概要
西澤保彦によるSFミステリ小説。
いわゆるループものを題材としており、殺人事件のあった日が何度も繰り返され(作中では「反復落とし穴」と表現)、それを唯一認識できる探偵役の主人公が真相を明らかにするという構成。
タイトルや表紙は物々しく、またストーリーも殺人事件や親族間の遺産をめぐる骨肉の争いがメインという、一見すると殺伐とした昼ドラ的な雰囲気を感じさせる。
しかし、実際は個性的すぎる登場人物やコミカルなやり取り、軽快な文体も相まってライトノベルのように気軽に読める作品である。
また、序盤から緻密に張り巡らされた伏線や終盤のどんでん返しは非常に秀逸で、作者の代表作の一つとなっている。
あらすじ
──どうしても殺人が防げない!?
同じ日が何度も繰り返される「反復落とし穴」という不可思議な現象。
主人公・大庭久太郎はそれを唯一認識できる体質の持ち主だった。
ある正月の日、親族たちが一堂に会する場で祖父である渕上零治郎が何者かに殺されているのが発見される。
折しもその日が「反復落とし穴」に陥ってしまったため、久太郎は同じ一日を何度も繰り返しながら、祖父の死の真相を明らかにしてゆく。
登場人物
- 久太郎
主人公。読みは「ヒサタロウ」だが「キュータロー」というあだ名で呼ばれている。
高校生だが、生まれつき「反復落とし穴」を認識でき、同じ日を何度も繰り返していることから、精神年齢は30代以上である。
そのため他人から爺むさい印象を抱かれがちであり、本人も大人びた(そしてどこか達観した)価値観の持ち主。
- 富士高
読みは「ふじたか」。久太郎の兄。大学院生。従妹であるルナと交際している。
無口で真面目な人物に見えるが、ルナ共々一度キレると手がつけられなくなる頑なな一面も見せる。
- 世史夫
読みは「よしお」。久太郎の兄で富士高の弟。営業マン。
女好きのチャラ男で、その軽い性格のせいで女性陣からも恋愛対象としては一切見られていない。
ちなみに同作者の別の小説「仔羊たちの聖夜」にもゲスト出演している。
- 加実寿
読みは「かみじ」。久太郎の母親。
遊び人の父に嫌気が差して大学卒業後に結婚し、以降は実家を半ば絶縁状態にあった。
強欲かつヒステリックな性格で、渕上家の財産を狙って露骨に媚びを売っているが、これは夫が失業中で生活苦に陥っているという事情もある。
- 舞
久太郎の従姉。職業は不明。
決して不美人ではないが本人のコミュ症で卑屈な性格と、華やかな妹の影に隠れがちなこともあってコンプレックスを抱いてしまっている。
密かに富士高に恋慕している。
- ルナ
久太郎の従姉で、舞の妹。職業はイベントコンパニオン。
明るく愛想のいい美人だが、性格は伯母である加実寿に似て若干ヒステリックであり、また姉の舞を見下している節がある。
現在は富士高と交際中であり、二人が結婚することで跡継ぎ問題を解決しようと企んでいる。
- 葉流名
読みは「はるな」。舞とルナの母親で、加実寿の妹。
嫌味でねちっこい性格であり、加実寿とは何かと言い争っている。
姉と同じく父親に嫌気が差して家を飛び出し、現在の夫である高校教師の家に転がり込んだという過去をもつ。
- 胡留乃
読みは「ことの」。加実寿の妹で、葉流名の姉。独身。
姉妹と異なり父親の元から逃げ損ねたことで莫大な借金を押し付けられ、一度は父親と心中しようとするほど追い詰められた過去をもつ。
しかしその後父親と共に開いた小さな食堂が見る見るうちに大企業へと成長し、現在はやり手の女社長として活躍している。
子供がいないため、彼女の養子をどうするかという問題が浮上しており、それが本作の物語における中心となっている。
- 零治郎
久太郎の祖父。老獪で一筋縄ではいかない雰囲気を醸し出しているが、孫に対しては陽気で甘い一面もあり、久太郎とは気が合うのか部屋で共に酒盛りをしている。
かつてはギャンブルに傾倒するあまり家庭を顧みない人物で、それが娘たちとの確執を生んだが、その後一念発起し大企業「エッジアップ・レストラン」の会長となる。
- 友理
胡留乃の秘書。若いが敏腕であり、胡留乃からの信頼も厚い。
また、胡留乃の養子候補の一人でもある。
久太郎が密かに慕っている人物。
用語解説
- 反復落とし穴
同じ日が9回繰り返されるという現象。いつ起きるかは法則性がない。
久太郎は唯一この現象を認識できるが、あくまで「認識できる」だけであり能動的に生じさせることはできない。
久太郎はループの初回を「オリジナル周」、以降第二周、第三周…と表現している。
また、久太郎がオリジナル周と異なる行動をとることで運命は変化し、最終周である第九周目が最終的な「その日」の決定版になる。
オリジナル周に近づけようとする何らかの力が働いているようで、それが本作のキモとなっている。
- エッジアップ・レストラン
渕上零治郎が創立した飲食店のグループ。
元々は小さなテナントで零治郎と胡留乃が細々と経営していた飲食店だったが、その卓越したセンスと味から口コミで有名になり、あれよあれよという間に日本全国に店舗を構える大企業となった。
その遺産は莫大の一言だが、現社長である胡留乃に実子がいないため、跡継ぎ問題が浮上している。
「仔羊たちの聖夜」でもこのレストランがゲスト登場している。