺害した………はずだったが。
飯塚(演:塚本高史)
村瀬組組員。
ぼったくりバーで客の呼び込みと恐喝を担当するが、組長の兄弟分である池元組系列の大友組組員をひっかけるという大失態を犯してしまい、指を詰めて詫びを入れに向かう。
大友組により木村と共に手痛い仕打ちを受けた後、恨みを晴らす過程で大友組組員・岡崎を、木村と共に殺害してしまう。さらにそのケジメをつける形で、逃亡中に新幹線の中で静かに射殺された。
警察
片岡(演:小日向文世)
組織犯罪対策部(マル暴)の刑事。
大友は大学時代のボクシング部の先輩であり、今でも彼とは情報と金を交換する関係にある。大友曰く「ボクシングで勝ったの見たことねぇよ」。
一方で本家の加藤とも関係を持ち、彼からも金を受けとる。
真っ当な警察官とはとても言い難い人物で、一連の抗争では大友の犯行を証拠不十分としたり、加藤に警察の動向を教えたりと、暴力団との関係を私物化している。
一連の抗争が落ち着くと大友を説き伏せて自主させ、加藤に出世を果たした自身の後任を紹介する。
スタッフ
監督・脚本・編集 | 北野武 |
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音楽 | 鈴木慶一 |
衣装デザイン | 黒澤和子 |
大友組組長衣装 | 山本耀司 |
製作 | 「アウトレイジ」製作委員会(バンダイビジュアル/テレビ東京/オムニバス・ジャパン/オフィス北野) |
配給 | ワーナーブラザーズ/オフィス北野 |
主題歌・エンディングテーマ | 「Outrage(Finale)」鈴木慶一 |
余談
本文で少し触れているが、本作が公開された翌年に「安倍役の俳優がひったくりをやらかし、リアル『アウトレイジ』になってしまった」事を筆頭に、2作目以降も「出演した俳優の誰かが逮捕される」という妙な共通点が成立してしまった(2作目は新井浩文、3作目はピエール瀧)。
また、石原役には当初押尾学にする予定だったが「胡散臭いし、インテリヤクザな顔じゃない」という理由から没になった。
…それからこのあと彼がどうなったのかは、ここに書くまでもないだろう。
関連タグ
アウトレイジ→アウトレイジビヨンド
外部リンク
北野武監督「アウトレイジ」公式サイト←リンク切れです。