必殺口上
あんた この世をどう思う
どうってことねえか
あんた それでも生きてんの
この世の川を見てごらんな
石が流れて木の葉が沈む いけねえなあ
面白いかい
あんた 死んだふりはよそうぜ
やっぱり木の葉はぴらぴら流れて欲しいんだよ
石ころはじょぼんと沈んでもらいてぇんだよ
おいあんた 聞いてんの
聞いてんのかよ
あらぁ もう死んでやがらぁ
はぁ… 菜っ葉ばかり食ってやがったからなぁ
(語り:宇崎竜童)
概要
1976年1月~同年7月に放送された必殺シリーズ第7作。全28話。
中村主水が主要人物として登場する4作目の作品である。
前作『必殺仕置屋稼業』最終回から1年後を舞台としているが、主水をはじめとする登場人物の境遇なども相まって前作よりも世の無常さを示す描写が多い。
また、仕業人の目的や人間関係についても前作と比べ金銭面に重きが置かれており、加えて前作と異なり仕事を斡旋する役割限定の者がいない事から、仕置料の扱いも「メンバー4人が各々仕事を請け負う役割を持ち、依頼を受けた者が4割、他の面々が2割を貰う」システムとなっている。このため、基本方針は全く変わらないものの「それが決まりだから」仕置料を徴収していた前作と比べ「自分が生きる為」という側面が強い。
メインキャストでは前作から引き続き藤田まことや渡辺篤史が出演するほか、かつての対抗番組『木枯し紋次郎』にて主演を務めた中村敦夫がレギュラー出演している。
サブタイトルは語り手の宇崎が所属するダウン・タウン・ブギウギ・バンドの当時のヒット曲の歌詞に倣い「あんた この〇〇(を)どう思う」で統一された。
オープニングでは上述のナレーションとともに彼の写真をもとにしたコラージュの映像が流れる。
主な登場人物
仕業人
- 中村主水(演:藤田まこと)
ご存じ必殺シリーズの顔と言える人物。前作に引き続いて主役を務める。
前作『必殺仕置屋稼業』最終回にて、闇稼業どうしの抗争により奉行所に拘束された仕置仲間の市松を失態を装い逃亡させた結果、失態の責を問われ閑職である牢屋見廻り同心(現代で言う刑務官)に左遷されてしまった。このため色褪せた服や目立つ無精髭など、前作より荒んだ印象の風貌となっている。仕置屋にて依頼引受人だったおこうの遺言に従い、印玄殉職・市松逃亡後も捨三や新たに加入した又右衛門とともに闇稼業を続けていた。
当然家計の状況は今までに輪をかけて厳しく、相変わらず嫁姑にいびられつつも副業による収入確保のため奮闘している模様。
仕業には自身の刀による剣術を用いており、これにより相手を一刀のもとに斬殺あるいは刺殺する。強敵や複数の敵を相手取ることが多い一方、直接手を下さず己の身分を利用し仲間のサポートを行う場合も少なくない。
- 赤井剣之介(演:中村敦夫)
本作のもう一人の主人公。本名は「真野森之助」。
元々は上州沼木藩の藩士で許嫁もいたが、惚れ込んだ旅芸人のお歌のため人(シナリオではお歌の旅一座の親方で、お歌の情夫。恐らく立場を利用してお歌を虐待していた悪人と思われる)を殺め脱藩し、彼女とともに逃亡生活を送っている。
脱藩してしばらくは各地を転々としていたが、信州諏訪宿にて江戸から逃げ延びた市松と出会い、彼とともにあるゴロツキを始末。その際に彼から主水のことを教えられたことで彼を頼って江戸にやってきた。当然生活は困窮しており、初登場時には初対面の役人(自分を探してると言われ警戒して肯定しなかった主水)に対し、いきなり「あのう…金貸せ」とストレートに言う(ついでに『袖の下』にまで堂々と言及する)不器用さを見せている。
なお、主水にもかって仕置人の仲間たちが江戸を逃亡した折に、武士を捨ててまで皆と共に逃げようと考えた過去があり、お歌の為に武士を捨てた剣之介はある意味、捨てられなかった主水にとってはその生き方を羨望する存在であった。
表稼業では身バレしないよう顔に白塗りを施したうえで(中盤からはお面を被るようになる)お歌が三味線を弾くなか竹光での居合を見せる大道芸人をやっているが、元来の堅物で不器用な性格も相まってあまり受けは良くない。だが本人はあまり気にしておらず、その日暮らしの日々を受け入れている様子。
当初は武士の気質が抜けきっておらず、主水に借りた金を裏の仕事の前に命を無くすかも知れないからと返す義理堅さがあったが、次第に皆に染まり、裏の仕事に参加もしないのに食い扶持が無いからと前借りしたり、二人殺したからと余分に金を持っていたり、又右衛門に金を無心したり、お歌が世話した相手の将来を思って謝礼を受け取らなかった折には文句を言ったり、見物料に二分銀が入っていると相手が間違えたと取り返しに来るのを恐れてその場を急いでずらかったりと金に執着するようになる。
仕業には剃刀付きの指輪を用いており、これで相手の髪結を斬りほどきそのまま髪の毛で首を絞める技を得意とする。なお実は主水に匹敵するほどの剣の腕前だが、上述の経緯から「武士を捨てた身」と考えており、まず使うことはない。
- 又右衛門(演:大出俊)
本編開始時にすでに主水とともに闇稼業を行っていた人物。通称「やいとや」、本名は「政吉」。
上方の出身。やはり闇稼業に関わっていた両親を幼少期に「裏切者」として目の前で始末されたが、その下手人である吉五郎の「子供に罪はない」との温情により死を免れ、自身を引き取った彼のもとで育った。
表稼業では鍼灸師をしており、人当たりの良さから評判は良いようだが、プレイボーイを気取る気障で好色な一面があり、客の女性にちょっかいを出したことも。
裏の顔では吝嗇で、仕業人随一のリアリストかつ実利主義者としての言動を度々見せ、仲間との協調性も無く、一言多い嫌味も煙たがられている。
その一方で口の割には腕っぷしはからっきしで、標的に返り討ちになりそうになった事もある。また、おみくじを当たりが出るまで引き続けたり、縁起悪いものに出くわすと途端に仕事に支障をきたしたりと、病的なまでにゲン担ぎに拘る性分も持っている。闇稼業の前に必ず縁起を担ぐシーンは本作の見どころの一つ。
幼少期の経験からか家族を持つ事をどことなく拒絶している節があり、その反動かお歌を内縁の妻に持つ剣之介とはそりが合わない面がある。
だが、それと同時に江戸に越して初めて住んだ長屋の連中に月に一度無料で針治療を施したり、顔見知り程度の知人の為にお節介を焼いたり、自分に懐いた身寄りの無い子を引き取ったりするなど優しい一面も見られる。
また、江戸で香具師の元締めとなっていた吉五郎改め弥蔵に裏仕事の標的という形で再会した時は、死んだと聞かされていた弥蔵が生きていた事に感極まっていたが、やがて彼が昔とはすっかり変わってしまった事を理解し始めるも、育てて貰った恩義から殺せず、彼の標的である子供・太吉の引き渡しを拒んだ為に巻き添えで命を狙われる事となってなお、積極的に弥蔵を殺そうとはしなかった。だが、弥蔵が太吉を手に掛けようとした際に、「くっそーっ! 子供まで殺す外道に成り下がっちまったか!」と相手が完全に自分の知る「おやっさん」ではなくなってしまった事を遂に認め、この時には「今度の仕事は金は要らねえ! こいつは返しとくぜ!」と仕事料を主水達に突っ返してでも自ら始末に乗り出そうとする熱い面も覗かせている。
仕業には鍼灸用の針を用いており、その手段は、針を携帯用の火種で真っ赤に熱したうえで相手の急所に一瞬で突き刺して痙攣させ、引抜いた瞬間に相手が絶命する、というもの。暗がりや障子の向こうからの一撃、場合によっては表稼業を利用し相手に取り入ってからの奇襲、痺れ薬を塗った針で刺して相手を麻痺させてからの一撃など、自分の非力を熟知した上での用心深い殺しを行うのが特徴。
- 捨三(演:渡辺篤史)
仕業人の密偵。
本作では洗い張り屋(いわゆる洗濯屋の一種)に転職している。
前作に引き続き仕事場をアジトとして提供し、情報収集・調査を担い主水たちをサポートする。
前作からのその働きぶりから必殺シリーズ最高の密偵とも評価されているが、直接手を下す事はしない為にチームの中で一番常識人的な面があり、人殺しの仕事をしたがる又右衛門を「あいつ、怖い奴ですぜ」と評して主水に「この仕事をする奴は多かれ少なかれそんなものだ」と窘められた事もある。
今作では前作での市松に対するように又右衛門に反発する事が多いが、口だけは強気で達者な又右衛門に抑え込まれている事が多い。
- お歌(演:中尾ミエ)
剣之介の内縁の妻。
彼の脱藩のきっかけを作った女芸人で、彼とともに江戸を訪れた。
元々旅芸人だったこともあってか、剣之介との芸ではやはり彼女の行う部分の方が観客からの受けが良いが、剣之介を立てた芸をするので総じて受けは悪い。
また、剣之介の脱藩の原因となった負い目からか彼の身を案じており、それゆえに時に大胆な行動に出ることも。
江戸に出て程なく沼木藩主の奥方が起こした事件に巻き込まれ、その際に剣之介に仕事も兼ねて助けられたことで仕業人の仕事内容を知り、以降協力することとなる。直接関わることこそ無いものの、おとりや裏方といった形で剣之介のサポートをすることが多い。
南町奉行所牢屋敷
- 島忠助(演:美川陽一郎)
定年間近の老同心で、主水の同僚。
主水に対しても好意的に接しており、事件の背景が彼の言葉から浮き彫りになることも。
なお、演じる美川氏が急逝したため、中盤までの登場となったと同時に本作が彼の遺作となった。
- 出戻り銀次(演:鶴田忍)
軽い罪を犯しては牢屋敷によく連行されてくる男。
いわゆる小悪党だが、主水たち役人を軽んじてはおらず、罪を犯す快楽に溺れているわけでもない。つまりは「外で暮らすより衣食住足りている刑務所にいたほうが楽」と考えている傍迷惑なタイプ。
その他
- 中村せん(演:菅井きん)
主水の姑。下宿に用いだした離れに住む下宿人に頭を悩ませている。
- 中村りつ(演:白木万理)
主水の妻。せんとともに内職の傘張りに明け暮れている。
- お澄(演:二本柳俊衣)
下宿人その1。回船問屋の主人と愛人関係にある。金遣いが荒くせんとりつから疎まれていたうえ、その深すぎる男女の仲に主水一家が辟易した結果、主水から頼まれた又右衛門の一芝居に乗せられる形で引っ越していった。
- 間借りの玄覚(演:田渕岩夫)
下宿人その2。せんの紹介で下宿を始めた祈祷師で、怪しげな言動に度々及んでは主水一家を振り回す。度が過ぎてせんが負傷する事態になったため短い期間で追い出された。
- 千勢(演:岸じゅんこ)
下宿人その3。聡明な若い女性で、程なく中村家で塾を開くようになり、せんやりつからも好感を持たれていた。一方で春画集めの趣味があり、おかげで主水とも意気投合している。こうした事情により比較的長く下宿していた。
余談
タイトルの「仕業人」の名は視聴者から募集し決定されたもので、劇中でも中盤以降に主水たちの集団や他の闇稼業者たちを示す通称として用いられるようになった。
剣之介を演じた中村敦夫は前作にて疾風の竜役でゲスト出演したことがあり、実はそちらのほうが『木枯し紋次郎』のイメージに近かったりする。
また旅役者を始末する仕事を受けた時に主水、やいとやと共に剣之介が渡世人の格好をして標的を追いかける話もあった。
ちなみに中村はのちに『翔べ!必殺うらごろし』にて主役である「先生」を演じている。
第26・27話には又右衛門がほとんど登場しないが、これはこの2話分の撮影が最終回撮影後に急遽行われ、又右衛門役の大出俊の撮影スケジュールが確保できなかったためとされている。
ちなみにこの2話分の撮影が後から行われた理由については、次作『必殺からくり人』のメインライターである早坂暁が遅筆で脚本がなかなか仕上がらなかったことが原因との説があるのだとか。
なお、早坂は本作における必殺口上の作成も担当している。
第24話はシリーズ200回目の節目であり、記念として過去作でレギュラー出演した役者(緒形拳(藤枝梅安、知らぬ顔の半兵衛役)、中村玉緒(おくら、おこう役)、野川由美子(おぎん、鉄砲玉のおきん、お吉役)、沖雅也(棺桶の錠、市松役)、田村高廣(中山文十郎役)、中谷一郎(辻平内役)、石坂浩二(糸井貢役)、三島ゆり子(妙心尼役)、草笛光子(嶋屋おせい役)、大塚吾郎(源五郎役))がカメオ出演した。
それを意識してか、この回の内容そのものも『必殺仕置人』などを思わせるものとなっている。
関連項目
必殺シリーズ
必殺仕置屋稼業(前作) → 本作 → 必殺からくり人(次作)
新必殺仕置人:中村主水シリーズとしての次作はこちらに当たる。