概要
この世の裏側に通じる不思議な扉「後ろ戸」から現れる、災いをもたらす赤黒い奔流(ほんりゅう)の通称。「ミミズ」という呼び名は、その姿や動きが環形動物のミミズを思い起こさせることに加えて、古来より語り継がれてきた「日不見(ひみず)の神」という呼び方が変化したことにちなんでいる。
この災いの奔流の正体は、この世の裏側「常世(とこよ)」を目的も意思もなくうごめく巨大な力であり、ひとたび後ろ戸を通って現世(うつしよ)に噴き出てくると、その土地一帯の地気(ちき)を吸い上げて膨張し、そのまま大地に倒れ込んで巨大な地震を引き起こしてしまう。
また、その禍々しい姿は「閉じ師」をはじめとする特別な人間や、カラスなどの動物の目にははっきりと見えるものの、一般的な人々はその存在に気づくことすらできない。
特徴
後ろ戸を通って勢いよく噴き出てくるその姿は、ぐねぐねとうねる赤黒い濁流という形容が似合わしく、ひと目見ただけで「あれは絶対に善(よ)くないものだ」とわかるような禍々しい威圧感を放っている(小説版、29~30ページ、32ページ)。赤黒く発光するその体表は、触れようとするとぐちゃりとした気味の悪さとともに崩れてしまうほか(小説版、199ページ)、吐き気をもよおすような甘く爛(ただ)れた焦げ臭さや生臭い潮のような匂いを漂わせている。(小説版、31ページ、82~84ぺージ、326ページ)
空に向かって勢いよく伸びていく災いの奔流は、後ろ戸の開いた土地にあった地気を金色の光る糸のような形で吸い上げると、先端から枝分かれして一輪の赤銅色の花のような形になる。そうして辺り一帯の地気を吸いつくして膨張しきった災いは、内部に溜め込んだその膨大な重さごと倒れ込んで地表に衝突し、激しく大きな地震を引き起こすことになる。
普段は日本列島の東西に祀(まつ)られている2つの要石(かなめいし)の力によって封じられ、仮に災いが噴き出たとしても小さな地震で収まるものの、数百年に一度、要石の封印が破られることによって災いのすべてが現世に現れてしまうことがある。作中に登場した『閉ジ師秘伝ノ抄』には、物語の100年前(1923年)に東京に現れて大震災を引き起こした巨大な災いの姿が描かれているほか、作中においても封印を破った災いの全身が東京の上空に現れ、首都にすっぽりと蓋をするような巨大な渦を形作っている。
閉じ師によって後ろ戸が閉じられると、常世から切り離された災いはその瞬間に割れるように弾け散り、同時に災いが吸い上げていた地気が虹色に輝く雨となって一帯に降り注いでいる。(小説版、37ページ、89ページ、147ページ)
関連イラスト
関連タグ
宗像草太 - 閉じ師の青年。ミミズによる災害を止めるために全国を旅する。
岩戸鈴芽 - 草太と出会ったことから彼とともに「戸締まりの旅」をすることとなった女子高生。
呪霊 - 常人には見えない、人に災いをもたらすなど類似点の多い存在。
参考文献
- 新海誠『小説 すずめの戸締まり』 角川文庫 2022年8月24日発行 ISBN 978-4-04-112679-0