経緯
HTC発バラエティ「水曜どうでしょう」の海外企画の一つ・アメリカ合衆国横断第7夜で起こった事件。
それがインキー事件である。
元々この企画、西海岸のサンフランシスコから首都ワシントンD.C.までレンタカーで横断する全8夜の構成だったが、第6夜までの時点で日程を半分以上消化したにも拘らず、ご一行はななんとオクラホマ州クリントンにいた（オクラホマはルート前半で、中間地点ですらない）。ちなみに遅れた要因は主に大泉洋の無駄な買い物や寄り道、寝坊といグダグダっぷり。
この状況に危機感を覚えた「ミスター」こと鈴井貴之は遅れを一気に取り戻すべく「1日で1200km以上を走り、テネシー州ナッシュビルへと到達する」という目標を立て、実際に午前中5時間ハンドルを握り450kmを走破するという働きを見せたのである。
…が、鈴井が寝た事をいいことに藤村Dが大泉に「温泉地がある」と囁き、大泉も最初は断ったが、結局有名な温泉地アーカンソー州ホットスプリングへ行ってしまう。
まさか自分が寝ている間に目的とは全然違う所に寄り道しているとは思わなかった鈴井は当然イライラが最高潮となり、車内はピリピリとしたムードになってしまった。これが怒ったときの本当に怖い鈴井社長状態である。
※基本フリーダムで行き当たりばったりな「水どう」のロケ旅だが、流石にこれ程の頑張りを潰されては怒るのも無理はない。しかも元凶の藤村は大泉にすべてを擦り付け、結果大泉が鈴井にど突かれたり口も利いてもらえなかったりとマジギレ状態がしばらく続いたのであった。
その後はこいつらも「これ以上ミスターを怒らせたら本気でヤバい」と考えたのか随分と大人しくなり、お通夜さながらの重苦しい雰囲気に包まれた車内では大きな見せ場も山場も無く（せいぜい未確認飛行物体を目撃した程度）、そのまま頑張って22時過ぎまで爆走した結果、本来の目的地ナッシュビルの手前約100kmの地点にあるテネシー州バッファローという小さな町に到着、その日の宿をとった。
夜遅くまで走り続けてしてなお本来の目標地点であるナッシュビルへは届かなかったものの、それでも手前約100km地点となんとか誤差の範疇にまで挽回。「ゴールまで残り2日で約1200km」という、現実的にゴール可能な範囲に到達できたことで溜飲を下げたのか、就寝前のミーティングではミスターのお怒りもだいぶ収まっていた。
しかし、翌日に鈴井と大泉らの立場が逆転してしまうとは誰が予想しただろうか。
インキーマン、誕生！
翌日は大泉は寝坊もせず、むしろエルヴィス・プレスリーのコスプレで皆を叩き起こすなど中々にやる気を見せており、4人全員出発の準備が完了。マンモスケイブを観光したのち、ゴール地点のワシントンD.C.へなるべく近づくようという計画だった。
が、ここでエンジンはかかっているが、運転席も助手席も後部座席もトランクも全てドアが開かないトラブルが発生（これをインキー/インロックという）。
大泉「皆さんこの状況がお分かりでしょうか？」
「エンジンがかかっていて、運転席も助手席も後部座席もトランクも開かない。」
「どういう事ですか？」
「つまり、インキーされています！この車は！」
大泉「それではご紹介致しましょう！インキーマンの、鈴井さんです！」
鈴井「すいませんでしたぁ………」
これをやらかしてしまったのがあのミスターである。
大泉にインキーマンと紹介されたミスターは皆に土下座。このときテロップには「私が犯人です」とでかでかと表示される始末で、前日までは遅れを取り戻そうと必死になり、さらには周囲にも厳しい態度をとっていたミスター自ら致命的なミスをやらかすという事態に、ミスター以外のどうでしょう一行は沸き立った（嬉野Dが珍しく爆笑しているくらいに）。
インキーマンへと変身したミスターは前日までの威厳がどこへやら、大泉らよりも弱い立場へと成り下がり、完全に立場が逆転してしまったのであった。
なお、ミスターはこの時泣きそうな顔になっており、終始おどおどしていた。前日の鬱憤晴らしも兼ねてかここぞとばかりに付け上がった大泉と藤村に弄り倒されてしまい、藤村には底意地の悪い口調で「おっさん」呼ばわりされ、ねちっこく嫌味を言われる始末。
結果、ロードサービスを呼んでインロックからは解放されたが、この始末で都合2時間は遅れることになってしまった。
大泉「途方に暮れてしまいますねぇ。慌ててはいけません皆さん、こういう場合は。」
「ただまぁ打つ手はないです、ね、基本的に」
とにかくロードサービスが来ない限りは我々は何もできないと部屋に戻ろうとする一行。
しかしである。
ミスターが手をかけた部屋のドアが開かない。
大泉「部屋の鍵は？」
鈴井「………………」
大泉「部屋の鍵どこやってんだよ………！」
まさかあろう事にミスターは部屋の鍵まで閉じ込めていた事が発覚。
実はどうでしょう班では「最初に部屋を出た人間が鍵を持っていく」ことになっていたのだが、車のインキーをやらかしたミスターがあわてて鍵を忘れ、大泉と藤村D、嬉野Dは最初にミスターが最初に部屋を出たので「ミスターが鍵を持っている」と思った結果、ダブルインキーとなってしまった…とのこと。
藤村「あんた先に出てったじゃないの？！」
大泉「オートロックだって知ってんだろ！？」
「おいイン・キーにイン・キーか？」
「死ぬ気か！？」
などと散々な罵りを受け、フロントまでパシられることになった（このときも大泉らから「すぐ！」「走る！」などと罵声を浴びせられている）。
以降、出発後の車内で何事も無かったかのようなトークをしたり、動揺の末大泉の衣装にケチをつけて逆襲されたりとブレまくりの振る舞いを重ねた末、厳格だった鈴井の威厳が完全に崩壊。
マンモスケイブへの道中で「アメリカンになれよ」と罵られ、目的地に到着した際には大泉のド派手なカウボーイの衣装を着こんでドヤ顔になったり、「カントリーウエスタン風」と称しては大泉と同様に衣装を買い込んだり、葉巻をすぱすぱ吸いながら「なんだったらまたイン・キーやって時間稼ぐから」と開き直ったりと、終盤で思いっきりアメリカを履き違えながらも満喫した状態でゴールまで過ごすことになってしまった。
これが水どうクオリティである。
ともあれ、ミスターはこうしてアメリカで新たなダメ人間っぷりを発揮し、大泉からは「後世まで語り継ぐよ」と言われてしまう始末であった。
これが証拠のVTRである。
大泉の前口上やダブルインキーに繋がるくだりはカットされているが、面白いので一度は実際に放送されたバージョンを見ることをオススメする。
余談
藤村Dと嬉野DのYouTubeチャンネルの動画にミスターが出演した際に明かされた真相は「車のドアロックそのものにも問題があって、ミスターが暖気しようとしてエンジンをかけ、その後ドアを閉めたらロックが勝手にかかってしまいインキーになってしまった」とのこと。
いわゆるドアロックのボタンがドアハンドルではなくサイドウインドウの脇に出ていて、押し込むとロックされるタイプ。それがドアを閉めた衝撃で落ちてしまいロックがかかったようである。
嬉野D曰く「ミスターがインキーしたわけでもない。あれは一種の不幸、それを引き当てたのがミスター」
藤村D「あいつが犯人でいいだろう」（藤村Dはミスターがドアロックを作動させてしまう現場に居合わせて一部始終を見ていた）
嬉野D「ミスターが犯人でいてほしい」
…ということで撮られたのが大泉による茶番であるそう（段取りをしたのは大泉）。
｢どうでしょう｣では散々な目に遭ったミスターであったが、一方で｢ドラバラ鈴井の巣｣では｢大泉の遅筆｣に頭を抱えたスタッフ（当然藤村達ではなく｢ドラバラ｣の方である）が｢最終手段｣としてミスターに懇願し大泉に発破をかけさせた（しかも2度）。
1度目は大泉が｢何でこんなに『書けない』んだろうか…｣と口を滑らせた彼に｢聞き捨てならない｣などと笑いながら怒り、2度目に至っては電話応対したスタッフに｢本来はこちらからお伺いして謝罪するのが…｣と前置きしつつも｢もし今度遅れたら…覚悟しとけ｣と伝えさせるなど普段の｢ダメ人間｣ぶりが嘘のように思えるほどの真人間ぶりを発揮した。
※番組的や大泉の言動によりギャグめいて見えているが、本質的には｢自分の会社の社員が取引先に迷惑をかけている｣ためこの態度の方が正しい。ついでに言うとミスター自身は｢ダメ人間｣であるとはいえ｢どうでしょう｣以外では｢（大泉含め）事務所の所属タレントに対しては厳しい態度で接している｣事も付け加えておく。
そのため、この時の大泉を本項になぞらえて（遅筆による延期+インキーマン）｢エンキーマン｣と呼ぶ視聴者もいたりする。
このインキー事件以降、ミスターが前に出てくることが減っている。これは、大泉＆藤村の悪巧み→ミスター激怒→インキー事件の一連の流れを経て、「自分が前に出るより大泉と藤村に好き勝手にやらせた方が面白いのでは」という境地に至ったため。以降、現在まで通じる「どうでしょう」の大泉と藤村の好き勝手なやりとり（罵り合い）とそれを第三者的な立ち位置で見守るミスター、という構図が確立されていった。
