「ちょっと、ちょっと待たんね、鈴芽!」
CV:深津絵里
概要
岩戸鈴芽の叔母。鈴芽が幼いころに保護者として彼女を引き取って面倒を見ており、現在では地元の漁業協同組合のオフィスで働いている。
流暢(りゅうちょう)な宮崎弁を話す美しい女性であり、鈴芽とふたりで暮らしその成長を見守る一方で、過保護なあまりつい口うるさくなってしまう一面も持ち合わせている。
そんな環はあるとき、娘同然に育てていた鈴芽に勝手に家を飛び出されてしまい、彼女のことが心配でたまらなくなった環は電話とSNS越しに自身の気持ちを伝えようとする。しかし、鈴芽がそれらに取り合おうとせずにますます遠くに行ってしまったことから、環はついにある決心を固めることになる。
人物
容姿
艶やかな黒髪のマッシュショートや長く美しい睫毛(まつげ)、赤いグロスの唇など、隙を感じさせない華やかさをたたえた40代の女性。その整った美しさは、鈴芽や岡部稔といった作中のさまざまな人間を男女問わず魅了するものとなっている。(小説版、12ページ、99ページ、128ページ、364ページ、『すずめの戸締まり』映画公式パンフレット、25ページ)
普段の漁業協同組合での仕事の際にはすらりとしたベージュのパンツスーツに身を包んでいるほか、鈴芽を追って九州から上京した際にはブルーのサマーニットとワイドパンツという大人の休日風のコーディネートを決め、着替え(白のタンクトップとラベンダー色のカーディガン)を入れたトートバッグを肩にかけている。
性格
思い込みの強い熱くまっすぐな気質とともに、大切な人のことを第一に想う優しい一面を持ち合わせている。時にはその優しさに歯止めが利かなくなり、細かいところまで気になる心配性や相手の気持ちを度外視した過保護ぶりに発展することもあるものの、基本的には年相応の責任感と人情味のある涙もろさのもとに過ごしている。
生活環境
宮崎県の港町にある漁業協同組合の総務部長として働いており、地域の漁業体験の準備といったさまざまなオフィスワークに朝から晩まで熱心に取り組んでいる。ときには夜遅くまで残業することもあり、鈴芽に夕食を勝手に作って食べさせるような指示を出すこともある。
しかしながら、環にとっては仕事よりも鈴芽への愛情のほうがずっと大切であり、家にも職場のデスクにも彼女の写真を飾ったり、高校に通う彼女のために細部まで凝った愛情弁当をこしらえたりしているほか、自宅をどんどん離れて旅をする彼女を捕まえるために仕事を同僚に任せて単身で東京都まで追いかけにいくなど、作中の端々に鈴芽への愛情を優先する姿勢を見ることができる。
その他
- 生年月日は1983年7月12日(小説版、99ページ、285ページ)。なお、環の誕生日については作品の公開以降長らく明かされなかったものの、2023年9月26日に監督の新海誠が自身のX(旧Twitter)アカウントにおいてファンからの質問に答える形で設定を公開している。(参考ポスト)
- 40歳になった現在も独身であり、鈴芽からは「もおー、早く恋人とか作ってくれないかな、この人」と環の知らないところで本音をこぼされている。
- 鈴芽と二人でお誕生日会を開くことを毎年の通例としており、環は彼女からハッピーバースデーを歌われるたびに感極まって涙をこぼしている。(小説版、99ページ)
主要キャラクターとの関係
岩戸鈴芽
九州の静かな港町に暮らしている17歳の女子高生。
環は鈴芽のことを「鈴芽」と呼んでおり、対する鈴芽は「環さん」と呼んでいる。
環にとって鈴芽は姪(姉の娘)にあたり、鈴芽が4歳(環が28歳)のときに彼女を九州に連れ帰って二人暮らしを始めている。環はそれ以来、鈴芽の成長をそばで見守ることを第一に考えるとともに、彼女の入学式や卒業式といった節目の行事ごとに一緒に記念写真を撮り、大切に残しておくことを常としている。
鈴芽との日常関係については、彼女が環に向けるほどほどの距離感によって平穏が保たれているものの、ときおり彼女から環の作った愛情弁当を家に忘れるなどといったささやかな反抗心を見せられており、環はそのたびに「仕方のない子ね」と責めるような呆れをのぞかせている。
そのような日常が続いたある日、鈴芽は謎の白猫を追うために環の制止を振り切って旅に出てしまう。環はそのなかで、鈴芽に何度行き先を聞いてもはぐらかされ、自身の想いをしたためたSNSのメッセージもまともに読んでもらえず、それでいて彼女が一向に家に戻る様子を見せないために心配でたまらなくなり、ついに彼女を直接迎えに行くことを決意する。
環は不在間の仕事を同僚に任せる形で仕事を休むとともに、鈴芽のスマートフォンの電子決済の明細を頼りにして彼女の足取りを追い、ついに東京都の御茶ノ水駅前で鈴芽を捕まえる。折しも鈴芽は芹澤朋也の車に乗せてもらって彼女の故郷に向けて出発する直前であり、人間の言葉を話す謎の猫・ダイジンの登場による驚きも相まって、環は流れのまま彼女の旅に同行することになる。
環は鈴芽の旅に加わって彼女の意志を直接目にするなかで、彼女が日本中を旅する目的は「アイデンティティ(自我)の確認」にあり、自身の成長や人間関係を形成していく過程で自分自身のルーツに向き合って気持ちを整理しようとしているのではないかという想像をしている(小説版、276~277ページ)。しかしながら、環はその考えと同時に、鈴芽が実際に挑もうとしていることは自身の想像をはるかに超えるような大変なものなのではないかという本能的な予感も感じ取っている。(小説版、279ページ)
岡部稔
環の勤めている漁業協同組合の同僚。
環は稔のことを「稔くん」「君」と呼んでおり、対する稔は「環さん」と呼んでいる。
環は稔から向けられている好意にさっぱり気がつかず、彼からの熱い想いに対してしばしば「君の話と一緒にせんでくれん?」というような面倒くささが混じった冷たい態度を返している。
また、環が鈴芽を追って上京した際には、不在間の自身の仕事を稔に任せているほか、鈴芽と一緒に旅をするなかでの状況を彼に電話越しに伝えたりするなど、自身のことを支えてくれる協力者として頼りにしている様子を見せている。
芹澤朋也
東京都内の大学に通っている大学生。
環は芹澤のことを「芹澤くん」「君」と呼んでいる。
鈴芽が勝手に家を飛び出して旅をするなかで、残された環は「鈴芽はひょっとして知らない男と一緒にいるのではないか」という疑念を抱いており、実際に上京した先で彼女のそばにいた芹澤の姿を目にした際には、その安いホスト然とした格好から「こん男がうちに来ちょったやつ? あんただまされちょっとよ!」と勝手に決めつけ、彼のもとから鈴芽を遠ざけようとしている。
そののち、成り行きによって芹澤の車で鈴芽の旅に同行することになった環は、あれこれと世話を焼こうとする彼の振る舞いに「せからしかね!」と不機嫌さを保ちつつも、本質的には他者に無関心そうな彼の人柄に対してささやかな好感を覚えている(小説版、264ページ)。また、芹澤のオープンカーの屋根が展開途中の半端な位置で停まってしまったり、その状態で雨に降られて慌てて停車先を探すなかでは、適当かつ楽天的に笑う彼の姿を前にして「ははっじゃないやろ! ちょっと、どうするとよこれ!?」などと悲鳴を上げている。
しかしながら、環が旅の途中で鈴芽と言い争いをし、そのなかで自身の意思とは無関係に本心をあらわにして彼女を傷つけてしまった際には、ショックのあまり芹澤のもとへと歩み寄ってわんわんと泣き崩れ、その場で彼に介抱されている。
関連イラスト
関連タグ
岩戸鈴芽 - 九州の静かな町に暮らす17歳の女子高生。環の姪にあたる。
岡部稔 - 環の勤め先である漁業協同組合で働いている男性。
芹澤朋也 - 東京都内の大学に通っている大学生。
芹環 - 芹澤朋也とのカップリングタグ。
外部リンク
参考文献
- 新海誠『小説 すずめの戸締まり』 角川文庫 2022年8月24日発行 ISBN 978-4-04-112679-0
- パンフレット 映画『すずめの戸締まり』 東宝 2022年11月11日発行
主要キャラクターとの関係・補足事項
はじめに
本項目は、作品の核心に深く関わる内容を掲載しています。
作品を鑑賞された方、もしくはネタバレに自己責任を持てる方による閲覧を推奨します。
岩戸鈴芽
九州の静かな港町で暮らしている17歳の女子高生。
鈴芽はもともと岩手県の小さな港町で生まれ育ち、彼女の母親である岩戸椿芽とふたりで暮らしていたものの、2011年の3月に東日本全域を襲った未曾有の大震災に巻き込まれるなかで母親を失ってしまう。その当時、九州で震災発生のニュースを知った28歳の環は、発生から数日が経っても姉の椿芽との連絡がつかなかったことから、残された鈴芽に会いにいくために手を尽くして彼女のもとまでたどり着いている。環はひとまず鈴芽と対面し、「おばさんと一緒に九州に行こうね」という話を彼女と交わすものの、母親のことをどうしても諦めきれない鈴芽がその日の晩に勝手に外に飛び出してしまったために、環は雪の降るなかをライトを片手に彼女を探し出すことになる。不安と恐怖に駆られた必死の捜索の末に、環は小さな子供椅子を抱えたまま瓦礫の影にうずくまる鈴芽の姿を見つけることができ、込み上げる強い切なさのもとに「鈴芽、うちの子になりんさい」と涙を流しながら彼女を抱きしめている。(小説版、262〜263ページ)
鈴芽を連れて九州に戻ってきた環は、彼女とふたりで新しい暮らしを始めるなかで、鈴芽のことを何よりも大切に考えるために自身の人生に関することをことごとく後回しにしている。そうしているうちに12年の歳月が流れ、環は夫や子供を持たないまま40歳という年齢を迎えるようになっている。環は自身の人生における取り返しのつかなさを直視するにあたり、「姪と天秤にかけるにはぜんぜん割に合わない」などといった羨望(せんぼう)や悲嘆を覚えるとともに、ときにはそのような人生の転機をもたらした鈴芽に対して「あなたさえいなければ」というような恨みや憎しみを募(つの)らせている。(小説版、284〜286ページ)
しかしながら、環はそれらの負の感情と同時に、そのような想いを考えてしまう自身に対する自己嫌悪や、自身の人生そのものになった鈴芽の存在を肯定する想いもあわせて抱いている。環は鈴芽の旅に加わるなかで自身が秘める負の感情を彼女の前であらわにしてしまった際にも、「なんであんげなこと、言ってしまったっちゃろう……!」と自身の憎しみで鈴芽を傷つけてしまった罪悪感のもとに涙を流したり、自身のなかにそれらの負の感情が存在することを認めた上で「でも、それだけでもないとよ。ぜんぜん、それだけじゃないとよ」という、鈴芽に対する喜びや誇りといった正の感情も持ち合わせていることを語っている。(小説版、290〜291ページ、305ページ)
また、作品の音楽を担当した野田洋次郎は、脚本を読んだ際のファーストインプレッションをもとにして楽曲『Tamaki』を書き上げている。同氏は、環が秘めている「大切な存在に対する大好きと大嫌いの表裏一体の感情」が物語のなかで重要な役割を果たしていることを実感し、その印象を素直に濾過(ろか)しながら作詞にあたったことを明かしている。(『すずめの戸締まり』映画公式パンフレット、37ページ、『CUT』No.451 2022年12月号、70ページ)
岩戸椿芽
かつて岩手県に暮らしていた自身の姉。
環は椿芽のことを「お姉ちゃん」と呼んでいる。
自身の6つ上の姉にあたり(小説版、285ページ、311ページ)、環が東北の実家を出て九州で暮らし始めてからも互いに連絡を取り合う間柄であった。2011年の3月に椿芽の暮らす町が甚大な被害に見舞われていることを知った環は、彼女の安否がわからないことから直接東北の地に向かい、彼女の娘である鈴芽を引き取っている。
環は鈴芽の旅に加わるなかで、12年ぶりに自身の故郷を訪れた彼女の姿に際して亡き姉にそっと思いをいたしたり、彼女がそこにあった特別な後ろ戸から常世(とこよ)に飛び立つのを見送った際に「お姉ちゃん、もしそこにいるのならば──── お願い、鈴芽を守って」と強く願うなど、時を経ても褪(あ)せることのない姉妹のつながりを見てとることができる。(小説版、318ページ)