初めに
絵柄パクとは、先行絵師の画風に似せて絵を描く行為を悪意を込めて呼称したものである。
大前提として、画風や作風はアイデアであるため著作権で保護されない。
つまり盗作やトレパクではない限りは、法律上・権利上は画風を真似て描いても何の問題もない。
著作権の問題とは別に、創作におけるマナー・モラルとして、特定の画風に類似しすぎないよう工夫したほうがよいという考えを主張する人もいるが、そんなモラルは一部の絵師とその取り巻きが勝手に考えただけのものであり守る必要などない。少し前までは絵描き界隈の間でこうした謎マナーのゴリ押しが罷り通っていたが、生成AIによりイラストの制作が万人に開かれた結果、現在では絵柄の私物化と揶揄されており、絵描き界隈の著作権への無知を嘲笑する絵師アンチが生まれる理由となっている。
注意
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絵柄パクの定義や議論など
技術の習得や制作にあたって、好きな作品から影響を受け、その作者と画風が似ること自体は当然のことである。このため、「好きで真似していたら似てしまった」ということ自体は問題とはならない。先述の通り、画風や作風そのものに著作権はないからである。
これについて「画風が似ること自体は問題ないが、影響を受けたのなら公言するべきだ」という意見もある。しかし、公言する自由もあれば、もちろん公言しない自由もあり、それは作者個人の意見を尊重すべきである。
「絵柄パク」とは内実が異なるが、アニメやゲームの制作現場ではあるフォーマットを用意して他人の画風に寄せて作品を制作する「絵柄寄せ」という技法がごく当たり前に取り入れられており、これにより複数人が制作に関与していても、一定のクオリティで絵柄を統一することができる。このような「誰が描いても同じようにする」必要がある場合は非難されることはない。
たとえばイラストレーターのさいとうなおきは、自身のTwitterやYouTubeチャンネルなどで「絵柄を真似することは著作権的に問題はなく、『パクられ』たあとどうするかは(された側の)作者の感情の話になってくる。あくまで自分は、絵柄を真似されて否定的に騒ぐプロ作家は見たことがない」と発言している。また、さいとうは「自身の目標とする作者を一人見つけ、その人の絵柄を習得してオリジナル作品を作る」という練習法を提案しており、これは技術の向上に加え、その時代やジャンルにおける普遍的な技法、流行などを把握する目的であるとしている。
しかしながら、「その人らしい」画風の習得にはそれ相応の時間と努力が必要であり、特に一見しただけでは作者を間違えてしまうほど似ているような場合、元の作者の努力や個性を否定することになる、という考え方も存在する。つまり、絵柄だけをパクる=盗むのではなく、その人の積み重ねてきた技術や成果を盗むのではないかという意見である。
絵柄パクを容認している中にも「練習の一環として」「普遍的な表現や技法の一つとして」似せることには賛成でも、そのままコピーしたように似せることには否定的であるという人もいる。
事実として「(特定の人物に)絵柄を真似されて続けて困っている」と訴える作者もおり、主に個人間の問題として絵柄パクを被害と捉える意見は少なからずある。
「絵柄パク」といった時、単に「似ていて紛らわしい」という見た人の一方的な感想を過剰に表現して使われることもあるが、真似た方に利益が発生していたり、「なりすまし」を目的に作者を誤認してしまうほど似せたりしている場合、画風の模倣だけでなく盗作・トレパクなど別の問題が発生しているような場合に言及されることが多い。
二次創作などで原作の絵柄に寄せすぎて「海賊版」状態になっている場合は、読者だけでなく制作・権利者側からも注視される可能性がある。
また、先述の仕事としての「絵柄寄せ」を除いて、個人的なコミッションや同人グッズ等も含めた「利益が発生するもの」で、特定の作品や作者にそっくりな絵柄を用いることは特に問題視されている。この場合「絵柄パク」を行う本人が自身の利益のために行っているケースはもちろんだが、第三者が「この人の絵に似せてほしい」と依頼しているケースも多く、作者・依頼者両方の倫理観が問われることになる。
生成AIとの関係・議論について
また、2020年代からは画像生成AIを利用して、特定の絵師の画風を再現するような「絵柄パク」が増えているが、AIによって絵柄パクが行われたとしても、それ自体は手描き同様に法に問えない。
日本著作権法はAI普及のため、著作権法の一部を改正する法律(平成30年法律第30号)が生成AIの普及に先駆けて制定されており、
機械学習時のデータセット制作時に、著作者の許可なく著作物の複製を行う行為は著作権法によって、完全に認められた行為になった。
当該著作物を享受する目的(例、鬼滅の刃1巻を機械学習させて、鬼滅の刃1巻がそのまま読めてしまうようなもの)で作られたAIモデルは違法になるが
当該著作物を享受しない目的(例、鬼滅の刃1巻を機械学習させて、炭治郎が生成される、鬼滅の刃風の画風になる)のAIモデルは違法ではない。
またAI生成物は手描き同様、類似性と依拠性の両方があり裁判所が著作権侵害だと判断した場合のみ著作権侵害になる。
(例、鬼滅の刃を機械学習していないAIモデルだとしても鬼滅の刃1巻がそのまま読めるようにAI生成物を製作した場合などは著作権侵害になる)
ゆえに、画風のみを再現したAIイラスト、モデルは法的に問題がない。
AIと著作権についてに掲載されている「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」より。
しかしAIモデルが海賊版からも機械学習していることへの問題視や、image-to-imageの機能やLoRA(集中学習)の適用で「絵柄パク」ができること点から、明らかに元となる画風や作品がわかるようなAI生成イラストについて倫理的な観点から否定的な意見を持つ人もいる。
(なお「海賊版からの機械学習」に関しては、いわゆる漫画村のような大規模な違法アップロードを連想しやすいだろうが、一般ユーザーによる私的利用の範囲を超えてしかも引用要件も満たさない切り抜き・スクショ投稿も多く使われている可能性がある……という背景については踏まえておく必要はある)
また、実際にTwitterなどで、AIを利用して特定のクリエイターの画風を再現し、そのクリエイターに対して嫌がらせ・なりすましを行う悪質なユーザーが確認されている。
このため「AI学習禁止」の標語をプロフィールや作品内にてウォーターマークで掲げたり、規約にて学習される可能性が書いてあるサービスは避けたり、投稿時にタグをつけて自身の作品の学習自体を禁止している絵師もいる。
一方でこれらの実効性が薄いという指摘・考え方もある。pixiv百科内だと「AI学習禁止」の項にて解説されている。
実際に絵柄パクが発生したときの対処法
絵柄パクを見つけたとき
- 自分や好きな絵師さんの絵柄をパクられた!
- パクりではない可能性もあります。そもそも、絵柄が似ること・似せること自体は、盗作などと違い法律上問題がありません。不快に感じるのもわかりますが、絵柄が似ているだけでは特に対処できることはありません。
- 絵柄がコロコロ変わっているのはおかしい。絵柄パクの疑惑がある。
- 絵柄がコロコロ変わる=絵柄パクではありません。さまざまな画風を試している過程で他の人の画風を取り入れてみただけ、という可能性もあります。ただし、短期間であまりにも変化が激しく、また「パクられている側」の画風の変化にも合わせているような場合は注意が必要かもしれません。
- 特徴があまりに類似している。パクらなければこんなに似るはずがない。なのに黙っているのはアンフェアだ。
- 参考元を公言するか否かは自由です。アンフェアに感じるのもわかりますが、少なくとも画風を寄せることそのものは何かの権利を侵害しているわけではありません。
- 真似られたかはわからないが、後発の人間が似た絵柄になっていくことに不安な気持ちを覚える。
- それに負けない絵を描くしかありません…と言うしかないのですが、不安な気持ちは仕方がないと思います。模倣しかできない人は遅かれ早かれ消えていくものです。あくまで真似されている、もしくは似ているのは、あなたの磨いてきた技術やセンス、作り上げてきたものの、ほんの一部でしかないと考えてみてはどうでしょうか。
- 悪意を持って真似られているのでは?乗っ取られたり潰されるのでは?
- 可能性が全くないとは言えませんが、偶然似てしまった、あるいは画風を好ましく感じて真似ていることが多いと思われます。ただし、なりすましや利益を出すためなど悪意を持った目的での絵柄パク行為や、混同されたことによるトラブルは実際に起こっています。あくまで基本的には静観に留め、トラブルが起こってから(=悪意があることが明らかになってから)きちんと話し合いをすべきです。
- トレパクなどは問題になっているのに絵柄パクは問題ではないのか?
- パクリと参考は別では? 参考にするのはよいが絵柄パクはよくない。
- どこまでが参考で、どこからが絵柄パクか、という基準はないため判断できかねます。
- 絵柄を真似ることはオリジナルの劣化コピーにしかならない。真似はやめてオリジナルの作風で勝負するべきだ。
- そう思うことは個人の自由です。しかし、他人にそれを強要するのはやめた方がいいでしょう。
「絵柄パクだ!」と誰かに言われたとき
- 知らない相手やそのファンから絵柄パクだ!と言われた。
- そもそも絵柄パクは著作権法上は問題ありません。しかし「真似された」と感じた側の気分は悪いでしょうし、またそれを一方的に言われたあなたも気分が悪いと思います。
- 先に述べた通り「どこまでが参考で、どこからがパクリか」という基準はなく、本人たちがどう感じたか、という部分が大きいと言えます。当人間のトラブルであれば、まず相手にきちんと自分が意図して似せているわけではないことを説明したほうがよいと思われます。また、仮に誹謗中傷などがあれば然るべき対応も行うべきでしょう。
- 実際に絵柄を真似ているのだが、見抜かれた。
- あなたが純粋にその絵柄を好意的に感じており、少しでもその人に近づきたい、エッセンスを取り入れたいと思って行なったのであれば、素直にそれを話してもいいでしょう。相手が不快感を示している場合は特に「悪意の絵柄パク」ではないと明確にするべきです。悪意がないことがわかれば相手は特に気にすることもないでしょうし、場合によっては「敬意を持ったフォロワー」として好意的に見られることもあると思われます。もちろん「真似されたこと」そのものに不快感を示す人もいます。
- 絵柄パクがバレたことに関して罪悪感がある。謝罪したい。
- 罪悪感があれば謝罪すればよいと思われます。しかし、相手によっては「パクりを行うような人と話したくはない」と思っていることもありうるので、相手から連絡を遮断されているときは反省の意を明確にした上で相手には直接コンタクトをとらない、という選択肢もあります。
- 疑惑がかかったイラストを消した方がいいのか?
- 消してもいいですが、「疑惑がクロだったから消した」と邪推されるリスクがあります。シロであることが明らかであるなら、証拠の意味も兼ねて消さない方がいいでしょう。もし、自分でもいかにも真似てしまったな、という反省があるなら消してもいい、あるいは似せたことを明言したほうがいいでしょう。
- 絵柄パクをされたと主張している人とそのファンによって、自分の周囲が炎上してしまっている……
自分らしい画風を生み出し確立するために、新しい作品を生み出していくために、先行する作品やその作者の画風を真似て自分なりに解釈し取り入れていくことは、ごく自然で当たり前なことである。そして、それは少なくとも法の上では問題はない。
しかし、個人間の感情、創作におけるモラル・マナーを踏まえれば「悪いことじゃないんだからどれだけ自由にやってもいい」と言い切ることはできない。
先に述べたとおり、「絵柄パク」は、あくまで程度の問題であり、その取り扱いは一元的な善悪では判断できない。当事者間ならいざ知らず、外野であればなおさら議論には慎重になるべきである。
pixivにおける扱い
2023年5月31日の改定において、ガイドライン内の禁止行為に以下の文章が追加された。
"徒に反復継続して特定の第三者の画風等を模倣した投稿情報を投稿する行為、その他の第三者の利益を不当に害することを目的としていると当社が判断する行為"
追加自体は生成AIがきっかけではあるが、ガイドライン自体はAIイラストに限ったものではない。
画風の模倣が直ちにガイドライン違反になるわけではないが、わけもなく繰り返し投稿する、大量に投稿することは禁止行為に該当する場合がある。
このように絵柄パクは著作権とは別に、サイトの管理者や運営により対策されるケースがある。