ドイツ人のパウル・マウザーとFeederle兄弟の設計したmodel1896自動拳銃シリーズの総称であり
19世紀末の自動拳銃黎明期で最も成功した自動拳銃の一つ。
1896年から1936年迄の(資料によっては1937年)約40年間に100万挺以上が生産され、
全世界に広く販売、流通した最初の量産拳銃でもある。
デザイン
今日一般化したグリップ内に弾倉を収容する形態と異なり、
トリガーガード前方に弾倉が位置した第二世代SMG等の長物に類似した形態で、
競技用ピストルに近い重量バランスとなっている。
バレルエクステンション(銃身と尾筒)、ロックフレームアセンブリ、(撃鉄機構)
グリップフレーム(銃把と弾倉)、ボルトアセンブリ(遊底と撃針機構)と大きく4個のブロックに分けられ、
グリップを留めるネジ以外では機関部には一切ネジを使用していない。
閉鎖機構
閉鎖機構はプロップアップブロック内臓のショートリコイルオペレーション。
ロックフレームとボルトのラグに挟まれる形で存在するプロップアップブロックが
上下して閉鎖と解放を行なう構造である。
ロックフレームの前端上面中央にはエジェクター(蹴出子)となる突起が付いている
閉鎖機構に関しては初期の設計ながらある程度の合理性と先見性が伺えるデザインであり
後世の自動拳銃設計に多大な影響を与えるデザインとなっている。
弾倉
弾倉は後述の後期生産品と一部のモデルを除いて固定式の10発収容でクリップにて装填する。
一挙に装填できるという強みが有るが、マガジンフォロワー以外にボルトを解放保持する部品が無い為
クリップ無しでの装填や半端に弾が残った状態での中途装填が難しいという欠点が有る。
製造最後期であるM-30の末期モデルから全自動射撃を意識した着脱式弾倉への改良がなされ、
M-30以降の全自動射撃モデルであるM713、M712は完全な着脱式形態となって
20連マガジンも少数ながら生産された。
民間コントラクトモデルで固定弾倉を半分にカットした6連発スポーツモデルや
逆に延長した固定弾倉20連発モデル、フロアプレートを延長した
半固定モデルも製造されたが、いずれも少数に留まり一般的なバリエーションではない。
安全装置
後ろから見て撃鉄の左側にレバー状の安全装置が設けられている。
ハーフコック時とフルコック時にのみ安全状態に出来る構造で
後期の改良ではハンマーダウン時に僅かに撃鉄が浮いて
落下慣性等で撃針を叩かないようになっている。
製造の全期間に渡って絶えず改良が行なわれた部位であり、
時代ごとの種類を判別する重要なポイントとなっている。
グリップとストック
グリップは断面が真円に近い棒状の物であり、唯一のネジにて保持される部品となっている。
多くのモデルが横方向の線状チェッカリングが施されているが、
エンフィールド・パターン硬化ゴム製グリップの物ではエンブレム付きの
ダイヤパターンチェッカリンググリップも存在する。
細いグリップは手の大きい人間にとって反動への対処が難しい欠点が有ったが
小柄なアジア人にとっては却って握りやすく、フロントヘビーなバランスも
馬上や車上からの射撃に於いて据わりが良いため、
中国に留まらずアジア圏で人気を博するポイントとなった。
グリップ後端にはホルスター兼用ストックが装着が可能であり、
タンジェントサイトの性格と相まってストック装着時の方が性能が高い。
ストック装着を前提としたフロントサイト(照星)の高さに起因して
ストックを外した場合は20ないし30センチ上を狙う必要が有る。
初期のフレームや前述のスポーツモデルの一部にはストックスロットが
設けられていない事があり、コレクターを混乱させる一因となっている。
照準器
初期のものを除いて、大半のモデルに於いて通常ライフル等に用いられる
タンジェント・サイトが奢られている。
Vノッチ照門の付いたリアサイト・リーフとスライダー、リーフスプリングによって構成され、
スライダーを銃身側に移動させることにより、バレルエクステンションに施された
ランプ(傾斜)によって照門が上下する。
50mから1000mまで調整幅が有るが、ストックを装着したとしても300mからはほぼ目安でしかなく、
実用的な面と言うよりはセールス面でのオマケ的趣が強い。
グリップの項で述べた通り、ストック装着を前提として照準が設定されていることに加え
前後とも左右調整が出来ないため、左右の照準が合っていない場合に正確な射撃を行う場合は
事前に撃ちこんだ上で着弾の癖と照準上の差を覚えなければならない。
初期のものやスポーツモデルではバレルエクステンション上面をフラットにした
完全固定照準モデルも存在する。
弾薬
基本としてC96と並行開発された7.63x25㎜マウザー弾(.30Mauser)が用いられる。
ベース・カートリッジは7.65x25㎜ボルヒャルト弾(.30Borchardt)。
後にルガー・ピストルの前身となるボルヒャルト拳銃の弾薬を
強装弾化した物であり、寸法互換性が有る。
ボトルネック形状に加え装薬量と弾頭のバランスが効を奏して拳銃弾としては開発当時最速で
弾道低伸性にも優れており、
200m以内であるならバーミント・ハンティングに使える程度の能力が有る。
他の口径バリエーションとして9㎜ルガー(9x19㎜)を用いる有名なRED9や
弾倉の前後長に合わせたサイズの9㎜弾である9㎜マウザー弾のモデルも製造された。
因みに、ボリシェヴィキ時代にボロ・モデルを通じてマウザー弾を大量入手したソ連は
マウザー弾を基本として更に高初速の7.62x25mmトカレフ弾を開発している
トカレフ弾とマウザー弾には寸法互換性が有るが
C96に用いた場合、銃身の過磨耗やロッキングブロックの損耗等が起こり、
最悪の場合はボルトストップとバレルエクステンションが負荷に耐え切れず破壊し、
顔面にボルトが飛散する事もあるため、C96へのトカレフ弾の使用は推奨されない。
愛称と名称
多くの国に流通した為、複数の愛称が付けられた。
英語圏に於いてはグリップ形態に因んだ有名な愛称"Broomhandle"が付けられ、
最大のカスタマーであった中華圏ではマガジン形態とストックの箱形状と多弾数だった事に因んだ
"box cannon"(中国名:盒子炮)という愛称が付けられた。
マウザー(モーゼル)・ミリタリー・ピストルと言われるが、
ドイツ本国での採用は戦時の予備兵器扱いに留まり、最後までドイツ軍全体に正式採用されることはなく
民間と国外軍隊からのコントラクトを主に販売された。
WW2、独ソ戦の顛末を知る現代の視点は考えられない話であるが、
ソビエト連邦政権の前身であるBol'sheviki(ボリシェヴィキ)向けにも
ボロ・モデルといわれる地下活動の際に便利な短銃身コンパクトタイプのC96が供与されていた。
バリエーション
撃鉄、安全装置、トリガーメカ、フレームのミーリング(肉抜き)フレームレールの長さ、
刻印の位置、サイズが大きな判別点となる。
小規模なインポーターの依頼によって様々な形態が製造されており、
コレクター泣かせのバリエーションとなっている
Early Production(1896~1905)
初期生産のモデル。
撃鉄形状はカメレオンの目のような段付き円錐スパー(指掛け)を左右に配した「コーンハンマー」
スパー部が全て円形の「ラージリングハンマー」が主であり、
一般的な「スモールリングハンマー」はシリアルNo35000以降の
Early Production後期からの製造となる。
安全装置は下げてオンとなる作動幅の小さな1stタイプで、
レスト(撃鉄が倒れた)状態でもオンに出来る。
作動幅の小ささ故、外見的にON/OFFの判別がし難い欠点が有り、後に改良され
1902年以降製造からは、後述の2ndタイプとなる。
外から窺い知る事は出来ないが、セイフティ自体が弾性の有るバターナイフ状の
リーフスプリングとなっており、ロックフレームの溝に自らの弾性を以って保持される。
トリガーの構造も2nd以降の物とは異なり、トリガーとシアのみで完結した構造となっており、トリガーの引きしろでシアーとの連係が絶たれる仕組みとなる
フレームのミーリングは後のモデルに比べてやや面積が広く、
ミーリングの全くないフラットサイドモデルも存在する。
フラットサイドの有名なモデルとしてイタリア海軍コントラクトの
Pistola Automatica Mod.1899がある。
フレームレールの長さはEarly Production前期が短いもの、後期が一般的な長いものとなっている。
フレームレールを覆うバレルエクステンション左右には二本のフルートが入っており、
初期形態の特徴の一つとなっている。
Prewar Commercial
WW1戦前モデル。広義ではEarly Productionも含まれるが、
此処では1905~1912年製造のモデルを指す。
トリガーメカに改良が加えられ、ロッキングカムを介したハンマースプリングの動きで
シアとの連係をディスコネクトする構造となり、確実性が向上している。
撃鉄はほぼ全てがスモールハンマーであり、(リワークで僅かにラージリングハンマーも存在)
安全装置も大幅に改良され、上げてオンとなる作動幅が大きく状態判別の容易な2ndとなっている。
フレーム両サイドのミーリングはEarly Productionに比べて0.8倍程度縮小している。
Wartime Commercial (1912~1914)
戦中コマーシャルモデル。
正確には戦前からWW1緒戦に掛けてとなる。
大半のディテールはPrewar Commercialに準じているが
安全装置に新型の3rdタイプである「New Safety」を採用している。
また、タンジェントサイトの目盛に50m~900mのものが存在する。
Bolos
有名なボリシェヴィキ仕様モデル。
初期はPrewar CommercialであるEarly Production後期型がそのまま宛がわれたが、
後にEarly Productionをベースに小型グリップと3.9in銃身6連発ないし10連発モデルの
prewar Bolo(戦前ボロ)が製造され、1920~1922年のPostwar Bolo(戦後ボロ)では
セイフティも新型の3rdタイプである「New Safety」を採用した
小型グリップと3.9インチ銃身組み合わせの10連発コンパクトモデルのみが製造され供与された。
1916 Prussian Contract
戦時需要に伴う拳銃の不足と、正式拳銃であるP08の塹壕戦に於ける作動不良頻発に対応する形で
ドイツ軍がプロイセン王国のコントラクトとしてマウザーに発注したモデル。
従来のマウザー弾に加え、正式拳銃弾と共用出来るように9㎜ルガー弾仕様が製造された。
この9㎜ルガー仕様が有名なRED9となり、マウザー弾の誤装填を防ぐ目的でグリップに
大きく9の数字が赤で掘り込まれている。
大半のディテールはWartime Commercial準拠だが
弾薬の性能に合わせて、タンジェントサイトの目盛は50m~500mに下げられている。
P08よりは幾分信頼性が高かった為、塹壕戦や砲兵の護身用火器として重用され、
PDWの先祖的役割を果たすこともあった。
1920 Reworks
ベルサイユ条約の規制に対応する為、
軍に使用された拳銃を中心に行なわれた既存モデルの改修。
改修例としてはルガーピストルの方が有名だが、
C96も一部が使用されたために改修対象となった。
大きく1920のスタンプを押される所は共通しているが、
改修内容や打刻位置はまちまちであり、9㎜の銃身を手の込んだ方法で
ボアダウンしてグリップの刻印を落とした物もあれば、
本来規制対象の9㎜口径のままでスタンプを押された物も有ったりと謎の部分が多い。
ベルサイユ条約の履行が必ずしも厳密に行なわれた訳ではない当時の
生の様子が伺える面白い資料になっている。
Model1930(M-30)
1930年以降製造の後期改修モデル。
撃鉄はスモールリングハンマーだが、同心円状の溝が省略された。
バレルエクステンション細部のディテールが変更されており
チェンバー部と銃身の間に僅かな段差がつき、レール部分のフルートがなくなっている。
フレームのミーリングは更に縮小し、、軽量化よりも強度面に重きを置いた設計となっている
安全装置は4thタイプであるUniversal Safetyが採用された。
M-30後期において、全自動射撃機構(フルオート)付きのC96コピー品である
アストラM901に刺激を受ける形で10発若しくは20連着脱式弾倉と全自動射撃機構をもつ
Model1931(M713)Reihenfeuer(ライエンフォイア)が製造されたが、
細部設計の詰めが甘く射撃中に自動機構切り替えが勝手に変わってしまう等の
欠点があったため、短期間の製造に留まった。
model1932Schnellfeuer
Model1931の欠点を改修する形で現れたのが
1932年のmodel1932(M712)Schnellfeuer(シュネルフォイア)であり、
前述のM713が抱えていたセレクターの問題が解消している。
主に中国大陸で使用され、SMGよりもコンパクトな特性が買われて
WW2のドイツ空軍でも一部が用いられた。
因みに「M712」という呼称は、インポーターである米国ストーガー社によって
付けられたもので、ドイツ側の正式な呼称ではない。
日本国内に於いてはモデルガンメーカーの度重なる競作と
漫画アニメでの露出も相俟って、通常のC96よりもM712の方が有名であり
モーゼル・ミリタリー=フルオート付きのM712のイメージが強い。
本銃を用いるキャラクター
宮藤芳佳(ストライクウィッチーズ)※設定のみ
ムルメルティア(武装神姫)※本銃をモチーフにした架空の拳銃を装備。デザインは微妙に異なる
大十字九郎、ネロ(機神咆吼デモンベイン)※M712ベースの架空の拳銃「クトゥグア」。黒ベースに紅色の装飾。グリップの形状が変わっており、バレル下に魔導レーザーサイトが搭載されている。通常のC96と違い口径は12.70mmx33(.50AE)。