「これにケリをつけて 貘さんの隣に立てる人間になります」
「これまでと同様に俺は キモ冴えた梶ちゃんに側にいて欲しい」
概要
『嘘喰い』の梶隆臣×斑目貘のカップリング。本人のいない所で互いへの思いを吐露することが多い。
※以下、多くのネタバレを含むため原作読了後に閲覧推奨。
出会い
「あの〜」
「あっ?座る?」
「多分それ入ってますよ Bigボーナス……」
闇金に手を出し借金返済に追われていた青年梶隆臣が偶然入ったパチンコ店にて、当たっていたにもかかわらず台を譲ろうとした斑目貘に当たりを教えた所から物語が始まる。かり梅を食べながら、斑目はお礼に貸し一つとして「借金返済手伝ってやるよ」と梶に言い、空袋を風に乗せた。
よくわからない距離感
〈スキンシップ編〉
・斑目は梶の肩を抱く。(1巻2話)
・AV「巨乳大作戦」を見て一緒にソワソワしている。趣味は合うらしい。トイレ使用権を賭けてジャンケンした結果梶が勝ち、その際読者に1分であることがバレた。斑目相手に「1分もあれば」「早いなおいっ1分って」と突っ込まれている。ここまで、最短の場合三日。(1巻3話)
・梶は斑目をおんぶして階段ダッシュする。
「いやー体力あんじゃない梶ちゃんっ」
「ま……まったくかんべんして……下さい」(1巻6話)
・斑目は背後から梶の肩に顎を乗せる。そのまま二人、真面目な会話を続ける。(5巻45話)
・斑目が”コソコソ”「巨乳大作戦シリーズ」をレンタルしていることに言及し、「随分ハマッてるようですけどあのタイトルだって僕発信だってことをお忘れなく!!」と発言する。斑目の横には”なぜ今それを…”と書かれている。
・捨隈悟との勝負に備え、過去の勝負を映したビデオをまる二日斑目が見ていた際、梶は「エロいのだったら俺にも見せて下さいよ」と声を掛ける。(21巻228話)
・梶は斑目に肩を貸す。(25巻272話)
〈セリフ・モノローグ編〉
・「どうしたの?カジちゃん トイレ……おしっこでしょ」(7巻69話)
・「あなたはあまりにも 遠すぎるんだ」(7巻70話)
・「梶ちゃんは改めて俺のもんだ」(7巻71話)
・(そうだよ 僕は貘さんのそんな所にも魅かれていたんだ)(同)
・(そう……僕の命は今貘さんのものだったんだ
せめて この勝負の前 命を賭けた勝負の前に
貘さんに一言……一言くらい何か伝え……)(16巻168話)
・「俺と関わり……その人生を大きく狂わされたと言っていい」(30巻)
・「まだ出ない 貘さん昨日から帰って来ないけど大丈夫かな?どこで何をしてるんだろ…」(同)
・「お帰り貘さん朝帰りっすか!?」(同)
・「僕に何かあったら貘さんを頼みます」(34巻365話)
二つ目以外は本人の前で口に出された言葉ではない。
二つ目は梶を呼び出した斑目が梶の母と義父の前で言った言葉である。
八つ目に関しては頼まれた側の仲間チャンプが「は?何言ってんだよ」と焦りながら返答する。のちにチャンプは梶がずっと昔から思いたかったはずのことを問いただし、自覚させる。
作中エピソードから
〈献身と祈り〉
僕、何でもしますよ
作中を通して、梶は斑目の役に立とうとする。このセリフは1巻6話から登場しており、そして45巻493話に続く。
1巻
「ねー貘さんっ 何か作戦考えてんでしょ?
僕 何でもしますよっ」
45巻
p182
「それだけですか?貘さん」
「?」
「先に塔に入るんだ 貘さんが来るまでの間やる事があれば
俺……仕込みますよ 何でも」
p188
「何でもやりますよ 貘さん」
「梶ちゃん……必要ないよ」
「梶ちゃんはただ あそこに居てくれたらそれでいい」
「後は 自分で勝ってみせる」
〔1巻と45巻の差異〕
差異は大きく二つある。一つ目は梶の一人称、二つ目は前後関係である。
1巻では「僕」だが45巻では「俺」を使っている。頼られれば応える自信と覚悟がある、という意識の表れではないか。また、1巻ではノープランで何でもすると投げ出して斑目の指示「そこの柵から飛び降りてもらおっか」に従ったのに対し、45巻では梶が斑目に仕込みの提案を行なっている。そこに成長と内面の変化が見られる。共通するのは、やはり「貘さんの役に立ちたい」と思っている点である。この部分に関する二人の認識のズレは後述する。
・梶の一人称の表記揺れには諸説あるが、心のうちでその時優位になっている欲求と意思のバランスの差が一人称に表れているのではないか。実際、プロトポロス編、ハンカチ落とし編に入ってから「俺」の使用頻度が上がるが、一方で49巻p65,68においても「僕」という一人称が使われている。かと思いきや雄牛編でも「俺」と「僕」がかなり混線している。「俺」の使用頻度が高そうな印象を受ける矛盾遊戯編(34巻)では、そもそも一人称があまり出てこない。代わりに、在りようを決定づけるような重要なセリフでは「俺」「僕」の使い分けがなされている。
「僕は 分かって欲しいなんて思わない」
「ちゃんと上手く車に当たれるよ?僕」
「あの頃の 貧弱な僕とは違うんです」
「俺……貘さんに恩を返したいし 喜んで欲しくて……」
「僕は 貘さんに並ぶ」
「僕が 勝つ」
そして初めて一人称「俺」が使われるのは1巻1話。
「んな事言っても俺は別にギャンブラーじゃないし……」
また、『親と子』7巻70話において、
(こんな僕が……貘さんみたいになれるはずがなかったんだ……)
「二度と俺の前に姿を現すなぁー!」
が近接している。
生来の本質は「僕」であり、他者に対して見せたい自分が明確に形を持っているとき「俺」を使う、と捉えることもできる。気軽に使う「僕」、持たされた本質としての「僕」があり、後者は「いい子」「可愛い奴」として振る舞おうとするとき意識的に使っているような印象を受ける。しかし、全てがそれで説明できるわけではなく、これに関しては本人の中に抱えられている矛盾そのものの一つであり表面化なのではないか。
「俺に委ねてよ」
「……俺が鴉山と一対一でケリをつける」
(18巻191話、ゲストと斑目の前)
祈りって何?
斑目は自身の〔触れる者全てを破滅へと導く死神(カラカル評)・破滅を飼い慣らし撒き散らす悪魔(門倉立会人評)〕属性を自覚する?が故に……そうでなくともこれから先に想定される修羅を考え、ハングマン戦で首吊りを見た梶が精神的に疲弊しているのを見て、一度梶を手放そうとしたことがある。
「だからさっ 無理する事ないんだぜー梶ちゃん」
「俺はもう賭郎会員になっちゃったしさ」
「……まっ あまり無理して俺についてこなくても」(7巻70話)
これに対して、梶は「非道いですよ」と反論して斑目のコソコソAVレンタルを蒸し返す(なぜ今それを)。
マルコは元々その世界の住人であり、家族もいなかったため自分の側に引き込むことに躊躇いも余地もなかったが、梶は一般的な社会に生きていたため帰した方が彼のためではないかと感じていた。しかし、その母親が梶に渡したはずの二千五百万を持って「生命保険使うのはまだ先ねー」と言ったのを聞き、梶の母にギャンブルを持ちかける。対価として梶の命の所有権を手に入れ、「梶ちゃんは改めて俺のもんだ」と言い放つ。
30巻、プロトポロス編では梶を協力者に求め、弥鱈立会人に告げた。
「伝えて欲しい 彼が望むなら協力してほしいと」
彼が望むなら——つまり、梶が協力を望まなければ強制する事はしないしできない。斑目は彼が頷いてくれることを想い、伝える以外に干渉できない。
そして、梶はその祈りに応える。
〈いいんすよ 貘さん〉
梶はその生い立ち故に、利用され、結果死にいたることを許容していた。理不尽だと抗う気持ちもあるにはあるが、諦観の念が強い。それは母親相手でも斑目相手でも同じである。
首を吊られる悪夢(7巻70話)
「梶ちゃん 悪い悪い負けちゃった……でもさ」
「ホラ……俺さ……梶ちゃんの代理だったでしょ?だからさ 何か知んねーけど首吊るのは梶ちゃんになったみたい」
「悪いねっ 梶ちゃん」
「いや……いいんすよ ばく……さん……」
臓物を切り裂かれ脳髄を撒き散らして死ぬ悪夢(34巻370話)
「ちょっと しくじっちゃったね……梶ちゃん」
「貘さん ……やられちゃいました」
「まっ こんな事に巻き込んで何だけど 悪いねっ でもしょーがないよねっ?」
(…… いいんすよ 貘さん)
もちろん斑目は梶がこんな悪夢を見ている事を知らない。梶も言わない。
〈空間の共有〉
彼らは一種の極限状況に置かれたとき、同一空間内で思考を共有することができる。斑目は屋形越えをする権利を勝ち取るために、敵であるヴィンセント・ラロと戦った。その勝負は「エアポーカー」といい、『嘘喰い』の数ある名勝負の中でも一線を画す。三メートル四方のガラスを満たす水の中に入り、数字のみが彫られた金属製のカード五枚を用いて行うポーカーである。プレーヤーは金の代わりに「エア」と名付けられた空気の金属缶を賭ける。どちらかが溺れ死ぬまでこのゲームは終わらない。死んだ者が負けとなる。
(なお、同勝負におけるクソデカ感情モノローグや白昼夢については別枠を設けた)
斑目が勝負の法則を解けないまま窮地に陥った際、梶は斑目が入れられていた水槽のガラスに、一歩足を踏み込んでその手のひらで触れた。そうすれば自分が解いた法則を伝えられる、斑目はそれを読み取ることができるという信頼の上に成り立ったやり取りと言える。梶はその場にいた誰よりも早く法則を解いていた。立会人よりもラロよりも斑目よりも早く。
「この法則は常人に解ける次元ではない上に 解けばさらなる悪夢を見るハメになります」
(40巻p47、能輪紫音立会人)
呼吸用のエアも賭け、無呼吸で三十秒以上耐えねばならなくなった時、ページの枠外は黒く染まりシャフト的空間で二人は対話を始める。始終は斑目の脳内で考えを整理するべく行われているが、前後は現実とリンクしており、その空間の中の梶と水槽の前に立つ梶は同一とされる。
「ラロが慎重なのはわかってました ここで負ければ立場はひっくり返りますからね」
「でも奴はまんまと賭けに乗ってきました」
「数字は 貘さんの勝ちだと思います」
「勝敗の決まる工程 その工程と深く関わり合ってると思う『ある事』があったんです」
「それは」
「それは」
「何故5回戦なのか……でしょ?」
「癪にさわる…許せない」
「まだ 貘さんと 出会って たいして経ってないくせに」
エアポーカーにて、ラロが短期的な接触にもかかわらず斑目の性質を見抜き、利用したことに憤っている。呼吸用のエアを賭けさせ、その結果斑目は生死の境を彷徨うことになった。これも本人を前にしながら口に出して言ったわけではない。
「梶ちゃん 覚えてる?」
「いや何となく 君に 礼が 言いたかっ…」
梶が斑目に手(ハンド)を見せてくれたことに対して、斑目が白昼夢の中で言った言葉。これも幻影に対して言っているため、梶は知らない。
白昼夢
エアポーカーにて、斑目が溺死しかけていたときに見ていた死の淵の夢。さっきまでいたはずの水槽内から絢爛な塔の間に場面は切り替わり、切間創一を前に斑目が座す。そこにもう一人の男が現れる。黒いシャツに黒いジャケット、靴の先までを黒で包んだ者が扉を開く。
「まるで神 対 悪魔」
「人間なんですよ…」
「何も恐れることなんてないんです」
現れたのは梶だった。「神」は切間創一を、悪魔は斑目貘を指すと考えられている。椅子を引き、神も悪魔も人間が創造したものであり、対立させ戦わせているのもまた人間である、何も恐れることはないのだと告げて席につく。
「か…梶ちゃん」
「梶隆臣 そして斑目貘 私の一存にてこの屋形越え この三人にて行う」
斑目はそれを聞き、(さ…最高だ)と鼻血を出す。彼が溺れていく様を見つめる現実の梶は、そんな夢を見られているなど知るよしもない。
黙過と幻影
二人はそれぞれに互いの幻影を持っている。幻影たちは共通して彼らを死に誘う。
梶の抱く斑目の幻影は常に目元が髪で隠れており、裂けんばかりに口の端を吊り上げる。梶に胸ぐらを掴まれた際には涎を出して笑っている。
斑目の抱く梶の幻影は、上から下まで自身と対照的に黒く染め上がっており、目元は鋭く視線は挑戦的・好戦的で第一ボタンは開けられている。異変に気づきかけた斑目を引き留めて勝負を続けるよう促したりと、総合して理想化された姿が投影されている、もしくは斑目にとって梶がそう見えていると思われる。
これらについても二人は共有していない。察しているかどうかも不明であり、ヒントになる明確な描写のようなものもない。ただ、白昼夢の中で斑目が梶による自身の表現を「悪魔」としていることから、何か見えてくるものがあるかもしれない。
なお、斑目は梶が産まれ直した「ファラリスの雄牛」勝負、羽化する「矛盾遊戯」ともにその場にはいない。何らかの方法でビデオに記録されたものを見でもしない限り、詳細を知ることはない。そして状況的に記録がある可能性は低い。(雄牛は悪事が行われていた邸宅の一室で、矛盾遊戯は島の中にある石造りの砦で行われている)
一連の幻想に関連している可能性があるのは、二人が共に仕掛けたKY宣言編での勝負、マキャベリストゲームの一節である。
「なーんか、俺まで梶ちゃんに利用されちゃってたみたいね」(18巻)
この辺りの攻防では、一見すると梶にとって不利、思うようにゲーム進行の融通がきかず窮しているように見える。しかし実際は主催者と出演者という関係はそのままに、梶は斑目からゲームのルールの制限・制約範囲を聞き出し、それを逆手に取ったファインプレーにつなげた。
僕が貘さんと一緒にいるのは
自分の「負」を何もかも帳消しにして
かっこよく死ねる場を与えてくれる気がしたから…(34巻)
梶が抱える願望成就の期待。矛盾遊戯編で明かされた。これについても、斑目は知らないまま、梶は言わないまま一緒に過ごしてきた。そしてこれからも並ばんとして歩く。
現在どう考えているのかについては不明であり、まだそう思っているのか、それとも吹っ切ることができたのか、解釈は異なる。
認識のズレ
「あんた、本当に使えない子になっちゃったね」(7巻)
梶が債務整理をしたことにより、彼の名義で金を借りられなくなった梶の母が言った言葉。この後彼女は梶を海へ連れ出してそれとなく殺害し、彼にかけてあった多額の保険を得ようと話を持ちかける。
幼少期に父親が死んだ後、梶は役に立たなければ殺される存在だった。小学生の頃「手か足、どっちのでもいいんだ」と言われ、情夫にカッターナイフで指を落とされそうになったこともある。母親は「車に当たった方がマシなんじゃない?」と発言し、それを受けて言った言葉が「上手く車に当たれるよ?僕」となる。彼は小学生(近くに転がっていたランドセルに教科書「さんすう」とリコーダーが確認できる)の頃から当たり屋をし、入院しては母親らが保険金を得ていた。なお、KY宣言編直前の仕込みでは人を轢いてしまう運転手の役をしておりマルコが当たり屋となっている。
「恩を返したい」「喜んで欲しい」そして、役に立たなきゃ捨てられる、という恐れのようなものも垣間見える。KY宣言にゲストとして参加すること自体も、元々は斑目の考案ではなく梶の申し出だった。
こんな思いをするのなら
最初からあの人なんかと出会うべきじゃなかった!(49巻)
その他エピソード
・cp名が入籍している。
・ポイ捨てされがちな空袋は梶が拾っていると思われる。
・「割って天神様まで味わってから、殻は梶ちゃんにあげてる。梶ちゃんはそれを集めてる」
作者がツイッターの旧アカウントでファンからの質問に返信した内容とされている。とりあえずツイッターで「かり梅 殻」と検索すると困惑が共有できる。
・プロトポロス編で斑目からの呼び出しを受けた際、黒ハイネックに白ジャケットからわざわざ黒スーツにバシッと着替えてホテルを出ている。その後手縄に目隠しで連行されるが……
・イケオミ:白昼夢で斑目が妄想しているイケメンのタカオミのこと。もしくはイケてるタカオミのこと
・オミオミ:作者がツイッターの現アカウントで梶の誕生日に書き込んだ呼び名。
・梶の誕生日は11月5日、良い子の日…・原作では梶の誕生日イベントは飛ばされている(そのあたりの時系列は複雑なため、有志によって作られた嘘喰い年表の参照を推奨)
・pixivに今後現れるかもしれない実写ネタとしてハンバーグ、肉、料理等があるが、現れない可能性も高い。この辺りはnmmnとのかね合いや配慮が難しいところである。
付記
――貘さんが序盤で梶ちゃんを切り捨てなかったのがなぜだったのか気になります。貘さんにとって梶ちゃんとマルコはどのような存在だったのでしょうか?
迫先生:第1巻の序盤でパチスロを教えてくれたこと、そして梶の人柄を好きになったからです。マルコも同じく「合う」んですかね。
関連イラスト
掲載イラストについては交流のある方から許可を取ってリンク付けを行なった。
最後に、個人的な解釈や考察が多く含まれた記事になっているということを付け加えておく。また、梶貘の場を借りて原作の話をしているというか、原作を持ち出して梶貘の話をしているというか、さながらプレゼン資料のようになっている気もするがそれも一興だと思ってくれればありがたい。原作を読んでどう感じるかは各々の自由であり、この記事に依拠する必要は全くない。