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ティラノサウルス

てぃらのさうるす

北アメリカ大陸に生息していた大型の肉食恐竜。ティラノサウルス科の獣脚類を代表する恐竜である。
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恐竜について興味のない方も、一度はこの名を耳にした事があるだろう。を除けば最も有名な「獣脚類」である。発見されてから既に100年以上が経過しているが、詳しい生態は未だ謎に包まれたままである。しかし、長年続けられて来た研究によって、その全貌が少しずつ明らかになって来た。

概要

学名
ティラノサウルス Tyrannosaurus
分類
界:動物界 Animalia
門:脊索動物門 Chordata
網:爬虫網 Reptilia
亜網:双弓亜網 Diapsida
下網:主竜形下網 Archosauromorpha
上目:恐竜上目 Dinosauria
目:竜盤目 Saurischia
亜目:獣脚亜目 Theropoda
下目:テタヌラ下目 Tetanurae
無階級:コエルロサウルス類 Coelurosauria
上科:ティラノサウルス上科 Tyrannosauroidea
科:ティラノサウルス科 Tyrannosauridae
亜科:ティラノサウルス亜科 Tyrannosaurinae
属:ティラノサウルス属 Tyrannosaurus
産出時代
中生代 白亜紀後期 マーストリヒト期(約6800万年前〜約6600万年前)
主な産出地
アメリカ(ユタ州、コロラド州、ワイオミング州、サウスダコタ州、モンタナ州、ノースダコタ州、ニューメキシコ州)、カナダ(アルバータ州、サスカチュワン州)
主な産出する地層
ヘルクリーク層、ランス層、ララミー層、デンバー層、マクラエ層、フレンチマン層、スコラード層

 ティラノサウルスは、全長11~13m、体重は諸説あるが、6~9t前後になると推定されている巨大な肉食恐竜である。近年では保存状態の良好な化石が沢山見つかっており、研究も盛んに行われている。

 かつてはあの怪獣「ゴジラ」のように直立し、ズルズルと長いしっぽを引きずりながら歩いていたと考えられていたが、現在では、常に強力な靭帯で尻尾をピンと張る事によって、尻尾を持ち上げた前傾姿勢で動き回っていたことが明らかになっている。よっぽどのことが無い限り、尻尾を引きずるような姿勢は取らなかっただろう。

 また、最近、全身に羽毛を生やした復元画が話題となり、一時期大きな注目を浴びたが、この全身に羽毛を生やす復元について、現在は否定的な研究者が多く、あまり有力視されていない。詳しくは後述する。

 「超肉食動物(Hypercarnivore)」として取り上げられる事もあるが、優れた能力を持つ肉食動物の事では無く「日々の食事の70%以上を肉が占める動物」を指す専門用語であるため、誤解しないよう注意が必要だ。

 そして、ティラノサウルスは映画『ジュラシック・パーク』などと言った、様々な映像作品に登場している恐竜でもある。映画ではまるで「全知全能の捕食者」のように描かれる事が多いが、ティラノサウルスは「怪物」や「神」では無い。

 勿論その時代における頂点捕食者であり、大型肉食恐竜の1つの到達点と評される事も多いが、病気にかかる・長身巨体ゆえに転倒して怪我をする、狩りの際には トリケラトプス のような強い植物食恐竜の反撃(2010年代に入ってからの発見でも、例えば"Lee Rex"と呼ばれる個体の化石には、明らかにトリケラトプスに脚部を突きさされた痕跡が残っている)によって死傷する事もあっただろう。ティラノサウルスが、実際に地球上に存在した、動物の一つであるという事を忘れてはならない。


解説

名称

学名は「ティラノサウルス・レックス Tyrannosaurus rex」。

この学名は、あのヴェロキラプトル Velociraptorオヴィラプトル Oviraptor と言った恐竜を記載したアメリカ自然史博物館の古生物学者、ヘンリー・フェアフィールド・オズボーン(Henry Fairfield Osborn)が1905年に発表したものである。属名はラテン語で「暴君トカゲ」。種小名の「レックス rex」はラテン語で「王」を意味している。海外ではT-REX(ティー・レックス)と言う略称で呼ばれており、映画「ジュラシック・パーク」の影響で日本においても広く普及した。恐竜のような姿をしたモンスターの名前にレックスが付く場合が多いのはこのためであろう。あまり普及していないが「暴君竜」という和名が存在する。中国名は「覇王龍(パーワンロン)」又は「暴龍(パオロン)」である。ベトナム語ではフンロンバオチュア、ハワイ語ではモッオクラノと呼ぶ。英語ではタイラノソーやタイラナソーもしくはタイラノソーラス、スペイン語ではティラノサウリオ、イタリア語ではティランノサウロ、フランス語ではティラノゾールと呼ぶこともある。


以前は属名の「Tyrannosaurus」の読み方によって「チラノザウルス」や「タイラノザウルス」とも表記されていたが、現在は「ティラノサウルス」あるいは「ティランノサウルス」という表記が一般的である。チラノサウルスという表記は1980年代以前に多いため、書籍などでは表記の違いから監修者や発行年代の大まかな予想が可能である。これは当時「チ」と「ティ」をあまり区別しなかったからである。1980年代中盤の地図などでも、シティーをシチーと書くことがあった。

2000年ごろ、ティラノサウルスの学名が消滅する可能性が急浮上していたが、これはオズボーンの師匠であるエドワード・ドリンカー・コープがティラノサウルスの命名以前に発見していた脊椎の一部の化石「マノスポンディルス・ギガス Manospondylus gigas」がティラノサウルスと同一の恐竜の化石だということが判明したためである(学名は基本的に古い方が優先されるため、同一と判定されれば時系列的に新しい学名は抹消・変更される)。


実はこれ以前に(ティラノサウルスの時と同様に)オズボーン自身によってバーナム・ブラウンが発見したティラノサウルスと同一の化石に「ディナモサウルス・インペリオスス Dynamosaurus imperiosus」という名前が付けられていたのだが、こちらはオズボーンの論文の順番が偶然後に見つかったティラノサウルスの方が先に書かれていたため有効名とされた。

この件に関しては命名ルールの改訂が直前になされていたため(要約すれば広く一般に普及している学名を昔に使われていたシノニムにしてはいけない。このような事態が発生した場合、動物命名法国際審議会が強権を発動して有名な方の学名を保全名にできるというルール)事なきを得た。


「マノスポンディルス・ギガス Manospondylus gigas」という学名の意味は「巨大でスカスカな脊椎」。「ディナモサウルス・インペリオスス Dynamosaurus imperiosus」は「皇帝の如く強大な力を持つトカゲ」。「ティラノサウルス・レックス Tyrannosaurus rex」は「王たる暴君トカゲ」である。短くまとめれば「スカスカ背骨」「皇帝龍」「暴君竜」となるだろうか。また恐竜モチーフへのレックスという単語の浸透率を考えれば、インペリオススよりもレックスの方が語呂が良かったとも言えるかもしれない。


2022年にはティラノサウルス・レックスを3種に分割できるという考えが発表され、rexのほかに「regina(レギナ或いはレジーナ)」、「imperator(インペラトル)」が記載された。だが、多くの研究者はレックス種の個体差にすぎないと考えている。

また2024年にはレックスより600〜700万年古い地層から発見され「ティラノサウルス・マクレーンシス(マクレイエンシス) Tyrannosaurus mcraeensis 」が記載された。


余談であるが、ティラノサウルスとよく似た名前の ティラノティタン Tyrannotitan という大型肉食恐竜の属が存在するが、この恐竜はティラノサウルスが属しているティラノサウルス科獣脚類恐竜では無く、ギガノトサウルス Giganotosaurusカルカロドントサウルス Carcharodontosaurus のような恐竜が属するカルカロドントサウルス科の恐竜であるため、混合しないよう注意が必要である。

生息地

ティラノサウルスが生息していた当時の北アメリカ大陸は、現在とは大きく異なっていたと考えられている。大規模な地殻変動が起こり、大陸の中央部分に、幅最大1000kmに達する巨大な内海が出現していたのだ。これにより当時の北アメリカ大陸は、西部と東部に分断されていたのである。西部の大陸は「ララミディア大陸」、東部の大陸は「アパラチア大陸」と呼ばれている。ティラノサウルスの化石は、かつて西のララミディア大陸を構成していたとされる地層から産出しており、ティラノサウルスは、当時のララミディア大陸に生息していた考えられている。

大きさ

ティラノサウルスは最大級の獣脚類の一つとして知られている。現在発見されているティラノサウルスの中で最大とされる個体は、現在王立サスカチュワン博物館に展示されているスコッティ(RSM P2523.8)と呼ばれる標本であり、その推定される全長は13m、体重は8.8tに達すると言う。

噛む力

ティラノサウルスの噛む力はとてつもない物だった可能性が高い。

2012年、現生のワニなどを参考に、ティラノサウルスの顎の筋肉を復元し、ティラノサウルスの咬合力(噛む力)を推測するという研究が発表された。この研究によれば、ティラノサウルスの咬合力は顎の前方で35000N、後方で57000Nに達するという。これを分かりやすい単位に直して考えてみると、顎の前方で3.5tf、後方で5.7tfとなる。動物の骨どころか自動車のフレームを容易に粉砕出来るほどの力だ。これは恐竜トップクラスの咬合力である。

  • ただ、エドモントサウルスの尾やトリケラトプスの襟飾りに「嚙みついたが逃げられた(噛み痕が治癒している)」と見られる痕跡の残る化石が発見されている。

また2021年に行われた、約13歳のティラノサウルスの上顎の歯のレプリカとウシの上腕骨、橈骨、尺骨を用いた研究では、亜成体のティラノサウルスの噛む力は5641Nだったと推定される。

これはライオンの4,167N、ヒョウの2,268N、ブチハイエナの4,540Nよりも大きい値である。


一般的な獣脚類の歯には、鋸歯(セレーション)と呼ばれるステーキナイフのようなギザギザの構造が見られる。これは肉を切り裂く事に特化した形状であり、肉食性のトカゲやサメの仲間などの歯にも見られる特徴だ。ティラノサウルスの巨大な歯にも、もちろんこの鋸歯がズラリと並んでおり、獲物の肉を食いちぎる際、大いに役立っていたと考えられる。2012年の研究によれば、鋸歯の角度には多様性が見られる為、前歯は獲物を掴む役割、なかほどの歯は肉を切り裂く役割を担い、奥歯は骨を噛み砕き、喉の奥へと送り込む働きに特化していた可能性が高いようである。


さらに、ティラノサウルスの歯はバナナのように太く大きく、その3分の2がしっかりと歯茎に収まっていた。長さ最大25cmを超えるその歯で、獲物を骨ごと噛み砕いて捕食していたのだろう。ちなみに、漫画家の所十三氏はこの強靭な顎で骨を噛み砕いて栄養豊富な骨髄を食べることにより、ティラノサウルスが巨大化を遂げたと推測している。余談ではあるが、2015年に発表された論文によれば、ティラノサウルスの顎は最大で80度近く開く事が可能だったようだ。


脳の研究や聴覚

ティラノサウルスは嗅覚が非常に発達していた可能性が指摘されている。ティラノサウルスの頭蓋骨をCT撮影した研究によれば、ティラノサウルスは脳の大きさに比べ、嗅覚をつかさどる器官である嗅球や嗅神経が非常に大きく発達していたようである。このおかげでティラノサウルスは、隠れた獲物も臭いでいち早く察知する事が出来たと考えられており、その嗅覚は16km先の匂いまで把握すると言うヒメコンドルに及ぶ物だったとも言われている。


2013年には脳の質量と比率に加え、脳化指数(EQ)についての研究が発表された。この研究によれば、ティラノサウルスの脳は一部のマニラプトル類のを除けば、成体の非鳥類型恐竜(鳥類以外の恐竜)の中でトップクラスの巨大な物だった事が分かっている。加えて非常に発達した三半規管を具えていたとされ、狩りの際、獲物に狙いを定めて頭や眼球を固定する姿勢制御に役立っていたと見られている。


そして獣脚類の中ではやや珍しいことに、ティラノサウルスは聴覚を司る感覚器官である蝸牛が長くなっていた。蝸牛の長さは聴力と関係しているため、この長い蝸牛はティラノサウルスにとって聴力が重要であったことを示唆している。研究によれば、ティラノサウルスは中でも低周波音を聞き取るのに特化してた可能性が高いとされている。

成長

ティラノサウルスは性成熟が早い肉食恐竜としても知られている。近年の研究で骨断面の年輪の調査が行われ、ティラノサウルスの成長曲線は急激なS字曲線を見せる事が分かった。ティラノサウルスは14から16歳の間に急激な成長が起きる。18歳を超えると劇的に鈍化し20歳ほどで成体となるが、これは近縁種のゴルゴサウルスアルバートサウルスダスプレトサウルスといった他のティラノサウルス類と比較しても急激なもので、体重も他種の4倍から7倍に増加するという。1年で1800kg増加する時期も確認されているそうだ。肉食恐竜全体で見ても驚異的な成長速度である。


ティラノサウルスは群れを作って生活し、怪我をした仲間の面倒を見るなどある程度の社会性があったという説もある。近縁種のアルバートサウルスからは、実際に仲間の保護を受けて生活し、最終的に骨折が治ったとみられる化石も見つかっている。また、子供の体は大人と比べて華奢であり、更に足が細長い事から、大人よりもかなり速く走れるとされている。そのため、速い足を持つ子供や若者が獲物を追い詰め、強力な顎を持つ大人が待ち伏せして止めを刺す、という一風変わった方法で狩りを行ったという説も提唱されている。

この説はNHK恐竜CGにおいても幾度か描かれている・・・・・・が、この説は群れに若個体がいて初めて成り立つ狩猟方法であることや、成熟し切っていない華奢な個体が巨大なハドロサウルス類や角竜類を脅かし追い詰め得るのかといった点については議論の余地が多く、これを鵜呑みにするのは早計である。

腐肉食説

現在多くの古生物学者はこのような理由などからティラノサウルスが活発な捕食者であったと考えている。当時の環境のティラノサウルスは、当時生息していたハドロサウルス類角竜類、鎧竜類を捕食していたとされる。しかし、ティラノサウルスが捕食者であったのか、死体を漁る腐肉食動物、「スカベンジャー」であったのかについては長い間議論が続けられて来た。


古生物学者のジャック・ホーナーは次のような理由から、ティラノサウルスは捕食者ではなく死体を漁るスカベンジャーであるという見解(学説としてではない)を提唱した。


・物を掴むにはあまりにも小さい前肢

スカベンジャーの動物によく見られる発達した嗅覚

・死体を漁るハイエナが持つ骨ごと獲物を捕食出来る顎

・遠くにいる獲物を発見するのには向かない相対的に非常に小さい目

・狩りをするには遅かったと考えられる移動速度


このような説がティラノサウルスが死体を漁るスカベンジャーであったとする根拠である。

しかしアメリカ、モンタナ州で産出したエドモントサウルス Edmontosaurus の標本(PBMNH.P.09.039)の尾椎には、ティラノサウルスのものと思われる咬傷が、治癒した痕跡が確認された。ティラノサウルスがスカベンジャーであり、エドモントサウルスの死体を食いちぎった痕跡だとしたら、咬傷が治癒する事は無いはずだ。恐らくこの個体はティラノサウルスに一度襲われだが、逃げ延びたと思われる。これはティラノサウルスが生きた獲物を襲っていた明確な証拠だ。現在多くの古生物学者は、このような理由からティラノサウルスがスカベンジャーであるという主張は誤りであると考えている。それを示唆する証拠はこれだけでは無い。


まずティラノサウルスは獲物を捕食する際に前肢を使う必要は無い、非常に咬合力の高い顎によって獲物を押さえ付ける事が可能である。発達した嗅覚に関しては、腐った動物の死体は強烈な匂いを発するためスカベンジャーの動物には実はあまり必要が無い。逆に発達した嗅覚を必要とするのは、生きている獲物を探す時だろう。ヒメコンドルはスカベンジャーであるのにもかかわらず嗅覚が発達しているが、1km上空を飛行しながら動物の死骸を探すためである。


そして、骨ごと獲物を噛み砕いて捕食する習性を持つ肉食動物はスカベンジャーに限らず捕食者にもいる。実際ハイエナは動物の死体を食べたり、他の捕食動物の捕らえた獲物を奪うイメージが強いかも知れないが、ブチハイエナは獲物の約80%を狩りによって補っている事が分かっている。

ティラノサウルスの目は頭蓋骨の大きさに対して相対的に小さく見えるかも知れないが、2006年に発表された論文によれば、ティラノサウルスは人間の13倍の約6km先の物体を認識出来る高い視力があり、55度の範囲内で両眼視が可能であるとされている。


走行速度に関しては、ティラノサウルスは現存している大型の陸生捕食動物よりも走行速度が遅かったとしても、より走行速度が遅かったと考えられる大型のハドロサウルス類角竜類を捕食するのには十分な速さだったとも考えられるだろう。さらにティラノサウルスの歩幅は最大3.89mに達したとする研究があるため、大股で歩くだけでもかなりの速度が出せた可能性が高いのでは無いだろうか。しかし、ティラノサウルスの走行速度に関しては学者によって意見が大きく異なる。

運動能力

走行

多くの研究者が今日に至るまでティラノサウルスの走行速度の推定を行って来た。推定された最高速度の振り幅は研究によって非常に幅広く、時速18km〜36kmほどであると言われている。

また、「実際にまっすぐ走るだけならば更に速度を出せただろうが、ティラノサウルスの場合転倒が死に直結する可能性もあるため狩りであっても全速力を出す事は滅多になかった」との意見もある。


ティラノサウルスは他のほとんどの獣脚類と比べ大腿骨に対するすねとつま先の長さがとても長く、しっかりとかみ合ったアークトメタターサル構造(Arctometatarsal)と呼ばれる特殊な中足骨を持っていた。アークトメタターサル構造とは、第3中足骨が第2中足骨と第4中足骨の間に挟まれた形状の事であり、この特殊な構造は、走行時に衝撃を分散する働きがあると考えられている。そのため、この構造が見られるティラノサウルスは力強く地面を蹴り出す事が出来た可能性が高い。


2002年に行われた研究では、複数の動物の数学モデルを使用し、ティラノサウルスが高速で走行するために必要な脚の筋肉量を測定を行った。その結果、ティラノサウルスの最高時速は18kmになると発表している。また、時速40kmで走行するためには体重の約40〜86%の並外れた脚の筋肉が必要になるという結果となっている。


2017年の研究では、成体のティラノサウルスの推定体重が7tの場合、ティラノサウルスが時速18kmを超える速度で走行すれば、脚の骨が衝撃で粉砕してしまうという結果になり、成体のティラノサウルスは骨格の負荷が大きいために走ることができないという仮説が立てられた。しかし、2019年に発表された研究では、ティラノサウルスはアロサウルス上科などの大型種より機動性が比較的高く、獲物を追うために素速く方向転換する事が出来た可能性が指摘されている。


2020年には、ティラノサウルスのような大型種が、消費エネルギーの少ない効率的な走行をする事が出来たとする論文が発表された。この研究ではティラノサウルスを含む70種以上の獣脚類の脚の比率や体重の比較に加え、走行時の各恐竜の最高速度、歩行速度、そして移動時に各恐竜が消費するエネルギー量の推定を行った。その結果、ドロマエオサウルスなどの小型種は、他の大型肉食動物から逃れる為や、獲物を捕らえる際に必要な、「速い走行」への適応として、長い脚が発達したと考えられるのに対し、体重が1tを超えるティラノサウルスのような大型種の場合、他の肉食動物に捕食される事が少なくなる為、そのような種の長い脚は「走行時の消費エネルギー量の削減」に適応している可能性が指摘された。そのため、ティラノサウルスのような大型種は結果として、生存に必要な食料が少なくなる可能性があると言えるだろう。

水泳

ティラノサウルスは狩りの際に浅瀬を利用した可能性が示唆されている。

生体力学モデルを用いた研究で、水中では獲物となるエドモントサウルスやオルニトミムスよりも素早く動くことができたという。このことから、ティラノサウルスは獲物を水辺に追いやって浅瀬を歩いたり泳いだりして追い詰めたかもしれない。


前肢

ティラノサウルスの前肢は体の大きさに対して非常に小さくなっており、第III指が退化して2本指となっている。第III指の中手骨(手の甲の骨)は痕跡的ではあるが残っており、ティラノサウルス類にもかつて3本目の指があった証拠である。貧弱に見えるが、筋肉の付き方などからこの前肢は意外にも頑丈だった可能性が指摘されており、片腕で最大199kgもの重量を持ち上げられたとする研究も発表されている。この前肢をどのように使ったのかは未だ結論が出ていないが、一説では、しゃがんだ姿勢から起き上がる際に前肢の助けを借りて体を起こしていたとも言われている。実際、起き上がる時の重みによって疲労骨折したと考えられる叉骨の化石が発見されている。

体表

近年、現在の鳥類のようにフサフサとした羽毛を持った、「羽毛恐竜」が次々と発見されている。ティラノサウルスも現在の鳥類のように羽毛が生えていたのだろうか。


2004年、中国の遼寧省からディロング Dilong という全長1.6mほどの小型のティラノサウルス上科が報告された。ディロングの化石には羽毛の印象が残っており、この発見から小型の原始的なティラノサウルス類は羽毛を持っていた事が確認されたのである。この時点で大型のティラノサウルスに羽毛が生えていた可能性が示唆される事は無かったが、2012年になると、同じく中国の遼寧省からユティランヌス Yutyrannus という大型のティラノサウルス上科が報告される。このユティランヌスは、全長7mを超える大型獣脚類だったのにもかかわらず、全身に羽毛の痕跡が確認された。この発見により、同じく大型の獣脚類であり、近縁であるティラノサウルスにも羽毛が生えていた可能性が示唆されたのである。この話題は一時的多くの創作者のネタにもなり、次のような羽毛の生えたティラノサウルスのイラストが沢山描かれた。

ティラノサウルス・フサフサTyrannosaurus


しかしながら、最近ではこのような全身に羽毛を生やした復元は誤りであるとされている。

2017年、尾や腰、首の一部の皮膚の印象化石が残る、ワイレックスという愛称が付いたティラノサウルスの標本(BHI 6230)についての研究が発表された。研究の結果、ティラノサウルスは羽毛が生えていたとしても、それは背中のごく一部の部分に限られる可能性が高いという結論に至っている。


これまでも巨大な体を持つティラノサウルスは体温が下がりにくい上、直射日光が照りつける環境下で生息していたと考えられるため、ティラノサウルスに羽毛は不要どころかむしろ有害なのではないかという反論がされていたが、今回の研究によってそれが裏付けられたことになる。さらに、ユティランヌスはティラノサウルスに近縁とはいえ時代でも系統的にもアフリカゾウケナガマンモスの比ではないほど離れているのである。


ユティランヌスは中国東北部の堆積層から産出している。2011年、古生物学者のロマン・アミオ(Romain Amiot)らは同地域の爬虫類の化石に含まれる酸素同位体の比率の計測を行い、この爬虫類が呼吸していた時代の空気の平均気温を突き止める事に成功した。その結果、平均温度は6〜14℃ほどとなった。明らかに寒冷な地域である事が分かる。ユティランヌスの羽毛は、寒冷な地域への適応のために進化した物だと考えるのが妥当であろう。


余談ではあるが、最近ではインターネットが普及した事により飽くまでいち個人が創作として描いただけのイラストを、第三者が無断で「ティラノサウルスは羽毛があったのだ!」という主張と共にまとめサイト等を介して拡散されてしまうという弊害が何度も出てきている。さらにこの出来事は、上述したようにティラノサウルスは羽毛の有無までは否定されていないのにもかかわらず、ティラノサウルス羽毛説はデマであるという過剰反応まで生み出すことに繋がってしまっている。


また、昭和期には各種恐竜書籍でティラノサウルスは「硬い皮膚をなめらかにするため」「共食いを防止するため」などの理由から、悪臭の体脂を分泌していたとする説が紹介されていたが、これは特に化石証拠によって支持されているものではない。


著名な標本

ティラノサウルスは前述したスーを含めて現在までに部分化石も含めれば50体近くの標本が発見されており、非常に保存状態が良好なものが多い。ただし、2006年までに46体発見されているがこのうちの13体には頭骨がない。ここでは日本国内でも知名度の高い標本および本種の研究上重要な標本を紹介する。


AMNH5027

ティラノサウルスと命名された1905年から3年後の1908年にモンタナ州で発見された個体。

手足や尾の後半以外のほぼ全身が発掘され、ワンケルが見つかるまでは最良の保存状態を記録していた。他の標本に比べて頚椎が華奢であるとされている。ティラノサウルスの研究を前進させたきっかけでもあり、特別展で引っ張り出されることも多い。


スー(FMNH PR 2081)

詳しくは該当記事参照


スタン(BHI 3033)

スタン

1987年にアマチュア化石ハンターのスタン・サリクソンがサウスダコタ州で発見し、1992年にブラックヒルズ地質学研究所が発掘した標本。

ほぼ完全な頭骨を含む骨格の63%が揃っており、スーに次いで知名度の高い標本である。骨には仲間との争いでついた傷や治癒痕が確認されている。また、ラーソン博士の体つきによる性別の推測ではティラノサウルスは「がっしり型」と「ほっそり型」に二分されるとされ、スタンは雄とされている。(がっしり型は雌であり、スーが該当するという)。推定全長は11メートル強。

ブラックヒルズ地質学研究所が原標本を基に作製した復元骨格のレプリカが世界各地の博物館で展示されており、日本国内でも国立科学博物館などで展示されている。

2020年にはその原標本がオークションハウスのクリスティーズで売却され、約33億円とスーの売却値を凌ぐ、恐竜化石の最高値で落札された。


バッキー(TCM 2001.90.1)

1998年に牧場労働者のバッキー・デフリンガーによって発見され、2001~2002年にブラックヒルズ地質学研究所が発掘した標本。

見つかった化石は骨格の34%ほどで頭骨は不完全だったが、叉骨など貴重な化石が残されていた。推定全長10.3メートルほどの亜成体だった。

日本では2011年の「恐竜博2011」にて、当時の最新の学説に基づいて「しゃがんで獲物を待ち伏せる姿」の復元骨格が製作された。2015年からはスタンに代わって国立科学博物館の地球館地下1階の常設展示となっている。


ワンケル(MOR 555)

1988年にモンタナ州でキャシー・ワンケルにより発見され、ホーナー氏率いるロッキー博物館のチームが1989~1990年にかけて発掘した標本。

最初に完全な前足の化石が見つかった標本でもあり、スーが発見されるまでは最良の標本とされた。保存率は49%。推定全長は10.8メートルで、死亡時の年齢は14歳前後だった。

愛知県の豊橋自然史博物館などで復元骨格のレプリカが展示されている。


ブラック・ビューティー(RTMP 81.6.1)

1980年にカナダ・アルバータ州で当時高校生のジェフ・ベイカーらによって発見された標本。

名前は骨の成分に地下水中のマンガンが置換したために美しい黒色となっていたことに由来する。保存率28%で、他の標本より華奢で小柄だったことから亜成体と考えられている。

ロイヤル・ティレル博物館に展示されているデスポーズ(死後硬直の姿勢)の復元骨格が有名だが、日本でもミュージアムパーク茨城県自然博物館などに復元骨格のレプリカが展示されている。


スコッティ(RSM P2523.8)

前述の通り、既知最大のティラノサウルスの化石である。推定全長は13mとスー並の巨体を誇り、2019年の研究によって、骨格の細部がスーよりもわずかに大きく、推定体重は8.8t(8.870kg)に達したと報告された。 1991年にカナダ・サスカチュワン州で地元の教師ロバート・ゲハルトらによって発見され、ロイヤル・サスカチュワン博物館のチームが1994~1995年、1999~2003年にかけて発掘した標本。名前は発掘チームが祝杯で飲んだスコッチウイスキーに由来する。

ほぼ完全な頭骨を含む骨格の40%が揃っており、サスカチュワン産のティラノサウルスとしては最良の標本である。

2013年から復元骨格が3体ほど作製されており、うち一体が2016年に「恐竜博2016」で展示された後、現在はむかわ竜で有名な北海道の穂別博物館が所蔵している。また、上記の研究結果に伴い「恐竜博2019」にも再び展示された。


トリックス(RGM 792.000)

2013年にモンタナ州で古生物学愛好家の夫婦によって発見され、オランダのナチュラリス生物多様性センターとブラックヒルズ地質学研究所が共同で発掘した標本。名前はオランダの前女王ベアトリクスに由来する。

歴代でも3本の指に入るほど保存状態が良い標本とされ、なんと全体のおよそ75%~80%の復元が叶った。更に骨の成長線から推定される年齢は少なくとも30歳を超えていると見られ、発見された中ではスー(29歳)を上回る最も高齢のティラノサウルスである。現時点での推定全長は12.5~13mとされており、スーのそれを凌ぐ。

がっしりした体格の雌で、全身に古傷を残す歴戦の猛者であった。特に上顎骨および下顎骨に見られる咬傷は著しく、これはトリックスが縄張り争いなどで頻繁に他のティラノサウルスと激突していたことを示唆している。

2017年6月5日まで原標本がナチュラリス生物多様性センターにて展示されたのち、現在はヨーロッパの複数の博物館を転々としている。日本国内では2021年に長崎県長崎市野母町でオープン予定の恐竜博物館で、原標本を基に製作されたレプリカが展示予定である。


ジェーン(BMRP 2002.4.1)

2001年にヘルクリークから発見された個体。加速成長期を迎えていない若年個体のティラノサウルスであり、後肢の成長輪に基づき2005年の推定で11歳、2020年の推定で13歳以上とされている。

全身の52%程度が揃っており、全長6.45m、後肢の長さ2.13m、大腿骨長78.8cm、体重639〜1269kgと推定される。


ワイレックス(HMNS 2006)

2002年にモンタナ州で発見され2006年からヒューストン自然科学館が所蔵している個体。

四肢の保存状態が良いが、尾が大きく欠損しているという特徴を持つ。これに関しては地層の中で圧壊したのではなく、生きている間に共食いにより失われたと見られている。また、ティラノサウルスの標本の中で唯一皮膚の印象化石が確認されている個体でもあり、生存時は鱗に覆われていたことが確認されている。


アイヴァン

2005年にサウスダコタ州で発見された個体。全身の約65%の骨が揃っている保存率の高い標本であるが、頭骨は未発見である。首から尾にかけての骨がかなり残されており、全長約12mで18歳ほどの若い個体であるとされている。2021年7月から9月にかけて開催された「ティラノサウルス展」にて日本初上陸を果たした。


ペックズ・レックス(MOR980)

1997年にモンタナ州で発掘され、現在はロッキー博物館で展示されている個体である。第3中手骨が確認された初めての個体でもある。全長は約12mで良好な保存状態ではあるものの、情報源によって数値が変動しており、約30%~80%までの振れ幅がある。また、顎には他の個体と争った際に生じた嚙み跡が確認されている。


トリスタン(MB.R.91216)

2010年にモンタナ州で発見された化石が黒色の標本。

約20歳ほどで体長は約12mあり、保存率が約57%とティラノサウルスとしては高めの数値である。特に頭骨と歯はほぼ全て揃っている。全体的に傷跡や骨折、病変の痕跡があることが判明している。現在はドイツのフンボルト博物館にて常設展示されている。


サムソン

1992年にサウスダコタ州で発見されたZレックスとも言われる個体。

体長は約12mで全体の55%が保存されており、特に頭骨は状態がかなり良好である。最大の特徴はその頭骨であり変形が少ないことにある。上記のティラノサウルスたちはその他の骨との接触や地層の圧力で歪んだ形状になっているが、サムソンはその影響を受けていない。競売に何度もかけられており、各地を転々としていたが2010年の夏にオレゴン科学産業博物館に展示されていたがそれ以降の行方が未定の状態である。


近縁種とシノニム

※一覧はティラノサウルス上科ティラノサウルス科を参照。

タルボサウルス

前述の通り、ティラノサウルスの近縁種は北米の他アジア各地、イギリスなどでも産出している。中でも有名な種が、モンゴルから発見されたタルボサウルス・バタール Tarbosaurus bataar である。タルボサウルスは、全長11m〜12m、体重4t〜5tほどと推定されるティラノサウルスに匹敵する巨大な恐竜で、形態も非常にティラノサウルスと類似している。この事からティラノサウルスと同属であると提唱する研究者もいるが、頭骨に明らかな違いが見られる事などから、現在多くの古生物学者はティラノサウルスとタルボサウルスは別属の近縁種であると考えている。もしティラノサウルスとタルボサウルスが同属別種となる場合、ティラノサウルス属はティラノサウルス・レックス Tyrannosaurus rex の他に「ティラノサウルス・バタール Tyrannosaurus bataar」という新たな種が加わる事になる。


ナノティラヌス

ナノティラヌス Nanotyrannus は1988年に記載されたティラノサウルス科に分類される属である。当初はティラノサウルス科の新種と考えられていたが、最近では、ティラノサウルスの亜成体であるとする説が主流になっている。事の発端は1999年、古生物学者のトーマス・カー(Thomas Carr)が、ナノティラヌスの標本は亜成体であるとする研究を発表したことである。ナノティラヌスの化石はティラノサウルスと同時代・同地域の地層から産出していたため、この研究により、ナノティラヌスがティラノサウルスの亜成体である可能性が浮き彫りになった。しかし、様々な問題点が指摘され、この論争の決着は依然として付いていなかった。ところが、2020年、古生物学者のホリー・ウッドワード(Holly Woodward)らが発表した研究によって、ナノティラヌスがティラノサウルスの亜成体である可能性が以前より有力視されるようになった。現在多くの古生物学者は、“ナノティラヌス”はティラノサウルス・レックスの亜成体であると考えている。


共存してきたとされる主な非鳥類型恐竜

獣脚類
鳥脚類
鎧竜類
角竜類
堅頭竜類

ティラノサウルスと共存していた竜脚類としてアラモサウルス Alamosaurus が挙げられる事が多いが、現時点ではティラノサウルスと同じ地層からアラモサウルスが産出した例がない。生息年代や動物相の面での問題も指摘されており、詳しくは分からないのが現状である。アニメや漫画、児童誌などでは共演している作品も多い。


メディアでの活躍と人気

該当記事を参照。


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