CV:弥
概要
主人公・陣場湊の祖母。養蚕業で財を成した深山家の現当主だが、本人があまり外に出たがらず周囲とほぼ関わりを持たないため、湊の一家とは疎遠。
また、祖父である深山佐一が亡くなった事を知らせようともせず、また湊の母である陣場結の葬式にも顔を見せなかった事で、湊からは良く思われていない。
暮らしている村がダム建設で立ち退きを迫られているが本人は今の家から出ようとしていない。
本作の物語は、彼女の危篤の知らせを受けて湊が深山家を訪れるところから始まる。
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この先、ネタバレ注意
実は結の母でも湊の祖母でもなく、血縁上は湊の大叔母にあたる人物。
結の実母で湊の真の祖母である深山綾乃の妹。『ウツロマユ』という物語は、彼女の姉への愛憎と情念から始まった。
若い頃、好意を抱いていた佐一が綾乃の婿となる事が決まり、姉と離れ離れになる辛さと、好いた男を奪われる形になった事で嫉妬に耐えかねた絹は、大好きな姉に暴言を吐き、病弱な彼女を山へ置き去りにしてしまう。
絹は先に帰宅したが綾乃は一向に家へ戻らず、綾乃が山で遭難したと考えた深山の家は大騒ぎとなる。姉が死んだと思った絹は自らの浅はかな行動を激しく悔やみ、悲しみに暮れる日々を過ごす。
ところが綾乃が行方不明となって一月後、綾乃は突然一月前と変わらぬ姿で家に帰って来た。綾乃の無事を喜ぶ一同をよそに、綾乃は以前と違って薄ぼんやりした様子で口も利けなくなってしまった様だった。
絹は明らかにおかしい綾乃の様子にも構わず、二度と姉の手を離さないと心に誓う。
やがて綾乃は心ばかりでなく体にまで異常を来し、手足が伸び、目が落ち窪み、肌も陽の光に晒されると焼け爛れるという奇妙な症状が表れ始める。そして1年も経つ頃には美しかった綾乃の容姿は異形と変わり果て、生き物の血肉を欲して暴れる様になる。この頃になると父・久兵衛を始め誰の事も認識できなくなっていたが、不思議と絹の事だけは理解出来る様だった。
絹は怪物の姉を恐れず甲斐甲斐しく世話をし、父や佐一が没した後も綾乃の世話を長きに亘って続けて来た。
しかしそうまでして守り通した姉も、自分の死期が近づくにつれて存在が明るみに出る事を恐れる様になった結果、道連れにしようと考えたのか毒を盛って殺そうとした。そして自らも後を追って縊死しようと地下牢で首を吊ったのだった。
冒頭で父の栄治が話していた絹の首の索条痕は、そうした理由で付いたものだったのだ。
毒が効かなかったため結局絹は綾乃を殺し損なう。絹は自殺を図る以前から脳腫瘍を患っており、この事も絹が死を決意する一因になっていた。綾乃の助けで自宅の庭先まで運ばれ、地元の人間に発見された絹は、後に病院で息を引き取ったと思われる。
人物(ネタバレ)
酌量の余地は多少あるが、綾乃の身に起きた異変や、佐一、結の死の原因となった事から、ある意味全ての元凶とも言われてもおかしくない人物。
他者への愛情もかなり歪んでおり、大切な姉を傷つけるほど愛した佐一を蔑ろにし、姉が産んだ結を愛さず、娘を救おうとした久兵衛すら殺してしまう辺りを見ても独善的な思考が窺える。
怪物と化した姉である綾乃をあらゆる手段をもって守り続けていた。そのためなら嘗て想いを寄せた相手である佐一や実父の久兵衛、更には姉の子である結を排除する事も厭わなかった。
しかし一方で、絹の姉への想いは綾乃ほど純粋なものでは無かった。自分より優れた容姿を持つ姉が恐ろしく醜い姿に変わり果て、自分の手を借りなければ生きられない状態となった無様な様子に仄暗い悦びと優越感を抱いていた節が、言動の端々にも見て取れる。
結に対する酷薄な態度も、自身のコンプレックスを刺激する綾乃そっくりの容姿と、内心で拭いきれなかった出自への嫌悪感から来るものと考えられる。