貌がない故に千の貌を持つとされる外なる神の一柱。
神話内で屈指の人気を誇り、登場作品や主役となる作品も多い。
ただし、設定が便利過ぎて却って作家からは使いづらいと思われる事もあるらしい。
名前の読み
クトゥルフ神話内でも訳による表記ブレが特に多い。それだけ多くの作品に登場し、多くの人間に訳されたという人気がうかがえる。
どれが使われていても正しい表記である。
概要
『クトゥルフ神話』における外なる神(アウターゴッド)の一柱。
古代エジプトまで記録を遡る事ができ、名前の意味は「門のところに平和(安息)はない」。
古代エジプト人は人間の次元と他の外なる神の次元をつなぐ門であると考えていたらしい。
この「ナイアルラトホテップ」という名前は古代エジプト人がこの謎めいた存在に対する呼称であり、それ以前の名称、人外が使用していた名称は(存在するかも含めて)不明。
他のクトゥルフ神話の神々とは違い、最初から人間が付けた名前である。
初出はラヴクラフトの短編小説「ナイアルラトホテップ」であり、
「ナイアルラトホテップ」を名乗る不思議な科学や魔法の様な知識を持つ謎の人物として登場。
「未知なるカダスに夢を求めて」には本格的に登場、台詞も多い。
現代を舞台にした作品でも自由に活動している。多くの旧支配者と違い、旧神からの封印から逃れたとされる事がある。ただし、後述する様に封印地が設定される場合もある。(旧支配者が旧神に封印されたかどうかも世界観による)
外なる神の中で唯一、真の意味で人格を持つとされている。この「人格」がどの様なものかは明言されていない。「ナイアルラトホテップ」には「~心もなく」という記述もある。
アザトースに使役されているが、主人や他の神々を冷笑し続けている。外なる神のメッセンジャーであり、彼らの啓示を代わりに伝えに来る者。邪教の儀式に現れる謎の人物はナイアルラトホテップの化身だと言われている。
地球の夢の国の神々を守護しているが、同時に夢の国の奥深くに侵略しようともしている。
わかっている性質は混沌そのものであり、存在自体に多くの矛盾を孕んでいる。
「ない」と「ある」や「+」と「-」が中和されずに同時に存在している。
顔がない故に様々な顕現を持ち千の無貌と呼ばれる他、エジプトで最初に信仰された神であり、そのサバトに現れる黒い男であり、預言者であり、核兵器を開発した科学者としても姿を表す。
この「貌がない」事が最大の特徴だが、それがどのような事なのかは解釈が分かれる。
「貌がない〝故に〟千の貌を持つ」という記述は大きな手がかりである。
狂気と混乱もたらす為に自ら暗躍する。ただし、その目的は不明。
ナイアルラトホテップにとっては重要で、かつ面白い事であるようだ。
ダムの水底に沈んだ土地に巣を作っていた蟻に、なんの前触れもなく自分達を滅ぼした膨大な水を流し込んだ者の存在や、その意図を理解せよというのは酷なことである。
宇宙規模で暗躍している筈なので、他の星の知的生命体にも干渉していると思われる。
大鹿の女神イホウンデーを妻としている他、従姉妹に影の女悪魔と呼ばれる女神マイノグーラがいる。妻を娶っているが自ら子を産んだりもしている。
配下にシャンタク鳥と忌まわしき狩人がいる。また、どの奉仕種族も召喚出来る。
「這い寄る混沌」と呼ばれる形態は、
触腕、鉤爪、手が自在に伸縮する無定形の肉の塊と咆哮する顔のない円錐形の頭部を持っている。
輝くトラペゾヘドロンにより召喚される黒い翼と三つの炎を噴きだす目を持つ「闇をさまようもの」もまた、ナイアルラトホテップである。
クリーチャーとしてよく描かれる「月に吠えるもの」は円錐型の三本足に頭部から『血塗られた舌』と呼ばれる長い触手を生やしている。誤解する人がいるが、これがナイアルラトホテップの本体ではない。化身の中でも印象的な姿なので、アイコンとして使われる事が多く、この様な誤解があるのだろう。
多くの化身が人間の姿を取る事もでき、創作では褐色の肌をもつ知的な美男子になる事が多い。ただし必ずしもそうではなく、優れた容姿をしていたという描写のない男や、醜い女として登場した作品もある。あからさまなアナグラムの偽名を使用したり、舌まで真っ黒の漆黒の肌を持つ人間の姿で現れる事もあるため『黒い人』とも呼ばれている。
人間としてのナイアルラトホテップは通常の方法で殺せる。TRPGではその死体から別の化身が顕現することがあるが、自分を殺した相手には何もせず空の彼方へ消えていくと書かれている。
オーガスト・ダーレスによる分類ではアザトースと同じ地属性である。
火属性のクトゥグアとは敵対し、クトゥグアに地球の拠点であるンガイの森を焼き払われている。
千の化身
「千の貌」は文字通り千種類なのか、無数である事を表現しているのかは異なる解釈がある。
ナイアルラトホテップの化身とは「ナイアルラトホテップ」が単純に化けているという事ではない。
「ナイアルラトホテップ」という名前も古代エジプト人に付けられた一つの名前でしかない。
それぞれの化身は同時に存在する事が可能で、ある化身が別の化身に殺されてしまった例もある。他の化身を呼び出せる化身もいる。化身一つ一つが全く別の存在と考える方が自然である。
化身ごとに知性も大きく差がある。
頭の悪い例として、辺境部族に言い伝えられる知性より獣の本能の方が強い化身もいる。
その一方で高名な魔術師、人類の科学力を発展させる科学者の化身も確認されている。
『自由に姿を変えられる』化身の他、邪教の儀式で生け贄を基礎に組み上げられた焼き払われるだけの人形、機械、方程式等の無生物や『ただの人間』も(無自覚な者も含めて)無数に存在している。
有名どころの貌はそれぞれが人間の姿をとる事が出来るらしい。
ナイアルラトホテップは貌を持たないが千の貌を持ち、唯一無二の存在だが無数に存在し、正体や本質といったものを化身毎にそなえている。こういった自己矛盾を内包しているのである。
矛盾する出自や正体
その出自は
・アザトースの息子である。
・アザトースの知性の具現。
・邪神群が意思疎通のために使うテレパシーの力がナイアルラトホテップの正体だ。
・外なる神の次元に通じる門。
・邪神達のメッセンジャー。
・邪神達の異なる面を調停するエーテルであり、天の川に属する。
・無数の神々の力を宿した邪神の集合体。
などなど描く作家によってもまちまちだが、そもそも意図してそれらが互いに完全に矛盾して描かれていたりもする。
その在り方を正しく理解することは我々人間では不可能なのだ。
ブライアン・ラムレイによるタイタス・クロウ・サーガによれば、ナイアルラトホテップが旧神によって封じられていないのは旧支配者の精神感応力(テレパシー)の具現だからであると説明された。(幻夢の時計 42ページ)
つまりナイアルラトホテップが自由に活動できているのは、精神活動そのものを投獄することは不可能であるからである。
だが、これもナイアルラトホテプが数多く抱える矛盾した真実の一つであろう。
旧神達の幽閉から免れたとされることもあれば、故郷でもあるシャールノスの黒檀の宮殿が幽閉地であるともされる。また、リン・カーターは暗黒の世界アビスを幽閉地としている。
これらのなにかが間違っているのではなく、おそらくすべてが同時に真実なのである。
尚、極少数の説として「黄色い粘液が滴るプール」めいた姿が、本来の姿だとされる。
ナイアルラトホテップを称える言葉
暗黒のファラオ万歳 ニャルラトテップ万歳
くとぅるふ・ふたぐん にゃるらとてっぷ・つがー
しゃめっしゅ しゃめっしゅ
にゃるらとてっぷ・つがー くとぅるふ・ふたぐん
ナイアルラトホテップの呪文
にゃる・しゅたん!
にゃる・がしゃんな!
にゃる・しゅたん!
にゃる・がしゃんな!
別名または貌の名前
割と気安く人間の前に姿を見せ、しかも毎回違う姿になるため多くの別名を持つ。
- 這い寄る混沌
- 無貌の神
- 闇をさまようもの
- 大いなる使者
- カルネテルの黒き使者
- ナイ神父
- 顔のない黒いスフィンクス
- 百万の愛でられしものの父
- 月に吠えるものor闇に吠えるもの=血塗られた舌の神(何れも主流である為、こう表記する)
- ユゴスに奇異なるよろこびをもたらすもの
- 膨れ女
- チクタクマン
- 赤の女王
- 黒い男
- 白い男
- 野獣
- シュグオランもしくはシュゴーラン
- 影だまり
- 骨格の恐怖
- ルログ
- 皮膚なきもの
- アトゥ
- ダーク・ワン
- 這い寄る霧
- 憎しみの像
- 小さき這うもの
- 闇に住みつく者
- 嘆きもだえるもの
- 黒い牡牛
- 黒い風
- 黒いライオン
- 悪心影
- クルーシュチャ方程式
- 口にするのも憚られる大司祭
- 暗黒神
- 浮き上がる恐怖
- 暗黒のファラオ
- ニャルラトフィス
- 闇の魔神
他の神話・伝承に登場する化身
ナイアルラトホテップの活動範囲は広く、神話や伝承の中にも様々な形で登場する。
(クトゥルフ神話の拡大に従って、神話や伝承の存在の一部が「ナイアルラトホテップの化身」として数えられるようになった)
- パズス
- バロン・サムディ
- セト
- テスカトリポカ
- ジャック・オ・ランタン
- ココペリ
- ウィッカーマン
- 緑の男(グリーンマンとも言われる)
- トート
- 角を持つ男(角を持った神や悪魔の大半が該当するらしい、例としてケルヌンノスやサタン、サテュロスが挙げられる)
信仰
外なる神を追い求める多くの存在から崇拝を受ける。また、ナイアルラトホテップによく思われたいがために他の外なる神を崇拝している者もいる。
外なる神の魂でもあり、外なる神からの託宣や贈り物をする存在なので、外なる神を崇拝するときは結局、ナイアルラトホテップも同時に崇拝せざるを得ない。またグレートオールドワンを崇拝する団体も、ナイアルラトホテップには敬意を払うという。
それぞれの化身を通しても崇拝を受ける。「膨らんだ女教団」「暗黒のファラオ団」「血塗られた舌教団」「砂蝙蝠教団」「野獣の結社」などである。
・星の智恵派
ナイアルラトホテップを信仰する特に有名な信仰団体である。強力な秘密主義により詳細は不明。プロヴィデンスの指導者たちに解散させられるが、今でも分派を名乗る団体が現れるようである。
信仰者
・ネフレン=カ
古代においては暗黒のファラオと呼ばれあまりに忌まわしいがために後世の記録から存在が抹消されたネフレン=カが特に熱心に信仰していた。
ネフレン=カが生きたまま閉じ込められたピラミッドの中には彼が死ぬまで書き続けた過去からはるかな未来に至るまでの歴史が書き記されている。この歴史を見通す力はナイアルラトホテップに与えられたものである。
関係性
親にして主人。矛盾する記述もあるが、少なくともアザトースを原因として生まれているはずである。ナイアルラトホテップはこの魔王のわがままを聞き、面倒を見ている。
従姉妹。影の女悪魔と呼ばれる女神。
妻。大鹿の女神。ウボ=サスラの生み出した地上生物の雛形の一体とされる。ツァトゥグァ信仰の復興に押され、信仰が衰退した。
娘或いは息子。外なる神。大昔にはイブ神として崇拝されていた。召喚されても自身は現れず、イブ=ツゥトゥルの血液だとされる化身「ザ・ブラック(暗黒のもの)」を代わりに送る。術者が召喚すると、黒い雪片のようなものが降り始めたかと思うと人間の全身を覆い尽くす。多くのナイトゴーントを従えるが、旧神と協力関係にあるわけではない。
また、妻との子供かは不明だが子供として多くの神がいる。さらに、ナイアルラトホテップの化身が女性を孕ませる描写は珍しくない。
最も怖ろしい子供はンラス=ゴルとされている。ただし極端に資料が少ない。
・百万の恵まれたるもの、シュゴーラン(奉仕種族)など
各化身ごとに奉仕種族や無数の子供達といった眷属を従えていることがある。シュゴーランはナイアルラトホテップの貌の一つだが、その奉仕種族も同じ名前で呼ばれている。
・アルスカリ
ニャルラトテップの手先とされる独立種族。
人類とは全く異なる進化の過程をたどった知的生命体。姿は大体人間に似ているが、灰色がかった白い肌をしている。巨大な目が顔に一つだけある。この目には穏やかな催眠効果がある。
かつてはサイクロプスなど、伝説上の巨人として民話や神話に語られる大きさだったが、地下に移住することで小さく進化した(人間と比べればまだ大きい)。
協力、敵対関係
協力関係でもあり、敵対してもいる。この旧神はドリームランドの奥地へと侵略しようとしているナイアルラトホテップにとっては敵であり、「大いなるもの」と呼ばれる神性たちを守護するという目的に関しては互いに協力してもいる。
古くから敵対しているとされる旧支配者。外なる神に匹敵する力を持つと考えられる。
外部メディアでキャラクターとして登場する一例
ゲーム
ニャルラトホテプ、這い寄る混沌、月に吼えるもの
『ワイルドアームズ』シリーズ
混沌の勢力を束ねる種族はいよるこんとん
ナイア / 旧支配者ナイアルラトホテップ / ナイ神父 / チクタクマン
『朝の来ない夜に抱かれて-ETERNAL NIGHT-』
無貌の神
『ロードオブヴァーミリオン』
『英雄*戦姫』
ナイアラルトホテップの名で登場。同作のラスボス。
『ザ・ロストチャイルド』
ニャルラトホテプ ルルイエロードでトラベリゾン入手後にシンボルエンカウントする。そして倒してもゲームでの時間が進行すると復活する。
ニャルラトテプの名で登場。獣人の姿で、独特の喋り方をするトリックスター的存在。うざいほど増える。増えなくてもうざい。
平行世界の存在同士がそれぞれ黒い男/チクタクマンとして登場。直接登場するのは『漆黒のシャルノス』『紫影のソナーニル』のみだが、設定上はほぼ全作で暗躍している。
名前はぼかされているが2018年夏イベントにて、同シリーズのキャラクターBBが同調した神格として登場する。詳細はこちらを参照。
ニャルラトホテプの名を冠する、あるいは正体とする複数の存在が登場。
禁忌の図書館と呼ばれる封印されていた図書館に潜み、司書にして蔵書を名乗る異形の黒いドラゴンのニャルラトホテプ
約200名の住民が一夜にして消失した怪事件の起こった村の生き残りの少女ラトニー...の姿に擬態していた異形の白いドラゴンのニャルラトホテプ
上記の怪事件の真相とラトニーの正体を突き止めた奇人変人な貴族探偵にしてニャルラトホテプの本質を持つ男ハインヴァルト
自己防衛本能としてニャルラトホテプとしての人格と強大な力を有していた本物のラトニー
以上の4体の他にも黒いドラゴンのニャルラトホテプの別個体等が存在してる
2020年2月29日のレジェンドフェスから実装(恒常)。闇属性の星晶獣であり、近年実装されている刻印シリーズの闇バージョンとも言える。さりげなくCygames作品では2作品目の登場となった。2021年の光有利古戦場に登場予定だったのだが、騎空士たちの頑張りによってティラノサウルスに差し替えとなった。なお、彼の出番は今後のドレッドバラージュまでお預けになった。→ナイアルラトホテップ(グラブル)
ガチャ産SRサポートキャラとして実装。名義はニャルラトホテプだが。
小説
『新本格魔法少女りすか』シリーズ
魔法少女の父水倉神檎 / ニャルラトテップ
『妖神グルメ』
内原富手夫 / ナイアルラトホテップ
『魔界都市ガイド鬼録』シリーズ
ナイアルラトホテップ(邪神迷宮)
『這いよれ!ニャル子さん』シリーズ
ニャル子、およびニャルラトホテプ星人一般 / ナイアルラトホテプ
『深淵を歩くもの』
内原戸哲夫の名前で登場。闇の支配者の部下ではないが、人類が絶望の末に滅ぶ事を望んでいる節がある。なお、光の巨人に闇の支配者が敗れ、目論見は打ち砕かれたとはいえ、彼は倒されていない為、脅威は去っていない事が窺える。
なお、内原戸は『デジモンテイマーズ』第44話にもコメンテーターとして登場している。
といっても、テイマーズに登場した内原戸はあくまでも意味のないお遊びである(参考)。両作で脚本を務めた小中千昭氏はクトゥルフ神話ネタをデジモンシリーズで引用することが多く、これもその一つだと言える。
『「夜刀浦領」異聞』(朝松健)
舞台は室町時代。鹿戸龍見と名乗る怪しげな行者の姿で主人公の前に現れる。小酒屋で安酒を飲みながらの登場という、どこかまろやかなキャラクター性は必見。
漫画
ナルラ=トテプ(ニャルラトテップ)
『ぱら☆いぞ』
ニャルラト先生
『邪神伝説シリーズ』
エピソード毎に様々な化身が登場しており、主人公の正体だった(本人も知らなかったが終盤に目覚めた)事さえある。
ドッペルというキャラクター。作中ではドッペルゲンガーの少女として扱われているが、所有している能力の性質上這いよる混沌に近いと明言されている。
『見える子ちゃん』
同級生や友達からは美少女として受け入れられながらも主人公だけは触手の生えた無貌の異形としか見えない一条みちるというキャラが登場する。
関連タグ
404号室:物語の鍵である黒づくめの男の正体が、ナイアルラトホテップではないかと噂されている。
関連イラスト
通常
人間体