A350
えあばすえーさんびゃくごじゅう
概要
A300・A330/A340の後継機として開発されたワイドボディ旅客機。
元々はA330を元としてエンジンや素材を最新のものに変更したA330改良型のA350を計画していたが、シンガポール航空などから機体設計のやり直しを求められたため改訂を4度進めたものの、B787に受注数で水をあけられて一度は開発を断念した。後にそのプランはA330neoとして開発されるようになった。
2006年7月に「A350XWB(eXtra Wide Body)」として完全に設計し直した。よって現在生産されているものは正確にはA350XWBと呼ぶのが正しい。
成り立ちこそ違うが、カーボンファイバーの全面採用やエンジン(R.R トレント1000ベースのエンジン)などでB787と共通点が割と多く、その意味では「エアバス版B787」とも言える機体である。
ただ、機体はB787よりも若干大柄であり、B787の対抗商品というだけでなく「そろそろ旧式化してきたB777の後継機」としての需要も見込んでいるともいわれている。
最も胴体が短い800型はA330neoと機体規模が重複するため開発が中止されており、現在は実質B777の対抗馬という立ち位置を固めつつある。実際2013年にJALも本機をB777の後継機として発注した。
機体
機体はほぼ直接のライバルとなりうるB787同様、カーボンファイバー材を全面的に採用。
カーボンファイバーの採用により軽量化だけにとどまらず、機内環境の改善(与圧の圧力の向上、加湿を可能とする)や高々度巡航を可能としている。もちろん航続力も伸び、特に双発旅客機最大の航続力を持つ事になるULR型はパリ~シドニー間の直行便設定も可能なほどの航続力を持つ。ビジネスジェット仕様に至っては航続距離が2万kmを超える。
機体断面は従来のエアバス機の円形からダブルバブル構造(円を2つ重ねた形状)に変更し、座席数の増加や大型コンテナ対応化を可能とした。
エンジンはR.R トレント1000シリーズを基にしたトレントXWBのみを採用している。当初はゼネラル・エレクトリック GEnxも採用候補に挙がっていたが、ライバル機であるB777の現行モデル(777-300ERと777F)及び改良型(777X)のエンジンがGE製のものに限定されており、B787を運航している航空会社の半数以上がGEnxを選択している関係で交渉が決裂したため、当面はトレントXWBのみになっている。
ウィングレットは曲線的な形状を描く独特なもの。
コクピット窓は曲線的な形状で黒縁という、これまた独特なものとなっている。(A350以降、エアバス社の新型機のコクピット窓はこのような黒縁があしらわれることが多くなった。)
しかし一方、以下のようにB787の先進的すぎる技術の大量導入で問題点となりかねない点については採用を控えたり、従来技術・機能をあえて採用しているといった相違点も見られる。
- B787のバッテリートラブルの元となったリチウムイオン電池は採用していない。
- B787は機体構造が筒状単位となっているが、A350では従来通りパネル単位となっているため、部品交換が容易となっている(その代わり重量がややかさばる)。
- B787ではニューマチック・システム(圧縮空気系統)を廃止しているが、A350では従来通りニューマチック・システムを搭載している。
- B787では胴体がほぼCFRPだが、A350ではバードストライク等で強い衝撃が加わることを踏まえて機首部分は金属製になっている。
- B787では電子的に窓の暗さを変えることでシェードの代わりとしていたが、A350では遮光性能や整備性を考慮して従来の物理的なシェードを搭載している。
この他にも、標準型の900型は主脚のタイヤの数が4本だが、胴体を延長した1000型は車輪が6本に増えていることが特徴である。(ウィングレットの形状も微妙に異なる)最大離陸重量の増加に備えた形だが、同じシリーズの機体の中でも、タイプごとに主脚の数が異なるのは極めて珍しい。(ライセンスは共通である)
日本におけるA350
2013年10月に日本航空(JAL)が国内キャリアで初めてA350型機を発注。2019年9月には同社の国内線でA350-900型機の運航が開始、2024年1月には国際線でもA350-1000型機が運航開始された。
かつては米国ボーイング社の牙城であった日本市場で、しかもかつては世界最多機数のB747を運用するなど完全に蜜月関係にあった日本航空から、エアバス社が本機種の大量発注を勝ち取ったことは各所から衝撃を持って受け止められ、エアバス社側も歴史的勝利だとして諸手を挙げて歓迎した。
日本航空は旧・日本エアシステム(JAS)から引き継いだエアバスA300を保有していた時期はあったものの、日本航空側から直接エアバス社へ発注を行ったのはこれが初のことであり、歴史的な転換点になったと言える。
導入後はボーイング787などと並行して運用を行っており、2013年以降もボーイング社への発注も定期的に行っているため、JALはまだ完全にボーイング社を見放した訳ではない。とはいえ、ボーイング社が日本航空で築いていた強力な牙城を壊した機種として、エアバスA350は名を残すことになった。
立ち位置としては国内線・国際線において広く運航されているボーイング777シリーズのリプレース機種であり、2024年現在も777-300ERの置き換えをA350-1000で進めている。
なお、2024年1月2日に東京国際空港のC滑走路上で発生した羽田空港地上衝突事故では日本航空の国内線用A350-900型機(JA13XJ)が巻き込まれてしまい、A350では世界初の全損事故となっている。