概要
主人公・陣場湊の祖父。故人。湊が小学生の時に井戸に落ちて亡くなったとされるが、祖母の深山絹がその事を陣場家に一切伝えなかった。
更に父親の死を深く悲しんだ湊の母・陣場結が後を追う様に亡くなった事もあり、湊が絹を嫌悪する原因となっている。残った手紙や日記などから、
生前は絹と異なり愛情深い人物で、残された手紙や日記などから娘の結への深い愛情が窺い知れ、孫の湊とも手紙のやり取りをするなど良好な関係であった様子。
元々は深山家に婿入りしてきた人物。湊の曽祖父にあたる久兵衛に「都合がいい」として選ばれた。
旧家で発見できる日誌からは、絹の姉・深山綾乃に恋焦がれていた様子などが見て取れるが…。
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この先、ネタバレ注意
実は佐一の死因は事故ではなく他殺であり、犯人は妻の絹。彼が殺されるきっかけは、佐一の過去に繰り広げられた三角関係にあった。
佐一が絹と結婚するまでの紆余曲折はなかなかに複雑だった。元々佐一が結婚する相手は絹の姉・綾乃だった。美しい綾乃に以前から想いを寄せていた佐一は飛び上がらんばかりに喜んだが、当の綾乃が深く愛するのは自分ではない事にも察しが付いていた。
その相手、絹はというと、彼女は佐一に恋心を抱いており、佐一との結婚が決まった綾乃に嫉妬の炎を燃やしていた。その結果綾乃が絹によって山に置き去りにされる事件が発生。体の弱かった綾乃が山で生きている可能性は絶望的とされ、佐一も綾乃を救えなかった事に深い無力感を抱いていた。
ところが事件から1ヶ月が経ったある日、綾乃が山から帰還したとの知らせを受け、佐一も深山家に駆けつける。しかし綾乃は病であるからとの理由で会う事は許されなかった。ある日、深山家当主で綾乃・絹の父である久兵衛が佐一の元を訪ね、これから見るものを一切口外しないと誓えるなら綾乃に会わせると持ちかけて来た。
頷く佐一を連れて久兵衛が向かった先は深山家の屋敷の地下牢だった。そこには最早人間とは程遠い異形の姿をした綾乃が閉じ込められていた。愕然とする佐一だったが、それ以上に佐一が戦慄したのは、化け物の綾乃に恍惚と寄り添う絹の有様だった。
綾乃も最早妹以外寄せ付けない様子だったが、佐一はそれでも綾乃の側に居たいと、久兵衛が提案した絹との婚姻を承諾する。それは深山の人間として彼らの共犯になる事を意味していた。
やがて綾乃が娘を産み落とすと、佐一は娘を育てる事を決意。佐一は娘に“結”と名を付け、綾乃に付きっきりの絹を置いて、赤子の結と共に街へ移る。絹は文句も言わず関心すら持たない様子で、この頃には絹の佐一への想いは殆ど冷めてしまっていたものと思われる。
佐一は結を大切に育て、結は異形の血を引きつつも綾乃に似て美しく成長。しかし成長すると共に次第に異様な喉の渇きを訴え始め、中学に上がる頃には、佐一が誕生祝いで買い与えたカナリアを殺して血を啜る事件が発生。結の精神崩壊を危惧した佐一は血が欲しくなるのは自分もそうだからと彼女に嘘をつき、共に血を飲む様になった。
大人になった結は陣場栄治と出会い結婚。息子の湊が生まれ、祖父となった佐一だが、娘夫婦の同居の誘いを断り一ノ瀬へ戻る。
しかし絹に対し優しく接しつつも綾乃に対して未練もあるどっちつかずの態度を佐一が取ってしまったため絹は完全に佐一に失望。若き日に佐一から貰った真珠の簪を井戸へ投げ入れ、「落としてしまったから拾って欲しい」と佐一に頼む。佐一が井戸に身を乗り出したその時、絹は背後から佐一の背に抱きついた。
「どうしたんだい、絹?」「いいえ、何でも」
それが夫婦の最後の会話となった。絹は佐一を井戸へ突き落とし命を奪う。この事件は絹によって隠蔽され、祖父の死を知らされなかった事は、陣場一家と絹の間に決定的な亀裂を入れる原因となる。
人物(ネタバレ)
佐一自身の手記によると親兄弟には「腰抜け」「軟弱者」との誹りを受けていた様だが、異形から産まれた娘の結を受け入れ湊の事も可愛がっていた事から、少なくとも結や湊には家族を大切にする良識的な人物として大層慕われていた。
その一方、綾乃への執着心は最後の最後まで捨てきれなかった一面もあった様で、それに反応して生まれた絹の殺意を見抜けなかった事が自身の死を招いてしまった。