演:遠藤憲一
人物
『必殺仕事人2015』から登場する仕事人。
かつては表稼業では腕の良い瓦職人で、裏では花御殿のお菊と組んでいたが、何らかの理由で現在は職にあぶれ、妻である泣きぼくろのお宮の表稼業の髪結での収入やスリなどの軽犯罪で稼がせた金で賭場や遊郭に通うなど出鱈目な生活を送っている。
このように一見すればろくでなしで、昔なじみのお菊からも快く思われていないが、その実、山賊に故郷を襲われて独り身になっていたお宮を助けたり、女性を食い物にする悪人達に激しい怒りを顕にするなど、根は義侠心や義理人情に厚い性格の為、夫婦仲はとても良好で表裏問わず、良きパートナーとして抜群のコンビネーションを見せていた。
しかし、『2015』中盤で夫婦で請け負った仕事の最中に、悪人側に雇われていた凄腕の用心棒に襲われ、咄嗟に自身を庇ったお宮は殺されてしまう。
愛する妻を失ったショックで一度は自暴自棄になるも、お菊や涼次からの叱咤激励や、お宮と似た境遇の被害者の少女の姿を目の当たりにした事がきっかけで立ち直り、小五郎達と共に悪人一味を討ち取って、妻の無念を晴らし、そのまま小五郎達の仕事人グループに加わる。
同じ女と博打が好きという事もあってか、涼次とは特に気が合い、賭場で度々顔を合わせている。
一方、リュウに対しては涼次程ではないが、正義感を裏の仕事に持ち込みやすい彼を忠告したりしている。
『2020』には未出演であったが、その理由は劇中では特に説明されていない。
次作『必殺仕事人(2022年)』で再登場する。瓦職人としての表の仕事で釘を踏み抜く大怪我をしてしまい(劇中で明言されたわけではないが、『2020』で未登場だったのはそれが原因と思われる)瓦屋の仕事を一時休業することになってしまったため、田舎にいたころ蕎麦打ちをやっていた経験を活かし、新たに蕎麦屋の屋台をリュウを誘って始める事に。
(作中で職替えして屋台を始めた者には『必殺仕事人(無印)』にて侍から屋台おでん屋に転職した畷左門の前例がある。左門は同時に殺し技も変化したが、こちらの殺し技は特に変化しておらず、同作ではむしろリュウの方が特殊な殺し技を披露していた。)
この転職はあくまで一時的なものだったようで、けがの回復後、無事瓦屋を再開した。
ちなみに酒は飲めるが、酒をケチろうと店が薄めて出していたことに言われるまで全く気付かず絶賛して飲んでいたりするなど、味音痴気味なところがある。
また、足がかなり臭い様で、生足を自身の膝に乗せられたリュウは、鼻を抓みながら非常に嫌がっていた。
テーマ曲は『いざ行かん』(『必殺仕業人』より)。
殺し技
表の商売道具であるメリケンサックのような鏨(たがね)を用いて、瓦割りの要領で相手の額を線を描くようになぞってから、その中心を突く事で頭蓋骨を砕き、致命傷を負わせる。
『必殺からくり人・富嶽百景殺し旅』に登場した「どじょうの宇蔵」に似ているが、あちらが「魚籠のようなもので外から圧壊させる」のに対し、こちらは「標的の『核』を突いて一撃で破壊する」のが特徴。
標的を仕留める瞬間、その頭蓋骨にひびが入り粉々になる演出が標的の頭部に重なる形で現れる。
暗がりから相手を拘束したうえで行うことが多いが、『2015』や『2018』では徒手空拳の喧嘩殺法を使っての殺陣も披露しており、多くの仕事人と面識を持つお菊でさえその腕っぷしには一目置いている。
なお、出陣前には鏨の状態を確かめるためか、実際に何枚か瓦割りを行うことがある。
泣きぼくろのお宮
演:山本美月
陣八郎の妻で、異名の通りに左目の下にほくろがある。陣八郎とは親子程に年の差があるが、これは故郷の村を山賊に襲われ、一人だけ生き残ったところを、偶然、村を通りかかった陣八郎と出会い、陣八郎がお宮に握り飯を分け与えたことをきっかけにお宮が陣八郎に付いて行く様になり、そのまま道行きで夫婦となった為。
表の仕事は髪結いで、裏ではスリ。更に仕事人としては、琴の爪をつけ、急所を裂くという方法で、集団のやくざ者を舞うように叩きのめす格闘術を持つ。
過去に山賊に故郷を追われた経緯からか言葉が発せず、愛想が悪く見られるが、ちゃらんぽらんな陣八郎の事を心から慕っており、彼を悪く言ったり、軽蔑する者には強い敵意を示す。
一方、心中では陣八郎のアングラな稼業に嫌気がさし、彼が今の生き方を変えて夫婦として地に足がついた生活に変えようとしている時には喜んでいた。
しかし、最後の裏稼業で一稼ぎと言う矢先に、標的の用心棒から陣八郎を庇い、死亡した。
彼女の死後も陣八郎は裏稼業を続けることとはなったものの、彼女の願いを汲んでか、なんだかんだできちんと表稼業を持つようになっている。
なお、陣八郎の背中には彼女の生前より天女の刺青があるが、彼女の死後、この刺青の左目の下にほくろが彫り足されている。
その最期(『仕事人(2023年・新春)』での動向)
怪我から回復し瓦屋に復職した今作では、仕事先で幼なじみの町医者・酒井東庵(演:橋本じゅん)と再会する。東庵曰く「幼少期は共に貧しく、よくいじめられた自分を身を挺して助けてくれた」「その様はまるで仁王様のようだった」とのことで、前述の義侠的な性格はその頃からのものであったことが窺える。
そんな親友ともいえる東庵が「人様に顔向けできない生き方はしない」という自身との約束を守り“命を救う”医者という職に就いていたことを知り、対照的に自分が“命を奪う”仕事人である事実に陣八郎は思い悩む様子を見せるようになっていた。
ちょうどこの頃、江戸で流行していた謎の流行病『鬼面風邪』に自身も罹患してしまい、この病や上述の悩みが元で“仕事”中に手元が狂い、あわや標的を取り逃しかけてしまう事もあった(駆けつけた小五郎がトドメを刺したため事なきを得た)が、東庵を含めた周囲から何度治療を勧められても頑として聞かなかった(後に東庵へ語っていた内容から察するに、『人殺しの自分が都合良く死から逃れようとしてはならない』と考えていたようである)。
後に東庵が『鬼面風邪』の特効薬となる『鬼滅丸』(曰く、人気が出そうないい名前)を世に出すことに成功(実際は彼の助手である文代が調合法を発見)した際には誰よりも彼を祝福したが、その東庵は『鬼滅丸』を生み出すまでに積み重なった莫大な薬草代が原因でいつしか天野景信ら江戸養生所の悪事に抱き込まれており、やがて出世欲に目が眩み“命を救う”医者としての道を大きく違えた末に、止めようとした文代をその手にかけてしまう。
結果、文代の父・源蔵からの“頼み事”で東庵を含む江戸養生所の重役らが“仕事”の標的となるが、東庵が変わってしまった事を薄々察していた陣八郎は、お菊らに止められつつも、幼なじみをその手にかけることへの躊躇い、そして前述の鬼面風邪による体調の悪さを承知で自ら東庵を仕置する役を買って出た。
そして深夜、養生所の縁側で東庵と相対する。幼少期の「侍の真似事」を思い出させる打刀を持ち寄った陣八郎は、これを東庵に投げ渡したうえで自らの裏稼業を明かし、文代を殺めた彼の罪を糾弾した。
「あの世で詫びてこい。俺は金を貰って、お前を殺す」
その殺気に怯え、弁明し、自らの罪を棚に上げて彼に「外道」と言い放つ東庵に対し「お前の言う通りろくでもない生き方をしてしまった」「どうせ行きつく先は地獄」と一切言い訳をせず正面から仕留めにかかる陣八郎だったが、病の身で暗器を使う自身と刀を使う東庵とでは殺傷力の差は歴然であり、逆に東庵からの一突きを右脇腹に深々と喰らい、致命傷を負ってしまう。それでも執念で喰らい付き、遂に東庵に引導を渡した。
(言わずもがな『自らの裏稼業を明かす』ことは仕事人にとって禁忌であるうえ、自身の殺し技より扱いやすく殺傷範囲も広い刀を東庵に使わせたことから、退路を断ったうえで自らの死をも覚悟で正面から仕留めるつもりだった様子。『どのみち地獄へ落ちるなら、外道になり果てた友との道連れも悪くない』ということだったのかもしれない)
「悪いが、お前も道連れだ。閻魔の庁で、また会おうぜ…」
その後、“仕事”を終え養生所に駆けつけた小五郎らが目にしたのは、その中庭、閉じられた門の前で目を見開き、仁王立ちしたまま力尽きた陣八郎だった。
その仁王のごとき死に様を見届けた仲間達は彼の死を悼むとともに、最期まで悪を滅する夜叉=『仕事人』であり続けた彼を静かに労ったのであった。
彼の死後、愛用していた鏨はリュウが引き受けることとなった(町人から鏨のことを尋ねられた際、リュウは『旅立ってしまった友人からの預かり道具』と説明している)。
次作『仕事人(2023年・年末)』では墓も兼ねているらしき祠が建てられており、同作終盤にてリュウの手により鏨がそのご神体として奉納されている。なお本作では、悪人に弄ばれた挙句、その手先によるデマと、手先と町民によるバッシングで破滅させられ自害にまで追い込まれた被害者が出ており、『2022』で「根も葉もない噂を流すは人殺し」なる涼次の描いた皮肉混じりの落書きを町民たちの前で読み上げた陣八郎の糾弾もむなしく、またも同様の悲劇が起きてしまうこととなった。
なお、この死については、初報の段階で「仕事人の誰かがいなくなる」とあり、その後この作品をもって卒業すると発表される形で示唆されていた。
余談
演者の遠藤憲一は『必殺仕事人Ⅴ』最終回にて、中村主水に始末されるメインの悪役として出演しており、実に30年ぶりとなる必殺シリーズへの再登板、それもレギュラーの仕事人としての出演となった。このためか、上述の殉職シーンにおける演出もそれを意識したものとなっている。
ちなみに同様に悪役を経たうえで必殺シリーズの主要キャラとして再出演した役者には、シリーズの名悪役として名をはせたのち『必殺橋掛人』の主人公・柳次を演じた津川雅彦や、数回の悪役出演の後におなじみ三味線屋の勇次を演じた中条きよしがいる。
関連タグ
からくり屋の源太:かつて小五郎たちと組んでいた仕事人の一人にして、陣八郎と同じく劇中で殉職した裏稼業者。「その最期に裏稼業への苦悩が関わる」「最後の仕事で相討ちとなる」といった点では共通するものの、「最後の仕事」に際しての心境などの本質的な部分では、似ているようで意外と対照的である。