概要
寡黙で他者を信用せず心を開きたくないという一方で他人が死ぬのは自分の危険を冒してでも防ごうとする超理論派の魔法使いであるラントと、
饒舌で積極的に他者と「共感」しようとする一方で自分の命も他人の命にも価値を見出せない超感覚派の魔法使いユーベル。
価値観も魔法使いのタイプも正反対である二人であるが、行動していく中で奇妙な信頼関係を築きつつある二人である。
またラントはユーベルを呼ぶ際にほぼ必ず「ユーベル」と名前を呼ぶが、ユーベルはラントを呼ぶ際「メガネ君」と呼び、現状名前を呼んだことがないという違いもある。
関わり始めた当初はユーベルがラントに「共感」して彼の魔法を使えるようになりたいという、少なくともラントにとっては全く油断ならない関係だったのだが、話が進むにつれて魔法の取得という「目的」よりもラントの人となり、人生をもっと知りたいという「手段」を優先するようになっている節が見受けられ、ラントの方も変わらず油断ならない中ではあるものの少しづつ態度を軟化させつつある。
ラントはほとんど表情が動かないという点で、ユーベルは常に笑みを浮かべているという点で表情の変化やそれに付随する感情の動きが読み取りづらいものの、時折彼らが見せる言動や行動にはお互いに対する感情が見え隠れすることもあり、お互いがお互いのために命懸けの行動に打って出ることもある。
ほのぼのとした雰囲気のシュタフェルと違い、なかなか物騒なやり取りや互いを試すような言動を見せるカップリングではあるものの、要所要所で彼らなりの信頼を読み取ることができ、彼ら自身も相手に関する感情をつかみきれないもどかしさも感じられるというなかなか味のあるカップリングである。
特に後述する帝国編で二人の絡みが増え、お互いの行動や言動にどう思っているのか示す描写が増えたことで徐々に注目度が高まりつつある。
ちなみに劇中でも読者の間でも物騒な印象を持たれがちなユーベルだが、実は他者へ理不尽な暴力を振るった描写はほぼない。
そんな彼女が現状唯一照れ隠しのような形で蹴ったり頭突きをしたりなど遠慮ないスキンシップをしている相手がラントである。
進展
以下、ネタバレを含むので未読の方は注意。
一級魔法使い試験編
第一次試験
第一次試験の際に、フェルンを加えた第4チームとしてともに行動する。
この試験の序盤ラントはほとんど目立った動きをしていなかったが、ともに行動していたユーベルは何かを感じ取ったのか「相当な曲者」と評価しており、試験も最初から彼の分身魔法で様子見していたことも見抜いていた。
第一次試験が終了した後の自由時間でラントがオイサーストの町中にいるところをユーベルが見つけ、半ば脅し混じりながら会話をする。
ラントはユーベルとの会話の中で、人を殺すことを何とも思っていないユーベルがなぜ先の試験でヴィアベルを殺さなかったのかと質問をする。
その質問にヴィアベルの考えに共感した、という答えを返し、ヴィアベルの魔法である『見た者を拘束する魔法(ソルガニール)』によりラントを拘束。
彼を拘束したまま、本人と同一の機能を持つほどの完璧な複製を作り出せる彼の魔法に対して、どんなこと思い、どんな人生を歩んだのかと質問するユーベル。
しかし絶体絶命の状況にもかかわらず「感覚で魔法を使うような頭の足りない子は嫌い」「気に食わないから教えてやらない」「殺したければ殺せばいい、そんなことすれば二度と共感なんてできないだろうけど」と完全に拒否。
その肝の据わった態度に逆に興味を惹かれ、「君という人間が少しわかった気がする。もっと知りたいかな」と言い、以後彼に付きまとう形で行動を共にし始める。
その後、フリーレン、デンケンらが食事をしていたレストランにまでユーベルが付きまとう形で相席し、一緒に食事を食べていた。
アニメ版ではさらに「意外と小食なんだ」とラントを分析するようなユーベルの言動が聞ける。
第二次試験
第二次試験の未踏破遺跡攻略でもユーベルがラントに付きまとう形で終始行動を共にする。
途中、遺跡の主である水鏡の魔物(シュピーゲル)の力で生み出されたユーベルの複製体に攻撃を受け、ラントが重傷を負い脱出用のゴーレムまで奪われてしまう。
そのまま重症のラントをかばいながら逃走するユーベルであったが行き止まりまで追い詰められてしまう。
放置していれば命に係わるほどの傷を負ったラントであるが、ユーベルは最後の質問として「今のメガネ君って本物?」と質問をする。
その問いに曖昧な言葉を返すラントだったが、ユーベルが自分の瓶を差し出した際に「それは君が生き残るための物だ」と受け取りを拒否。
ユーベルはそれに何かを感じ取ったのかラントの瓶を取り戻してくると言い、ラントは思わず「…おい、待て」と少し焦ったかのような言動を見せ彼女を制止する(アニメではさらに彼女に向って手を伸ばして制止している)も、それを聞かずユーベルは自分の複製体に戦いをいどむ。
自分と全く同じ実力を持つ複製体ゆえ、互角の戦いを演じるユーベルだったが、一瞬のスキを突かれ複製体の『見た者を拘束する魔法(ソルガニール)』により拘束され、絶体絶命の窮地に陥るが…。
「メガネ君。意外と早かったね」
そこにラントの本体が救援に現れ、それに複製体が気を取られた隙を逆に突いて両断、勝利する。
戦闘後、「瀕死の自分が分身とわかっていたなら、なぜ死に急ぐような真似をしたのか」というラントの質問にユーベルは「メガネ君が来てくれると確信したから」と回答。
先の瓶の受け取りを拒否したやり取りにより、ユーベルはラントが「自分のために誰かが死ぬのが嫌」という性格を持っていると推測していた。
そこでラントのために自分が死んでしまう状況をわざと作り、彼の助けを得たのだという。
「また一つ君のことが分かった気がするよ」と感謝の言葉を述べるユーベルに、ラントは多少の皮肉を交えつつも「よかったな」と返し、ともに行動を再開する。
その後は魔法使い数人を瞬殺するほどの実力を持つゼンゼの複製体にユーベルが臨んだ際、やはりラントは危険に向かおうとする彼女を「…おい、待て」と再度制止していた。
結果的にはゼンゼとユーベルの魔法の相性差からユーベルの圧勝であり、完全な杞憂で終わったが。
復活した自分たちの複製体を相手にデンケンも交えて消耗戦を繰り広げ、フリーレンが水鏡の魔物(シュピーゲル)を倒したことで二人とも第二次試験に合格する。
1級魔法使い試験後
第三次試験であるゼーリエの面接に二人とも合格し、ラントが試験会場を後にするとき「もう付いてくるなよ」といったものの、ユーベルは彼について行っていた。
原作では言葉を受けて立ち止まっていたが、アニメではうんざりしたような彼の言動を受けてて尚、非常に浮足立った足取りで距離感近く歩いていた。
その後のオイサーストの旅立ちではユーベル一人でラントの姿はなかったが、これはラントが自身の魔法を解除して分身を消し、姿をくらませたためだと思われる。
その後は2人とも出番はなかったが…。
帝国編
ラントの故郷にて
最後の登場から約二年半経った(ちなみに作中でも2年ほど経っている)126話にてラントとユーベルの両名が再登場。
ラントの実家にユーベルが訪ねる形で再会するも、ラントににべもなく断られる。
しかし彼女からの半ば脅し交じりの懇願に根負けしたのか、結局は彼女を家に上げることに。
そこで彼女から一級魔法使い試験の行動について改めて問われ、試験すべてを分身で行ったことに対して「君は臆病者か、ただの悪趣味な人、もしくはその両方だ」と彼女なりの分析をぶつけ、再び半ば脅し交じりの問いかけをされるもラントはそれをさらりと受け流す。
ユーベルに紅茶をごちそうする際に「砂糖をいっぱい入れてほしい」というリクエストに応えてもてなし、昼に焼いたクッキーを取りに行くと言い席を立つ。
「逃げないでよ」という彼女の言葉に「逃げるわけないでしょ」と返すも、その直後あんなヤバい奴と一緒に居たくないと即逃げ。
しかしラントが故郷を出る前に祖母の墓参りに行ったところで再度ユーベルに見つかり、再び彼女から彼の身の上話について聞かせてほしいと懇願される。
ラントは祖母との思い出を彼女に語り、祖母と一緒に居たいと願っていたことをユーベルに伝える。
それを聞いたユーベルの顔にはいつもの張り付いたような笑みではなく、彼女には珍しい穏やかな笑顔が浮かんでいた。
その後は改めて内心身構えながらユーベルが来た目的を問いただすラントであったが、ユーベルからは大陸魔法協会からの任務が来ていること、彼女と組むよう指示されたことを伝えられる。
人選ミスを疑い半ば呆れるラントであったが、「強引にでも連れていくつもりだよ。メガネ君のこともっと知りたいし」と言われ動向を承諾。
その際もっと知りたいという彼女の言葉に「僕の魔法に興味があるだけだろ」と返しつつも、
「でも不思議と悪い気分じゃない」
「僕は心のどこかで強引に引っ張ってくれるような誰かを探していたのかもな」
「この村から連れ出してくれるような誰かを」
と、以前の彼からは考えられないようなユーベルを評価する言葉を投げかける。
「口説いてるの?」というユーベルの言葉にも「そう見える?」と明確な否定を返すことなく、続く「もっと口説いてよ」という彼女の言葉を受けながら任務に関する内容を聞くこととなった。
この話で一級魔法使い試験編と比べてもさらに彼らの距離が縮まったことを読者に示したが、続く127話ではさらに衝撃的な展開が待ち受けており…。
偽装夫婦のパーティ潜入
一級魔法使いリネアールからの秘密文書の回収にあたり、帝国重臣主催のパーティに偽装夫婦として潜入。
無論あくまでも任務のための偽装なのだが、その中でもラントはさりげなくユーベルをエスコートし、ユーベルの方もドレスアップしたラントの姿を見て「いいじゃんこれ。かっこいい」と褒め、その後のパーティでの潜入の際も「機転を利かせないと」ということで腕を組んで仲の良い夫婦を演出するなど、はた目から見てもお似合いのカップルを演じ(?)任務にあたる。
その後はリネアールが指定した部屋まで行き、文書の回収にあたろうとするも屋敷の警護に当たっていた魔導特務隊に捕捉される。
戦おうとするユーベルに対し、想像以上の戦力差があることを悟ったラントは彼女の肩に手を置き、
機転を利かせてユーベルを壁ドン。
先にほかの参加者から盗んでいた帝国魔法学校の校章を部屋の前にわざと置いていたことと合わせ、「パーティから抜け出して密会する魔法学校の生徒」を演じ、いったん難を逃れる。
その後、ユーベルは自分の体を隠すように胸元で腕を組み「…もういいでしょ。離れてよ」と、彼女にしては珍しく戸惑ったような、照れたような言葉を伝えるも、ラントは「機転を利かせたんだから」と言いあっさりと任務に戻る。
その様子に思わず真顔になったユーベルは、どういう感情からかラントの背中をげしっと蹴る。
そのまま任務達成かと思われたが、校章の違和感に気づいた魔導特務隊が再度突入してきたことで二人一緒にパーティ会場から逃走する。
以下、単行本化されていないエピソードの内容のため、単行本読者はネタバレ注意
続く128話でも魔導特務隊から二人で逃走。
ちなみにこの逃走中にもラントがユーベルをさりげなくエスコートしている。
その最中に魔導特務隊についてユーベルに語るラントであったが、彼女から「魔導特務隊への個人的な私怨を感じる」「まるで追われてる側の視点だ」と指摘を受ける。
普段通りさらりと流すラントだったが、魔導特務隊のノイからの攻撃を受けてラントの分身が潰され、ユーベルと魔導特務隊との間で戦闘が勃発。
『見た者を拘束する魔法(ソルガニール)』により一時的に有利に立つユーベルであったが、特務隊の謎の魔法により視力と魔力探知能力を奪われて窮地に陥る。
しかしノイとの会話から、自分にとっての恐怖の対象である魔導特務隊を目の当たりにしてラントが自分を見捨てていなかったことを知り、捨て身の攻撃に打って出る。
臆病で性格悪いけど誰かを見捨てるのが嫌なラントのことを「歪んでるなー、メガネ君は。気持ち悪い」と評するユーベルであったが、その顔にはうれしげな笑みが浮かんでいた。
そのままノイの動きを封じ、彼の頭を撃ち抜くようラントに言うユーベルであったが、ノイが本気で彼女を殺そうとしていることを悟っていたラントは彼女の命を守るためそのまま魔導特務隊に投降。
捕縛された馬車の中でノイから「手首のロープは鉄でできている」という(恐らくではあるが)ハッタリを聞かされた際、まだ目の見えないユーベルは何に見えるかラントに質問するが、彼は「手首の感触で分かるでしょ」と回答する。
それを聞いて「その手があったか」とラントの分身と本体の見分け方について、触れたときの感触の違いがあることを思いついたユーベルは彼によりかかり、今いる彼が本体であるとわかると安心したように目を閉じる。
その直後どういう感情かラントに頭突きしたユーベルは「もう少しで相手に勝てたのになぜ撃たなかったのか」とラントに質問する。
ユーベルにとっては「自分が相打ちになろうと相手を殺せるなら勝ち」という考えだったが、それを悟っていたラントは逆に「人の命も自分の命も、どうしてそんなに軽く扱うんだろうね」と疑問をぶつける。
続く彼の「君が戦うという選択をしなければ、一緒に逃げることだってできたんだ」という言葉を聞いたユーベルは、彼が最初から自分を見捨てる選択肢を持っていなかったのだということを知り、「やっぱり私に死んでほしくないんだ」とうれしそうな表情を見せる。
魔導特務隊に捕縛されるという窮地にありながらではあるが、ユーベルはラントの価値観と彼の中で自分がどういう存在であるかということを前よりもちょっと、しかしてより深く知ることができたのであった。