概要
無数の吸入管が備わった丸い胴体、蟹の様な鋏がついた六本の触腕、長さ1フィート程の鼻という異形の神性。
獲物を捕えて全身の吸入管から吸血する。
「無窮にして無敵の存在」であり、この神が死ねば他の旧支配者は復活できなくなるという。
300万年前、ユゴスから地球に飛来して北極に棲みつき、原始人を信奉者にしていた。しかし時を経ての崇拝が廃れたことで一時の休眠に入った。
20世紀初頭にロジャーズ博物館の館長ジョージ・ロジャーズによって北極圏にある石像都市の地下からロンドンに「像」として持ち込まれた。しかしロジャーズも間もなく行方をくらまし、像もオンタリオ美術館の手に渡った後消息不明となる。
信奉者によるラーン=テゴスへの呪文は以下である。
ウザ=イェイ!ウザ=イェイ!イカア・ハア・ブホウ-イイ、
ラーン=テゴス-クルウルウ・フタグン-エイ、エイ、エイ、エイ
ラーン=テゴス、ラーン=テゴス、ラーン=テゴス
下馬評
一部の神話作品読者からはラーン=テゴスを“最弱の旧支配者”として扱う向きがある。
そもそもの出典作品である「博物館の恐怖」だが、この中でラーン=テゴスは、
- 信奉者が一人だけで、しかもかなりのところ狂気に染まっている。
- 先述の『無窮にして無敵』『この神が死ねば~』も信奉者の談によるものであり、作中では魔導書のような典拠はない。
- ロンドンに来てからの食料は野犬または野良猫のみ。
- 平生の隠れ家はジョーンズが用意した水槽の中。
- 触腕で扉一つ破るのに手こずる。
- 事件の後、蝋人形として展示される。
という残念すぎる扱いで、終始SAN値の低いジョージ・ロジャーズの方がよっぽど恐怖に値する存在である。
しかも、ロジャーズの助手であるオラボーナがオチを務めるのだが、その不敵な態度と色黒の容姿という描写からアレじゃないかという憶測まで飛び出し、ラーン=テゴス自身の印象の弱さに拍車をかけている。
クトゥルフ神話の解説書の中には「ラーン=テゴスを滅ぼすこと自体人間では不可能」と設定について補完しているものや、TRPGのサプリメントでは都市一つ壊滅させる力を持っているなどそれなりの扱いをしているものもある。
「博物館の恐怖」について
顧客の一人ヘイズル・ヒールドから、うんざりする程の酷いプロットを送られてラヴクラフトが嫌々執筆した作品であったらしい。
Call of Cthulhu等の作品のパターンを踏襲しているのは、ラヴクラフトがわざと行ったものと想われる。
マダム・タッソー蝋人形館を解雇されたジョージ・ロジャースは、まともでない、或いは正体不明の何かを崇拝していると噂される人物だった。
そのロジャーズが運営する「ロジャーズ博物館」では様々な蝋人形を展示していたが、それらは怪奇趣味を通り越して残虐かつ恐怖を与える作品が数多く展示されていた。中にはクトゥルー、ツァトゥグア、チャウグナー・ファウグンといった、この世ならざる異形の似姿まで展示されていた。
好奇心から博物館を訪れたオカルトマニアのスティーブン・ジョーンズ。ロジャーズとその助手オラボーナと知遇を得たジョーンズは、ロジャーズから南極で眠っていた神を見つけたと教えられ、写真を見せられる。
ロジャーズはその神ラーン=テゴスに仕え生贄を捧げているのだと主張するが、写真を造り物だと想ったジョーンズは取り合おうとしなかった。そこでロジャーズは賭けを持ち掛け、夜一人で博物館を訪れたジョーンズを捕らえて生贄に捧げようとしたが、反撃に会い、逆に縛り上げられた。だがその時「像」が動き出し、ジョーンズは錯乱してロジャーズを放置したまま逃げ出す。
二週間後、恐怖に怯えながらも博物館を訪れたジョーンズは、オラボーナから新作「ラーン=テゴスの生贄」を見せられる。悍ましさから失神する見学者が続出し、警察から展示を禁じられているそれを、オラボーナは「偉大なる神」と呼び、微笑んでみせる。
忌まわしい「像」の下に転がされた生贄の正体に気づき、失神するジョーンズをよそに、オラボーナは笑みを浮かべ続けていた。
明らかに小神であるラーン=テゴスに対する大げさな崇拝や、ラヴクラフト自身の創造物を次々と引き合いに出すなど、実はラヴクラフトは、自分がゴーストライティングする事になったこの作品を笑いのめしていたのではないだろうか。
ノフ=ケーの神
ラーン=テゴスは、4本腕毛むくじゃらの種族ノフ=ケーと結び付けられる。
またラーン=テゴスはツァトゥグァと激しく敵対しており、そのことからノフ=ケーとツァトゥグァを崇めるヴーアミ族も対立している。
「博物館の恐怖」では「像」だが、実体をもたない大気の神という側面も持っている。