概要
人々がいなくなってしまった場所に開く、この世の裏側「常世(とこよ)」に通じる不思議な扉。開いてしまった後ろ戸からは「ミミズ」と称される災いの奔流(ほんりゅう)が噴き出し、その土地一帯に甚大な被害をもたらしてしまう。
また、後ろ戸の向こう側にはそこだけ切り取られたように常世の風景が広がっているものの、そこに足を踏み入れようとしても決して入ることはできず、現実世界の扉の反対側に出てしまう。
もともとは、人々の営みや賑わいといった想いの力がその土地を鎮めており、何らかの理由によって人々の暮らしがその土地から失われてしまうと、土地を鎮めていた想いの力が薄れて後ろ戸が開き、災いのような善(よ)くないものがそこから出てくるようになってしまう(小説版、362ページ)。宗像草太をはじめとする「閉じ師」たちは、薄れてしまったその土地の想いの力をふたたび集めることで後ろ戸に鍵をかけて災いを封じ、同時に人間のものだったその土地を自然のもとに帰している。
後ろ戸の存在は古来より閉じ師たちのあいだで知られており、作中で草太が開いた『閉ジ師秘伝ノ抄』には、天明3年(1783年)に浅間山が噴火した際に開いた後ろ戸の様子などが記されている(小説版、176ページ)。また、後ろ戸は扉であればどのような種類のものでも通じており、オーソドックスな木のドアをはじめ、鳥居や木製の大門、果ては学校のスライド式の玄関や観覧車の乗り込み口まで後ろ戸に変わっている。
常世
現実の世界である現世(うつしよ)の裏側に存在する、過去・現在・未来のすべての時間が同時に存在する世界である。
「ミミズ」と称される災いの奔流はこの常世を目的も意思もなくうごめいており、現世に通じる後ろ戸が開くとそこから流れ出て大きな災害を引き起こしてしまう。
また、常世の存在を知る者たちは「死者の赴く場所」とも呼んでおり、現世に暮らす者が入り込んではいけない場所として語り継いでいる。
ルーツ
物語に登場する『後ろ戸』という災害装置は、元をたどると能楽において神や精霊の世界につながる扉として登場している。また、日本では古来から伝わる芸術表現は「後ろ戸の神」から授かった超常的な力が源泉と考えられている。
監督の新海誠は、後ろ戸にまつわるこれらの「神様の通る道」という要素に神秘的な印象を感じ取っており、これを物語に根ざした設定として取り入れている。(『月刊ニュータイプ』2023年1月号、16ページ)
関連イラスト
関連タグ
閉じ師 ミミズ(すずめの戸締まり) 要石(すずめの戸締まり)
外部リンク
参考文献
- 新海誠『小説 すずめの戸締まり』 角川文庫 2022年8月24日発行 ISBN 978-4-04-112679-0
- 月刊ニュータイプ 2023年1月号 株式会社KADOKAWA 2022年12月10日発行 雑誌コード 07009-1