新生の鼓動よ響け。
少女は今、青色(はじまり)の魔法を開く。
概要
原作は1996年頃に執筆された、奈須きのこの未発表・未完成だった同名伝奇小説である。
奈須による未発表作品の中でも著名な作品であり、発表が期待されていたが、2008年4月4日にTYPE-MOON公式サイトで製作が発表された。Character materialで一部紹介されたキャラクターデザインは武内崇が担当していたが、製作に当たってこやまひろかずが担当する事になった。
『月姫』、『Fate/stay night』、『空の境界』に連なる奈須の世界の原点にして雛形とされる作品である。
『月姫』に登場した魔法使いの蒼崎青子を主人公とし、『空の境界』の蒼崎橙子もメインキャラクターとして登場する。また舞台となる三咲町は、同人版の『月姫』の舞台でもあった。
原作者である奈須きのこ曰く、TYPE-MOON作品の入門編として一番向いている作品であり、移植版の発売後インタビューでも「10年経ったいまでも自分たちの中では頂点にある作品」と評するなど、公式自身がTYPE-MOONの最高傑作と認める作品である。
特徴
その作風を一言で表すなら、ジュヴナイル伝奇あるいは雑居物語。奈須きのこ曰く『少年少女が恋を知る以前,人生を決定する前に交差する一瞬を描いた話』であり、そうした部分を大事にするために18禁要素を避け、全年齢作品として作られている。
戦闘シーンだけではなく日常シーンもかなり丁寧に作られており、80年代の緩やかな時間、穏やかで静かな空気など、抒情性にもこだわっているという。
他のTYPE-MOON作品のようにエンターテインメント性を追求した作品ではなく、そういったゲーム性を一旦切り離し、テキスト・グラフィック・サウンドといった要素を極限まで研ぎ澄ませた、いわば工芸品、あるいは質の良い映画のような位置づけである。
このような作品に仕上がったのは、奈須氏がライトノベルやゲームがメディアミックスによりアニメ化されること自体が目的になっていると居心地の悪さを感じていたことがきっかけであり、後に『ゲーム,小説がアニメという完成形への途中だと言われている気がして。そうじゃないんだ,これで完成形なんだと,胸を張って言える世界を作りたかった。』と語っている。
そのため知り合いのライターから「映像化不可能とかいう謳い文句は何度も見てきたけれど,これは映像化する必要がそもそもない」と感想を言われた時には『その言葉に凄く救われた』という。
シナリオ量は『Fate/stay night』の1/3程度、全キャラCV.なし、ルート分岐なし(番外編『誰も寝たりしてはいいけど笑ってはならぬ』まで選択肢自体がない)と、これだけを聞くと手抜きではないかと感じられるかもしれない。
しかし本作の最大の特徴は、ノベルゲームでありながら三人称視点で話が進行するところにある。
通常のノベルゲームのように主人公の目線で話が進行するのではなく、元々は一人称視点用に作られた絵素材をスクリプト・演出担当のつくりものじ氏が再編集、映像のように動かすことにより、イベントCG自体がほとんどないにもかかわらず全編がイベントCGで構成されているかのような演出を達成している。
複数のキャラクターが並列に並ぶ演出もほとんどなく、キャラクターを手前と奥に配置し、ワンクリックで視点が切り替わるなどの工夫が為されている。
これらの演出は原作の小説が三人称で執筆されていたことが関係しており、従来の一人称視点での演出では『魔法使いの夜』の世界観をうまく表現できなかったため。テキストを主軸に据えた上でグラフィック、音楽などを組み合わせることにより小説、映画とも違う特異な体験をユーザーに提供することを目的としている。
なお、製作陣は本作をきっかけにスクリプターという役割が日の目を見ることを期待していたが、つくりものじ氏のそれがあまりにも離れ業すぎたこともあり、他のメーカーはおろか後続のTYPE-MOON作品からも同じような演出を行う作品は殆ど生まれていない。
これに関する逸話として、月姫リメイクは当初、演出をFateの延長程度に留めてゲームの満足度を引き上げる方向性で作っていたが、魔法使いの夜とのクオリティー差に悩まされたことで最終的にクオリティーを引き上げ、それでもなお発売後のインタビューでは奈須きのこが「まほよ」の豪華な演出を期待してた皆さんには申し訳ないです。と発言したというものすらあるほどである。
このため型月ファンの間でも、本作は発売時期も相まってオーパーツ扱いを受ける事が非常に多い。
〈画面演出〉
(以下の動画は移植版の体験プレイ記事からの引用だが、画面演出は2012年発売のPC版と同一であるため、こちらに掲載する)
移植化
2021年12月31日に放送されたFate Projectの特番で、PS4とSwitch用のゲームとして発売する事が発表。画面の高画質化に加え、なんとフルボイスで移植される。
このフルボイス化によって作品の雰囲気が変わらぬよう、出演声優にはアニメではなく邦画のような自然体の演技が求められたとされている。
発売日時は2022年12月8日。
〈解禁映像〉
〈第1弾PV〉
〈第2弾PV〉
ストーリー
―――坂の上のお屋敷には、二人の魔女が住んでいる―――
1980年後半。華やかさと活力に満ちた時代の黄昏時。
都会に下りてきた少年は、現代に生きる二人の魔女とすれ違う。
少年はごく自然に暮らしてきて、
彼女は凛々しく胸を張って、少女は眠るように隠れ住んで。
三者三様の星の巡り。
交わることなんてもってのほか。
何もかも違う三人の共同生活が始まるのは、あと、もうちょっと先の話―――。
登場人物
主要キャラ
- 蒼崎青子(あおざき あおこ)
CV:戸松遥
現代に生きる魔法使い。ただし見習い。中学校までは魔術世界とは関わりのない日常を送っていたが、高校入学から魔術師として祖父の遺産を継ぐ事になった、もと、フツーの女子高生。
気丈で負けん気の強い性格が幸いして、なんとか魔術師としての生活をこなしている。信じた事はとことんまでつっぱる姉御肌。
特別なようでいて、どこにでもいる女の子。
- 久遠寺有珠(くおんじ ありす)
CV:花澤香菜
現代に隠れ住む魔女。最後の鳥。生まれついた時から魔術世界に生きてきた、生粋の魔女。とある事情から故郷イギリスを離れ、日本の地方都市に住み着いた。
現在、お嬢様学園と名高い礼園女学院に通っている。無口で、他人と関わりたがらない為、独りきりでもなに不自由なく暮らしている。信じた事はひたすら胸に秘める浪漫主義。
特別なようでいて、そうでもない少女像。
- 静希草十郎(しずき そうじゅうろう)
CV:小林裕介
山奥から上京してきた平凡な田舎少年。
純朴で世間知らず、山での生活に郷愁と後ろめたさを持つ「いい人」。
ふとした事から蒼崎青子らの秘密を知り、紆余曲折を経て、口封じのために彼女らとの同居を強制させられることになる。
三咲高校
- 槻司鳶丸(つきじ とびまる)
CV:深町寿成
青子たちの通う高校の生徒会副会長。理事長の息子であだ名は「ヤンキー殿下」。
- 久万梨金鹿(くまり こじか)
CV:安済知佳
青子の高校の友人。生徒会会計。クールで男子に対して辛辣。
- 木乃美芳助(きのみ ほうすけ)
CV:梶川翔平
草十郎のクラスメイト兼バイト仲間。陽気で、計算高く、女の子好きで、ちょっと足りない。
- 山城和樹(やましろ かずき)
CV:日野聡
私立三咲高等学校の教師。
合田教会
- 文柄詠梨(ふみづか えいり)
CV:手塚ヒロミチ
合田教会の司祭代理にして神父。
- 周瀬律架(すせ りつか)
CV:伊藤静
合田教会で働いている女性。唯架の双子の姉。
- 周瀬唯架(すせ ゆいか)
CV:松井暁波
合田教会のシスターで、律架の双子の妹。
魔術世界
- 蒼崎橙子(あおざき とうこ)
CV:青木瑠璃子
蒼崎家の正当後継者と目され英才教育を受けた青子の姉。
- ルゥ=ベオウルフ(Lugh Beowulf)
CV:種﨑敦美
橙子の使い魔として契約している人狼。
- ロスト・ロビン・ロンド(Lost Robin Rondo)
CV:福圓美里
有珠が所有している使い魔・プロイキッシャーの1体である青いコマドリ。通称「ロビン」。
- トゥィードルディー
CV:春野杏
- トゥィードルダム
CV:永塚拓馬
有珠が所有しているおしゃべり双子の使い魔。
- メイ・リデル・アーシェロット(May Riddell Archelot)
CV:高森奈津美
世界的なアイドル歌手・リデルリドルとして活動している、魔術師の少女。
スタッフ
シナリオ・監督 | 奈須きのこ |
---|---|
キャラクターデザイン・原画・グラフィック総監督 | こやまひろかず |
メイングラフィック | 蒼月タカオ、下越 |
グラフィック | 武内崇、BLACK、砂取音幸 |
演出・スクリプト | つくりものじ |
メイン背景美術 | ゆうろ |
プログラム | Kiyobee、AZ-UME |
音楽 | 深澤秀行、芳賀敬太、James Harris、hil |
EDテーマ | supercell「星が瞬くこんな夜に」 |
ロゴデザイン | WINFANWORKS |
制作サポート | 笹谷徳郎、戸髙宇環、OKSG |
企画・制作 | TYPE-MOON |
劇場アニメ
2021年12月27日にて、アニメ映画化する事が突如発表された。
制作は空の境界やFateシリーズ、そして月姫リメイクのOPアニメーションといった、型月作品のメディア展開ではお馴染みの『ufotable』が担当する。
〈ティザーPV〉
余談
2024年4月にFate/GrandOrderにてコラボイベントが行われた。
まほよ本編の同窓会的な内容ではあったのだが、その中でまほよ本編にて開示されていない設定やキャラ描写がなされた。
その後更新された竹箒日記にて奈須氏は
「 今ある情報だけで性能をあてこんだらあまり魅力的にはならなかったので、開き直って全部やる事にしました。
気持ち的には『魔法使いの夜 6』くらいで」
と語っており、少なくとも奈須氏の中には明確に続編の構想と制作意欲があるものだと思われる。
とはいえ、奈須氏はFGOをはじめとして多くの仕事を抱える身故に、すぐに取り掛かれるわけでもないので、気長に待つといいだろう。
関連イラスト
関連タグ
TYPE-MOON 月姫 Fate/staynight 空の境界
まほうつかいの箱:名前が似ている型月作品