概要
ダーム王国騎士団所属する黒髪短髪で細面の男性。
前任の長官・ラルフ=ポートマンの戦死に伴い、長官の座に就いた。
人物
元々は一介の騎士にすぎなかったが、ある時から突然魔法の才能に目覚め、剣と魔法両方を使える稀有な人材として瞬く間に出世を果たした。
しかし、人格面では軽薄かつ慇懃無礼な振る舞い、自分は特別な存在と思い込む選民思想や突拍子も無い言動などが目立ち、本来なら人の上に立つべき長官という立場でありながら周囲からの人望は薄い。
英雄と称されるシン=ウォルフォードに対しては表面上こそ友好的に接しているが、内心では凄まじい嫉妬と敵意を向けている。
(シンの方もヒイロのわざとらしい程に馴れ馴れしい態度に不信感を覚えており、余り良い印象を抱いていない)
以下、本編のネタバレを含むので閲覧注意
正体
その正体はシンと同様に「現代日本で生きた前世の記憶」を保持する転生者。
この世界では「幼い頃に生死の境を彷徨うと前世の記憶が蘇る」ことが稀にあり、過去にも「前世の記憶」を活用したらしき人物が何人もいたことが確認されている。
ヒイロの場合は幼い頃に酒に酔った父親に暴力を振るわれ、死にかけたことにより前世の記憶を蘇らせた。
シンとは対照的に、貧しい上に酒乱で暴力を振るう父と頼りにならない母という劣悪な家庭環境で育ち、前世の記憶も相俟って出世欲と上昇思考が強い。
また、言動の節々に「チート」「異世界無双」「ステータス」と言った台詞などが有り、自分が転生した世界をゲーム感覚で見ている節が見られる。
魔法の存在する異世界に転生した事に一度は歓喜するも、自身に魔法の才能が無い事を知って失望。
止む無く剣の修行を始め、一時はそれにのめり込み騎士団に入団するに至るが、そんな時に魔人の襲来とそれを討伐し英雄と讃えられるシンの存在を知る。
シンの開発した魔道具などの情報からシンが自分と同じ転生者であると確信する。
同じ転生者でありながら自分と真逆の恵まれた環境と絶大な功績で英雄視されるシンに強い嫉妬を抱き、シンが戦果を挙げるに連れて嫉妬は憎悪へと変化していった。
やがてヒイロは、自分とシンの差を魔法が使えるか否かだけと考え、独自に魔法使いとそうでない者の違いを研究し、その結果魔石を服用して基礎魔力量を上げれば良いという結論に達し、魔法を使えるようになった。
それにより剣術と魔法両方を駆使出来る存在としてダーム軍随一の戦力となり、前任の長官が戦死した事もあって軍事長官の座を獲得するスピード出世を遂げる。
それでもシンへの憎悪と出世欲は止まらず、新任の若い国王・アシム=フォン=ダームにシンへの偏見に満ちた意見を吹き込み、シン及びアールスハイド王国を敵視するように仕向け、魔人王戦役終結直後にアールスハイドに宣戦布告させて自分がそれを止めるというマッチポンプで政権を崩壊させ、元首の座に就く事に成功。
貴族制を完全廃止し、ダーム王国からダーム共和国へと名を変え、民主制を敷いて『民主主義を確立した人物』として歴史に名を残そうとしていたが・・・。
末路
民主制へ移行し、憎きシンを上回る地位と権力を手に入れた(と勝手に思い込んだ)のは良いものの、平民の学力などの下地の無い状態での急激な変化に国がついて行けず、更にはそれを利用した裏社会の人間が議員になった事で、ダーム全体が犯罪と汚職の横行する魔窟となってしまう。
政治が上手く回らず国民からも、救国の英雄から一転して国を混乱させた元凶として憎悪を向けられ、更にはヒイロ自身も前述の魔石服用の副作用によって魔力が不安定となり、そのストレスから体調に異常をきたしてしまう。
(医者や秘書官からはシンやシシリーらアルティメットマジシャンズに頼るべきと進言されていたが、ヒイロはそれを頑として拒否していた)
ちなみに、この頃から既に秘書官からは見限られており、アルティメットマジシャンズに派遣した事務員を通じてシンの弱味を握ろうとしていたヒイロの意向を無視して、余計なトラブルを起こさないよう、まともな人物を派遣している。
遂には汚職議員による他国へのテロ行為が露見し、精神的上位国であるイース神聖国からの政治介入を受け、民主制は崩壊。
更にはエカテリーナに同行してきたシンに対し、これまで溜め込んできた嫉妬と憎悪が爆発して魔人化してしまう。
魔人となった後は理性を殆ど失いシンに襲い掛かるが、規格外の実力を持つシンには到底敵わず、討伐されて死亡した。
彼の死後、汚職議員はエカテリーナ主導の下、アルティメットマジシャンズの活躍で一掃され、ダーム共和国は元のダーム王国に戻される事となる。
(ちなみに、新国王の座はヒイロが嘗て謀殺した前国王の甥に引き継がれた)
なお、魔人化した事は国家の混乱を防ぐため、当事者以外には秘匿され、「失脚して表舞台から姿を消した」として発表された。
能力
騎士団の中ではそれ程目立った存在ではなく、剣士としては平凡。とは言え、当人の努力もあって曲がりなりにも騎士団に入団出来るだけの剣術の腕はある模様。
国王であるアシムを、シンに不信感を抱くように誘導して自滅させ、元首の地位を奪うなど謀略に優れた一面も見せる。
また、独自の研究のみでシン達でもクワンロンで聞くまで知らなかった魔石服用の効果を発見しており、研究者としても有能にも思える。
しかし、自身の持つ前世の記憶と知識を過信し過ぎるきらいがあり、周囲の人間を全て(王族も含めて)見下しており、それ故にプライドも過剰なまでに高い。
最終的には自身の軽薄かつ浅はかな性格が災いし、前述の魔石服用の副作用によって己の身を滅ぼす事に繋がってしまう。
(ただし、流石に規格外の戦闘力と人脈を持つシンには戦っても敵わない事は早々に理解し、直接敵対しないよう立ち回る慎重さもある)
更に、政治家としては全くの無能で、元首の地位に就いたは良いものの、本来なら平民を含む全国民に一定以上の学が必要になる民主制を下地の全く無い状態で導入した為、無用の混乱を引き起こしている。
(作中において平民にも義務教育を敷いているのはアールスハイド王国のみであり、基本的に政治を担当する貴族を廃した事で、政治に対して無知な平民を利用し、裏社会の人間が組織票を得て議員になってしまった為)
政治面での失敗や短絡的な行動から無能に見られやすいが、表沙汰にならないだけで、ある程度の結果は出しているため、一概に無能とは言い難い。
しかし、シンとは違い前世(現代)の記憶を全く活かせず、前世においてもほぼ無知であろう政治に手を出して自滅するなど、前世の記憶が足を引っ張っている部分がある。
寧ろ最大の問題は人格面であり、無駄なプライドやシンに対する嫉妬心が先行するばかりで、末期では根本的な解決を行わず喚き散らすばかりという有様だった。
彼にとって最大の不幸は、同じ転生者であるシンに対して必要以上に嫉妬して自分と比較してしまい、シン以上の(延いては自身の能力以上の)名誉と栄光を求め過ぎた事だろう。
(この点はオーグからも指摘され、「生まれや境遇は人それぞれ違うが、問題はそこからどう努力するか」と返されている。)
彼を見限り、内心で見下していた秘書官の「そんな遠くばっかり見てるから、目が曇るんだよ」という皮肉は実に的を射ていると言える。
ヒイロ自身は上述の剣術や基礎魔力量に関する研究、地位を得る為の策略など、良くも悪くも努力はしているのだが、彼の場合努力の方向性を文字通り致命的なまでに間違えてしまったのである。
余談
・シンに対する嫉妬と憎悪もさる事ながら、偏見に満ちた思考はある意味作品そのものに対するアンチ・ヘイトに通ずる部分があり、賢者の孫に対するアンチを体現したキャラとも言える。
・主人公以外のもう一人の転生者という非常に重要な立ち位置の悪役なのだが、実は作中においてシンと直接対面したのは僅か2回だけであり、関係もヒイロがシンを一方的に敵視しているだけで、立場的に言えば敵対すらしていない上、結果論で言えば終始一人相撲をしていただけという極めて稀な悪役とも言える。
(前述した通りアールスハイド王国に敵対行動を取ったのは汚職議員であり、ヒイロ自身は直接関与はしていない)
また、シンからは日本語で喋るまで転生者と気付かれていなかったが、これはシンの知る過去の転生者が全員何らかの大きな功績を挙げ、歴史に名を残している為である。
皮肉な事にヒイロは悪い意味で、母国であるダームの歴史に名を残す事になってしまい、続編の『魔王のあとつぎ』でも民主制の導入失敗が語られており、シンとオーグからは「あれも一つの政治形態だけど、それを実現するにはまだ早すぎた」とコメントされている。
・「現代日本で生きた記憶」を持っているが、シンの開発した魔道具(バイブレーションソード)など、日本語で付与された魔道具を解析・複製する事は出来ない。
元日本人でありながら、何故漢字が使えない(もしくは読めない)というのは疑問に思われるが、これは前世の記憶が覚醒してから魔法を使えるようになるまでの約20年近く日本語を思い返す事が無かった為と思われる。
(シンでもバイブレーションソード製作当時は思い返す為に何度も書き直した上で成功させている)
漫画版ではシンがバイブレーションソードに文字を付与する際、付与文字の模写防止の為に付与文字を不可視にする事で対処しており、複製出来ない理由が明確となっている。
関連タグ
望月冬夜:同じなろう出身の他作品における、一国の王にまで出世した転生者繋がり。
ただし、こちらは(自身のチート能力もあるが)これまでに得た人脈を駆使して優秀な人材を登用し、上手く内政を整えている。