概要
「自分の作品の無断学習は許さない」という意思表明。多くのpixivユーザーがこのタグをつけたり、イラストにウォーターマーク(透かし)を入れたりしているが、法的な実効性はない。「コンテンツの無断利用」ということで無断転載と同列にされることがあるが、著作権法上は転載とAIなどによる情報解析は全く異なる扱いになっている(後述)。
ただし、いくつかのサイトでは規約で無断での情報解析を禁止しているほか、AIなどのプログラムが特定の情報を大量に取得すること(Webスクレイピング)を制限している。pixivでもサービス利用規約第14条で「商業・営業目的の活動、営利を目的とした利用およびその準備」「当該投稿情報を投稿等したユーザーの利益を害すると当社が判断する行為」を禁止行為に挙げているほか、Botなどによる作品取得への対策もとっている(下記「pixivにおける対策」を参照。しかし、完全な対策は不可能なのが現状である)。
解説
2024年現在の日本では、AIがインターネット上のイラストなどの著作物を収集・加工して学習済みモデルを作成するのは権利者の意向に関係なく合法である(学習済みモデルを使ったコンテンツ生成はまた別問題)。
著作権法第30条の4に「著作物は... (※編集者注:情報解析など)その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。」とあることがその根拠になっている。
現在の日本の法制度上は、ネットに公開されているあらゆる情報の機械学習に事実上歯止めはない。確かに規約で無断学習を禁止しているサイトもあるが、実態としてはほぼ無視されている。pixivのように技術的に大量の無断学習を制限しているイラスト投稿サイトであっても、転載サイトを利用するなどの抜け道を使って学習させている。
"日本は機械学習パラダイス”と揶揄される一方、"画像生成AIはグレーゾーン"としばしば言われるのは、こういった実態があるからである。ただし、著作権法第30条の4には「ただし、著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」との一文もあり、国の文化審議会では法解釈をクリエイター寄りに修正する議論もされているため、将来は実効性のある無断学習規制が確立することも考えられるが、現時点で根本的な対策は「AIに学習されるのが嫌ならネットに上げない」ことしかないだろう。
「AI学習」の定義について
主にイラスト系の生成AIに反発する人が挙げる「AI学習」について、実際のところは「i2i(image-to-image)の機能の参照元にする行為」「大規模データセット・基盤モデルのための情報解析行為」「狙い撃ちLoRA(Low-Rank Adaptation)作成のための比較的少数の情報解析行為」が区別されず混ざっていることが多い。
いわゆるトレパク・構図パクに近い結果がもたらされやすいのが一番目の行為で、こちらは現行の著作権法でも類似性・依拠性があれば著作権侵害もしっかり認められる。ただし単にi2iの参照元にしても、2024年時点の技術でも「実写おじさんの写真を元にi2iし2次元美少女のイラストを生成」といった行為が可能で、元の画像との類似性がなければたとえi2iに利用されても直接に侵害が認められることもなく、そもそも利用されたこと自体に気づくのが困難である点には注意されたい。これは手描きでも「ネットで拾った実写の写真を資料にして2次元美少女を描く」行為に近い使い方とも言える。
二番目については上で解説されている通り、著作権法上で認められている行為である。この行為は画像生成AIだけでなく文章や翻訳などにも広く関わっており、実際に例えばSNSのおすすめ機能、Google検索、DeepLといった機械翻訳など我々は恩恵にあずかっている。
イラスト・画像の解析だけを特別視しようにも、画像に関わる大規模データセットも文字通り数十億単位のデータを解析しており、この中でせいぜい十数枚のイラストが何かあるかというと厳しいところがある。一応、自民党の赤松健議員は講演でクリエイターへの利益還元のため公式絵柄LoRA(こちらは後述)や絵師版のJASRACのような組織を作ろうという提言をしているが、2024年秋の時点であまり前向きな進展はないようだ。どのような経緯だったかは反AIの項の方で詳しい。
三番目はいわゆる絵柄パクがもたらされやすい。しかしpixiv百科内の絵柄パクの項目でも解説されている通り、単に画風・絵柄が似たものが出されるだけではそれ自体で侵害行為として認められる可能性は極めて低い。また実際にできあがった画像の構図やモチーフ、テーマなどの要素は生成したユーザーの創作性が現れるという点にも注意が必要である。なりすますアカウントを作り作者を偽って投稿、といった問題行為があれば著作権それ自体とは別件で罪に問うたりSNS管理者・運営会社に対応を求めることができる可能性はある。
漫画ONEPIECE公式にて写真を尾田栄一郎っぽい画風に変換する「似顔絵メーカー」、声優業界でだと梶裕貴氏が関わっている「梵そよぎプロジェクト」のようにいわゆる「公式LoRA」や関連サービスを公開している場合、勝手に類似したものを作成・公開すればいわば非公式海賊版に相当し、「ただし、著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」の部分として権利を行使できる可能性ができる。ただ「AI学習禁止」を掲げる絵描きの多くは区別がついていない、あるいはAI自体にアレルギーじみた嫌悪感を持つ人も多く、一方で「公式LoRA」を自前で作成するような知識のある人はわざわざ実効性の薄い「AI学習禁止」タグや注意書きを掲げない……という問題はある。
pixivにおける対策
ピクシブにおける不当な目的での作品取得行為に対する対策技術について